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星野和之の『満更でもない』
星野和之のエッセイです。お仕事のご依頼、ご相談はbks_hoshino@yahoo.co.jpにメールください。
仕事の入り時間まで少し余裕があったので、近くにあった大型のゲームセンターに立ち寄った。
僕が子供の頃と違って今はアイスクリームのUFOキャッチャーや、どれも違いがわからない何台ものプリクラ、子供だけでなく大人も楽しめるような景品も沢山置いてあった。

しかしその日、僕の目を惹きつけたのは多種多様なアミューズメントではなく、一人の男だった。

アニメのキャラクターが描かれたリュックサックを背負い、いかにもオタクを投影した様な服を纏ったその男は禍々しいまでのオーラを放ちながら音楽ゲームの前に人だかりを作っていた。

「あぃぃっ! うん!ぱぱぱ!」

男は気合いを入れるように奇声を発しながらリズムよくボタンを叩き、そのパフォーマンスで見る者を圧倒していた。 勿論僕も圧倒された観衆の一人だ。

曲が終わり画面を見るとパーフェクトの文字。 男は汗を拭きながら誇らしそうな顔をして、ちらりと観衆の方に目をやる。きっと誉めてほしいのだ。拍手してほしいのだ。
しかし彼の気持ちとは裏腹に観衆は彼を見てせせら笑っていた。 男は少し悲しそうな目をしながら再度コインを投入し

「っあぁぁ! へへへい!」

と自身を鼓舞するかのように奇声をあげながら再びゲームに向かった。
それを見て観衆のカップルが笑いながら小さな声で「恥ずかしくないのかな」と言った。
確かに僕も最初はそう思った。学生時代クラスメイトだったら絶対友達になれないと思ったし、もし自分に娘がいたら絶対に近づけたくないと思った。しかし先程の誇らしそうな顔を見て僕の考えは変わった。
彼は自分のプライドを賭して全身全霊でこのゲームと対峙しているのだ。恥ずかしいなんて感情は微塵もなく、この姿を最愛の人に見せたいとすら思っているのだと、僕はそう感じとった。

それは僕がなんの恥ずかしげもなく下ネタをブログに書く気持ちとどこか似ている気がした。 彼も周りからどれだけ白い目で見られようとも、自分の信じた道をガムシャラに進んでいるのだ。

「めめめっ!ひょひょひょいっ!」

そんな事を思うと僕は、僕だけは彼を応援したい、応援しなくてはいけないという熱い衝動に駆られた。 汗をかきながら必死にボタンを叩く彼の後ろ姿に向かって僕は勇気を出して

「頑張れ!」

と言った。観客は僕の方をちらりと見てクスリと笑った。 笑いたければ笑えばいい。彼だけに僕の気持ちが通じていればそれでいいんだ。
次の瞬間、彼は一瞬だけ振り向くと

「プレイ中だから静かにして!」

と一喝して再び奇声を上げながらボタンを叩いた。

僕は来た時よりも随分早いスピードで出口へ向かった。

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