負け犬の庵

ロボゲ板のSS書きの個人まとめブログです

オリジナル 白翼シリーズ

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ウチの口調

 毎年の事なので、言われても「ああ、やっぱりか」と思うのだが、言われたくはない事はある。
 そろそろ我慢の限界でもある。
 だから、私は「源義経……男じゃないのか?」と言った新任教師の立つ壇上に踊りだし、右フックを叩き込んだ。

 その日の午後、私はため息をつきながら、剣道部主将の小倉小春部長とその弟の静夏と一緒に学校の近くのファミレスにいた。 
「それでどうしたの?」
「学年主任のところまで引きずり出されて学校裁判に持ち込まれかけたけど、父さんに言うぞって言ったら引き下がってくれた」
 でも、その所為で部活を休みました、と目の前の小春部長に言い訳をした。
 だが、いい迷惑だ。 おかげで新学期最初の練習をサボる破目になった。
「義経が怒るのも無理はないけど……そんなにその名前嫌いなのか?」
 静夏がそんな事を言ってきたので、私は
「嫌い」
 ゼロコンマの速さで回答した。
「この名前の所為で、何度からかわれた事か。 ああ、ジュリドに鉄拳ぶち込んだカミーユの気持ちが良く分かる」
 もっとも、本来カミーユは男の名前らしいのだけど。
「弁ちゃんなんて、いっつも男の子に脛を蹴られるんだよ?」
 私の妹の弁ちゃんは、『弁天』とかならまだ救いはあったのに、よりによって『弁慶』という、到底女らしくない名前をつけられてしまった。
 どれもこれも、歴史学者の父さんが悪い。
『子供が生まれたら義経と名付けよう。 男でも、女でも』と言って、私は本当に義経と名付けられてしまった。
 同様のノリで弁ちゃんは弁慶の名が付けられた。
 源義経の大ファンだということはわかるが、それだったら『静』とかにしてくれればよかったのに。
「そうね。 名実の実の方なら私以上に女の子らしいのに」
「謙遜は結構です。 ファンクラブがあるような人にそんな事言われてもうれしくはありません」
 バレンタインにチョコレートを弟よりも貰ってる姉なんて、いて欲しくはないのだが、目の前で笑っているのがソレである。
 しかも、その弟というのが私の恋人だから、尚性質が悪い。
「はあ、女の子らしさって何なのかなぁ」
「普通に可愛い女の子なのにな」
 静夏にそう言われると非常に嬉しいのだが、根本的な問題解決にはなっていない。
 そのとき、小春部長がある事を言った。
「だったら、いっそ口調を変えてみるとかしたらどう?」
「え?」
 その一言が、私を大きく変えた。


 次の日
 教室に入ると、静夏が既にいて「おはよう、義経」と話しかけてくれた。
 早速、私は『それ』を実行してみる。
「おはよーさん、静夏。 今日もええ天気やな」
 出来る限り、元気に言ってみた。
「それ、昨日の姉さんのアレか?」
「そやそや。 DVD借りて勉強してん。 どや、なんか変わった?」
「……大して変わってないな」
 だが、私の彼は残酷だった。
「なんでー! 方言萌えっていうの? そういうのはないの?」
「ない」
 ああ、なんと簡潔な答え。
「イントネーション的に京都弁辺り混ざってる。 第一、女らしさはどうした」
「女やから大人しぃと思ってんやったら、大間違いやで。 逆転の発想や!」
 女の子らしさを目指すのより、元気娘として売り出して行く方がいいと思ったのだ。
「逆転の発想……ねぇ」
「ウチ、結構気に入っとんけど。 そっか、静夏がそう言うならしゃーないか」
 静夏もいいって言ってくれると思ったのに、と恨みがましく付け加える。
「別に似合ってないとは言っていないだろ」
「変わっとらんて、言うたやん」
「ぐっ……」
(あっ、うろたえてる)
 目を逸らし、ほんのり頬を染めてる辺り、ちょっとは可愛いと思ってくれているらしい。
「なぁ、静夏ぁ。 どや、ウチのこの口調。 可愛ええ?」
 机に両手を置いて、上目遣いに静夏を見る。
「――――!」
 こうして、私の(某魔砲少女の公式狸のファンの)彼は陥落した――
 ――かに見えた。
「だ、だが、一応言っておくぞ」
 うろたえながらも、静夏が切り返してきた。
「俺は義経のそういう努力する姿勢が可愛かった。 というか……そんなことしなくても、俺はお前を可愛い奴だと思ってるし……」
 私も、陥落していた。

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大崖香澄のはじめのいっぽ

 中学時代、私には友達がいなかった。
 いや、できなかった、という方が正しいのか。
 私、大崖香澄は引っ込み思案なところがあり、クラスの輪に入れなかった。
 そもそも、クラスの輪に入れてもらえなかったというか。
 それだけ聞いたらいじめかと思う人もいるかもしれないが、そうではないし、原因もわかっている。
 6歳のとき、私は事故に遭った。 バスとトラックの衝突事故だ。
 その事故は、割れたガラスでバスに乗っていた私に傷を残した。
 こう、顔を斜めにばっさりと。 他にも多くの傷をつけた。
 傷だけじゃない。 顔の筋肉もやられてしまい、上手く表情が作れなくなっていた。
 それが原因で私はよくからかわれた。
 中学校になってからは、周りが大人になった事もあって、からかわれることはなくなったが、それでも彼らは近づいてこなかった。
 この傷がなければ、私の生活はよかったと思う。
 フランス人の母親譲りで、顔は整っている方だし、プロポーションや長い髪にもそれなりに自信がある。
「傷がなければ喜んで付き合う」とは、初恋の子の弁だ。
 もちろん振られてしまったが。

