No.192_Neuzeller Kirschbier
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Neuzeller Kirschbier(ノイツェラー・キルシュビア;ドイツ/ブランデンブルク州)。容量500mL、アルコール度数4.8%、原材料:ボックビール(大麦麦芽、ホップ)、サクランボ果汁、エルダーベリーフラワージュース(Holundersaft)※、転化糖シロップ(Invertzuckersirup)※※。 ワインレッド。きめ細かい泡立ち。イチゴジャムのような甘い芳香。口に含んでみると、若干の酸味があるものの、サクランボや木苺を水飴で綿密に漬け込んだような、シロップ様の甘味。喉の奥にグッと甘味が押し寄せるのが分かります。アフターテイストには、この甘味の後に、強いていえば黒ずんだ桑の実のような印象があります。 「ジュースのようなビール」という喩えにしばしば出くわしますが、これはジュースと呼ぶのも憚られてしまいます。何故なら、そこまでドリンカブル(どんどん飲みたくなるもの)ではないからです。1人ではなく、誰かと一緒にいるときに開栓したほうがよい品でしょう。 ボックにサクランボ果汁、エルダーベリーフラワージュース、シロップを混和した、ドイツ産のデザートビールです。「サクランボビールの産地」といえば、ビール好きならば誰もが真っ先に思い出すのはベルギーです。しかし、18世紀ドイツの無名の醸造家の著作『完全なるビール醸造家』(1784年)を紐解いてみると、サクランボビールに関するこんな記述があります(他愛のないものですが・・・)。 サクランボビール。これは夏に有益なビールである。というのも、このビールは、夏場熱くなっている胃にとって、まろやかで心地よいからである。その色は美しく、好ましい味わいがある。サクランボの種といっしょに実もすりつぶして、ビールの中に入れると、からだの奥までしみこんで、尿意をかきたてるビールになる。このビールは、サクランボをそのままいれたものよりも健康的である。※※※ 最も、伝統的なそれは、ここまで甘味の強いものではなく、もっと辛口だったことでしょう。何はともあれ、こうしたビールがドイツの文化として存在していたということ、そのことが重要です。 ドイツには「ビール純粋令」という制度的慣習があります。 「ビールは、麦芽・ホップ・水、酵母のみの原料から作るべし」と定めたもので、歴史的には1487年のアルバート4世のビールに関する規格に触発され、1516年にバイエルン公のヴィルヘルム4世が発令しました(「酵母」に関する文言を追加したのは1556年)。元々は、「パンを焼くために使うべき小麦を、ビールに使うべきではない」という、食糧政策の観点から制定されたといいます。 このバイエルンの「掟」はプロイセンによりドイツ全土が統一された後、1906年にはドイツ全土でビール純粋令が適用されました。その後、第一次世界大戦後のワイマール共和国、ナチス第三帝国においてもドイツのビール造りの指針として生き続けました。 EC発足に際し、フランスが「非関税障壁」として激しく追及し、欧州裁判所(ECJ)は純粋令に決められたもの以外の原材料が入っていてもビールとして認めると判断。純粋令は1987年に失効しました。しかし、現在でもドイツ国内の醸造所はこの制度的慣習を遵守してビール造りをしています。 【ノイツェラー・クロスター醸造所】今回ご紹介した麦酒を製造しているのは、ノイツェラー・クロスター(Neuzeller Kloster)醸造所。1589年創業であり、12世紀に建てられたカトリック教会と併設しています。修道院醸造所としてビール製造に従事してきましたが、1992年にヘルムート・フリッチェ(Helmut Fritsche)氏により買い取られ、現在は私企業として営業されています(日本語による説明もあります)さて、「ビール純粋令」という制度的慣習に反したこのような「混ぜもの入りのビール」を“ビール表示”で販売していたため、1990年、ノイツェラー・クロスター醸造所は法的係争に巻き込まれてしまいます(※※※※)。 すなわち、シロップ(2%)入りのビール「シュヴァルツァー・アプト(Schwarzer Abt)はビールか否か?」という争いで、「シュヴァルツァー・アプトをビールの表示で販売すべきでない」として、1990年に行政処分として、販売差し止めに追い込まれてしまったというのです。 