負け犬の庵

ロボゲ板のSS書きの個人まとめブログです

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蒼月の騎士 第一話『落ちて来た筏?」

 暗闇の中でぽつんと座り、祈るようなしぐさで目を閉じている女の子。
 そっとふさがれた瞳、かすかに震える睫毛。
 そして、今日も彼女は悲しそうな声で言う。

『どうか……どうか許してください。もう、私には止める事ができない。私には止められないのです。
 滅べるべきは私達、立ち去るべきは私達。
 この世界はあなた方子供達のものなのに。
 待ち続けた永き刻の、その暗闇の冷たさがすべてを狂わせてしまった。
 どうか……力なき私を許してください……』
 しかし、今日も彼女の言葉を忘れてしまっていた。

「っつぅ……また、あの夢か」
 頭を抑え、ベッドから起き上がる。
 水が欲しいがここは俺の部屋で、昨日の夜に枕元に水を置く事もなかった。
 ベッドから這い出して、1階までヨロヨロと下りてキッチンまで行く。
「こうとき、一人身っていうのは辛いよな」
 現在、紫雲家には俺一人しかいない。
 両親は既に死んでいるし、身寄りもなかった。
 よく「自由でいいよな」と言われるが、そんな事はない。
 だが、俺は慣れた孤独を悲痛に感じる事をせず、それよりも今日の夢について考えていた。
「あの子……どっかで見た事があるんだよな……覚えていないんだけど……いい思い出がなかったんだろうな」
 たまに、だけど結構な回数見てきた”あの夢”を見るたびに体調を崩してしまう辺り、ロクな思い出がなかったのだろう。
「夢っていうのは、過去の出来事が元になるっていうしなぁ」
 結構可愛い子だとは思うのだけれど、夢を見るたびに体調を崩していくうちにそう思ってしまう。
 一人分の食事を用意し、倦怠感と一緒に口の中にそれを放り込む。
「さて、と。そろそろ学校に行くか」
 一人暮らしの寂しさを紛らわすために、勝手に独り言が出てしまう。
 そして、そこで気がついた。
「………………止まってるじゃねーか、時計っ!」

※ ※ ※

「あぁ、もう! どこにいるのよ、紫雲統夜って人は!」
 なんとか大気圏突入し終えて街並みが見えてきたが、後ろからは相変わらず追っ手がついて着ている。
 紫雲統夜という人の所に向かうように設定されているが、本当に辿り着くのか心配になってくる。
 そう思っているとコンソールの一部が点滅し、それに合わせてアラートが鳴り響いた。
「え、何? 見つけたの?」
 どうやらそうだったようで、ラフトクランズが眼下の風景の中で目立つ建物へと向かった。

※   ※   ※

「ねぇ、本当に大丈夫? 顔色悪いわよ」
「大丈夫です。いつもの事なんで」
 神楽坂先生が本当に心配してくれているようで、何度もそう聞いてくれた。
「そう……でも、一度カウンセラーにみてもらった方がいいわよ」
「そうします……警報音?」
 木星トカゲや機械獣などの襲撃に備えた警報音がけたたましく鳴りだした。
 すると、背後から何かが”落ちてくる”ような気配がした。
 振り向くと、スカイブルーの人型ロボットがこっちに突っ込んでくる所だった。
「な、なにあれ?!」
「なにやってんですか、神楽坂先生! 伏せて!」
 ぼうっとしていた神楽坂先生を押し倒して、自分もその上に覆い被さった。
 
