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今日の進歩

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科学立国日本を支える理研と科学技術振興機構(JST)、JAXA その2


2017/3/21(火) 午後 11:57

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JST成果集2016 その1 からのダイジェストの続きである。

よくよく読むと、論文・引用データからノーベル賞クラスの研究者を選出・発表することでも知られる「トムソン・ロイター引用栄誉賞」が授与 された研究だらけで、まだ暫くノーベル賞自然科学賞分野に日本人科学者が毎年のように選出され続けても不思議ではない。


ナノテクノロジー・材料

不可能と言われた技術に挑戦
赤 勇 (名城大学 教授、名古屋大学 特別教授・名誉教授)
豊田合成株式会社
天野 浩 (名古屋大学 教授)
エルシード株式会社
中村 修二 (カリフォルニア大学サンタバーバラ校 教授)
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青色発光ダイオード
ノーベル賞を受賞した未踏の領域

2014年のノーベル物理学賞は、高効率青色発光ダイオード(LED)を発明した赤勇終身教授、天野浩教授、中村修二教授の3氏に贈られた。LEDは、1960年代に赤色や黄緑色が開発されたが、青色は実用化が困難で「20世紀中の実現は不可能」とさえ言われていた。そうした中、赤教授、天野教授、中村教授は1980年代から90年代にかけ、世界中の研究者が諦めていた窒化ガリウム(GaN)の高品質単結晶化やp型化などに取り組み、青色LEDの開発・実用化に成功した。これは高輝度、省エネルギーの白色光源の実用化につながり、世界の省エネ化や配電設備を持たない人々への照明提供に貢献している。また照明のみならず、青色LEDは情報処理、交通、医療、農業といったさまざまな分野に広く応用されている。さらに、3氏が開発した窒化ガリウムの実用化技術は、今後電気自動車やスマートグリッド(次世代送電網)などの電力変換器に用いられるパワーデバイスなどへの応用も期待されている。

透明な酸化物の半導体IGZO-TFTが引き起こす
ディスプレイ革命…………………………… 49
細野 秀雄 (東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授/元素戦略研究センター長)
自由に曲がる透明トランジスターの構成
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プラスチックの基盤に薄膜作製が出来るため、指で簡単に曲げることが出来る
新たな地平を切り拓くのは革新的な材料である

現在、パソコンやテレビの多くは液晶となり、これらに使用されるTFT(薄膜トランジスター)パネルの世界市場は10兆円規模にも上るとされている。だが、これほどの大きな市場を支え、現在のTFT液晶に主に使用されている「アモルファスシリコン半導体」にはさまざまな問題がある。今後さらに高機能化していく技術に半導体の性能が追いつかないのだ。
そこで注目されたのが、細野秀雄教授がERATO、SORSTで開発した「透明アモルファス酸化物半導体(TAOS)」である。その物質の1つであり、細野教授のグループによるIn-Ga-Zn-O(インジウム・ガリウム・亜鉛からなる酸化物)を用いたTFT(以下、IGZO-TFT※ )の発明により、国内外の企業が実用化研究を加速させ、TFT液晶パネル開発は新たな世界へと進み始めたのである。
2011年5月には、これら一連の功績が認められ、Society for Information Display(SID)より「Jan Rajchman Prize」賞が贈られた。また2013年には、アモルファス半導体国際会議から「Mott Lecture Award」の栄誉が与えられた。「新たな地平を切り拓くのは、革新的な材料である」が持論の細野教授は、材料研究の重要性を世界に発信したのである。2016年、細野教授は「物質、材料、生産」分野で、「ナノ構造を活用した画期的な無機・電子機能物質・材料の創製」の業績を認められ、日本国際賞を受賞した。

未開拓の物質系に秘められた新機能を発掘
細野 秀雄 (東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授/元素戦略研究センター長)
超伝導応用
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「トムソン・ロイター引用栄誉賞」の事実が語るインパクト!

