The House of Nomad

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父親たちの星条旗

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戦争で起きた事実を、ありのままに描写した映画は、おのずと反戦映画となります。
正しい戦争など何処にもありません。

この映画は、まぎれもなくクリント・イーストウッドの作った反戦映画です。

硫黄島の闘い。
60年前に日本とアメリカが太平洋の小さな島で、死闘を繰り広げた事実を、
私が日本人であることで偏った見方をすることなく、
できるだけ公正な視点で観ようと映画館へ行きました。
以下、多少ネタバレあり。

映画は、衛生兵ジョン・ドク・ブラッドリーの現在と過去、
戦場の凄まじいシーンと生き残った3人が英雄として華やかなキャンペーンに繰り出されシーン、
丁寧に描かれた旗のエピソードのシーン、ブラッドリーの息子が取材し執筆するシーン・・など
各エピソードが前後し、複雑に絡み合いながら物語は進んでいきます。

ポール・ハギスとウィリアム・ブロイレス・Jr.の見事な脚本により、
構成が複雑ながらも、途中で迷うことなく、この物語の最後までグイグイと観客は導かれていきます。
配役された俳優は、監督の描きたかった、どこにでもいるような普通の18歳から20歳前半の若者
という設定どおり、ライアン・フィリップ、アダム・ビーチ、ジェシー・ブラッドフォード、
バリー・ペッパー達の演技は、素晴らしいハーモニーを生みだした
第一級のアンサンブル映画のように仕上がっています。

ライアン・フィリップの演じる優しく寡黙なジョン・ドク・ブラッドリー。
アイラ・ヘイズを演じたアダム・ビーチは素晴らしい。
インディアンに対する微妙な人種的偏見、戦場のトラウマと、
戦死した仲間達への罪悪感の葛藤で押しつぶされていく哀しい姿を見事に演じています。
また出番は少ないけれども、光っていたのがバリー・ペッパーの演じる軍曹マイク。
彼の独特の目つきで、彼が「プライベート・ライアン」で演じた印象的な狙撃兵を思い出しました。
ブラッドリーの親友イギーを演じるのは、「リトル・ダンサー」のジェイミー・ベル。
彼の演じる人懐っこいイギーは何故か心に残ります。

硫黄島での凄惨な戦いの映像と比較すると、
擂鉢山の頂上に旗が掲げられた状況のエピソードは、
戦場でありながらも、どこか日常的で、のどかな印象をうけます。

あの有名な(最終的には1億5千枚もの郵便切手になった)6人の戦士が旗を掲げる写真を観て感じる
「戦火の中、命がけで旗を掲げる勇士達」というイメージとは、かけはなれた印象をうけます。
(しかも旗を掲げ、本当にまわりの戦士達の士気を高められたのは、
実際に写真に写っていた旗とは別の旗で、別のメンバーだった・・という事実)
帰還した兵士が、「旗を立てるだけで、英雄になれるなんて・・」とつぶやき戸惑うのは、
あたりまえです。
旗の写真が新聞に掲載され話題になると、生き残った3人は、ただちにアメリカに戻され、
政府が多額の戦争費用を手に入れるために、
事実上強制的にアメリカ中を巡回する広報活動に連れまわされるのです。

巡業活動の中で、生き残った3人は、何度もフラッシュ・バックで、
戦場での恐ろしい光景を思い出し、その戦場で経験した事実が、
やがて彼らを圧倒的なパワーで押しつぶしていきます。
自分達が英雄として扱われていることに対する戸惑いと不安感を覚えていくのです。
戦費が欲しくてたまらない政府は、写真を宣伝活動に利用する為に、
人物誤認(写真の一人が別人だった。)が確認されたのに、それを隠し続け、
その事で、さらに生き残った3人は苦しめられます。

擂鉢山で掲げられた旗の写真の真実と、
政府が戦費集めのために作り上げた旗の写真の虚像とのギャップが、
この映画の最大のテーマなのです。

戦場で経験し、戦場で実際に起こった事実は、そこに居た人達にしか理解できない。
その苦しみも、その痛みも、精神的にも、肉体的にも・・。

湾岸戦争の時のように、遠くの国からテレビの前でビールを飲みながら、
ミサイルで爆撃している映像を見ても、その現場に居る人達の気持ちや苦しみ、
そこで本当に起きている真実など到底理解できるものではないのです。

戦争は終わったと宣言されたイラクで、
今も毎日爆弾で死んでいるアメリカ兵や英国兵がいるのをニュースで聞きながら、
何も感じなくなって行く事は、どういうことなのだろう・・。

イラク戦争が始まった頃、まるで映画「プライベート・ライアン」のような
米兵ジェシカ・リンチ救出作戦があった事を覚えていますか? 
ブッシュ大統領が作戦成功の喜びのスピーチをしていましたが、
その後、軍によるでっち上げだったことが発覚しました。(*下記参照)