 
「う、うぅぅ……助かった、のか? くそ、いったい何が落ちてきたんだ……」
 落ちてきた衝撃で巻き上がった砂煙で視界が悪くなってしまい、何が起きているのか分からなかった。
 その砂煙が落ち着いてくると、そこにあるモノが視認できるようになる。
 そして驚いた。
 そこにあったのは蒼い騎士の姿だった。
「な、なんだ……うわっ!?」
 コックピットと思しき部分が上下に展開すると、中から人の声が聞こえる。
「人……? あんたたち、軍の人か!? なんだってこんなところに落ちてくるんだよ! こっちはもう少しで死ぬところだったんだぞ!」
「ご、ごめんなさい。でも、私達もわざとやった訳ではないのよ」
「お、女の子?」
 黒髪の少女が中から出て来た。
 とてつもなく、魅力的な女の子だった。利発そうな、だけど優しそうな人の子。
 その姿に見とれて「あの……」と女の子から声を掛けられて我にかえった。
「紫雲統夜さん……ですか?」
「なんで俺の名前を!?」
「貴方なんですね! 貴方を探していたんです!」
 女の子が転がり落ちるように出てくると、抱きつくように俺の両手を握りに来た。
「お願い、私と一緒にラフトクランズに乗って! 私だけでは、どうにもならないの」
 さっきとは違った意味で呆けた。
「……は? いきなり何を……」
「この機体は、絶対に壊すわけには行かないの。でも、私だけじゃ動かすのが精一杯なんです。だから、私と一緒に……」
「そ、それに乗って戦えていうのか!? 俺に?! いきなり落ちてきといて、その上訳の分からないことを言わないでくれ! なんで俺がそんな事をしなくちゃならないんだ!」
「貴方じゃないと駄目なんです!」
「無茶言わないでくれ! 車すら運転したことないっていうのに、こんなもんい乗れる訳がないだろ。その上戦えって? 何の冗談だよ」
「大丈夫です。このラフトクランズなら、貴方は戦えます。私がサポートします。わかるんです、私」
 大変だ、電波系とかいう奴だ。
 だが、電波さんよりもやっかいなのが来ていた。
 木星トカゲだ。
「なっ、こっちにくる!?」
「お願いします、統夜さん!」
「そんな事出来るか!」
 すると、彼女は「怖いんですか?」とか言ってきた。
「そ、そうだよ、怖いよ! 悪いか? だけど、そういう問題じゃないだろ! 出来るならやってるよ!」
「じゃあ、お願いします」
「…………へ?」
 いきなり女の子にコックピットの中に引っ張られてしまった。
「う、うわあ!」
 それだけならまだしも、コックピットのハッチを閉められてしまう。
「凄い……サイトロン・コントロールのリンゲージ率が、こんなに高くなるなんて……これならいけます!」
「無理だよ! 話を聞いてくれ!」
 俺が座らせられた座席の後ろにある座席でコチャコチャとやってる女の子に叫ぶ。
「あー、もう! やる気があれば十分です!」
「やる気でどうにかなる……か……?」
 何故か、前にここにいた事があるような気がした。
 それどころか――
「あれ……なんで? カティア・グリニャール……君の名前? なんでこんな事が分かるんだよ、俺」
「そうです、カティアです! とにかく、動きを考えながら手足を動かしてください。 後は私がフォローします!」
 彼女は凄く嬉しそうにそう言ったが
「考えろって言っても……うわっ!」
 いつのまにか木星トカゲが接近して、攻撃してきた。
 シートベルトをつけていないので、座席から放り投げだされる。
 ハッチが閉まっていなかったら、今頃死んでいた。
「くそっ、こうなりゃヤケだ。 どうなっても知らないぞ!」
 座席に座りなおし、両手でバーのようなモノを握り締め、立ち上がるイメージを浮かべる。
「いけよ、動けぇぇぇぇ!」
 駆動音と共に、重力を受けて自分が、ラフトクランズが立ち上がるのを実感する。
「そうよ、統夜! まずは目の前の敵を!」
「ぶ、武器は? どうすりゃいい?」
「まかせて! エクストラクターの出力は十分、貴方と一緒ならコントロールしきれる! オルゴン・クラウドを起動します……攻撃してください!」
 そのとき、頭の中にこの機体の情報が流れ込んできた。
 俺はその中から武器の項目を選び、そこからさらにオルゴン・ソードの使い方を引き出す。
「やれっていうなら……やってやるさっ!」
 ラフトクランズの右手に持たせたオルゴン・ソードを両手で振り上げ、そのままいっきに木星トカゲに振り下ろす。
 木星トカゲは真っ二つになって、その残骸を残すだけだった。
「や……やった……俺が?」
「そうよ、統夜。貴方がやったの。ほら、次が来るわ」
「い、行くぞ? 行くからな!」
 俺は勢いに任せ、数機残る木星トカゲに突撃をかけた。


