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2009年2月21日

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若菜上その2 <源氏の告白>

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  土佐光起「源氏物語」から
    (これは朝顔の巻の絵ですが)

 

   いみじく忍び入り給へる、おほん寝くたれのさまを、待ち受けて、女君(紫)「さばかりならん」と、心得給へれど、おぼめかしくもてなしておはす。
 なかなか、うちふすべなどし給へらんよりも、心ぐるしく、「など、かくしも、み放と給へらん」と、おぼさるれば、ありしよりも、けに深き契りをのみ、長き世をかけて、きこえ給ふ。かむ(朧)の君の御事、又、もらすべきならねど、いにしへのことも知り給へれば、まほにはあらねど、
「物越しに、はつかなりつる対面など。残りある心地す。いかで、人目とがめあるまじくもて隠して、いま一度も」
とかたらひ聞え給ふ。(紫は)うち笑ひて、
「今めかしくもなりかへる御有様かな。(朧の)昔を(女三の)今に、御身があらため加へ給ふほど、中空なる身のため、くるしく」
とて、さすがに涙ぐみ給へるまみの、いと、らうたげに見ゆるに、
(源)「かう、心やすからぬ御気色こそ、くるしけれ。たゞ、おいらかに引きつみなどして、教へ給へ。隔てあるべくも、ならはし聞えぬを。思はずになりにける御心なれ」
とて、よろづに、御心とり給ふ程に、(朧の件は)なに事も、え残し給へずなりぬめり。(女三)宮の御方にも。(源は)とみにえ渡り給はず、(紫を)こしらへ聞えつゝおはします。
 ひめ君はなにとも思したらぬを、御後見どもぞ、安からずきこえける。煩はしうなど見え給ふ気色ならば、そなた(女三)にも、まして(紫に)、心苦しかるべきを、(女三を)おいらかに美しきもてあそびぐさに思ひ聞え給へり。 


 朧月夜と会って帰ってくる源氏を紫の上が待ち受けていて一切を告白させてしまう場面です。
 ひっそりと帰宅した源氏の憔悴した姿を待ち受けていて、紫の上はだいたいのところは察しがついているのですが気がつかないふり。
 源氏はその様子が嫉妬の言葉よりもっと辛い。
 「物越しにほんのわずかのご対面で、残り惜しい心地です、ぜひもう一度、人目にとがめられないよう、そっと」などと弁解し、これまでよりももっと次の世までかけて、君を愛するからと約束しています。
 「若々しくおなりになったこと、今の恋に昔の恋をさらにお加えになるとは、頼るべき人もないあたしには切なくて・・・」と、こらえてもやはり涙は止まりません。
 源氏はいろいろと機嫌をとるうち、しどろもどろになって一切を告白してしまった様子。
 どう見ても、紫の上のほうが何枚も役者が上のようです。
 女三宮のほうにもお越しにもならず、言いわけの使いを遣わされると、ご本人はなんともお思いでないが、おそばの女房たちが不満を申し上げるので、せめて姫君があっさりしていることに源氏はほっとするのです。

 このあと、紫の上は初めて女三宮と対面し、絵や人形の話などでよろこばせるので、女三宮はすっかり紫の上に打ち解けることとなっていきます。
 紫の上の賢さと人間関係を取り結ぶ人間力の大きさに感心させられる場面です。
 心の中の悩みの大きさに耐えながら前向きに生き、道を開いていく紫の上の姿に、読むものは強く胸うたれます。

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光の帝国ー常野物語ー

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恩田陸さんの作品は、恥ずかしながら一度も読んだことがありませんでした。
 本屋大賞を受けた「夜のピクニック」を、書店で手にとったことはありましたが、これぞまさにという青春小説だったので、おじさんにはお呼びでない作家さんだと思い込んでいました。

 ブログのお知り合いのところでたいそう評判がよかったので立ち読みをしてみると、「これは面白いかも!」。
 というわけで、『光の帝国―常野物語』(恩田陸著:集英社文庫)を読みはじめるとその世界に一気に引き込まれました。どうして今まで知らなかったのだろうと嬉しい後悔とおどろきです。

 この短編連作集はなんでも恩田さんの作品のなかでも最高作という方が多いとの評判らしいのも「さもありなん」と納得でした。

 文庫本のカバーの裏には、次のような紹介コメントが載っています。


 膨大な書物を暗記するちから、遠くの出来事を知るちから、近い将来を見通すちから―――「常野」から来たといわれる彼らには、みなそれぞれ不思議な能力があった。穏やかで知的で、権力への志向を持たず、ふつうの人々の中に埋もれてひっそりと暮らす人々。
 彼らは何のために存在し、どこへ帰っていこうとしているのか?
 不思議な優しさと淡い哀しみに満ちた、常野一族をめぐる連作短編集。


 恩田さんは「ファンタジー作家」というジャンルに入るそうですが、とてもやわらかくあたたかい文章を持ち、都会的な繊細さと故郷のなつかしい素朴さをかねそなえた作品世界の中で、静かにやさしく語りかけます。
 その中の登場人物たちはみな、理知的で品性正しくもの静かです。
 小説(ものがたり)を読む楽しさというものを、この作品ほど満足させてくれる例は非常に稀ではないかと思います。
 楽しく、哀しく、ときどき怖ろしく、そしてやがて深く心を揺さぶられていくのです。

 10の短編がハーモニーのように響きあう連作集ですが、どれも高水準のすばらしさで甲乙つけがたい充実ぶりです。個人的には「二つの茶碗」、「達磨山への道」そして最後の「国道を降りて・・・」が好みでしょうか。
 物語の鍵をにぎる「常野」というのは東北地方のある場所のようで、(とこの)と読むそうです。
優しく不思議な常野一族の人々がそこから旅立ち、いつか帰ろうとする魂の拠りどころ。
子供から大人まで、老若男女を問わず万人にお勧めできる一冊だと思いました。

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