こうなると、ノイツェラー・クロスター醸造所は意地でも売ろうとする。先の「ビール純粋令」の項目でお話したように、1990年には海外の「水・麦芽・ホップ・酵母」以外のものが入っている麦酒が正々堂々「ビール」として輸入されていましたので、「すぐお隣のポーランドで醸造して、ドイツに輸出して販売することも辞さない」とまで言い張ったといいます。 さて、この争いですが裁判沙汰となり、差し止めから15年後の、2005年にライプツィヒ裁判所によりノイツェラー・クロスター醸造所の正当性が認められ、「シュヴァルツァー・アプトはビールである」とされました。 今回ご紹介したビールも、そういうわけで“キルシュビア(サクランボビール)”というわけです。 他にも様々なビールを造っておりますので、醸造所のHPを覗いてみてください♪ (下記URLをクリック後、サイト左側の「Produktsortiment」「Wellness-Produkte」の欄) ※ エルダーフラワー: 西洋ニワトコのこと。しばしば、「グルート」として、ビールに用いられます。 ※※ 転化糖: ショ糖を酸または酵素(インベルターゼ)により、果糖およびブドウ糖に加温・加水分解した甘味料の総称。果糖とブドウ糖は同比率。身近な例でいえば、ハチミツは蜜蜂の酵素により作られた転化糖です。分解される前よりも濃厚な甘味を有することとなり、吸湿性が高く、固形化しにくい性質があります。 ※※※ 『十八世紀ドイツビールの博物誌―完全なるビール醸造家』(北原博、森貴史訳、関西大学出版部、2005) ※※※※ 旧東ドイツにおける伝統的ビールの復活: この背景に1990年のドイツ統一の波があったようです。つまり、旧東ドイツ圏(共産圏)では、政府主導で粗悪なビールがまかり通る一面があったのに対し、(純粋令に束縛されない)伝統的ビールが甦った一面もあったのです。つまり、そこには逆説的な「ビールの自由」があったのです(笑)。ゴーゼが好例です。 バイエルン由来の「純粋令」は、あたかも「ドイツの伝統」であるかのようにいわれていますが、全ドイツに波及するのはビスマルク以後(1800年代後半)。この制度がドイツ・ビールの質を発展させたことは疑う余地がないにしても、実際は極めて多様だったドイツの地ビールを淘汰した側面も見逃してはいけないと思います。 また、ノイツェラー・クロスターの一件は、ドイツの東西分裂によりマスクされていた純粋令の「負の側面」が、ドイツ統一により噴出したという意味でも、この裁判の意義は大きかったと思います。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜★ビール・発泡酒部門 人気ランキング★〜〜〜〜〜〜〜〜〜 記事が気に入ったらクリック下さい♪ |

酸味はあまりなく、フルーツとシロップの甘みが強いんですね。赤い色が綺麗です。
2007/5/23(水) 午後 11:19 [ bam*e6*0729 ]
bamseさん、これは相当甘ったるいです。ベルギーにはここまで甘いクリークはないと思います。ビール等を十分飲んで、甘いものが欲しくなるような人には打って付けでしょうが、甘いビールの苦手な方、ゴクゴク飲みたい方、血糖値が高めの方(笑)にはお勧めできません。
2007/5/23(水) 午後 11:31 [ brillat savarin ]
そんなに甘いんですか?それにしても、ドイツにも色んなビールがあるんですね〜。目からうろこです。それに、brillatさんの解説はどこよりも詳しく、親切ですね。
2007/5/24(木) 午前 6:37
裁判にまで発展したビールなんですね。でもビールとして認められてよかったですよね。日本じゃ絶対に発泡酒どまりですよね。妻のために買ってあげたいビールですよ。
2007/5/24(木) 午前 9:15
かれんさん、そういうビールはあくまで少数派かもしれませんけれどね(^^)。バイエルン以外の場所の伝統的なビールも純粋令によって次第に淘汰されていったのは、勿論、背景にはミュンヘンのビールが良質だったという事実があると思います。しかし、それが全ドイツ的に行われたときに、もはや自由な発想を許さない「権力」になってしまったという観点も大事かもしれませんね。
2007/5/24(木) 午前 10:00 [ brillat savarin ]
ジンさん、そうですね。逆に大手の日本のビールを少し前のドイツに持っていったならば、モルツやエビスを除けばスターチや米などが入っているので「ビールでさえない」ということになってしまいますね(笑)。