「ふぅ、ふぅ……やっと終わった……」
「お疲れ様です、統夜」
 大した損害もなく木星トカゲとの戦いを終えただけでなく、後からやってきたあしゅら男爵一味をも撃退する事に成功した。
『おーい、そこのロボット。大丈夫かー?』
 一段落したところで、一緒に戦っていたロボットから通信が来た。
「たしか……マジンガーZとかいうロボットか」
「マジンガーZ? とりあえず通信開きますね」
 頷き返すと、サブモニタにクラスで何度か見かけた顔が映った。
『あれ……お前、紫雲じゃねーか?』
『え! 紫雲君ってウチのクラスの紫雲統夜君?』
 陣代高校の有名人、兜甲児と弓さやかだった。
『どうしてお前がロボットのパイロットやってるんだよ』
「俺が聞きたいなぁ、それは」
『お前、そのままだと連邦軍にひっ捕まるぞ』
 突然 兜にそう言われて仰天する。
「と、統夜! 連邦から投降命令が来てます!」
「いぃ?!」
『連中、木星トカゲの事で躍起になってるからな。大方、ザフトか木星トカゲの新兵器とでも思ったんだろ』
「俺はナチュラルだぞ!?」
『そんな事は関係ないさ。最近もよく光子力研究所に徴兵命令が来てる。無駄に敏感になってるな。っと、弓博士だ』
『二人とも、よくやってくれた。それで甲児君、そのロボットは?』
 兜側から中年の男性の声がした。
「俺は味方です!」
 そう切り出して、今までの経緯を説明する。
『ふむ……光子力研究所に来るかい? 一番いい選択肢だと思う』
「他に選択肢は……」
「ないみたいですね」
 

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蒼月の騎士 プロローグ

鳴り響く警報に、騒がしく踏み鳴らされる足音。
それに追われるのは一人の男と一人の少女だ。
「もう見つかったか……存外、早かったな」
「エ=セルダさん! いったいどこに行くのですか!?」
エ=セルダと呼ばれた男は何も言わず、黒髪の少女について来るようにと、背中で答えた。
そこから数分も経たないうちに、男が目指した場所に辿り着いた。
「ここは?」
「ここは私のような騎士専用のハンガーだ」
エ=セルダが扉の認証を終え、二人で扉の中に入ると、そこには二機の蒼い騎士の鎧が鎮座していた。
片方は数多の戦いを潜り抜けてきた事が目に見えて分かり、もう一方は傷のない新品である。
違いは傷だけでなく、その装備にも違いはあった。
傷のある方には両肩にキャノン、左手にはシールドが、右手には剣が装備されているが、傷のない方には剣しか装備されていなかった。
少女を傷のない方のラフトクランズに乗せ、自身もコックピットに入り込んでラフトクランズの起動を手伝う。
「騎士機ラフトクランズ。私の剣と統夜にと用意していたものだ。君に乗ってもらう統夜機は基本的にオート操縦に設定してある」
ラフトクランズが起動し、唸りをあげだした。
「君にはこの剣を統夜に届けて欲しい。ラフトクランズのオートパイロットはあの子を目標にしている」
「統夜……さん?」
「私の息子だ。恐らく、これからの戦いに統夜とラフトクランズが必要になる。そして、君の力も。ラフトクランズはフューリーに決して渡してはならない、そして破壊されてはならない」
「エ=セルダさんは来てくれないのですか?」
当然の質問に、エ=セルダは首を横に振る。
「君を地球に送り届けなければならないのでね。すまないが、君一人で行ってもらう事になる」
「て、テニアとメルアは?!」
「信用のある男に保護を頼んである。君は統夜と合流したら、ネルガル重工に保護してもらえ」
「ネルガル重工に二人はいるんですね? また会えるんですよね?」
「そのような手筈になっている。では、私は行く」
エ=セルダがコックピットから出たのを確認して、カティアが中からコックピットを閉めた。
その後、慣れた手付きでエ=セルダは愛機に乗り込んで起動した。
『では、頼むぞカティア・グリニャール』
「は、はい!」
エ=セルダ機からの通信に、どもりながら答えるカティア。
『……すまんな、こんな事しか出来ないで』
「いいえ……いいえ! 裏切ってまで私達を助けてくれて……!」
『君達の時間を、君達の幸せを奪った代償にしては安いものさ。それに、私は君達にもっと過酷な戦いに巻き込まれろと言っているのだ』
「それは……」
カティアが言い淀んでいるうちに、ハンガーの入り口が壊され、数人の兵士が入ってきた。
「エ=セルダ様!」
緑色の髪の青年が叫び、その状況に驚きをあらわにする。
「まずい! ラフトクランズが起動している……しかも二体?!」
『ジュア=ムか……っ! ハッチを開ける!』
エ=セルダは部下の姿を確認すると急いでコックピットからハッチを操作する。
『出るぞ!』
二機のラフトクランズが一方はしっかりと、しかしもう一方は危なげに歩を進めてハッチに近づく。
「と、止めろ! エ=セルダ様を止めろ!」
「無理です、ジュア=ム様! もう隔壁が閉まり始めています!」
「くそ……くそぉぉぉぉ!」
ジュア=ムの叫びを他所に、宇宙とハンガーの間の隔壁は完全に閉まってしまった。

