ギリシャのユーロ離脱から日本が学ぶべきこと
ギリシャのユーロ離脱から日本が学ぶべきことバラマキを即刻やめ新産業育成と大胆な金融緩和を2012.05.26(土) 欧州が騒がしくなっている。昨日ロンドンで会った英フィナンシャル・タイムズ紙のライオネル・バーバー編集長は静かにこう切り出した。
「大変残念なことにユーロから離脱する国が現れるのはほぼ確実になった。私たちにはその用意が必要だ」。
ユーロ崩壊の足音がすぐ近くに聞こえる特定の国を名指ししなかったのは、言わずもがなであり、さらには1カ国にとどまらない可能性があるからだろう。 鳴り物入りでユーロが誕生して(通貨の流通が始まって)10年目を迎えた2012年、その節目の年にユーロは最大のピンチを迎えている。
ギリシャのユーロ離脱を意味する「grexit(グリグジット)」なる流行語まで生まれた。今週はFT紙を中心にユーロ問題を見ていきたい。
この1週間にギリシャとユーロ問題を扱った記事は次の通りである。
●FT紙
「ユーロを救う最後のチャンス」 「ユーロ圏の銀行取り付け騒ぎを止める唯一の方法」 「ユーロ圏の離婚に向け計画を立てる時が来た」 「ギリシャ離脱が将来に残す禍根〜永遠に失われるユーロ圏の一体性への信頼」 「ユーロ危機、調整か解体か、もう待ったなし〜脆弱な欧州は早急に変わらねばならない」 「危機を逃れ、ドイツ国債に殺到する投資家〜安全資産としての資質に疑問の声も」 ●エコノミスト誌
1号さかのぼると次の記事がある。
これだけ見ても欧州が騒がしいのが分かるだろう。私たちが翻訳していない記事も多いから欧州ではユーロ危機一色と言っていい。
例えば、5月24日付けのFT紙(英国版)は、EU加盟27カ国が非公式の首脳会議を開いたことを受けて、1面トップで大きくこの問題を取り上げている。ほかのページにも関連記事が満載だ。
ギリシャでクーデターや内戦が勃発する危険性も ギリシャがユーロから離脱したとき、いったい何が起きるのか。ユーロ問題を扱った長い記事を続けざまに書いたFT紙のマーティン・ウルフ氏の「ギリシャ離脱が将来に残す禍根〜永遠に失われるユーロ圏の一体性への信頼」から引用しよう。
「外国からの正式な資金援助の停止は、ギリシャの無秩序な崩壊の引き金を引く恐れがある。まず、ギリシャ政府はデフォルト(債務不履行)を宣言するだろう。欧州中央銀行(ECB)は、ギリシャの銀行はもう適格な担保を持っていないと言うだろうし、そうなれば『最後の貸し手』として機能できなくなる」
「銀行取り付け騒ぎが広い範囲で発生する。ギリシャ政府は為替管理を発動し、新しい通貨を導入し、国内の契約を新通貨建てに切り替え、外国とのユーロ建ての契約をデフォルトするだろう」
「文字通り混沌とした状況になる。給料が支払われなくなった警察官や兵士が治安を維持してくれる公算は小さく、略奪や暴動が生じる恐れもある。クーデターや内戦に至ることも考えられる。新通貨はすぐに下落し、インフレが昂進する」
そして、ギリシャの離脱は他国へと波及する。
「ギリシャの離脱、特に無秩序な離脱は、ポルトガルやアイルランド、イタリア、そしてスペインで銀行取り付けのきっかけになり、それ以外の国々でも引き金を引く恐れがある」
こうなるとユーロ全体の崩壊と言っていい。
「周縁国ではインフレが悪化する一方、中核国ではデフレが始まる。中核国の対外資産の価値は低下する。中核国の新通貨はかつての仲間たちの通貨に比べて高くなり、経済は縮小する。つまり、誰もが痛みを覚えることになる」
そして、「銀行の取り付け、(違法な)為替管理の発動、法制面の不確実性、資産価格の急落、バランスシートで生じる予測不可能な変化、金融システムの停止、中央銀行制度の混乱、支出と貿易の急減、新通貨の為替レートの急変動など」が起きると予測する。
もちろん、ユーロが崩壊すればその他の国への深刻な影響は免れない。最も大きな影響を受けるのは英国だ。「国は実体経済の面でも金融の面でもかかわりが深く、GDPが5%減るかもしれない」。
膨大な公的資金が一瞬にして消える 米国や日本もダメージを受ける。「中欧や東欧も打撃を被るだろう。米国は、少なくともマイルドな景気後退に陥る恐れがある。日本も同様だ」。そして10年前に実現した通貨統合は幻で終わってしまうと指摘する。
また、ウルフ氏の同僚であるギデオン・ラックマン氏は「ユーロ圏の離婚に向け計画を立てる時が来た」の中で次のように書いている。
