”非常事態も5年も続けば、常態になる”
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以前「文芸春秋」に掲載されていた浜矩子氏の一文「ユニクロ栄えて国滅ぶ」を、興味深く読ん
だ。なぜなら似たような状況は、イタリアでも起っているからである。(中略) なぜ価格破壊が文明の破壊につながるかは、多くの女同様にショッピング好きの私に言わせれば、次の ような関係にある。 ショッピングとは、ただ単に物を買うという経済上の行為に留まらず、想像力をきたえる行為にも なりうる。ちなみに私が、仕事を終えた後の午後の散歩の途中でショーウィンドーの中に、気になるハン ドバックを見つけたとする。それで中に入り、見せてもらい、値段を聞くのだがやはり高い。もちろん他 の女同様に、私も熟考する。今や円安・ユーロ高だから、昔とちがって一週間くらいは熟考する。だが、 結局は買ってしまう。と言ってすぐには使わない。 ここからがショッピングの効用の最たる分野が始まるわけだが、何日もの間書斎の一画に置き、仕
事に疲れたときなどにチラチラ眺めながら、これをどの服と合わせれば活かすことができるか、と考える のだ。仕事が終わる午後には実際にその服を着け、バックを手に鏡の前に立っての実験も欠かせない。 要するに、その品を買ったことによって、私の想像力が刺激を受けるのである。そして、想像力とは筋 肉に似て、使わないと劣化するという性質を持つ。 筋肉の劣化を阻止したいがために、人はジムに通うではないか。それも、相当なお金を使って。なら ば、想像力の維持にも役立つショッピングでお金を使うのも、充分に意味のある投資ではないかと思う。 筋肉であろうと想像力であろうと、必要なのは「刺激」なのだから。 つい先頃に買ったアルマーニのバックは、ローマでは秘かに顧客のためだけに行われる早目のバー
ゲンでさえも十四万円だったのだから、たしかに高かった。だが、「気に入った」というよりも、「気に なった」品であったのだ。だからこそ、私の想像力は刺激されたのである。そして、高い品と安い品のち がいは、買い手の想像力を刺激するかしないか、にもあるのではないかと思っている。 一千円のユニクロのセーターは、セーターにすぎない。だが二十万円のアルマーニのスーツは、私を幸 福な気分にするだけでなく、これをいつどのように使うかにも考えをめぐらせることで私の想像力が高ま り、めぐりめぐったとしてもその成果は、一冊の歴史物語にもなりかねないのである。こうなると、安物 買いのゼニ失いという昔の人の知恵も、一理あるのではないか、と思ったりする。(後略) 以上「文芸春秋」2010年1月号、”価格破壊に追従しない理由”より、抜粋 =============================================================================================
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以下、文芸春秋(2006年12月号))”『ローマ人の物語』を書き終えて、より抜粋 ============================================== 年に一巻ずつ十五年間にわたって発表する」ことに決めていいた『ローマ人の物語』も、ようやく
先が見えてきた数年前からは、全巻を書き終えた瞬間はどんな気持ちになるのだろうと想像していたので ある。机の上に泣き伏すか、それともガッツポーズでもし、ヤッタ!と叫ぶか、と。(中略) 文は人なり、という。しかし、「文」でなくても「見方」でも、「人なり」なのである。どんな英
雄でも召使の眼から見ればタダの人、という言葉があるが、ある程度までは正しい。身近かにいた人間の 観察は、やはり参考に値するのだから。だが、この視点だけでは人間はわからない。それでこの一句も、 私は次のように解釈することにしている。 タダの人でしかない召使の眼から見たから、タダの人ではない英雄もタダの人にしか見えなかったの だ、と。(中略) ある人に、こう言われたことがある。「カエサルにつてあれほども書ききった後では、その後に来
る人物たちをどうやって書きつづけていくのかね」。私は、笑いながら答えたのだった。「御心配いりま せん。次はアウグストゥスのところに行くだけですから」 作家とは粛々とペンを走らせる人、と思っている人が聞いたら呆れ返るだろう。しかし、こんな具合に 男たちを次々と渡り歩くことで、全十五巻を書いてきたのである。白状すれば、面白かったですね。ゲー テではないが、人間世界のすべてをやってくれたというローマ人だけに、登場人物たちも多種多彩であっ たから。 イイ男だと、史料を勉強しているときから早くも愉しくなり、勉強も進むのだから面白い。クスク
ス笑いながら、煮ても焼いても喰えないとはあなたのような男のことですよ、などと独り言を言いながら 書くことになる。 一転してネロのような困った皇帝になると、これはもう「クイーン」のフレディ・マーキュリーだ
と思い、生まれた時代をまちがえたのが皇帝ネロだと、書きながら笑い出す始末。ウェンブリーのサッ カー場を埋めつくした観衆を前に自己陶酔できるならば、ネロなら喜んでローマ帝国を差し出したにちが いない。 衰亡に近づいても、そこは人間世界のすべてをやってくれたローマのこと、情けなくもだらしない