『恐らくすぐに追っ手が来るだろう。ここで別れよう』
「わかりました……」
『なぁに、心配するな。ここは必ず食い止める』
落ち着かせようと、優しくエ=セルダが語りかける。
『さあ、行くんだ!』
「…………はい!」
カティア機は青く輝く地球に向かって、ラフトクランズのバーニアを吹かし、離脱した。


「さて……、やっぱりお前が来たか」
エ=セルダ機の後方から、もう一機のラフトクランズが接近してきた。
『エ=セルダ・シェーン!』
「アル=ヴァン・ランクス……っ!」
漆黒のラフトクランズは全速力で接近し、互いの姿が目視出来る距離になると次第にスピードを落として行く。
『フューリーの騎士ともあろうお方が!』
「言うな、アル=ヴァン!」
『黒く、悪しき夢から我らフューリーを救った英雄の貴方がどうして……!』
「騎士であるのなら、男ならば立たねばならぬ時がある!」
『地球人の実験体を逃がすことがですか? フューリーの民を裏切ってまでやらねばならぬ事なのですか!』
「裏切るのではない、アル=ヴァン!」
宇宙が静寂に包まれる。

『……戻ることはないのですね、エ=セルダ様』
「もう戻れぬよ、アル=ヴァン。既に時計の針は動き出しているのだ」

それが、師弟が交わした最後の言葉だった。




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とある風邪引きのお話

 春を目前に、俺は体調を崩した。
 季節の移り目というのは、体調を崩し安いものなのだ。
 俺は朝起きた時点で自身の不調を悟ってカティアを呼び、体温計をとってきてもらった。
「38度……」
「風邪だな、これは。まぁ、そんなに重症じゃなさそうだ」
 思わず力無い苦笑いが出る。しかし、ベッドの横にいたカティアはそんな俺の苦笑いを気にするどころか――というか、そもそも気付いていなかったというか、とにかくテンぱっていた。
「ど、どうしましょう統夜!こういうとき、こういとき!」
「落ち着けカティア……ゴホッ、ゴホッ」
「ひっ……!駄目です!死んじゃ駄目です!」
「そう簡単に死なないよ……とにかく、今日は学校を休むよ」
「死んじゃ駄目です、統夜ー!」
「……話聞いてる?」