「ギリシャの離脱はユーロへの加盟は必ずしも永続的なものではないということをはっきりさせ、伝染を招くだろう。市場は必然的に次に脆弱な国々に攻撃を仕掛けるはずだ」
「一連の市場のパニックがユーロの運命を定めるに任せることは、単一通貨を解体する最悪の方法だ。このやり方では、EUの防火壁が燃え尽き、莫大な公的資金が失われる。解体に続く政治的、経済的混乱は世間のパニックを引き起こし、責任を負う立場の政治家の信用を落とす」
エコノミスト誌もユーロからのギリシャ離脱は時間の問題だと見ている(「ユーロ危機:ギリシャの離脱に備えよ」)。
「アテネの街に広がる怒りが、その他欧州連合(EU)諸国に広がる、ギリシャの抵抗への不満と真っ向からぶつかる中、EU内で最も経済的に苦しい状態にあるギリシャは、数週間以内に単一通貨から離脱する可能性がある」
「ギリシャの預金者が新しいドラクマへの強制転換を恐れてユーロ建て預金の引き出しにかかり、ギリシャの銀行が大規模な取り付け騒ぎに見舞われれば、ギリシャの命運はさらに早くに決してしまうかもしれない」
そしてギリシャに訪れる残酷な姿を次のように予測する。
「ユーロ圏から無秩序に離脱すれば、ギリシャの政治生命は壊滅的な打撃を受けるだろう。ギリシャは単一市場、さらにはEU自体からも追放される危険を冒すことになるからだ。1974年に独裁政治を捨てたばかりの国にとって、欧州からの排除は大きな痛手になるはずだ」
「ネオナチ政党の『黄金の夜明け』に代表される過激派の台頭に目を向けるだけで、その後に起き得ることは想像がつくだろう」
「ギリシャにならないためにも増税」は全く逆 リーマンショック以上の経済危機が世界を襲い、さらには政治的な不安定を背景にして世界に紛争が広がる。グリグジットは日本にとって決して対岸の火事ではない。
消費増税や節電といった景気を冷やす政策でどうしても日本経済の足を引っ張りたいいまの日本政府には、欧州で万が一のことが起きたとき正しい判断ができるのか、かなり不安である。例えば「ギリシャのようにならないためにも増税を」と言い出さないか。
ギリシャのユーロ離脱問題は、実は多くの教訓を日本に与えてくれている。それは安易な増税ではなく、政治と官僚のムダ取りと、経済活性化こそ必要ということである。
マーティン・ウルフ氏は「ユーロ危機、調整か解体か、もう待ったなし」の中で欧州に必要なこととして次のように書いている。
「ユーロ圏は、今の弱い国々を不振の続く地域に、永久に財政移転を受ける地域に変えてはいけない(イタリア南部が低迷しているのは、こうした財政移転のせいでもある)」
「では、迅速な調整はどのように達成されるのか? 答えはユーロ圏の景気を浮揚させること、そして中核国の賃金上昇率とインフレ率を、弱ってしまった周縁国のそれよりも高くすることである」
イタリア南部は身体障害者が人口の1割にも達すると言われてきた。もちろん実際にはそんな比率であるわけがなく、政府からの補助金頼りで経済的自立ができないことの象徴として言われる。
日本の補助金政策の多くもこれに当てはまる。バラマキ政策をいくらとっても自立的な経済発展には何の役に立たないどころかさらなるバラマキを呼び政府の支出は限りなく拡大していく。
それは、多額の補助金を供給されている原子力発電所がある地域の経済が自立できず、いつまで経っても原発に頼り切るのを見ればよく分かるだろう。
やや脱線するが、そういう状態に地域を追い込んでおいて、再稼働となったら「原発がなければ仕事がない」と泣き言を言わせて国民の同情を得ようとする神経には呆れるばかりである。
ウルフ氏は続ける。
「苦しい状況に置かれた経済にとって、ユーロ圏がこのように弱々しい経済成長にとどまることは一大事だ。ユーロ圏全体で見れば信用の収縮や財政の緊縮が、和らぐどころか激しくなりがちになることを意味しているためだ」
「その責任は、各国が一斉に財政緊縮に走ることと、マネーサプライの伸び率を低いままにしている欧州中央銀行(ECB)の政策に問うことができるだろう」
各国を日本に、ECBを日銀に置き換えて読むべき主張である。国家を筋肉質に鍛え上げて、将来の日本を支える産業を育てるための投資は惜しまない。いまの日本に必要なのは日本を弱めるバラマキの原資となる増税ではない。
|








