青空だより

1年ぶりに香奈の携帯に届いた耕作からのメール…それは届くはずのない人からの奇跡のメールでした。

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vol.8 カナ

 
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わたしは、幼い頃から観覧車が大好きだった。

ゆっくり上っていく四角い箱の中は、まるで無重力空間のようで
てっぺんまで行くと、ふわっと…空に包まれる感覚に陥るからだ。

特に好きなのは雨上がりの観覧車。

透明感を増した青空の向こうに宇宙が広がっているのを感じる。

今朝も

昨日から降り続いた雨が上がって
遠くの空が薄紫色に明るくなってきたから
自転車に飛び乗って、みなとみらいを目指した。
勿論、目的は観覧車。

ビンゴ! (^O^)/

今日の空は完璧だ。

恥ずかしい思いをして並んだ甲斐があった。

そういえば、耕作と初めて話したのも、
雨上がりのコスモワールドだったなぁ。

期末テストが終わって解放感を味わっていた中二の夏。

「水島?」

耕作は、観覧車を見上げてたわたしに声をかけてきた。

写真部の教室は美術室の横だったから
話した事はなくても山村耕作の顔は知っていた。

わたしの右手にある安いデジカメを見つけて
「へぇ…写真好きなんだ?」
と、興味深げに覗き込む耕作の口から
次の瞬間、意外な名前が飛び出した。

「もしかして、アニー・リーボヴィッツみたいに世界中を撮影するのが夢とか?」

初めて話す同級生の口から大好きなカメラマンの名前が出た事に

あっ!この人、話し分かる!

と、嬉しくなって…
気がつくと、わたしは写真の話しをベラベラし始めていた。
光がどうだの、アングルがどうだの…
熱く語るわたしをもう一人のわたしが見ていて
ビックリしているんだけど、
困った事に次から次へと言葉が出て来て止まらない。

その時のわたしは、心の中で叫んでいた。

えっ?えーーーーっ?
何を興奮してるんだ?
違う!これはわたしのキャラじゃない!

「ところで、乗ろうとしてたんじゃないの?」
一瞬の話しの隙をついて出た耕作の質問に
「いやぁ、特にはぁ…」と、シドロモドロに答える。

一人で観覧車に乗ろうとしてたなんて…
恥ずかしくて、とてもじゃないけど言えませんよ…。

下を向いて、口の中でゴニョゴニョしてると

「乗らない?」

観覧車を指差す耕作を見上げて、わたしは
「へっ?」
…と、かなり間の抜けた声を出してしまった。

でも…自分でも意外なんだけど、わたしはふたつ返事で
「いいね〜乗るの付き合ってくれる?」
と、あっさりOKした。

男の子と観覧車に乗るのって、
もっとこう…特別な…何て言うか、
ほら、一大事のように思っていたけど…
案外、こんなもんなのかな???

ゆっくり観覧車が上がり始めると、
わたしは早速、その安いカメラを構えて
パシャパシャ写真を撮りまくっていた。
勿論、狭い空間に男子と二人きり…っていう照れ隠しもあった。

「もしかして、これってデートじゃん」

てっぺんに着いたあたりで、
耕作がボソッと口にした言葉に、わたしは我に帰った。

あっ…確かに。

でも、さすがにそれを認めるわけにもいかず
「え〜そうかなぁ。たまたま方向が同じバスに乗り合わせた程度じゃない?」
と、ムチャクチャな例えを言ってしまった。

“?”
という顔をした耕作は次の瞬間、顔を真っ赤にして笑い出した。
「水島って面白いなぁ〜」

面白いって…
それ誉め言葉じゃないよね?

観覧車を降りると、別れ際に耕作が
「今度、俺に付き合ってよ」と言ってきた。
「今さ、イイ風景のポイント探してるんだ」
わたしがキョトンとしていると
「絵だよ。絵。美術部の課題で街の風景を描かなきゃならないんだ」
あっ、そういう意味ね…わたしは、自信満々に
「まっかせなさい!」と、胸をポコンと叩く。
「撮影で、あちこち歩き回ってるから場所探しはプロだよ」

そうだ、3年前の夏─

この日から“青空だより”が始まったんだ。。


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vol.7 カナ

 
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夕暮れ時の横浜橋商店街。
わたしは放課後、よく遠回りしてこの商店街を抜けて帰る。
夕食前、にわかに活気づくこの場所の雰囲気が好きだったから。