 騒ぎに気付いてやってきたテニアに部屋からカティアを連れ出してもらい、その後でやってきたメルアに事情を説明した。
「いやはや。カティアの奴、大丈夫か?」
「大丈夫でしょう。それより統夜さんの方こそ大丈夫なんですか?」
「ああ。暖かい格好をして、今日いっぱい寝て過ごせば治るだろさ」
「そうですか」
 カティアと違って落ち着いた様子のメルアの様子に、思わず噴出した。
「いやすまない。なんというか、メルアの方が落ち着いていて、カティアよりもお姉さんに見えたんで、つい、な」
 そう言うとメルアも一瞬呆けた後で、可愛らしく噴出した。
「カティアちゃんは横からの攻撃に弱いですからね。わき腹を突っつくと面白い反応が返ってきますし」
「……や、それは普通の反応じゃないか?」

 メルアが部屋から出て行ってから、そのまま俺は眠りこけた。
 それから起きたのはサングラスを掛けた司会者の、日本で一番有名なお昼の番組が終わった頃だった。
「…………腹減った」
 冬眠明けの熊のようにベッドから起き上がり、居間にのそりのそりと向かう。
 テレビを付けると、ゲストがサイコロを振ってトークする昼番組がやっていた。
 なにか食事があれば、と思ったが予想に反して何も作られていなかった。
 仕方が無いので買い置きのカップラーメンを食べることにした。
 コンロでお湯を沸かしていて、ふと感じた。
「………………静かだ」
 カティアもテニアもメルアもいない。俺だけがこの家にいる。
 テレビからは観客の笑い声が、目の前のコンロからはお湯を沸かす音がしているのに、何故か静かに思えた。
 まるでヴォーダの闇に飲み込まれたような、絶望感すらある静けさ。
 頬に、何かが伝った。
「……あれ?どうして泣いてるんだ?」
 それは涙だった。
「あ、そっか。寂しいんだ」
 だがおかしな話でもある。
 俺は数年前までこの家で一人で暮らしてきた。父も母もいない生活。
 それを寂しいと思った事など殆どなかった。
 なのにまた一人になって半日、一日も経っていないのにそれを辛いと思ってしまった。
「ああ――俺はそんなに依存していたのか」
 俺は、俺の中における彼女達の占める割合に、その中でも最愛の女性の占める割合に気付く。
「まるでクスリだな」
 そう、今の俺は中毒者だ。
 彼女がいないと落ち着かない。
「カティア……」
 思わず自分の感情を吐露する。

「呼びましたか?」

 その声のした方を向くと、そこにはどうしようもなく会いたかった女性が立っていた。
「か、カティア! お前、学校はどうした!」
「サボっちゃいました」
「サボったって……」
 愕然とする俺を尻目に、彼女は手にしていた買い物袋を机の上に置いて中身を取り出していった。
「一応学校には行きました。でも……貴方がいないのでどうしても落ち着かなくって」
 へへへ……、とはにかんだ。
「あの子達やかなめにも心配されちいまして、あとの事をかなめに頼んで帰ってきちゃいました」
 そう言いながら、カティアは取り出したいくつかの品物を抱えて冷蔵庫に歩み寄った。
「それより統夜、もう立ってて大丈夫なんですか?」
「あー、いや……まあ、大丈夫だろうとは思う。腹が減ったんで買い置きのカップラーメンでも食べようかと……」
「駄目です! 風邪を引いてるのに起き上がって、あまつさえカップ麺なんて!」
 言い終わる前にカティアに怒られた。
「今おかゆを作りますから、大人しく寝ててください!」
 そうして、俺は有無を言えずにベッドに強制送還された。


