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−−介護の担い手不足や学校の部活の指導者不足など、地域活動の人材不足が目立っています。
勝間 東京都杉並区の土曜寺子屋は地域の人が運営しています。
宮本 ただ、余剰になった人がすんなり地域に入っていけるかというと、なかなかうまくいっていない部分もあって、堺屋太一さんが以前、「年金兼業型労働」といって、年金である程度経済的なベースを確保しながら、少ない謝礼で地域で活躍できるような人が出てくることを想定して、団塊世代がリタイアしたらむしろ地域が活性化するとしていたのですが、必ずしもうまくいっていません。
勝間 だれかが仕掛けをしないとうまくいきません。
宮本 同時に、終身雇用企業の中にいた男性稼ぎ主が、地域社会に入る難しさがあります。千葉県我孫子市の前市長が高齢者のNPOを作ろうとしてミーティングを持ったのですが、みんな地味な仕事をやらない。幹部の選出になるとみんな「私がやる」というんですが。これまでは、「宮本さん」と言われていたのが、地域に入っていくと「(妻の)宮本さんのだんなよ」と匿名性になっちゃう。匿名化してしまうことでショックを受けて、結局元の職場の近くに、戻って飲んでいる。そこをどうやって、肩ひじ張らず、一メンバーとして、楽しめるかというのは、大きな課題ですよね。
勝間 それはもう、若いうちから入っていかないといけない。リタイアしてから、というのでは難しい。経済的成功とか、社会的成功とか以外の軸を入れないと、みんな不幸になるんですよね。
宮本 終身雇用の社会というのは男性の稼ぎ主から、地域社会で活動する能力(ソーシャル・リテラシー)を奪ってしまった。セーフティーネットもないし、リテラシーもないところで、「もっと自由な生き方があるから」といっても、なかなかうまくいかないところがあって、具体的にはどっからどう手をつけるのかというのが大変だなあと。そういう意味では私はどちらかというと終身雇用の問題点は認識しつつも、これまで会社が支えていた生活を、社会全体で支えるという方向にもっていくこと、それから、一人一人がソーシャル・リテラシーを身につけていけば、もう少し、会社の出入りが自由になって風通しがよくなるという変化を漸進的に進めていくしかないのかなと思っています。
勝間 具体的には何が必要ですか。
宮本 一つはセーフティーネット作り。 セーフティーネットは、サーカスの綱渡りの下に網が張ってあって、いざという時、支えてくれる、あるいは網があった方がみなのびのびとプレーできる。という例えですよね。職業訓練とか、失業保険の改革とか、セーフティーネットをいわゆるトランポリンにしていく。
勝間 戻れるようにする。
宮本 それが職業訓練であり、保育サービスもこれに入ると思うし、生涯教育などだと思う。
2番目がピョーンとトランポリンで戻ったはいいものの、綱が細くなりすぎていて体重を支えきれなくなっている。特に非正規の仕事がそうですけど、戻ってもまた落ちてしまう。だから、最低賃金の引き上げとか、働いているのに一定水準まで所得が満たない人に対して、税金をとる代わりにお金を給付する「給付付き税額控除」導入で、働けば働くほど手取りが上がる形にしていく低所得者保障の仕組みで、綱を太くしていく。3番目に、跳び戻ったはいいものの、細いどころか綱がないということがある。ここに綱を張っていくことが、新たに求められます。グリーンニューディールみたいな言い方もされていますけれども、いかに環境融和的な仕事で、生産性効率を上げて、エースストライカーにならないかもしれないけれども、決して補助金漬けではなく、地域に根付き、地域を活性化していくという機能を果たせる雇用をどう作っていくのか。この三つに、まず手をつけなければいけない。
勝間 今まで低賃金でつらい仕事と思われていた、典型的には介護とか農業と言われていますが、そういうところをもっともっと上手な形で再生していく。
宮本 できると思います。介護労働は、非常に低賃金でニーズがあるにもかかわらず、離職率が非常に高い。今、80万人ぐらいいる介護労働者の賃金を、2、3万円程度引き上げるのに必要な資金は2000億円くらいです。そういう手は打たれていい。
勝間 効果的なところにお金を使うべきであって、定額給付金のようにむやみにばらまくべきではありません。
宮本 雇用を活性化する使い道はもっとたくさんあるし、はるかにローコストでできるのに、何でやらないのか。社会全体の安心感にもつながりますしね。
勝間 そういう複雑なことが分からないんですよ。政治家の人たちが。