映画は、今までのクリント・イーストウッドの映画のように、
各自観る人の解釈にまかせる形で終わります。

最後の方で、ブラッドリーの息子が、父ブラッドリーが捜していたのは誰だったのかを
聞くシーンがありますが、彼の答えは、息子の期待していた答えではありません。

「許してほしい・・。」と家族の事を思いやる優しいドクが老いてもなお、そこにいます。

その言葉に私は、ふかくにも胸をしめつけられたのです。
何故なら、第二次世界大戦でボルネオに技術者として従軍し、
数年前に亡くなった義理の父を思い出してしまったからです。
義理の父は戦闘員ではなかったから、ドクと同じような立場でした。
また戦場で大変な思いをして、ジャングルを逃げ回り、
多くの仲間の死を看取ったのですが、本当の心情を語ることはなかったのです。

戦争に行き、辛い経験をして帰って来た父を思う気持ちは、日本もアメリカも変わりはない・・。
これが、まさに「父親たちの星条旗」なのだ・・と胸がつまりました。
そういう意味でも、私には圧倒的な映画になりました。

衛生兵ジョン・ドク・ブラッドリーが人生の最後に思い出すのは、
あの小さな島の激しい戦闘の中での、
つかの間の楽しいビーチでの水浴びのシーンです。

18歳から20歳前後の若者達が、ビーチで無邪気に戯れる姿の映像は、
軍艦が浮かんでいる海を背景にしながらも、
海は静かで、どこまでも美しく・・とても感傷的なシーンです。

この子達が、イギーや、マイクや、キース達が。
こんな若くて無邪気な若者達が、戦い死んでいった戦争とは、
いったいなんだったのだろうかと・・。

彼らは、国のためにではなく、
戦争で一緒だった友達のために闘ったのです。

*ジェシカ・リンチ救出作戦
イラク戦争が始まった頃、米兵ジェシカ・リンチさん(20歳当時)捕虜となり、「プライベート・ライアン」を思わせる救出作戦と、銃撃戦で敵の銃弾を受けながらも勇敢に戦ったヒロインとしてマスコミで有名になりましたが、その後、本人の告白で米軍の作り話だったことが発覚しました。「戦闘中に銃は故障していて一発も撃ってないし、ひざまずいて祈っていただけで、最後に覚えているのはそれだけ。イラクの病院で手当を受けていて、病院のスタッフの一人は、私の心が安らぐように歌まで歌ってくれました。」「軍は、この戦争のシンボルとして私を利用したのです。」

関連記事:
父親たちの星条旗/硫黄島からの手紙
http://blogs.yahoo.co.jp/catpurr03/42165209.html
ライアン・フィリップ インタビュー
http://blogs.yahoo.co.jp/catpurr03/42859988.html

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cartoucheさん、いやはやお褒めの言葉感謝です^^;cartoucheさんに褒められると木に登っちゃいますよ〜(笑)アメリカは今でも戦争を利用して軍需産業を儲けさせるために、多くの若者達を犠牲にしています。パパ・ブッシュはイラクを深追いしなかったのに、息子ブッシュは強引に攻め入りイラクのパンドラの箱を開けてしまったんです。イラクの民族争いは泥沼化してアフガニスタン同様に終わりが見えません。アメリカ兵も撤退することもできず無駄に死んでいきます。9・11直後人気最高だったブッシュ政権はもはや崩壊寸前です。

2006/11/6(月) 午後 1:06 [ nomad ] 返信する

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プラムさん、記事読んできました。植民地支配で占領された国々にとって平和を取り戻すための戦争は、たしかに必要悪なのかもしれませんね。日本とアメリカの太平洋戦争でいえば、立場的に日本は悪者でした。だからといって原爆落とす事はなかったと思いますが・・。この映画では、勧善懲悪を描くのではなく、戦地で戦った若者達の実情を、国家としてではなくその個人の立場にたって描いています。そういう意味で、国家による情報操作や洗脳は恐ろしいと思いました。

2006/11/6(月) 午後 1:15 [ nomad ] 返信する

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ぐれいぶさん、イーストウッドの映画って問題提示型といいますか、観る人を考えさせる映画ですよね。今回も様々な解釈を観る側につきつけてきました。立場が変われば、一つの戦争がどう見えるのか?次の「硫黄島からの手紙」を観ないと解りませんが、おそらく今までの戦争映画で描かれてきた日本兵のイメージとは違ったものになりそうです。日本人としてできるだけ冷静で公平な気持ちで観たいと思います。

2006/11/6(月) 午後 1:36 [ nomad ] 返信する

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SHIGEさん、お褒めの言葉感謝します!木に登っちゃいます(笑)「プライベート〜」のバリー・ペッパーの狙撃兵凄かったですよね!あの目で思い出しました。ホントにいい俳優さんになりましたね。アダム・ビーチ演じたアイラがだんだん崩れていくのを観るのは哀しかったです。本当に彼もいい役者さんです。数ある戦争映画の中でも、これは必見の映画になりそうですね。戦時中の個人と公の立場のギャップを描いた傑作です。