超伝導とは、特定の金属や化合物を超低温に冷却した際に、電気抵抗がなくなる現象を指す。もともと超伝導の研究は、金属系物質や銅酸化物系物質を用いて研究されてきたのであるが、2008年に細野秀雄教授が発表した論文「鉄系高温超伝導物質の発見」は、この超伝導の世界を揺るがすインパクトをもたらした。磁性と超伝導は競合するので、磁性の象徴的元素でもある鉄を含む物質が超伝導の材料になることなど、超伝導に携わる関係者の誰ひとりとして想像していなかったのである。
この世紀の発見のインパクトは、Science誌が「ブレイクスルー・オブ・ザ・イヤー2008」の一つと評価したことや、2013年9月には細野教授に、論文・引用データからノーベル賞クラスの研究者を選出・発表することでも知られる「トムソン・ロイター引用栄誉賞」が授与 されたことからも容易に判断できる。
つまり、この論文を機に、世界中で鉄系超伝導ブームと呼ばれるほどの研究フィーバーが起き、超伝導の新たな可能性を見ることが出来たのである。

磁石を電気で制御!
マルチフェロイックス研究………………… 53
十倉 好紀 (東京大学 大学院工学系研究科 教授)
電気磁気効果の概念図
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ローレンツ電子顕微鏡法によって得られたら2次元スキルミオン結晶(左)とモンテカルロ法シミュレーションで得られた2次元スキルミオン結晶図(右)
マグノンホール効果の概念図
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強誘電性と強磁性が共存し電気磁気効果を示す物質が発見され、より大きな異常電磁気力効果は「マルチフェロイックスと名付けられた。大きな電気磁気効果が実現できれば、わざわざ鉄芯にコイルを巻かなくても、電気をスイッチ代わりに磁力のオン・オフができて効率のよい、画期的な電磁石が理論的には可能だ。

しかし、キューリー夫人に存在を予言された物質は1960年代に発見されたが、その効果は非常に弱く、応用につながらないまま、年月が過ぎていった。2001年にスタートしたERATO「十倉スピン超構造プロジェクト」によって、磁場を加えると誘電率がいきなり数百倍になる物質の創製に成功した。十倉教授の マルチフェロイックス創製が、単に新たな物質創製にとどまらず、強相関量子科学の扉を新たに開いた。
2014年9月、トムソン・ロイター社が、過去20年以上の引用数データをもとに特に注目すべき研究領域のリーダーたる研究者を選ぶ「トムソン・ロイター引用栄誉賞」27人の中に、十倉教授が選ばれた。

21世紀のパラダイムシフトである量子力学の応用が期待できます。

ハードディスクを大容量化
トンネル磁気抵抗(TMR)………………… 55
湯浅 新治 (産業技術総合研究所ナノスピントロニクス研究センター 研究センター長)
市販ハードディスク 最大容量の変化
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ハードディスクの内部構造
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HDD製造装置産業の市場独占を実現した驚異の発明!

近年、ハードディスクの容量は急速に増え続け、2012年には4TBのハードディスクが一般に販売されるようになった。2000年に販売していたハードディスクのなかで、最も容量が大きいものが75GBだったことを考えると、この12年間で約50倍以上容量が増えたことになる。
この飛躍的な進化には、湯浅新治氏らがさきがけで開発し、SORSTで発展させてきた「トンネル磁気抵抗(TMR)素子」が重要な役割を果たしている。この研究がなければ現在の大容量ハードディスクは実現できなかったと言っても、決して過言ではない。実際、市販ハードディスクの最大容量は、TMR素子が実用化された2007年付近を境に、急速に増加している。

相対論の検証から地下資源の探索まで
香取 秀俊 (東京大学 教授/理化学研究所 主任研究員)
光格子の模式図
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実験装置の概要
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  • a. コア直径40μm、長さ32mmの中空ファイバーに魔法波長の光格子(赤い波線)を形成し、その中にストロンチウム原子(青い丸)を捕獲した。中空ファイバー中で光格子を1次元的に構成する。隣り合うストロンチウム原子の間隔は魔法波長の半分(約0.4μm)になる。
  • b. 使用した中空ファイバーの断面図。中央部分が中空になっている。
1次元格子中で原子を拡散させる
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ファイバーに原子を導入した直後は、横方向の原子の広がりは小さく、複数原子が捕獲されている格子が存在する(上図)。このような格子では原子どうしの相互作用が起こる。原子をいったん光格子から解放して原子を拡散させた後、再び原子を光格子に捕獲し直すことで、1格子あたりの原子数をほぼ1個以下にまで低減した(下図)
宇宙年齢138億年を経ても誤差は0.4秒