今日に限って、どうしても店頭に並んだ真っ赤な苺の誘惑に勝てず
近所にある公園のベンチで、甘ずっぱい大きな苺を頬張った。
放課後、制服姿のまま公園で苺を食べる女子高生って…。

こんなところ耕作に見られでもしたら…(^_^;)

一度、お母さんに頼まれた晩ご飯のおかずを買って帰るところを
耕作と、ばったり出くわした事があった。

野菜が目一杯入ったビニール袋を持ってヨタヨタ歩くわたしを見かねて
「持ってやるよ」と、手を差し出す耕作に
わたしは「イイよ、平気」って断ってしまった。

その後
「遠慮するなよ」
「イイから」
「だって…」
「いや、ホント…大丈夫だから」
という、やり取りの挙げ句
耕作の右手から遠ざけるように
袋を左手から右手に持ち替えてしまったんだ。

わかってる…

我ながら可愛くないって

本当なら「ええ…でもぉ…」と、2回くらい断ってから
「ありがとう…」ニコッて、遠慮がちな笑顔で
相手の好意に甘えるのが良いって事くらい…

…わかってるよ。

その時、耕作は“くくっ”って苦笑いして
黄金町の駅まで、わたしと一緒に歩いた。


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vol.6 カナ

 
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さすがに5月にもなると
朝の風も滑らかになってわたしの頬を撫でていく。

この神社は休みの日、いつも耕作と待ち合わせする場所だった。

デートぢゃない。

同じ中学で写真部だったわたしと
美術部だった耕作は高校に進学してからも
イイ写真が撮れる場所とイイ絵が描ける場所を探して、
休みの日は横浜じゅうを歩き回った。

それが、いつからか横浜ウォーキングマップを
作るという目的に変わり、
わたしの写真と耕作のイラストで
B5のスケッチブックは瞬く間に埋まっていった。

そのスタートがここ。

桜木町行くのも、地元の本牧行くのも、
絶対ここで待ち合わせしてスタートする。

“いい場所が見つかりますように”

そうやって、いつも神様にお願いしてから、
わたしたちは歩き始めた。

今日は、一人で賽銭箱にお金を投げ込み手を合わせる。

いや…

今日だけじゃない。

ここ一年は、いつも一人でここにやって来て、
一人で横浜の街を歩き回っている。

そして、その写真を耕作の携帯に送る…

あ…

そう言えば、最近
耕作にメールを送った後にきていた
あの小ウルサイ返信メールがない。



次のあて先へのメッセージは
エラーのため送信できませんでした。

送信先メールサーバの事由により
送信できませんでした。



このプロバイダーからの“お節介なお知らせ”は大っ嫌いだった。

でも、春先からそのお節介者は、トンと姿を現わしていない。

それが何を意味するか考えないまま
わたしは送信ボタンを押した。


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vol.5 ノブ

 
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カナさんでもヘコむ事あるんだ…。

今日、カナさんのメールでピエロが笑ってた。
どうして、ピエロはいつも笑顔でいられるのかな。
本当は泣きたい時もあるだろうに。
カナさんの言う通り、夜一人で泣いてるのだろうか?

カナさんからメールが届くちょっと前…
学校帰りに、駅前の書店で有紀とバッタリ出くわした。

高校の友達かな?
同じ制服を着た女の子と立ち読みする有紀は
時おり笑顔を見せながら雑誌をめくっていた。

その横顔…

数日前の有紀とは別人のように思えた。
新しい制服は、しっかり有紀に馴染んでいて
僕より倍の高校生活を送ってきたみたいだ。

「あっ、有紀」
…って口から出る前に、有紀の方から
「久しぶり…宮田君」
と、小さく手を振って近づいてきた。

ショックだった。

つい1ヶ月前までノブ君と呼んでいた有紀が
僕を宮田君って、名字で呼んだからだ。

友達の手前?