2006/11/6(月) 午後 1:44 [ nomad ] 返信する

イーストウッドの映画は いつも感想を書くのが難しくて困ってしまいます。ヘタレな感想で恥ずかしいですが、観てよかったと思える映画でした。「硫黄島からの手紙」も絶対に観たいです。

2006/11/7(火) 午前 0:23 キノ 返信する

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こんにちは。 大道芸観覧レポートという写真ブログをつくっています。 映画「父親たちの星条旗」もとりあげました。 もし、よかったら寄ってみてください。 http://blogs.yahoo.co.jp/kemukemu23611

2006/11/8(水) 午後 8:36 [ kemukemu ] 返信する

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Kinoさん、いつもながらにポイントをはずさないレビューで、素晴らしい!恥ずかしいなんてとんでもないですよ〜〜^^;本当におっしゃるとおり観て良かった映画ですね。とにかく良くできた映画です。『硫黄島からの手紙』がどんな風になってるのか早く観たいです!予算的には『硫黄島〜』の方がはるかに制作費は少なかったようです。『父親たち〜』と同じシーンの使いまわしが、あるかもと聞きましたが・・。

2006/11/9(木) 午前 0:12 [ nomad ] 返信する

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kemukemuさん、コメントありがとうございます。とても不思議なアーティスティックなブログですね。「父親たちの星条旗」は、仰るとおりだと思います。戦争で生き残った人、それぞれの思いは本人や、戦場にいた仲間にしか理解できないでしょう。硫黄島の闘いで仲間の死体に隠れて生き残った人(日本人)もいます。この映画でも「僕は弾をよけて逃げ回っていただけだ。」と語っています。言葉で語りつくせない辛い経験だと思います。

2006/11/9(木) 午前 0:33 [ nomad ] 返信する

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トラバありがとうございます!私もさせていただきましたo(_ _)o。「正しい戦争など何処にもありません。」というcatpurr03さんの言葉、本当にそうだと思います。どちら側でも、戦場には良いも悪いもありません。そうやって一生懸命大切なものを守る為に戦っている兵士たちを、どうして政府はあんな風に利用する事ができるんですかね・・・☆

2006/11/9(木) 午後 9:39 re_re 返信する

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私も今日観ました。クリント・イーストウッド監督作品のうちでも、代表作と言われる秀作とみました。転載させて下さい。

2006/11/9(木) 午後 10:54 [ yfq**494 ] 返信する

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恥ずかしながら、私は、まだ見てないのです。転載させて下さい。

2006/11/10(金) 午後 9:08 - 返信する

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rereMovieさん、TBありがとうございます。戦争で死ぬということがなんなのか。戦争だから人を殺してもいいなんて。そしてそのコマにされて戦場に立たされる人間。戦地から遠く離れた所で好き勝手言い、あるいは戦争で儲ける人達もいる。人間はしょうもない生き物です。

2006/11/13(月) 午後 0:14 [ nomad ] 返信する

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xfqsx494さん、クリント・イーストウッド作品のなかでも完成度の高い映画です。戦争を経験した、あの世代の人達しかわからない思いが、この映画に中に凝縮されています。イーストウッド監督もドク達と同じか、少し下の世代。思いいれを感じます。

2006/11/13(月) 午後 0:15 [ nomad ] 返信する

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中村さん、今年観た中では、ベストの映画でした。是非ご覧になってください。

2006/11/13(月) 午後 0:16 [ nomad ] 返信する

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本土でキャンペーンを展開しようとする高官たちが執拗なまでにも「写真に写っている兵士は誰か」ということにこだわるところは異様でした。たかが写真、されど写真と言った感じで、本質とは全く違うところで何かが動いていく怖さと言うのでしょうか。深い記事をありがとうございました。TBお返しさせてくださいね。

2006/11/16(木) 午前 9:00 choro 返信する

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Choroさん、あの高官たちも怖いですね。二面性があって。最後までアイラの気持ちを理解しようとしていたPRのキースは、まだ好感が持てましたね。国家対個人。国家に扇動される人達。などなどいろいろ考えさせられました。TBありがとうございます。

2006/11/17(金) 午後 4:41 [ nomad ] 返信する

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これも是非見たいけど、早く硫黄島からの手紙が見たい!

2006/11/20(月) 午前 5:06 jpn**zman 返信する

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映画見る前とみ終わってからまたと、二回この記事を読ませていただいているのですが、すばらしい記事ですね。はずかしながらとらばさせてください。

2006/11/24(金) 午前 9:18 poeko 返信する

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JBMさん、硫黄島〜は12月8日?公開は、くしくも真珠湾攻撃の日ですよ;;

2006/11/25(土) 午前 0:19 [ nomad ] 返信する

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ぼえこさんの記事、いつもながら心にズシンと染みます!本当にイーストウッド監督の演出は上手いですね。イギーの結末も、そのものを見せるのでなく、ドクの表情から観客に想像させるなど、おっしゃるようにとても上手いし、かえって印象に残ります。TBありがとういました。

2006/11/26(日) 午後 7:01 [ nomad ] 返信する

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