きわめて精度の高い時計では、「重力が強いと時間はゆっくり進む」というアインシュタインの相対論の影響が測定できるようになる。研究グループが目標とする10-18精度(138億年前のビッグバンから今日までの宇宙年齢を経ても0.4秒しか狂わない精度)を持った光格子時計では、わずか1cmの高低差で重力がもたらす(一般相対論的な)時間の進みの違いが検出できるほか、人の歩く速さで起きる(特殊相対論的な)時間の遅れも検出できるようになる。
また、周囲より比重の高い鉱脈などが地下にあると、地上で感ずる重力が強くなるので時間の進みがゆっくりになる。それを検出できる小型の光格子時計が実現すれば、地下資源の探索も可能になるだろう。今回の成果を足掛かりに、光格子時計の小型化・可搬化を目指した技術開発がなおいっそう進むと期待される。

結晶化不要・極微量で可能な分子構造解析
藤田 誠 (東京大学 大学院工学系研究科 教授)
結晶スポンジ法の原理
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結晶化必要なし 極小量で構造解明

結晶スポンジは、直径約0.5から1nm(ナノメートル。1nmは10億分の1m)の穴(細孔)が無数に開いた細孔性錯体結晶。細孔に分子を吸蔵することは以前から知られていたが、一般的な細孔性錯体では、ゲスト分子がランダムに穴に詰めこまれてしまうため、X線構造解析に必要な周期性は得られない。そこで研究グループは、細孔性錯体に「分子認識能」(分子の形状や性質に合わせて最適な位置に安定な形で穴に取り込む能力)を持たせることで、取り込んだ分子を周期配列させることに成功した。これが結晶スポンジの原理だ。これにより、常温で液体の化合物でも結晶化せずに単結晶X線構造解析をすることが可能になった。

創薬から科学捜査まで広がるニーズ

すでに明らかなように、藤田教授らの研究グループが開発した「結晶スポンジ法」は、微量化合物の構造決定に決定的な威力を発揮する手法である。実際同グループでは、天然物から合成化合物に至るまで既に100種類以上の構造決定に成功しているという。
しかし無論、それらはほんの一部であり、微量成分の構造決定を必要としている分野は数多い。たとえば、「創薬・プロセス化学研究」では、代謝化合物の構造決定、大量検体のハイスループット合成における構造決定、新規プロセス開発・品質管理における不純物構造決定など、「食品科学研究」では調味料・加工食品・原材料の不純物構造決定、天然健康食品リード化合物の構造決定など、さらに「香料研究」「農薬・化粧品・有機化合物関連の科学捜査」などだが、まだまだニーズは増えるだろう。そして疑いもなく、結晶スポンジ法はそれらのニーズにこたえ、多くの分野に多大な貢献をなしていくはずである。

気体を“選んで”吸着・分離
北川 進 (京都大学 物質−細胞統合システム拠点 拠点長・教授)
多孔性配位高分子(PCP)
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                                                                          無数の「孔」があいた構造を持つ。グレーは骨格、                                                                               水色は孔の表面。
光照射でPCPを活性化し酸素を捕捉する様子
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化石燃料から発生する二酸化炭素の回収なども可能に

酸素、二酸化炭素、メタン、水素など、気体は、固体や液体に比べて扱いづらい。気体を選択的に分離・貯蔵する技術の開発は、さまざまな分野のブレークスルーにつながると期待される。工場などで排出される二酸化炭素を回収、貯留できれば、環境問題解決の切り札となるだろう。水から水素ガスを容易に分離できれば、燃料電池の普及が飛躍的に進むに違いない。そんなイノベーションの扉を大きく開く可能性を秘めているのが、北川 進教授が開発した多孔性配位高分子(PCP)だ。

