病床軟弱

いつの間にやら還暦プラス4。地方紙在籍34年。透析歴18年。無職浪人歴6年。世に無駄話のタネは尽きまじ?

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2010年7月20日

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「透析はつらいよ」と、また松原のぶえさんが言ったから、反論したくなりました。生老病死、どうせ病気にかかって死ぬのなら、慢性腎不全がいいよと。涼しい部屋で昼寝できる…透析で「快適に」生きられるのだから

 仙台は北国だから、涼しいのでしょう? 今日のような情報社会で、こんな質問をする人は皆無だと思いますが、念のため答えておきましょう。「暑い!」。昨日19日の最高気温は33.7度でした。仙台よりもっと北のモスクワですら17日に過去最高の35度を記録、涼を求めた水死者が計110人に達するほどの猛暑が続いているそうです。地形的には北国の範疇に入らない仙台が涼しいはずがありません。
 
 それでも私のような透析患者は救われます。日中の一番暑い時間帯に涼しい病室でたっぷり昼寝できるのですから。きのうも付き添いのあるお母さんがナースに語りかけていました、「ここが一番いいわねえ」と。週三回、私の場合は月水金ですが、猛暑の時期だけは「毎日でも病院通いがいい」という気分になっています。
 
 きょう20日は火曜日、病室で涼む、というわけにはまいりません。熱いトタン屋根の下の部屋は猛烈な蒸し暑さです。耐えきれずに朝からエアコンをかけています。これで快適になったかと思いきや、さにあらず。エアコンのない台所やトイレに立つたびに熱風に包まれます。全館冷房のない一般住宅では、部屋ごとの温度差がかえって健康によくないのかもしれませんねえ。幸い? きょうは「暑苦しい」のがひとり、入院中の父親の見舞いに出かけたので、リビングにいるのは私ひとり。少しは涼しい、しかし喧嘩相手がいないのも少し寂しい。何をする気も起こらず、ただ漫然とテレビを見ていると……。
 
 午後1時すぎ、TBS系のテレビに、わが“同病の友”、演歌歌手の松原のぶえさんが出て、インタビューに答えているではありませんか。透析を受けていた松原さんが弟から腎臓をひとつ分けてもらって移植、“復活”したという“物語”は昨年6月、民放が大々的にドキュメータリーとして放送しました。当ブログでも昨年6月6日と9日の2回取り上げました。今回はライバル局による焼き直しのようです。
 
 きょうのインタビューによると、松原さんは術後の経過もよく、臓器移植法改正に伴なう移植キャンペーンなどにも参加したようです。一年ちょっととはいえ透析を受けなければ生きられなかった患者と見れば、彼女も“同病の友”。透析を脱して、元気に活躍する姿を拝見できたのはうれしい。しかし、透析に関しては一年前と同様「過酷な治療」という発言を繰り返しており、透析に頼るしかない患者の私はがっかりしました。「あなたたちは過酷な治療をいつまで受けるの?」と言われている気がして。
 
 例によって民放の番組は、インタビュアーの無知と余分なセンチメンタリズム、過剰な音楽から成り立っていました。若い女性アナウンサーは、昨年のライバル局のドキュメンタリーを参考にしたのでしょうか、ハナから「大変でしたねえ」という予備知識のもとに質問していました。答える松原さんも昨年の番組から少しも違わない。「病院に来るのが、あと数日遅ければ死んでいたかもしれないと言われた」「私(松原さん)の場合は、末期で透析を5時間受けなければ、毒素が抜けないと言われた」「全身がこわばり、足がつることが何度もあった」「これでは仕事ができない。死んだ方がいいと思った」……放送を聞き流しただけですから、発言内容は正確ではないかもしれません。ただ、こうは言えます、今現在、透析を受けている人、これから透析を受けなければならない人々を勇気付けるものではなかった、と。
 
 むろん、弟からの生体腎移植に成功して、元気で活躍されていることはご同慶のいたりです。健康な肉親らを傷つけることになる、生体腎移植を「どんどん進めてほしい」とは、私自身は思いませんが、若い患者には脳死移植法に基づく移植の機会を増やしてほしいとは思いますから、松原さんがキャンペーンに協力したのは立派です。
 