「お待たせしました」
 と言ってお盆に湯気立つ丼と水の入ったコップを載せてカティアが部屋に入ってきた。
 そのままベッドの横のサイドテーブルにお盆を置き、勉強机の椅子を持ってベッドの横に座った。
「カティア、部屋から出てなって。風邪、移るぞ」
「大丈夫ですよ、統夜」
「いや、カティアに風邪を移したくない……って、その手に握ったスプーンはなんだ」
 嫌な予感がし、反射的に尋ねる。
「はい、アーン」
「はい、アーン……じゃなくって! いいよ、一人で食べるから」
「駄目です!統夜は楽にしててください!」
「楽になりたいから一人で食べさせてく……っ!」
 俺は言いたい事を言い終える前に、口におかゆを掬い盛ったスプーンを突っ込まれた。
「どうですか、美味しいですか?」
「美味しい……美味しいから、頼むから一人で食べさせてくれ」
「駄目です。病人にはそうするものだとかなめに聞きました」
 なんと余計な事をいうか、と頭を抱えてしまう。
「それに、こういう楽しみがないとやっていけません」
「楽しむな!」
「いいから!大人しく口を開けてください!」

 そんなやりとりを五分くらい繰り返し、結局折れたのは俺だった。
「はい、アーン」
 とてもいい笑顔で差し出されるスプーンを大人しく口に入れる事20分。やっとおかゆはなくなった。
「さて、と。そろそろ寝るよ」
「はい」
「……だから部屋を出ってって?」
「いやです」
 コンマゼロ秒で拒否られた。
「さっきも言ったけど、俺はカティアに風邪を移したくない」
「ですが統夜……」
 カティアのその様は、まるでダンボール箱に入れられて捨てられた上、土砂降りの雨に打たれている子犬のようだった。
 頭には垂れた耳の、腰元にはしおれた尻尾の幻影が見える。
「……はぁ。じゃあ、俺が寝るまでだったらそこにいてもいいから」
 途端に耳と尻尾の幻影が元気になった。
 その姿に微笑むと、右手をカティアの頬に持っていく。
「……ありがとな、カティア」
「と、統夜?!」
 突然の事に当然驚かれた。
「実はさ、寂しかったんだ。カティアがいないこの家が、どうしようもなく広く感じて、まるで世界に俺一人だけ取り残されたような感じでさ。お前が帰ってきてくれてホッとした」
だからありがとう、とカティアの頬を撫でる。カティアの暖かさを感じる。
「……大丈夫ですよ、統夜。私は、いつも貴方の側にいます」
 頬を撫でる俺の手の上に、カティアが自分の手を重ねて歌うように言った。



 翌日、今度はカティアが体調を崩したのはお約束というものか。
 

 

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オルゴン・クエスト 第八話『願いの咆哮』

 メルアの操るヴォルテールの背にメルアと風間と共にまたがりつつ、俺はShenの持つサンライト・ハートを握り締めさせた。
『行くよ、紫雲君!メイアさんはそのまま城門に突っ込んで!』
『わかりました!行って、ヴォルテール!』
 命令を受けたヴォルテールは城門めがけて急降下をかける。
 そこへ、いくつもの光線が走った。
『っ!避けて!』
 言われた直後にヴォルテールが大きく右に旋回し、その背にまたがる俺達は振り落とされないようにしっかりとしがみついた。
 直撃は免れたものも、ヴォルテールの左翼に被弾したようで、バランスが危うくなっていた。
『あそこのトリコロールか!』
 城門前で悠々と右手を掲げる魔法使いの姿を見つけた。
 亜竜種と呼ばれる種族のPCで、背中には竜の翼が生えていた。
『トリコロール……まるでガンダムだな』
『言ってる場合じゃないよ、紫雲君!』
 風間の言う通り、ヴォルテールはそのままの高度を保てなくなっていた。
『統夜さん、風間さん!一度着陸します!用意してください!』
『じゃあ、扉はどうするのさ!』
『なんとか出来ます!テニアちゃんもいいですね?行きますよ!』
 そう言ってMeiはヴォルテールを敵陣の真っ只中に着地させた。
 俺とZamaはすぐさま飛び降りて、ヴォルテールの着地で混乱したNamia軍の中を駆け抜けた。


『ヴォルテール、やる事は分かってますね?』
 メルアは短い期間であるものも、パートナーとして戦った竜の背を優しくなでた。
『今、統夜さんはカティアちゃんを助けに行ってくれます。私は、統夜さんの手助けをするだけ……』
 結局、私はヒロインではない、と悲しそうに呟いた。
 ならば――
『――ならば、私は友のために戦います!ヴォルテール!』
『グオォォォォ!』
 ヴォルテールは私の思いを受けて、雄雄しく吼え、構えをとった。
『行きますよ!灼熱のぉ、クリムゾン・ヘルフレアァァァ!』
 ヴォルテール最大にして最凶の攻撃を城門へと放った。