 だが、世の中は何が起こるかわからないものだ。
金曜日の入学式を終え、土日をはさんで月曜日。
私はとあるゴタゴタに巻き込まれた。
「いや、だからさ。 君なら絶対できるって!」
「でも……その……私……」
 ゴタゴタの中心は私の隣の席、高校生とは思えない程小柄な少女がクラスの連中から根拠のない励ましを受けている。
 高校、しかも選択授業の割合が多く、クラスにいることが少ない総合学科の白翼高校にも、委員長をはじめとする学級委員が必要になる。
「どうみたって一番落ち着いてるし、倉井さんが一番あってるって」
「無理です! 私……、そんなことできません!」
 まぁ、要するに責任の押し付け合いだ。
担任の北神先生は教室の隅で昼寝をしている。
無論、私の他にもこのゴタゴタをよく思っていない人間はいるようだ。
北神先生の妹だと言っていた琴音さんやその友達らしい男の子二人は眉をひそめ、不満を顔に出していた。
私もこの状況はよく思っていない。
でも、高校生活の最初に悪い印象を残したくない気持ちがある。
(それでいいの?)
 私の中の私が問いかける。
その質問が、その意図があまりにも気に入らなかった。
『貴女なら彼女を助けるわよね?』と暗に意味をしているのは明白だからだ。
 倉井さんは、どこか守ってあげたくなるような娘だった。
小動物みたいに小柄で、かわいい目をしている。
そんな彼女を放っておくのは、間違っていると思う。
高校デビューに失敗したくない気持ちと守ってあげたい気持ちの板ばさみで混乱していた私は、思わず手を机に叩き付けて「いいわけないでしょ!」と叫び、立ち上がった。
 教室が気まずい沈黙に包まれる。
「大崖さん? どうしたの?」
「え? え……え?」
 自分でも何をやったのか、よくわからなかった。
ただ、倉井さんの困ってる顔を見るのが辛かっただけなのだ。
 それがどうして、こんなことになってしまったのか。
「ひょっとして、大崖さんがやってくれるの?」
「ええ?!」
 思わず驚くが、他のクラスメイトたちはそれでもいいらしい。
「やってくれるなら、別に構わねーよ」
「そうだな。 大崖さん、しっかりしてそうだし」
(どーしよー! 矛先がこっちに向かってきたよー!)
 冷静に自分がおかれた状況を分析しようとするが、どうやっても頭はテンパったまま……というか、素の自分に戻ってる。
 だから、気がついたときには
「わかった。 やる」
なんて言っていた。
(ナニ言ってるのよー!!)
 頭の中の私を尻目に、私はあろうことか、さらに恐ろしいことを言っていた。
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「こんな一方的に決められた学級委員にまとめてもらうのも癪。 虐めじゃない、コレ」
(なんで自分が自分に虐められてるのよー!)
 ああ、表情が表に出てこれない、この顔の傷をこれほどまで憎いと思ったことはあっただろうか。 いや、ない。
(ああ、終わっちゃった。 私の高校生活、終わっちゃった)
 まだ表情が作れる私の心の顔は、涙でくしゃくしゃになっていた。

 ところが、私の耳に入ったのは、予想しなかった言葉だった。
「……そうよね。 ちょっと酷かった」
「俺も。 ごめんな、倉井さん」
 なんと、さっきまで倉井さんに委員長を押し付けようとしていた彼らが謝罪の言葉を述べているではないか。
「大崖さんも、注意してくれてありがとう」
 深々と頭を下げられて、逆にこっちがすまない気持ちになってしまった。
「いい。 わかってくれれば、それでいい」
 ただ、無事にゴタゴタが片付いたのには、ほっとした。
「やっぱり、クラス委員長は大崖さんがやるべきよね」
 ……え?
「そうだな。 期待してるぜ、大崖さん!」
 …………え、え?
「なにか面白いことになってきたな」
 琴音さんの隣に座っていた男の子が立ち上がってこちらに歩いてきた。
「よし、君が委員長やるなら、僕――いや、俺が副委員長をやろう」
 わざわざ一人称を言い直しつつ、彼はそんな事を言い出した。
「片菜がやるなら、私と迅君は書記をやるわ。 他にやりたい人がいなかったら、だけど」
 今度は琴音さんだ。
 彼女の立候補に異議を出す人はいなかった。
片菜君を含めた三人は、花音先生の知り合いらしいし、そもそも、やろうと思った人はいないらしい。
 だが、問題なのは私が学級委員長をやる、ということだ。
「わ、私!」
 声に出したが、左手を掴まれて思わずそちらを見た。
 手を掴んだのは倉井さんだった。
彼女は光の宿っていない瞳を精一杯輝かせてこちらを見ていた。
 そして一言「よろしくね、大崖さん」と笑いながら言った。


こうして、私は一年四組の学級委員長に任命されることになった。

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