 しかし現実には、脳死移植は進んでいません。今までの脳死臓器提供86例による移植件数は374件、うち腎臓は103件にすぎないのです(日本臓器移植ネットワーク調べ)。全国の透析患者29万人の多くを、松原さんの言う「過酷な」透析から救うなんてことは到底無理なのです。ならば「過酷」と言われる透析を、できるだけ「快適」に近づけてほしい、というのが多くの患者の願いではないでしょうか。
 
 私は透析歴16年。透析が「つらい」「しんどい」「死にたい」などと思ったことは一度もない……そう書けば内情を知る家族、友人らから「嘘つけ」と言われそうですが、確かに弱音を吐いたことはあっても、そして透析時間が少し長く(私の場合は希望して6時間)「退屈だなあ」と感じたことはあっても、「死にたい」と思うほどのつらさは経験したことはない、と断言できます。
 
 透析を始めたころは不安におののいたり、足がつったり、血圧が変動して眠り込んだり……そういうことは誰もが経験します。しかし、身体が透析に慣れてくると、透析導入直前の不健康さが劇的に改善されるのですから、多くの人が「生きていてよかった」と思うはずです。松原さんのような“一年生患者”に「透析は過酷だった」「死んだ方がよかった」と発言されたくはないですねえ。本音では「あなた、透析のイロハを勉強したのかい? 水分制限と食事療法などの自己管理をきちんとした上での発言かい? 有名人だからといって無責任な発言はしてほしくない」と言いたい気分なのです。
 
 そして、私たち透析患者は移植が完璧ではないことを知っています。移植したものの、また透析に戻ってしまう患者を見聞きしています。透析に戻る時期が数年後か10数年後か、人それぞれにしても、いずれは透析に戻るかもしれないのですから、もうマイナス思考は捨てた方がいい、と思うのです。29万人も透析で苦しんでいると思うか、29万人も透析によって生かされていると思うか、では大違いです。
 
 このブログは当初、「透析」もメインテーマにするはずでした。しかし、少し書き出してみると、透析については早々とネタが尽きてしまった。それだけ、透析は問題の少ない、ありきたりな医療になっているということです。遠藤周作さん、三遊亭円楽さんら透析を受けていた著名人は少なくないはずですが、私の知る限り、松原さんのようにおおっぴらに弱音を吐き、同情を買った人はいないでしょう。従って、ネタもすぐなくなったというわけです。
 
 ネタ探し?にイタリア透析ツアーにも参加したほど、今や私は家族からも知人らからも同情されない患者に落ちぶれ?てしまった。隣近所の夫ドッコイ族の中では「自分がもっとも不幸な人間」と感じていたのに、ひとり、ふたり、若死にする方を見かけるようになってしまった。透析を受けてから20年生きる人はザラ、30年もよく見かけ、なかには40年生もいる。大多数の人が「つらい」治療なら、こんなにも長く生きられないでしょうに……。テレビはそこのところをきちんと調べた上で、松原さんを悲劇から復活したヒロインに仕立てようとしているのでしょうか。
 
私はどちらかというと「透析は快適だ」と書きたいクチです。しかし、そう書きすぎると、今はまだ手厚い助成措置にメスが入るようで怖いから、そうは書けません。今はひとつだけ書いておきましょう、年500万円以上かかる医療を、(私の場合で)月たったの5000円の自己負担で済む制度に、どうして文句を付けられましょう、と。たった月5000円で、いわばホームドクターにあらゆる相談ができ、薬がもらえるのです。他の病気の患者さんから「不公平だ」との声が上がっても不思議ではありませんよ、たぶん。
 
 松原さんが有名人ゆえに大きな声で「透析はつらい」とおっしゃるから、私は小さな声で言いましょう、「透析は楽ちんですよ」と。第一、透析がそんなにつらく、しんどいものなら、猛暑の中、こんなくだらないブログを延々と書いてられますか? 質はともかく、量だけは現役記者の時よりもはるかに多いのですから。

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