兄貴からのリクエスト!
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奇跡は月光の下にて
コツ...コツ...
静かな病院の廊下に響く足音。
頼り気の無いわずかな光を頼りに、通い慣れた病室を目指す。
コツリと足音が止み、目の前には一人部屋の扉。
ガラガラと横にスライドさせ開くと、聞こえてきたのはピッピという機械音。
足を進め、カーテンをゆっくり開けると、そこにはチューブに繋がれた彼女がいた。
酸素ボンベからはシューシューと弱々しい呼吸音が聞こえてくる。
誰がどう見ても痛々しい彼女の姿に、薄く微笑む。
さぁ、行こうか。
と心の中で呟いて。
彼女を繋いでいる無数のチョーブを外す。
酸素ボンベも外したから苦しい?
大丈夫だよ。
…もうすぐで、終わるから…
食料を口にすることが出来ずやせ細った彼女を横抱きにし、部屋を出る。
向かうのは
1番高くて
1番月が見える所。
ガチャリ、と扉を開くと、
ただっ広い屋上に着いた。
そのまままっすぐ、一つだけ置かれたベンチに向かう。
彼女を自分の膝に横座りの状態にして座った。
ピュゥ…と吹く風が冷たくて、
嗚呼、風邪を引いてはいけないと自分の着ていたパーカーを着せる。
今日は満月だ。
真ん丸い月がぽっかりと浮いている。
その月明かりに照らされている彼女の顔は、息を呑むほど綺麗で。
ただすやすやと眠っている様にしか見えなかった。
時が、迫っている。
そう感じた俺は、まっすぐ月を眺めながらゆっくりと口を開いた。
「なぁ…お前がこんなんになってから、どのくらい経っただろうな…」
もちろん彼女は応えない。
「あの日から、ずっと眠ったままなんだよな、お前」
「相変わらず、寝るの好きなんだもんなぁ…」
「朝だって、俺が起こしてやんなきゃ起きれなくて」
「そのくせ、寝起き最悪でさ」
「ほんと、こっちの身にもなってほしいよ」
「…今回はなかなか起きてくんねぇな」
「俺の声きいても」
「…学校に遅刻してもしんねぇかんな」
「単位たりないって騒いでたじゃんか」
「留年せずに、俺と同じ大学に行きたいんだろ?」
「だから、どんなに起きなくたって、ちゃんと俺が起こしてやっからな」
そこで一旦言葉を切り、彼女の髪を空いている手ですく。
「俺な、昨日の夜、夢を見たんだ」
「その夢でな、声が聞こえてきたんだ」
「声が、言ったんだ」
髪をすく手を止め、微笑みかける。
「俺の命と引き換えに、お前を助けてくれるって」
「笑っちゃうだろ?ありえない話だって」
「だけどな、信じちゃったんだ。その無責任な言葉を、占いも信じない俺が」
「だから俺いったんだ」
「お願いしますって…」
ピュゥ…と強い風邪が吹き、その辺にあった紙くずが宙を舞った。
ゆっくりと手を彼女の白い頬に持ていき、優しく撫でる。
壊れそうなほど冷たい、彼女の頬を、その存在を確かめる様に。
「お前、怒るかなぁ…?」
「勝手に決めんなって」
「そういえば、まだ約束してたこと全然やってねぇな」
「一緒に夏祭りもいってねぇし」
「あ…あんまんも奢ってねぇな」
「漫画だって貸して…ないな」
「まだまだ、あるな…後悔だらけだ」
「でも、1番は・・・」
「お前といっしょに、生きれなかったことだな」
「俺さ、でっけぇ夢があってさ」
「まずは、俺とお前が無事大学にいって、無事卒業して無事就職する」
「そしたらそのうちプロポーズして、結婚式挙げて…」
「新婚旅行いって」
「子供ができて…双子がいいなぁ…男と女の」
「俺は息子と毎日サッカーして、それをお前と娘が笑って見てるんだ」
「旅行だって、たくさん行くぞ」
「それから、双子はどんどん成長していって…ついに自立」
「娘の結婚式は、絶対俺号泣だな...」
「そのうち、孫とかできるんだろうなぁ」
「残り少ない人生をお前と二人のんびり過ごして」
「死ぬときは、我子と孫に見送られながら、二人いっしょに逝くんだ」
ポタリ...
雫が、彼女の頬に落ちた。
「どうだ…?いい、夢だろ?」
ポタ
「だけど、叶わなかったなぁ」
ポタ
「約束も、守れなかったし」
ポタ
「俺、サイテーな、彼氏、だなぁ」
ぽた
「だからさ、俺の分まで、お前が叶えてくれよ?」
彼女の顔に落ちた涙を拭う。
「俺じゃない、誰かと、俺の夢、叶えてくれよな」
また、涙が溜まる。
「そしたらさ、俺、安らかに逝けると思うんだ」
ポタ
「最後まで、隣に居れなかったのが」
ポタ
「くやし、な」
ポタ
「だけど、我慢、するから」
ポタタ
「お前だけは…幸せ…にっ」
ポタタタ
そこでもう、喋れなくなった。
目からは大粒の涙が止まらなくて、
嗚咽も止まらなくて。
堪らなくなって、思いっきり彼女を抱きしめた。
折れそうな程華奢な体を力いっぱいに。
少しだけど温もりを感じて、
また涙が溢れた。
「すきだ...」
「す、きっ...」
「なんで、ハッピーエンドには、ならねェんだよ...!」
ひとしきり抱きしめて体を見ると、
体全体が光っていて、少し透けていた。
「はは...時間、か」
手を月に透かす。
そのてで再び、彼女の頬を撫でた。
「ごめんなぁ…目ェ覚めた時、居てやれなくて」
どんどん、光が増す。
「ごめんなぁ、幸せにしてやれなくて」
体も透けていく。
「だから」
どんどん
「他の誰かと、幸せになってな」
どんどん
「約束だぞ?幸せになんなかったら、化けて出るかんな」
別れの時が
「泣きたくなったら、空見るんだぞ」
近づく
「俺はいつでも空からお前を見守ってるから」
出てくる潔い言葉とは裏腹に
「いつもわらってるか見張ってるから」
いやだいやだと泣き叫ぶ心
「じゃぁ、な」
最後の、とびきりの笑顔を彼女に向ける。
「俺はこれからも」
体がより一層光る
タイムアウト。
「お前を、お前だけを――――――――…」
最後の言葉は光と共に虚空に消えた。
どうか君が幸せであります様に
「愛してる」
彼の声が
暗闇の中で聞こえた。
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