スマートフォンの放熱設計に不可欠
高品質グラファイトシート… ……………… 63
吉村 進 (長崎総合科学大学 客員教授)
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高熱伝導性グラファイトシートによるヒートスポットの低減
革新的な機能を生み出す新炭素材料

その後、吉村教授は委託開発事業で高熱伝導性グラファイトフィルムの事業展開を図るのと並行して、自身が総括としてERATO「吉村パイ電子物質プロジェクト」を率いることとなった。プロジェクト名にあるパイ電子とは、有機化合物の性質や機能の発現において重要な役割を果たしている電子である。吉村教授は新しい機能を有する炭素系物質の創生を目指して研究を進め、グラファイト薄膜とカーボンナノチューブの低温合成、グラファイトにアルカリ金属等を挿入した新しい層間化合物の合成と量子効果の発見、炭素薄膜による太陽電池の開発、グラファイト表面を利用した溶液重合エピタキシーの方法の確立、炭化中間体を含むシリカガラスの発光現象の発見等、多くの成果を生み出した。特にグラファイト薄膜とカーボンナノチューブの低温合成では、CVD法(材料をガス状にして堆積させる手法)を用いて、600℃から1000℃での合成を実現したのである。これにより、通常の半導体製造プロセスでのグラファイト生成が可能となった。
また、CVD法によるカーボンナノチューブの低温合成の作成条件と制御法、カーボンナノチューブの成長メカニズムの研究結果は、名城大学 飯島澄男教授を代表とする国際共同研究(ICORP)「ナノチューブ状物質プロジェクト」に継承され、新物質カーボンナノホーンを生む下地となった。カーボンナノホーンは現在、燃料電池の電極材料として開発が進んでおり、実用化目前といわれている。このように吉村教授のERATOでの成果は、さまざまな分野で実を結びつつある

汎用性、経済性に優れた重合法
大日精化工業株式会社
後藤 淳(シンガポール Nanyang Technological University 准教授)
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リビングラジカル重合の特長

低分子化合物(モノマー)を化学反応でつなげて、ひものような高分子化合物(ポリマー)をつくることを重合という。産業界では、ラジカル重合という方法がよく用いられるが、得られるポリマーの長さ(分子量※)がまちまちで、その構造の制御もできないという欠点がある。この欠点を解決すべく登場したのが、リビングラジカル重合である。この方法なら、分子量がほぼ均一で、構造の制御されたポリマー(構造制御型高分子)を得ることができる。リビングラジカル重合は、わたしたちの生活を支える最先端の高分子材料の創製を可能とし、高付加価値材料の新しい生産技術として、豊かな産業利用が期待されている。

超臨界流体で成分分析を高速全自動化
馬場 健史 (九州大学 生体防御医学研究所 教授)
分析に欠かせない前処理技術

農産物や食品の検査、病気の診断などの現場では、分析結果をより迅速でより正確に得ることが求められている。そのネックになっているのが、分析サンプルから目的の成分を抽出する前処理だ。目的の成分の抽出や分離といった工程は、熟練者による煩雑な作業が必要で分析スピードには限界があり、抽出の回収率や精度のバラつきもある。また、空気に触れるだけで酸化や分解してしまう成分など、抽出そのものがうまくいかない成分もある。馬場健史教授を中心とした開発チームは、これらの問題を「超臨界流体」を用いる方法で解決。超臨界流体を用いた抽出分離装置により、多くの分析をより迅速で正確に全自動で行うことに成功したのである。

従来のX線撮像装置の限界を超える
百生 敦 (東北大学 教授)
コニカミノルタ株式会社等
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開発に成功したX線撮像装置で実際に得られた親指の画像(中:微分位相画像、右:散乱画像)。腱や軟骨など、従来法(左:吸収画像)では撮影できない組織が描画されている。
柔らかい組織も映しだす!革新的X線撮像装置を開発