 真上に紅蓮の炎が奔り、城門に直撃した。
『やったか!』
 粉塵の向こうには、破壊されて用をなさなくなった城門があった。
 背後では討伐軍の歓声が沸きあがる。
『急ぐよ、紫雲君!一刻も早く助け出さないと!』
『ああ!お姫様がお待ちかねだ!』
 ヴォルテールの着地、そして城門の破壊で意気消沈しているNamia軍を最低限の攻撃を交えつつ走り抜けようとすると、俺達の前に一人の錬金術師が立ちふさがった。
『城門を破壊したことは褒めてやろう。だが、それまでだ!』
 Tomasaだった。
『行け、我が僕たちよ!』
 とTomasaが指示するとどこから現れたのか、八機のアンドロイドが出現して俺達に襲い掛かってきた。
『風、火、水、月、地、山、雷、そして天!すべて使って、叩きのめしてやる!』
 俺とZamaは得物を構えようとすると、それよりも先に矢が嵐のように降ってきて、アンドロイドにダメージを与えた。
『何をしている。お前達はここで立ち止まっている場合じゃないだろう』
『相良!』『相良君!』
 周りで一番高い樹の上で、Segalが石弓『アーバレスト』を構えていた。
『そうよ、二人とも!』
 さらに、Seagalのいる樹の下から一人の女剣士が現れた。
『お姫様、待ちくたびれちゃってるわよ!』
 女剣士はこちらを振り向くと、軽くウィンクをした。
『ひょっとして千鳥さん?』
 尋ねると女剣士Shionは力強く頷いた。
『わかったらさっさと行け、紫雲。任務を果たせ』
『言われなくても!』
 そう言って、俺はShenを城門へ走らせた。


『なんだなんだ。たかが女剣士一人と弓兵でこの俺の八卦衆に勝てると思ってか!』
 紫雲君と風間君を送り出すと、Tomasaと言う名の錬金術師はShionとSeagalを見て、そう大笑いした。
『この戦いに勝てば借金は帳消し!さらに時給から月給に!』
『それはよかったな。給料いくらだ?』
『時給255ガメル……満足にポーションも買えやしない……って何言わすんじゃコラァ!八卦隊、奴らをのめせ!』
 八機のアンドロイドが一斉にShionに襲い掛かった。
 Seagalの支援攻撃で何体かは倒されてしまったが、風と銘打たれたアンドロイドが攻撃を潜り抜けてShionに攻撃を繰り出し――
『――アンタの給料のことなんて、知ったこっちゃない。だけど……』
――次の瞬間には真っ二つにされてしまっていた。
『私如キニ祟リ殺サレルナ?』
 日本刀を片手に、Shionは娼婦のように艶やかに、慈母のように穏やかに微笑んだ。

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オルゴン・クエスト 第七話『真意は何処に』

外でナミア軍による大量殺戮が行われていた頃、カティアは久し振りに自分のキャラクターであるTiaにログインしていた。
 無論、Tiaは魂の牢獄につかまっているので、行動は制限されている。
 彼女がここにいるのは、それが作戦の内だからだ。
 統夜達が来た後で一斉蜂起するには、当然の事ながらキャラの中の人が必要になる。
 討伐軍は捕まった人に出来る限り声をかけて、作戦の当日にログインをすることを頼んでいた。
『あの、貴女も討伐隊の方ですか?』
 ブロンドの三つ編みに、少したれ気味の優しそうなキャラクターがTiaに話しかけていた。
『あ、あの! 私も知り合いから頼まれたんですが』
『私もですよ』
 カティアはそのキャラの名前を見た。
(シアさん……もしかしてこの人が?)
『もしかして、その知り合いの方はZamaって言いませんか?』
シアの頭上にエクスクラメーションマークが浮かんだ。
『ザマさんの知り合いの方なんですか!?』
『え、ええ、まあ。 彼から貴女を助けるのを助けてほしいと言われたので、はじめたんですが……』
 Tiaが頬を掻いた。 統夜の横で見てるのを真似したのだ。
『ザマさんが、私のために?』
 カティアがはい、と打ち込むと、Shiaは飛び跳ねた。
 例えゲームの中の、仮想世界のこととはいえ、男の子に助けに来てもらうのは、決して悪いものではないだろう。
『でも、大丈夫なんでしょうか……ナミア軍は私たちの装備をすべて持ってしまいましたし』
『大丈夫です』
 心配事を言うShiaに、カティアは即答した。
『私の騎士様もついてるんですから』

