朝日新聞朝刊に連載中の「プロメテウスの罠」の本日(2012年2月1日)掲載分を以下に転載します。
■官邸の5日間:30
無理をしてでも来て
12日午後に1号機で起きた水素爆発について、首相の菅直人が手に入れることができた情報は、日本テレビで午後4時49分に放送された福島中央テレビ撮影の映像だけだった。
官邸には「白煙が上がっている」という報告がきただけで、原子力安全・保安院も、原子力安全委員会も東京電力も、菅のところにテレビ以上の情報は伝えていない。
菅がテレビで爆発を知るその二十数分前、東京電力は福島第一原発で放射線量が毎時1015マイクロシーベルトを計測したと保安院側に通報した。
なぜ線量が上がったのか、何が起こっているのか。白煙は爆発によるものなのか。そもそも爆発は本当にあったのか――。
官邸は情報収集に追われるが、具体的な情報は集まらない。
菅は午後5時の少し前、秘書官に命じて、石川県能美市にある北陸先端科学技術大学院大学の副学長、日比野靖(66)に電話を入れさせた。
日比野は埼玉県入間市の自宅にいた。菅とは東京工業大学の同窓だ。大学の改革を訴えた学生運動をともに担った。後に菅内閣の内閣官房参与になる。
電話に出た日比野に、秘書官は菅の意向を懸命に伝えた。
「総理が、無理でもいいから来てくれないか、といっています」
日比野には、その日の昼ごろと午後3時ごろにも同様の電話があった。だが、そのときは断っている。
前日、東京都文京区の中央大学理工学部であったセミナーに参加している際に地震にあう。
一晩をそこで明かして帰宅した。ほとんど寝ていなかった。「疲れているので勘弁してほしい」と伝えていた。
だが秘書官は、この日3度目の電話では引き下がらなかった。
「総理は、無理をしてでも来てほしいといっています。無理を承知のお願いだそうです」
日比野は1号機爆発の事態をニュースで知っていた。原発事故のことで菅が呼んでいるのだろうと察しはついた。
日比野の専門はコンピューター技術。原子力は専門外だ。
しかし菅の切迫した要請に、結局、日比野は折れる。「自分が行ってもそんなに役には立てないだろう」と思ったが、とにかく行くことにした。
夕食を取った後、タクシーで官邸に向かった。(木村英昭)
この記事では、日比野氏が登場していますが、2012年1月14日掲載分には、理化学研究所横浜研究所の生川浩史氏、東京工業大学原子炉工学研究所の有冨正憲氏も15日に菅氏からお呼びがかかったと報じられています。どちらも菅氏の母校、東工大出身者です。(参照①)
あまりに菅氏の周りが役立たずなので、菅氏が無理を言って、召集したということです。
確かに、東電も、保安院も、原子力安全委員会も使えない人たちですから、私は菅氏がカワイソ過ぎると思います。もし、このときの総理が他の人だったら、どうなっていたでしょうね?
たぶん、日本は本当に終わっています。
当時、菅氏以外の中枢は、東電の撤退を認めていたわけですから。(参照②)
参照
①2012年1月14日当ブログ記事:官邸の5日間(連載第12回)
②2012年1月12日当ブログ記事:官邸の5日間(連載第10回)