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リトルリーグ・ワールドシリーズとバイリンガル(二国語)社会―1/2
2001年9月6日 番野 哲司
[その一] リトルリーグ野球と学校教育。
ペンシルベニア州で行われたリトルリーグ世界選手権で「東京北砂リーグ」が優勝した。
注目していた訳ではないが今年のシリーズは特別な話題を提供した。
デニー・アルモンテの完全試合。
この夏、アメリカ国内の予選が進んでいる最中、ニューヨーク・ブロンクスのチーム「ロランド・ポーリノ」の投手アルモンテがパーフェクトゲームを達成した。少年野球のことだから7イニング勝負だが全米を驚かせた。ブッシュ大統領は祝福を述べ、ニューヨーク市長ジュリアーニはお祝いに「市の鍵」を贈った。ヤンキースがワールドシリーズに優勝したとき並みの扱いである。
アメリカの少年野球の良いところで、同じ投手が2試合連続して出場できない規則がある。
そのためアメリカ国内決勝戦ではアルモンテは出場できず、フロリダのチームが勝った。そして東京とのワールド・シリーズとなり「北砂」が勝った訳である。
「東京北砂」のメッツ訪問。
お祝いにニューヨーク・メッツ球団、ボビー・バレンタイン監督、それに新庄選手が少年達をシェィ・スタジアムに招待した。新庄が少年達の目の前でヒットを打ち、遅くなるので少年達は帰ってしまった後だったがホームランも打って試合に花を添えた。
テレビは外野に並んだ少年達と新庄を映した。みんな、いかにも少年らしい「キャシャ」な体つきで、新庄もその良きお兄さんのように見えた。新庄の言い草がよかった。「皆さんも大きくなってプロ野球を目指すなら、日本なら阪神タイガース、アメリカならニューヨーク・メッツのようなチームで活躍して下さい。」と。(トラキチは泣けるね。)
実際に新庄や「イチロウ」の活躍を見て私が快感を覚えるのは、あながち同朋への贔屓ばかりからではない。益々激化するアメリカ「デブ社会」の中で、触れば「ポキン」と折れてしまいそうな細身の二人が、並いる巨体の選手に伍して、バレンタインのいう通り「頭脳とスピード」でプレイしている。アメリカのファンもそれを感じている。
思いがけないハプニング―――年令の偽り―彼は12才じゃない、14才だった!
そんな中で完全試合投手アルモンテ少年に関する、とんでもないハプニングが巻き起こった。
彼がリトルリーグ規定の年令を超える14才だというのである。
そうだとしたらワールド・シリーズまでは行かなかったが、パーフェクト・ゲームの記録も何もかも帳消しにしてしまう。事はスポーツ欄の記事に留まらず社会的様相を帯びてきた。
ここにもアメリカ文化の特長が現れている。
法や規則に外れたものは断固として否定される。「まあいいじゃないか」はありえないのである。
新聞やスポーツ・メディアが詳細な事実究明に乗り出し、結果が連日のように報道された。
デニー・アルモンテ少年はカリブ海の島「ドミニカ共和国」で1989年4月17日に生まれた、ということになっていた。これならば現在12才、リトルリーガーの資格がある。
所が実際は、どうもその2年前の1987生まれらしい、ということが分った。
アメリカの巨大なマス・メデイァの情報網をもってすれば事実を調べるのは訳もない。
ドミニカ共和国での出生登録のされ方、記録の保存状態、等々が調べられ報道された。
因みにドミニカは日本へも行ったあの“サミー・ソーサ”を生んだ国である。
ブッシュ大統領は、自らも小さいときリトルリーガーで、いまだにファンである。
今年就任後早々、ティーボールリーグではあるが、ホワイトハウスの一角に少年野球グランドを作らせた。彼はこの報道には勿論ガッカリして、遺憾の意を表明した。
ただ「アルモンテ少年の完全試合が見事なものだったことに違いはない。」といったという。
ニューヨーク市長ジュリアーニも大いに失望した。ただし「市の鍵」の返還は求めなかったそうだ。
市長は別のことで激怒した。ニューヨーク市の教育行政・管理である。
市長を含めて人々は当初、年令を偽って登録したアルモンテの父親を非難した。
この父親はかなり厳しい刑罰を喰らうだろう。確かに子供は、いわれた通りやった。子供に罪はない。
しかし問題はそれほど簡単ではない。
「ニューヨークの学校はそんなに乱れているのか?」
完全試合達成で大騒ぎしたときから、人々にはアルモンテ少年が英語を話さないことは知れていた。
然し彼の年令とブルックリンのこのチームでの今までの活躍を見るとこの少年は少なくとも過去2年近くニューヨーク市の教育を受けた筈だ。そんな場合親は英語を喋られなくとも、子供は英語を話せるようになっているのが普通である。
ニューヨーク市は全米に抜きん出て移民問題、「バイリンガル・エデュケーション」問題を抱えており、それだからこそ巨大な教育費予算を使う。教育の質と費用の問題は市政の根幹を成す。一体、「アルモンテはちゃんと学校へ行っていたのか?」
有力なスポーツ雑誌などのメディアがドミニカの現地まで飛んで調べたりした。
その結果だんだん事実が明らかになってきた。
ドミニカの原簿の調べで、アルモンテ少年は1987年4月17日生まれ、今年満14才であることがハッキリした。ブロンクスの学校の学籍簿その他も詳細に調べられた。その結果最近明らかになったのは、この少年はリトルリーグメンバーの資格に必要な期間、ニューヨークの学校に在籍もしていなかったという事実だった。
多分ドミニカとニューヨークを行き来して、こちらにいるときは野球だけをしていたのではないかという。いずれ詳細な全貌が明らかになろう。
だが、事がアメリカの“Natinal Pastime”(国民的娯楽)である野球、しかも純真であるべきリトル・リーグの話である。大方の人はガッカリし慨嘆し、怒った。
(その一おわり)
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