荒野の泉 48 「救いの決心」
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ダンは昨日、先輩の結婚式で聖書の御言葉を聞き、「わたしたちが神を愛したのではなく」という言葉にとても驚いた。ダンは何度も教会を訪れる機会があったが、教会が好きになれなかった。ダンはこの言葉を聞き、自分のことを言われているような気がしたのである。 「神がわたしたちを愛して下さって」この言葉もダンの心に響いた。「ここに愛がある。」ダンは神の愛が初めて、理解できるような気がした。そして、岡本にその意味を尋ねてみたかった。 日曜日の朝、ダンはいつものように環八沿いの歩道で岡本夫妻の車を待っていた。八月の朝日はまぶしかったが、ダンはそのまぶしさや暑さも心地よく感じた。 「おはようさん!」加藤が後ろの座席の窓を開けて声をかけた。今日は加藤と宮本も一緒だった。岡本夫妻の娘さんは先に教会に行ったらしい。 「ダンさん、待った? 暑いやろ? この車、クーラーきかんで。そやけどな、八月が暑いのはあたりまえやで。なあ、宮本さん。ははっ。」加藤は宮本に笑いかけた。宮本はいつものようにニコニコ頷いている。 「昨日、鈴木先輩の結婚式に六本木の教会に行ったんです。」ダンは後ろの座席に乗り込むと岡本に話しかけた。 「鈴木君って、隣の部の鈴木君か? 彼はクリスチャンだったかな?」岡本は助手席から答えた。 「結婚相手がカトリックの方でフランシスコ教会で結婚式をあげたんです。」 「そこで、聖書の言葉が読まれたんですよ。」ダンは続けた。 「あら。ダンの知っている御言葉だった? 教えて?」岡本姉が運転しながら尋ねた。 「神はひとり子をつかわし、愛を示されたっていうところです。」 「そりゃ、わてかて知っとるで。ええと、神は実に、そのひとり子をお与えになったほどに、世を愛された・・・。岡本はん、それからなんやったかな?この間、覚えたんやけど、あかんわ。」加藤が言った。 「それは御子を信じる者が、ひとりとして滅びることなく、永遠のいのちを持つためである。ヨハネの3章16節よね。」岡本姉が続けた。 「僕もその言葉はこの間、広田神学生に聞いたんですけどね。ちょっと、違うんですよ。ええと。私達が神を愛したのではなく・・・だったけな。」 「なんや? 私達が神を愛する?」加藤が不思議そうにダンを見た。 「それは、ヨハネの手紙のほうだね。」岡本次長が言った。 「ヨハネの第一の手紙の4章じゃない? あなた聖書を見て下さらない?」岡本姉が言った。 岡本次長はかばんから聖書と眼鏡を取り出し、しばらく聖書をぱらぱらとめくっていた。 「あった、あった。いいかい読むよ。」 「神はそのひとり子を世につかわし、彼によってわたしたちを生きるようにして下さった。それによって、わたしたちに対する神の愛が明らかにされたのである。 わたしたちが神を愛したのではなく、神がわたしたちを愛して下さって、わたしたちの罪のためにあがないの供え物として、御子をおつかわしになった。ここに愛がある。」 ヨハネの第一の手紙 4章9−10節 「それで、ダンはどう思ったの?」岡本姉が尋ねた。 「確かに、僕は神様のことを愛していなかったなって。そして、もしかしたら、神様が、こんな僕のことも愛して下さって・・・」 ダンはそこまで言うと胸が一杯になって言葉が出なくなった。みんなはダンの気持ちの高ぶりに気づき、車の中が静まりかえった。しばらくして、岡本が口を開いた。 「ダン、それはとても大切なことなんだ。神様は私たち一人一人を愛しているんだよ。」岡本が言った。 「そうやで。こう見えても、うちらのこともな。」加藤がまた豪快に笑った。 「ダン、そうなのよ。神様の愛の印がイエス様の十字架なの。」 ダンは岡本姉に言われてはっとした。そうか、キリストの十字架は神の愛を表しているんだ。 車が教会の駐車場に着くと、岡本次長が先に教会に入っていった。ダンは加藤や宮本達と礼拝堂の後ろのほうに座った。岡本が広田神学生となにやら話し込んでいるのが見えた。やがて、岡本がダンの隣に座り、聖歌232番の賛美と共に礼拝が始まった。 罪とがを赦され 神の子となりたる
わが霊(たま)の喜び 比べうるものなし 日もすがら証せん 夜もすがら主を誉めん 御救いはたえなり 御救いはくすしと ダンはこの賛美をすでに何度も歌っていたが、「夜もすがら主を誉めん」という歌詞に初めて心が動いた。「主を誉める。そうだ。礼拝は主の御名を誉めたたえるときなんだ。」 スミス宣教師のメッセージが終わり、招きの賛美となった。この集会で悔い改めや決心に導かれた人が牧師と一緒に祈っていた。 「ねえ、ねえ。」いつの間にか、広田神学生が隣に立っていた。「昨日の結婚式でヨハネの手紙の御言葉が印象に残ったんだって? 僕にも聞かせてよ。」 ダンは広田に昨日の出来事を話した。広田は聖書を開き、御言葉を読んだ。 「素晴らしいね。神様がダンのことを愛して下さっていることに気づいたなんて、すごい恵みだね。」 「ところで、神がダンに対してどのように愛を示したか、知っている?」広田が尋ねた。 「十字架ですか?」 「その通りだよ。」広田がダンの目をじっと見た。「ダンはイエス・キリストがあなたの罪のために十字架にかかって死んだことを信じますか?」 「はい。」ダンは今日は素直にはいと言うことができた。 「イエス様は三日目にどうされましたか?」広田が続けた。 「復活されました。」ダンは答えた。 「ダンはイエス様が復活されたことも信じれる?」広田が聞くとダンは頷いた。ダンの心を神の愛と聖霊が充たし、復活に対する疑問もいつのまにかなくなっていた。 「一緒に祈りましょう。」広田は、ローマ書10章9節を読んで、ダンと祈った。 なぜなら、もしあなたの口でイエスを主と告白し、あなたの心で神はイエスを死者の中からよみがえらせてくださったと信じるなら、あなたは救われるからです。 人は心に信じて義と認められ、口で告白して救われるのです。「神様、ダンを救いに導いてくださり、感謝します。どうぞ、ダンの信仰生活を祝福して下さい。」 広田は涙ぐんでいるようだった。ダンも広田に続いて祈った。 礼拝が終わると広田からダンの救いの決心を聞いた岡本夫妻、加藤がダンのところにきた。 「ダン、よかったね。」岡本次長はそういってダンに握手した。岡本姉は、目頭を押さえていた。「いつも祈ってたのよ。」 ダンは「祈っていた。」という言葉にうれしく感じたのは初めてだった。多くの人々が自分のために祈ってくれていた。そして、ようやく救いの決心に導かれたのだ。 「ダンさん」加藤が不自由でないほうの手で握手を求めてきた。「言ったやろ。考えすぎたらあかんって。神様が導いてくれるんやで。」 主に導かれる、ダンはそのことがようやくわかった。初めて城南キリスト教会の門をくぐってから、3年半の年月が経っていた。 つづく。
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