骨などの検査のために行われる従来のレントゲン撮像では、被写体がX線を吸収する度合いによって濃淡を得ている。内臓などの組織を検査する時は、そのままでは十分な濃淡が得られないため、バリウムなどの造影剤を体内に入れてX線撮像したり、MRIなど高額な装置を使う必要があった。もしも、X線で軟組織も撮像できるようになれば、患者の負担も軽く、病気の早期発見に役立つようになるかもしれない。
このようなX線撮像装置の開発を20年も前から目指してきた人物が、百生敦教授である。百生教授は、従来のX線撮像装置の限界を超えた医療現場で役立つ装置を開発したいと考え、様々な研究開発を進めてきた。
百生教授が見出した全く新しい原理のX線撮像法を、医療機器メーカーのコニカミノルタ株式会社が製品化へ向けて開発している。既に初期の乳がん病巣や軟骨の撮像に成功し、医療現場でも大きな期待が寄せられつつある。

高真空中でも気体・液体の放出を防ぐ!
針山 孝彦 (浜松医科大学 医学部 教授)
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ショウジョウバエの幼虫を電子顕微鏡内に直接入れて観察
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ハムシにナノスーツ法を適用し、前脚の微細構造を撮影した高真空/高解像度写真。
「変形した死んだ生物」の観察から「リアルな生きた生物」の観察へ

生物表面の微細構造を電子顕微鏡で観察するには、電子線が透過しやすいよう、試料を顕微鏡内の高真空チャンバーに配置する必要がある。すると、体重の80%近くを水が占める生物はどうなるか。生物の体表は多様な環境に対応するため細胞外物質(ECS:細胞内から外側に分泌されて集積した物質)で覆われてはいるが、高真空下のような極限状態ではECSは気体や水分の放出を抑制できなくなる。当然ながら、脱水による体積収縮で表面の構造は大きく変形し、生物は死に至るのである。そのため、できるだけ生きた状態に近い微細構造を観察できるよう、化学固定した上で乾燥処理や表面金属コーティング処理を施して、「死んでいる生物」を電子顕微鏡で観察しているのが現状だ。
ところが2013年4月、「生きたままの生物」の電子顕微鏡観察が可能になった。2008年CRESTに採択された研究代表者下村政嗣千歳科学技術大学教授の共同研究者である針山孝彦教授らのグループは、ECSやそれを模倣した薄い液膜に電子線またはプラズマを照射することで、高真空中でも気体・液体の放出を防ぎ生命を保護する、「ナノスーツ(ナノ重合膜)」を開発したのである。

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情報通信技術

コンピューターの処理回数を大幅に圧縮
湊 真一 (北海道大学 大学院情報科学研究科 教授)
膨大な組み合わせを超高速に列挙する

不可思議という単位がある。万、億、兆、京などと続く数の単位で10の64乗のことだ。実は、電車の乗り換えや電気の配電網など、さまざまな組み合わせの中から最適なものを選ぼうとすると、その選択肢は10の64乗という膨大な数になることも珍しくない。これを短時間・低コストで1つ1つ列挙して、最適なものを選ぶにはどうしたら良いか。そのカギを握る技術が、処理の計算手順・戦略を記述して最適な答えを効率的に導き出すアルゴリズムだ。
現在コンピューターは、産業プロセスの最適化や解析、マーケティング、バイオインフォマティクス(生命情報科学)など、さまざまな情報処理に活用されている。近年、爆発的に増大しているビッグデータを処理するために、ハードウェアの高速化とともに、アルゴリズム技術の重要性が高まっており、その高速化が求められている。そこでERATO研究総括の湊真一教授は、離散構造(記号によって表現される概念)を極めて高速に処理するための離散構造処理系の研究に取り組んだ。
コンピューターの処理回数を圧縮する