いや…それは、有紀にとって僕が、
友達よりも遠い存在になった事を意味する。
僕は、有紀の向こうで本を持ったまま
こっちを見ていた友達と目が合ったので
軽く頭を下げてから「元気してた?」と聞いた。
有紀は僕の視線の先をいぶかしげに振り返りながら、
「あっ、ギター」
会話の糸口を見つけたかのように言葉を続けた。
「部活とか、ギター続けてるんでしょ?」

ギターかぁ
そう言えば、受験が始まってから
ずっとケースから出してない。

「いや、まだ部活とか迷ってるんだ」

嘘だ。
部活どころか、ギターの事忘れてた。

「ふ〜ん、もったいないね」と、言う有紀に
「まぁ、ゆっくりやるさ」
僕はヘラヘラ笑顔で答えた。

有紀は、そんな僕の心を見透かしたようで
「そう…じゃあ、頑張ってね」と言って
友達の元へ戻って行った。

本当は、“じゃあ、また”の先なんて
無いんだって事を知っている。

一体、僕は何を有紀に言いたかったのか…
いや、何を言ってもらいたかったのか。
自分の不甲斐なさをカナさんのピエロが
バカにして笑っているようだった。

「笑うなよ…」

僕は、携帯に向かって呟いていた。

あと一週間でゴールデンウィークだ。
連休でもカナさんからメール来るのかな?
と、帰り道ぼんやりと考えていた。


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vol.4 ノブ

 
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あははっ

今日のカナさんからのメールに
僕は思わず笑ってしまった。

カナさんからメールが届くようになって一週間が経つけど
今日のメールで少しだけど、カナさんが見えた気がする。

カナさんは、数学が苦手で…
数学の山下は“イカめし”ってあだ名なんだ。 (なんでだ?)

そして一番の発見は、カナさんも僕と同じ高校生らしいってこと。

それにしても、数学の問題が解けなかったから
帰っちゃう…って、アリかぁ?
ムチャクチャなカナさんだけど
その行動力が、すごく羨ましかった。

その強さは、決定的に僕に欠如しているからだ。

そんな僕の弱さを有紀が指摘した事がある。

それは中二の文化祭の出し物を決める時だった。
おおむね合唱って事で意見がまとまりかけたところで
大木っていう、そこそこ発言力のある奴が
「せっかくだったら、ピアノだけじゃなく
バンド演奏と組み合わせてみねっ?」
…と、提案した。

でも、楽器出来る奴なんてクラスに何人いる?
って事になって、教室のあちこちで
「お前やれよ」「えーっ無理だよ」と押しつけ合いが始まっていた。

そのとき僕は、何となく視線を感じて
そっちの方向に目をやると…

その視線の主は有紀だった。

有紀は右手に顎を乗せて、じっ…と僕を見てて
その顔はちょっと怒っているようだった。

で、結局、ホームルームは時間切れで
曲目がスピッツの「空を飛べるはず」に決まったものの
バンドの話は翌日に持ち越される事になった。

「ノブ君!」

その日の放課後、
帰ろうとしていた僕を有紀が呼び止めた。
「ねぇ、どうしてギターに立候補しなかったの?」
中一の時から一緒のクラスで仲の良かった有紀だけが
僕がギターを弾ける事を知っていて…
そう、一度だけ有紀の前で演奏した事もあった。

「ノブ君上手いじゃん。あたし、何でノブ君が
手を挙げないのかな…って、ずっと思ってた」
「だって、スピッツなんて、やった事ないし…」
という僕の言葉に、有紀は大きな溜め息を吐いて
「あのさ…この際、関係ないと思うよ…そんな事。
単独ライブやろうってわけじゃないんだから」って、クスッと笑った。

翌日、僕は有紀に後押しされた感じでギターに立候補した。
本当は、有紀が手を挙げて推薦したって言った方が正しい。

えっ?という意外な空気が一瞬、教室を包み込んだけど、
一回目の練習であきらかにみんなの顔が
納得の表情に変わったのが分かった。

僕が有紀と付き合うようになったのは、
文化祭が終わって11月も秋が深まった頃だ。

あの時、有紀がいなければ、間違いなく僕はステージに立つことも
クラスの皆からギターに関して一目置かれる事もなかっただろう。

カナさんのメールに勇気をもらった僕は、
有紀に会って、今の気持ちを正直に伝えようと…
そんなことを考えていた矢先、
地元の本屋で学校帰りの有紀とバッタリ出くわした。


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開設日: 2011/3/10(木)


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