水魚の交わり覚え書き

音楽unit ori's 立花のエッセーです。 就寝前にでも立ち寄って下さい。www.airplanemusicstore.jp

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融 点 水沢腹堅(さわみずこおりつめる)1/26-30

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 風が強くて冷たい日。でも寒いのは体の外なんだと気が付いて深い息をして肩を柔らかくすれば若干でも寒さが平気に感じられます。部屋に入ってドアを閉めると同時に風圧もぱたりと治まり、そこは静かで暖かくホッとします。
 ホッと気持ちのほぐれる瞬間は誰の日常にも巡ってきてくれるのですが、それでもそんな瞬間をひとつでも素通りしていることがあるのではないかな 逃してしまっているのではないかな と、つい重箱の隅をつつくようなケチな気持ちで一日を思い返す事がままあり..。そして大きく構える変わりにヤケに慎重な気構えでいたりして不器用さを露呈しています。
 そんな私でも好みの曲に出会って、それにうまく気持ちの波長があったりする時には見当はずれな気構えは融けて気持ちがほぐされます。音楽以外だってそういう経験は皆さんそれぞれにあると思うのです。

 私の過去のレコーディングの話しです。あの時私はブルーのタートルネックを来ていたから春に近い冬だったのだと思います。そんな時季、偶然ひょんと縁が繋がって、アメリカのデビット・T・ウォーカー(ギタリスト)さんにLuckという曲のギターをお願いする事になりました。だけど私がMr.ウォーカーついて知っている事と行ったらマリナ・ショウのアルバムの中でギターを弾いていた事くらいで、ジャズやソウルミュージックの世界でどのような存在であるかなんて認識もなく、当時入っていたレコードレーベルのスタジオで初めてデビットさんにお会いした時も、周りの方達が彼を神様だとして緊張する中で私は1人裸の王様だったのかもしれない。私の「please to meet you」は"あなたに会えて大変嬉しい,光栄です。"というより " こんにちは。この曲を宜しく願います" のような、きっとそんな表現でした。私は-知らぬが仏-で、これから忘れ難い瞬間がやって来るなんて期待もありませんでした。
 ところで、デビッドさんはとても紳士的な印象で、キャメル色のトレンチコートにチャコールグレーの背広をスマートに着こなしていて、イタリア製だったのかなぁ、黒の革靴はエナメルか?というほどに磨き上げられていました。そして立ち振る舞いも大げさなところが全然感じられませんでした。お持ちのギターケースはこじんまりとシンプルで、日本人によるハンドメイドの青いセミアコギターがすんなり心地好く収まっていました。ギターの録音はラインで録るのですが (マイクで音を拾うわけではなくギターにケーブルを繋いで録音する) ブースに1人で入る事なく、みんなの居るミキシングルームでラフに座り、淡々と始まりました。私はちょうどデビッドさんの真裏に椅子を置いて、巨大なスピーカーの音が左右バランスよく聴こえる辺りに座っていました。この時ミキシングルームの中にはサウンドプロデューサーとエンジニアと私の他にレーベルスタッフ、私のバックバンドとなってくれていたミュージシャンや後輩まで居て、デビッドさんと同じ空気を吸っている事にさえ感動している風でした。
 そして、お仕事はテンポよく準備が進められ、取りあえず、デビットさんに考えて来てもらったフレーズを聞かせてもらいつつ、音の調整のために弾いてもらう段階になりました。私は何の身構えも無くただいつものような態勢でレコーディングの手順を見ていました。
 曲の頭からギターが入ります。録音ではカウントの後にギターが入ります。そうしてデビッドさんがギターを触ったような..途端、何か説明の出来ないものが私の方に襲って来て、一瞬のうちに自分ではどうにも止めようがない涙が勢いよく溢れ出ました。人前で涙なんて..なんて考える事もカッコつける暇も全くありませんでした。デビッドTウォーカーのギター、メロディ。
あれは、何だったか..。人間デビッドさんの体の何処に"あれ"を生み出す源が備わっているのか。それは有無を言わさない本物の衝撃と言っても大げさな事はないと思います。あんな音楽経験をもう一度、もう一度と願っても同じような感激がこの先のいつにもたらされるのかわかりませんが、音楽をやっていて本当に良かったぁと思った出来事でした。これが自慢話になっていたらそんな事は越えて、感動を求める気持ちはどんな時にも揺り起こせる自分でいたいと思うのです。
 
 あんな神秘な経験に遭遇してみて、今は何となくセンチメンタルに考えるのです。確かに人を暖めたり落ち着かせたり泣かせたりさせるモノがあります。時には言葉や目に見えるものよりもずっとダイレクトに個人の中を伝わり合うもの。掴んで触れるものならいいのに、それは形や場所を変えて何処にいつ現われるか予告もしてくれないのです。
 自分以外の誰かとの融点を強く求める気持ちとチャレンジが、私にとっては音楽表現となっているのだと思います。


                            : 水魚の交わり覚え書き :

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デビット・T・ウォーカー共演は当時から「なぜ?」と、ずっと思っていたまま、聞きそびれてた話だったので興味深かったです。やっぱり神がかっていたんですね。 削除

2007/1/28(日) 午前 0:19 [ ふぁんとむ ]

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レコーディングって見れないから、こういうステキなお話聞けるの、うれしいです。 あらためて「Luck」を聞きなおしています。 削除

2007/1/30(火) 午後 9:53 [ soa ]

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