この研究の基盤となったのが、湊教授が1993年に考案し、世界的にも注目されているZDD(ゼロサプレス型BDD:Zero-suppressed BDD)である(図1)。基本的な離散構造の1つに論理関数があり、一般に論理関数の値をすべての変数について場合分けした結果は二分決定木(Binary Decision Tree)として表現できる。コンピューターの処理に置き換えると、分岐の数は処理の回数を意味する。処理回数を減らすための工夫として、BDD(Binary Decision Diagram)というデータ構造を用いたアルゴリズムが1986年に米国で考案された。湊教授が考案したZDDは、このBDDを集合データの処理に進化させたもので、特に「疎な組み合わせの集合」、例えば1万アイテムの商品から10アイテムを選び出すといった、巨大な母集団から非常に少数を抽出するようなケースで、処理回数を大きく圧縮できる。ケースにもよるが、ZDDを使えばBDDよりもさらに数十〜数百倍の圧縮が可能になる場合があるという。
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右のZDDが、湊教授が考案したゼロサプレス型BDD


人間とロボットの新たな関係
石黒 浩 (大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授
株式会社国際電気通信基礎技術研究所 石黒浩特別研究所 客員所長)
存在感が伝わる通話でストレス軽減効果

ハグビーを開発したのは、石黒浩教授だ。見かけだけではなく繊細な動きまで人間と酷似したアンドロイド、人間との自然なコミュニケーションを目指すロボビーなど、人間と豊かにかかわる人間型ロボットの研究に取り組んでいる。
研究テーマの1つが、遠く離れた場所にいても自分の存在感を相手に伝えられる「ジェミノイド(遠隔操作型アンドロイド)」だ。ある人物そっくりのジェミノイドをつくり、遠く離れた場所から本人が遠隔操作して応対をする。すると、あたかも自分がそこにいるかのような存在感が相手に伝わり、自然な対話が実現できることが確かめられた。
さらに研究を進め、存在感を伝えるために必要な部分は何かを突き詰め、機能を削ぎ落としていくと、抱きかかえたり、握ったりしながら会話すれば、遠隔操作による細かな動きや人間に似た顔などなくとも、存在感は十分強く伝わることが分かった。そこで開発されたのがハグビーだ。携帯電話などの通信メディアを頭部のホルダーに収納し、抱きしめながら通話すると、相手を抱きしめているような感触、耳元から伝わる相手の声、声に同調した振動といった必要最小限の要素によって、相手の存在を強く身近に感じることができる。その効果を検証したところ、ハグビーを抱きながら通話したグループは、携帯電話で通話したグループと比べ、ストレスを受けると分泌する「コルチゾール」というホルモンの血中濃度が減少し、人との接触で見られるようなストレス軽減効果があることが確かめられた。
この研究によって得られた知見は、今後の通信メディアのデザインに新たな示唆を与えるものだ。例えば電話を使った遠隔カウンセリングなどでは、ハグビーのような「抱いて話す」メディアが効果的だと考えられる。

目の前の3D映像に触れる
舘 (東京大学 名誉教授)
3Dディスプレイの普及と課題

近年、バーチャルリアリティ(VR)やロボット技術の普及により、人と情報メディアとの関係性は、これまでの視聴覚による受動的な情報伝達から、身体を介在した、より能動的な視聴覚体験へと進化しつつある。
人が日常的に得る体験は「触る」「持つ」「歩く・走る」「触れ合う」など、視聴覚のみならず全身の運動や皮膚感覚を伴う身体的経験である。こうした経験を記録・伝送・再生できるプラットフォームがあればロボットやVR空間を介した遠隔体験や遠隔就労、また新たな体験コンテンツの創造が可能になる。
こうした技術課題を解決する画期的な情報メディア技術が発表された。舘駄祥清擬らの研究グループが開発したテレイグジスタンスシステム「TELESAR V(テレサファイブ)」と、裸眼3Dディスプレイ「Hapto MIRAGE(ハプトミラージュ)」である。
TELESAR Vは、人と同期して同じ動作をするアバター(分身)ロボットと、ロボットの視覚・聴覚・触覚を人に伝送するコックピットにより構成される。遠隔地にあるロボットを介して、まるで自分自身がそこにいるかのような感覚で人とふれあい、モノを操り、その接触状態やつかんだときの感覚を伝える。
このようなシステムはテレイグジスタンスと呼ばれる、舘教授が長年にわたって提唱してきた概念を具現化したものだ。高い臨場感を持って自分がいる空間とは別の空間を体験可能にするだけではなく、自己の存在感をも伝達できる、双方向のコミュニケーション技術だ。

