第152回 紹介状
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12日の火曜日。(2013年)
毛呂は、双子をつれて、早朝から、電車に乗り込み、
人工島の総合病院にいた。
高杉から書いてもらった紹介状を持って、受付に行くと、
医療事務の人間は、これは、正規の紹介状ではないから、受付は出来ないという。
なぜなら、高杉焔は、医師免許はあるものの、実質的には、医療行為を行うことが不可能のため、
一般的に、医者として解釈してよいのか、その辺りが、曖昧だからである。
だが、偶然、その若い医療事務のやり取りを聞いていた、婦長らしき看護師が、
その毛呂の持ってきた紹介状を一瞥した後、すぐに、内線電話で、こう呼びかけたのである。
「山崎先生、高杉先生の紹介状を持ってこられた患者さんが受付に参られてます。」
最初、断った、医療事務の女性は、唖然として、婦長に尋ねた。
「え、婦長、この紹介状で、取り次ぐんですか?」
「ええ。高杉先生は、お医者様ですから。」
「でも。。。」
「高杉先生は、医師免許は、剥奪されてません。
彼は、再発するかもしれない第1級感染症のキャリアであることと、(ただし、陰性症状)
その病の後遺症により、慢性的な体調不良と、技術不安を抱えているので、医者に戻れないだけ。
そして、彼は、処置やオペは出来なくても、病に対する初見とアドバイザーとしては、
今でも十分立派な判断能力のある方です。
それに、おそらく、山崎先生に依頼の件は、病気の話ではなく、山崎先生の専門分野の
DNA鑑定の話だと思いますよ。」
と、婦長は、続ける。
実際、毛呂は別に双子の病気を見てもらいに来たわけではなかった。
この病院の山崎医師が、その分野を専門に研究しており、
DNA鑑定を容易に実施することのできる医師だからである。
しばらくのちに、毛呂の名前が呼ばれ、
そして、山崎医師は、高杉の紹介状・・・と、
鑑定依頼の理由について、簡単にまとめた書面に目を通したあと、
毛呂に尋ねた。
「正直、これは、お父さんを始め子どもさんのプライバシーにも関わることですから、
かなり慎重な話です。そのため、まずはDNA鑑定結果で想定されるトラブルに関して、病院や医師は、
鑑定結果が正しいという証明以外のかかわりは一切持ちません、といった誓約書にサインを頂きたいのと、
・・・あとは、費用の件です。通常、正規のDNA鑑定は、相当高額で、調べる人数にもよりますが、
十数万は下りません。簡易判定で、数万で行えるものもありますが、・・・それだと、確実な信憑性にかけるでしょう??」
「!十数万かかるんですか?」
ゲッ・・・安易に、考えていたが、そんなに、費用かかるのかよ。。。
だが、山崎医師は、すぐに、笑顔で言った。
「通常ならば、です。ただし、高杉は、あえて、私に依頼をしてきた、理由は、大体わかります。
毛呂さんも、経済的にあまり裕福な方ではなさそうだ。・・・高杉は、私に鑑定費用を、研究費、研究補助費を駆使して、何とかしてくれ、と、言いたいのだと思います。
・・・だいたい、そうでなければ、何も、私にたのまなくても、最近は、民間でDNA鑑定をやっている会社は、
結構普通にありますから。・・・費用面での問題だったに違いありません。しかも、双子。調べる人数が、一人多いですからね。。。あと、問題が一つ。すでに亡くなっておられる奥様の鑑定は、困難だということです。なぜなら、部屋をくまなく探し回っても、せいぜい、死者の髪の毛もしくは、切った爪の破片ぐらいしか、採取できるものが残ってないのですから。精度としては、非常に難しいと。奥様の血液が病院に保管されていたとしても、すでになくなられて、5ヶ月経過してるとなると。。。
・・・むしろ、依頼の件で、考えるならば、まず、毛呂さんとお子さんの鑑定を行い、それで、万が一、血縁関係がない、と言う判定結果が出た場合。・・・奥様の浮気相手が万一、毛呂さんのお知り合いの方で、ご承諾をいただけるのであれば、その方の鑑定をして、お子様のものと比較するほうが、確実だと。。。」
「・・わかりました。まずは、俺との親子関係を調べてください。俺と親子であれば、何の問題もなく、
これからも、平穏に暮らせる。」
「そうですね。では、検査に入ります。検査自体は簡単なものです。
時間はかかりません。」
確かに時間はかからなかった。
口腔内の細胞・・・ようは麺棒でぬぐって採取するだけだったからだ。
こんな簡単なことでわかるのかと恐ろしくさえもおもった。
ただし、検査自体は相当、時間がかかるらしい。
何度も、検査をして、そのすべてが正しいというぐらいまで、
調べないといけないらしい。
「・・・早ければ、2週間。場合によっては1か月要しますので。来月ご来院ください。
費用は、一般診療だけで結構です。研究協力対象者枠・・・モニターにしましたから。」
数千円を支払い、毛呂は、病院を後にする。
双子たちは、安らかに眠っている。
毛呂は、二人の双子を連れながら、何度も心の中でつぶやいた。
心配性で、臆病者の、お父さんを許してください。
どうしても、確かめないことには、不安が解消されなかったんです。
俺の心は、相当病んでいて、今でも、麗と簗が、二人で、俺のことを笑っているかのような、
そんな幻覚さえ、夜な夜な現われるぐらいなんです。
麗を愛していたんでしょうか。
やっぱり、愛していたんでしょうか。
そんな風に、簗に取られて悔しいとおもうのは。
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