|
ある日のこと。
学校が休みだったボクはオヤジに起こされた。
せっかくの休みなのに、なんじゃ?と不機嫌顔のボクにオヤジは言った。
「仕事について来るか?」
えっ?としばらくの沈黙ののち、ついて行ってみることにした。
社会科見学のような気分だった。
このオッサンがなんの仕事をしているのかやっと謎が解けるのだという好奇心もあぅた。
結果、詳しくは言えないが電気関係の仕事であった。
この仕事が以外に面白くて、ボクは1日で興味が湧いた。
それからは、休みや早帰りの度にオヤジの仕事に率先してついていくようになった。
オヤジがどういう場所でどんな人と仕事をしているのか分かりはじめ、ボク自身も仕事を覚えはじめた頃に、ある出来事が起こった・・・。
その日も、いつも通りの段取りののち、皆、それぞれの仕事をこなしていた。
そんな中、お客さん(相手側の工事担当責任者)にオヤジが呼び出された。
オヤジは、その現場の頭領(現場責任者)だった。
ボクも同じ場所にいたので、なんとなくついて行った。
会議室のようなところに通されると、突然、お客さんは声を荒げて怒りはじめた。
なんでも、一緒に現場に入っているオヤジの仲間が気にくわないとのこと。
それは、あまりにも理不尽な理由だった。
仕事をしてない訳でもなく、ましてや生意気な口を利いた訳でもない。
ただ、生理的にうけつけないというだけの理由だったのだ。
後ろで聞いていた、ボクは腹が立った。
いい大人が気にくわないという理由だけで怒っているのだ。
「あんたは大人じゃないのか?」と我慢の限界に達した時・・・・オヤジが、口を開いた。
「本当に申し訳御座いませんでした」
そうひとことだけ言って、頭を下げていた・・・。
いいわけは言わなかった。
怒りもしなかった。
ただ、ただ頭を下げていた・・・。
不意にボクは泣きそうになった。
それは、悲しいわけでもなく。
悔しいわけでもなく。
情けないわけでもなかった。
社会の中で、精一杯生きる一人の男に感動したのだ。
ボクはこの人に育ててもらっていた。
家の中じゃ寡黙で、謝ることなど見たことがないオヤジが社会のルールの中で戦っていた。
その背中は、とても大きく偉大だった。
帰りの車の中、二人ともしばらく無言だった。
なんとも気まずい雰囲気の中で、ボクは話しかける言葉を探していたが、気の利いた言葉は何も思い浮かばなかった。
そんな中、最初に口を開いたのはオヤジだった。
「お前はどう思う?」
オヤジがボクに意見を求めてきたのは初めてだったので、ボクは少しびっくりした。
ボクは、ボクなりの意見をオヤジに言った。
それから、さっきのオヤジの姿は誇りに思うよと付け加えておいた。
「そうか?」とだけ言って、少し苦笑いをしていた。
そんなオヤジの目は、ほんの少しだけ潤んでいた。
そして、オヤジとボクにほんの少しだけ「友情」が芽生えた気がした。
|