『私の騎士様、ですか。 それはそれは、いい御身分ですね』

 いつのまにか牢獄が開かれていた。
 そして、その入口には一人の少女キャラが立っていた。
 そのキャラクターの頭上に浮かぶ名前は『Namia』だった。
『でも、本当にここに来れるでしょうか。 倍以上の相手に、貴女を助けに来れると?』
 そのメッセージを読んだカティアは一瞬我を忘れ、怒りの炎に火を付けかけたが、冷静になった。
『来ます。 絶対に』
『……そう、わかりました。 せいぜいそこで愛しい騎士様がやられるのを待っていてください』
 そのメッセージは、少し躊躇ったように見えた。
『ああ、そうでした。 シアさん、出てきてください』
 次の瞬間、シアが牢獄から出ていた。 そして、すぐにナミアの近くにいたリンクスによって捕えられた。
『ザマがもし来たら、彼女は頂上にいると伝えてください。 もし来たら、ですが』
 Namiaはティアに背を向けると、思い出したように話を続けた。
『貴女も復讐をしたいでしょう。 アルケミスト用の高レベル武器がTomasaの研究室にありますので、出てこれたならそこに行ったらどうでしょうか。  倉庫の反対側の壁に入口が隠してあります』
 そう言い残し、Namiaは去って行った。
「……どういうこと? なにを考えてるの、この人」
 パソコンの前でカティアは軽く混乱していた。
「勝つ気がない? それとも勝利を確信してる……?」
 今のナミアの言動は、そのどちらとも取れる。
 

 一方で、城の前は既に多くの屍で埋め尽くされていた。
『ハーハッハッハ! 強いぞ! 凄いぞ! ちょっと引いちゃうくらいに!』
 ナミア軍の将、Tomasaは高笑いしながら討伐軍がやられていくのを眺めていた。
『Tomasa、油断はしない方がいい』
 同じくナミア軍の将である魔法使いLightは冷静にTomasaに言った。
『何をいうか、ライト! 見ろ! この戦力差! 後10年は戦える!」
 トマサの言うとおり、流石に高レベルのアイテムを揃え、しかも物量で押し込んでくるナミア軍に、並のPCが立ち向かえる筈がない。
 ――そう、並のPCは。
『やっちゃってください、ヴォルテール!』
 突如として巨大な竜が現れたかと思うと、その竜の口から破壊光線が発射された。
『コンセントレート!』
 その炎と同時に、魔法使いらしきPCが自分の杖からビームを射出した。
 広範囲に亘る黒い波が、一瞬にして3つに分断された。
 その様子を見ていたTomasaは、中の人が調子に乗ってショートカットキーを押しまくっていた所為で、笑ったままだった。
『ほら見たことか。 でも、よく手に入れたなぁ。 あの魔砲機、時空の塔の最奥で【管理局の白い悪魔】に認められないと手に入らないのに』
『感心している場合か! 奴ら、よりによってヴォルテールとか持ち出してきやがった!』
『だから、落ち着こうよトマサ。 彼らが本気になっても僕に勝てるわけないだろう?』
 トリコロールの魔法使いの目は、かなり怪しく光っていた。
『……お前、性格変わってないか?』
 同僚の姿に、思わず呟くTomasaであった。

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