2007/5/24(木) 午前 10:10 [ brillat savarin ]
かれんさんの言うとおりですね。ほんとうにブリヤさんの説明はどこよりも詳しくて親切です。
2007/5/24(木) 午後 11:26 [ bam*e6*0729 ]
bamseさん、ありがとうございます。そうしたお言葉を励みにします(笑)
2007/5/25(金) 午前 1:07 [ brillat savarin ]
トラックバックありがとうございます。
とても充実したブログですばらしいです。
またじっくり読ませてもらいます。
2008/4/15(火) 午前 0:12
spitze1005さん、私の方こそ学ぶべきものが多いブログだと思いました。今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。
2008/4/15(火) 午前 1:39 [ brillat savarin ]
はじめまして。以前よりこちらのブログで非常に勉強させていただいてます。札幌のビアバーで働いている者です。
今回、ビール純粋令について調べているのですが、この記事のことを思い出して、どうしてもわからないことがありますので、質問させてください。
brillat savarinさんは、純粋令を「制度的慣習」と仰っておりますが、実情はどうなのでしょうか? 2011年の5月29日に「『ビール純粋令』を無形文化遺産に、独で運動」というニュースが配信されました。ということは、現在でもドイツではビール純粋令は有効であるようなのですが、それならばゴーゼやキルシュが許されているのはどういう事情なのでしょうか? 州単位による「条例」のようなもので特別に許可されているのですか?
2006年刊の木村麻紀 『ドイツビール おいしさの原点』でも、「1993年にドイツ政府がビール純粋令をビール酒税法の一部として改めて法制化した」とあり、とくに失効している旨の記載がないので、一層混乱しています。
お忙しいさなかとは思いますが、ご回答をいただけましたら幸いです。
2011/5/31(火) 午後 9:57 [ sakakiku ]
(1/3)
sakakikuさん、こんばんは。まず、ビール純粋令とは、最初はバイエルンのローカルな法に過ぎなかったということを想起すべきでしょう(19世紀に統一された以降のドイツ史は、ある意味、文化的に転換を迎えたのですが、本来、ドイツという国は極めて地域の独自性の強い国なのです)。
http://blogs.yahoo.co.jp/brillat_savarin_1/16815602.html
殆ど知られていませんが、ビール純粋令に厳密に則らないビールの典型はアルトであり、ビール純粋令では大麦麦芽だけを使用する場合は下面発酵でなくてはならない(小麦麦芽・ライ麦麦芽を使う場合は上面発酵でなくてはならない)としていますが、アルトは(デュッセルドルフに)ビール純粋令が適用されるよりも以前から存在するという理由で、適用されていません。この理屈は、ゴーゼにも通用します(いま、私の手元にあるGose, Schwarzes, Kombinateという本によれば、西暦1,000年頃に飲まれていた)。
2011/6/1(水) 午前 0:22 [ brillat savarin ]
(2/3)
もう1つ、ビール純粋令の伝統はライプツィヒを含む旧東ドイツでは緩かったというのも関係しているかもしれません。
ご指摘の1993年の法律というのは、Vorläufiges Biergesetz(ビーアゲゼッツ)のことでしょうか。この法が「ビール純粋令」を継承したものであるという説明は、真理に掠っているようでいて、ほぼ間違いです。なぜなら、下面発酵ビールについては大麦、ホップ、酵母、水のみで造るよう記載していますが、上面発酵ビールについてはあらゆるモルト(大麦麦芽含む)を許しているだけでなく、転化糖、甘蔗糖、甜菜糖、澱粉糖などの添加を認めているからです。さらに、スペシャルビール、輸出や実験的意図のあるビールについては、これを無視していたとしても、(例外として)個別にそれを認める余地があることを条文で明記しています。
2011/6/1(水) 午前 0:23 [ brillat savarin ]
(3/3)