男ばかりでない。亡国の悲劇とは、人材が欠乏するから起きるのではなく、人材はいてもそれを使い こなすメカニズムが機能しなくなるから起こるのだ、と痛感するするほどにイイ男は、興隆期に比べ れば数は少なくてもいることはいる。(後略) ==============================================
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以下、文芸春秋(2009年4月号)「拝啓。小沢一郎様」より抜粋 ==============================================
・・・危機を打開するには、何をどうやるか、よりも、何をどう一貫してやりつづけるか、のほうが
重要です。打開策の効果はすぐには現れないもので、その間に巻き起こってくる不安や抗議には耳を貸さ ずにただひたすらやりつづけるしかないからです。それには堅固で持続する意志しかありません。 そして、不安や抗議の声にもびくともしないでやりつづけるには、足許がおびやかされていてはできな い。つまり、危機に対処するには何よりも、政局の安定が不可欠ということになります。ここであなたは 言われるでしょう。次の総選挙で民主党が勝つことで政権が代わり、それで安定する、と。 でも、どうしてそう言えるのでしょう。仮に衆議院選挙で民主党が第一党になったとしても、単独で過 半数を制せるか、という問題がまずある。第二に、もしも単独過半数を獲得できたとしても、参院では民 主党は、単独過半数を持っていません。社民とか何かを加えて、ようやく参院を制しているにすぎない。 こうなると、参院で勝ったとしても、民主党は常に、衆院のみでなく参院でも、連立しないと統治はでき ないということになる。 それで、「連立内閣」ですが、これが実は魔物なんですね。(中略) 日本では、次の総選挙では民主党が勝つでしょう。しかし、参院でも連立を組まないと過半数に達
しないのに加え、衆院でもおそらく、社民や国民新党と連立を組まないとやっていけないことになるでし ょう。 そうすればまず、社民がキャンキャンわめき始める。化石みたいな国民新党も黙ってはいないにちがい ない。そしてこれに、民主党内の郷愁派というか守旧派が、浮足立ってくる。結果、選挙で多く支持され た大政党が、ひとにぎりの票しか得なかった小政党に引きずられるという、有権者の意向の反映しない政 治に向かってしまうことになる。 こうなっては、日本人は政治を見離します。そして、有権者から見離された政府では何をやっても、危 機の打開は成功しないでしょう。 私にはどうしても、選挙で民主党が勝ちさえすれば、それがイコール日本の政治の安定になるとは
思えないのです。それどころか、今や世界で一国だけになってしまった政局不安定が、これ以後も、つづ くことになると思えるくらいです。 こうなると、大手術をするしかないのではないでしょうか。自民党と民主党の、今すぐの大連立です。 この二党が連立を組めば、いかに両党とも内部にいる郷愁派が脱退で脅しても、決議には影響しない票数 には達せる。つまり、浮足立つ人を計算に入れないでも大丈夫という数を有しないかぎり、日本での政局 の安定は実現できないということですが。 そしてそれをやれるのは、小沢様、あなた御一人です。なぜなら、形勢不利な側が手を差し出した場合 の握手は成功しないものですが、有利な側が手を差し出した場合は成功するからです。 あなたも、私の作品を読んでくださる御一人と聴きました。ならばおわかりでしょう。古代のローマ人 が、「勝って歩み寄る」名人であったことを。あなたも、政局屋ではなくて政治家として、名を残したい とは思われませんか? ==============================================
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イギリスに渡った当初、手足が長く頭の小さい西洋人に囲まれて、鏡の中の自分が異質な存在に見
えました。「生まれつき、バレエには向いていないんだ」と、打ちのめされました。でも、だからこそ、 どうしたらきれいに見えるのだろうと、考えずにはいられなかったんです。「少しでもラインを長く見せ るには?」「どんな角度がきれいなのか」体型は変えられないけど、見せ方は工夫できる。欠点と向き合 いながら、レッスンに励みました。 体形に恵まれたダンサーは、鏡に映った自分に失望することがありません。何もしなくてもきれい
だから、努力ができないのです。それに気づいたとき、私は「自分には頑張る動機が与えられている」と 思えました。コンプレックスにはずいぶん苦しみましたが、それがあったから、ここまで来られたとも言 えます。 《コンプレックスや異邦人としての心細さを、吉田さんは一つ一つ、自身へと転換していった》
コンプレックスのない踊り手はいません。世界で活躍しているのは、逃げることなく欠点を見据え、克服 したダンサーたちです。 =============================================================================================
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開設日: 2005/11/18(金)