宮本 これまでの日本の政治家にとって、介護とか保育は「女子供」の世界であって、天下国家の問題ではなかった。欧州ではまさにこれが天下国家の問題で、就学前教育などにたいへん力を入れている。これから労働市場がどんどん流動化していくわけですから、成人してある会社に入って仕込んでもらう時代ではなくなります。市民が、生まれた家庭が貧しくてもその影響をこうむることなく、多様な仕事に適応できる力を身につけていくのは、国家戦略の基本なんです。
勝間 職業訓練で本当に救えるのかというのは常々疑問に思っているのですが。絵に描いた餅ということで、実際に運用されていない予算がたくさんあること、行ったからといって、実際に職業につけないとか、さまざまな問題がありますよね。
宮本 これまでは企業がある種の徒弟制度で新卒を鍛えてきました。うっとうしいから大学で余計なことを教えるなと僕らは企業の人事担当者に言われたことすらありますから。だから、どうしてもこれまでの日本の公的職業訓練は、極めて補完的な役割にとどまっていました。だから、何をしていたかというと、雇用保険の積立金でリゾート施設を造ったり、「私のしごと館」(京都府精華町)というわけのわからないものを造ったりして、見限られたわけですね。ところが今役に立っていないことと、必要ないこととは全然違う。
勝間 (公的職業訓練制度を)役に立つようにしなくてはいけない。
宮本 役に立っていないから切ろうということは、話としてはまったく逆転しています。確かに今、職業訓練に力を入れたとしても、成果を上げるのは非常に難しくなっている。これまでのようにきちっと技術を身につければいい仕事が待っているという時代が終わっちゃったからです。これからはむしろ対人サービスのようなところにどんどん入ってもらわなければいけないし、そのためにもいろいろな社会的スキルがいる。今すごく問題になっているのは長い間雇用から遠ざかっている失業者や、そもそも正規の仕事につけなかった若者たちが、朝起きれない、時間を守れない、相手の目を見てしゃべれないなど、基本的なスキルを身につけないままでいて、最初の雇用にありつけない。だから、もうちょっと社会的教育の基礎の基礎を、公的にトレーニングするという話になっているわけですね。こういう状況の中で、職業訓練をどう再構築していくのか、というのは非常に大きな課題です。ただでさえ、日本の職業訓練の予算は少なくて、経済協力開発機構(OECD)の06年調査の平均がギリシャとかポルトガルを含めて国内総生産(GDP)比0.17%なのに、日本は0.04%。
勝間 ないも同然です。
宮本 あいさつ教育から手がけていくとなると大事業ですね。ですからちょっと視角を変えて、さきほど生きる場といったんですが、基本の基本みたいなものは、いろんなところにみなが生きる場を確保して、人と人との関係の中で見につけていくしかないんですね。そういう手立ても並行してやっていくという含みで、再構築が求められるんだろうと思います。
勝間 雇用に関する解決策がプアなんですよね。非正規社員の日雇い派遣を認めるとか。
宮本 もう一つは、雇用調整助成金、これは厚生労働省が得意とする雇用維持政策なんですけど、これは恐らく勝間さんとしては承諾できないような中身で、なぜならば、補助金なんですけども、要らなくなった人を無理に抱え込んでもらう。そこで産業構造の転換が起きるかというと起きない。そういう古いスタイルの雇用維持政策、これまでのような景気循環を一時的にしのぐやり方としてはあり得たのでしょうが、構造変化の状況ではあまり意味のない政策です。
勝間 政策当局者の問題意識がかなり低い。20、30年前の意識のままですよね。
宮本 政治家頼みにならないで、経営者や労組、市民が、どうきちっと声を上げていくのかということだと思います。
勝間 82年、オランダの政労使が、賃金抑制と雇用確保に取り組む「ワッセナー合意」を結びました。あのような形でどうしたら、労働者側と経営者側と政府側が合意を作って動けるのかを考えていかないと。
宮本 ワッセナー合意をベースにした社会のモデルというのが、フレキシビリティー(柔軟性)とセキュリティー(安全性)を融合させた「フレクシキュリティー」。非常に流動的な労働市場と、基本的なセキュリティーとを両立させています。デンマーク前首相で、社民党党首だったラスムセンさんを呼んだことがあるんです。スピーチの開口一番、デンマークほど労働者の首を切りやすい国はないと、社民党の党首が言って、ぼくらはずっこけたんですけど、その分今デンマークでは、以前は8年間、現在も4年半、失業保険給付が続くんですね。その間、さまざまな職業訓練を受けながら、じっくり仕事を探す。毎年3人に1人が仕事を変わっているという恐るべき社会ですよね。中小企業中心のデンマークモデルをそのままもってこれるかというと、難しい面もあるのですが、一つの社会イメージとしては大いに、いけてると思いますね。(続く)
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