法的位置としては、ゴーゼもキルシュビアもこの【例外規定】において、ドイツ国内で合法的です。つまり、法的に言えば、ドイツでは純粋令に則らないスペシャルビールは合法的に造れるのです。しかし、殆ど造られないのは、ドイツの醸造家が考える「良心」ゆえなのであり、【制度的慣習】なのです。
2011/6/1(水) 午前 0:33 [ brillat savarin ]
(1/2)
ちょっと目を放した隙に(笑)、早速のご回答、驚きとともに、心より感謝いたします。
純粋令が「バイエルンのローカルな法に過ぎなかった」という話は、今回強調しようと思っていた事柄でした。
アルトが「例外」という話は、『マイスターのドイツビール案内』(高橋康典)にあったのですが、「Vorlaufiges Biergesetz(ビーアゲゼッツ)」という法律のことは、今回いくつかドイツビールの文献(日本語のものだけですが)を見ても記載されているものがありませんでした。
>この法が「ビール純粋令」を継承したものであるという説明は、真理に掠っているようでいて、ほぼ間違いです。
これですべてに納得がいきました。安心して【制度的慣習】ということで話ができそうです。ビールに携わる者として、「ビール純粋令」という言葉に寄りかかりすぎるのは、ちょっと危ないことなのですね。
2011/6/1(水) 午前 4:13 [ sakakiku ]
(2/2)
話は変わりますが、日本語の文献だけでは、本当に限界がありますね…。本屋でワイン本の豊富さに比べて、ビール本の貧弱さは常々不満に思っているところです。brillat savarinさんが今度ランビックの本を著されることで、ビール本も入門書だけではなく、専門書の需要が高まるといいな、と期待しています(真剣にサイン本が欲しいと思っているくらいなのです)。
本当にありがとうございました。これからも勉強させていただきます。
2011/6/1(水) 午前 4:13 [ sakakiku ]
sakakikuさん、ビール純粋令が法的位置を失って、Vorläufiges Biergesetz(ビール法)がそれに取って代わったのですが、それは「ビール純粋令」の精神を完全に受け継いだものではなく、妥協的なものとなったという感じです。
“ビールに携わる者として、「ビール純粋令」という言葉に寄りかかりすぎるのは、ちょっと危ない”というのは、「純粋令」がドイツビールの根幹とはいえ、大変重要な指摘かと思います。
「2/2」についても、私の思いそのものです。
よく「ビールは知識じゃない、楽しむものだ」といって知識に否定的なことを書く人がいますが、消費者はそれで十分にしても、プロがそう開き直ったら、NGですね。
日本語では、ビールに対する追求の機会が極端に少なく、流通しているビールの入門書も充実してきて、そろそろ「デジャヴュ」を感じます。
これからはより深くビールを愉しむための本や、もっと斬新な角度のビール本が出てくることを期待したいところです。
ランビック本以降も、「穴があったら埋める」の精神で、別のものを準備していますので宜しくお願い申し上げます。
2011/6/1(水) 午前 4:42 [ brillat savarin ]
札幌はまだビール専門店は少ないのですが、全国に誇るべき日本最大規模の大通公園のビアガーデンが始まりました。
「ドイツ村」という会場があって、シュパーテンの樽生4種類が飲める貴重な機会なのですが(ヘルをマースで頂きました)、今年はこのキルシュを扱っていて、ようやく飲む機会を得ました。ボック+チェリーということで、カンティオンが大好きで甘い酒が苦手な家内はちょっと顔をしかめていましたが、私自身は甘いお酒が大好きなので美味しく頂きました。ドイツビールの多様性を改めて感じました。
シュパーテンを「ラガービールを発明した」と紹介していたり、「ドイツ人は今でもビール純粋令を守っています」などの場内アナウンスをしていたりなど、ここでのやり取りを思い出して、少し笑いながらキルシュを飲みました。
2011/7/23(土) 午前 0:25 [ sakakiku ]
sakakikuさん、この週末は東京・代々木公園でもビールのお祭りをやっているようです。
ビール純粋令の法的効力は失効していますが、「今でもビール純粋令を守っています」は、まぁ大きく間違っていないのかもしれません。が、「シュパーテンがラガービールを発明した」というのは、流石にどうかと思いますね(笑)。
2011/7/24(日) 午前 3:43 [ brillat savarin ]