身のまわりのものをコンピューターに!
未来型情報環境の実現… ………………… 79
石川 正俊 (東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授)
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動く紙に表示される画像(右)と、動く手のひらに表示される画像(触覚刺激も表示されている)
イメージ 26「1ms Pan/Tiltシステム」と「触覚ディスプレー発振機アレイ」
実験システム概要
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「手のひら」視触覚ディスプレイ

インターネットやスマートフォンなどの情報通信技術の社会浸透により、世界はいま急速に高度情報化社会に移行しつつある。しかし、これだけ普及したコンピューターやスマートフォンにも注文がないわけではない。例えば、小さな電子機器の中に必要な機能をたくさん埋め込むあまり重くなること、ディスプレイや入力の自由度がそれほどないことなどである。
そこで、従来のコンピューターやスマートフォンから大きく発想を転換したシステムが、CREST研究代表者の石川正俊教授らの研究グループによって開発された。空間内を動いている対象(人の手のひらや紙・ボールなどの物体)を、動きを拘束することなく素早く追跡し、そこに遅延なく映像を投影したり触覚刺激を生じさせたりするシステムである。このシステムを使えば、身のまわりのあらゆるものがコンピューターに変身する可能性がある。

対象を素早く追跡し、触覚刺激を提示


これは、2つのシステムを統合した新しいシステムである。
まず、動いている対象を素早く正確にトラッキング(追跡)するのが、「1ms Auto Pan/Tiltシステム」。研究グループが開発した高速画像処理で対象の位置を2ミリ秒(0.002秒)ごとに抽出することが可能な「高速ビジョン」と、2枚の小型ミラーを用いた「高速視線制御ユニット」とによって、ちょうどオートフォーカスが自動的にフォーカスを合わせるのと同じように、画面の中心に対象がくるようミラーの上下・左右(パン・チルト)方向を制御する技術である。
この光学系に同じ向き・角度でプロジェクターを接続することにより、高速で運動する対象に映像を投影することが可能となった。性能としてはパン・チルトともに最大60度のレンジを有し、40度の視線方向の変更を3.5ミリ秒(0.0035秒)で行うことができる。
一方、同じく研究グループの開発した超音波振動子アレイを用いた「非接触触覚ディスプレイ」は、収束させた空中超音波の放射圧によって「手のひら」などの対象に触感を生じさせるシステムである。現在のシステムでは、7.4 グラム重(500円玉を持ったときに感じる重さとほぼ同じ大きさ)までの力を1cm径程度のスポットに集中して提示できる。また、力の大きさや振動パターンを1ミリ秒単位で変化させたり、スポットの位置を皮膚上で高速に移動させることも可能だ。
以上の「1ms Auto Pan/Tiltシステム」と「非接触触覚ディスプレイ」を統合することで、従来は画面に表示していた情報を、触覚刺激とともに、動く対象に位置ずれなく投影するシステムを構築した。その意味で、近年注目されているプロジェクションマッピング技術の動物体版・触覚提示版ということもできる。

非接触でデータ伝送する3次元チップ
黒田 忠広 (慶應義塾大学理工学部 教授)
積層チップ間の通信技術の進化
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小さな消費電力で高速にデータをやりとり

技術が進みコンピューターの処理能力が上がるにつれて、より膨大なデータがやりとりされるようになった。処理するデータが増えると消費電力も増加し発熱して動作できなくなる。そこで、近年消費電力を大幅に削減する研究が進められ、大きな注目を集めている。情報化社会の加速度的な進化に対応するためには、どうしても消費電力の削減が必要になってくるのだ。
黒田忠広教授を中心とするチームはCRESTにおいて他より先駆けて、その「近距離データ無線通信技術」で消費電力を一挙に従来の1000分の1に減らすことに成功した。近接場結合(コイルを使い、とても短い距離を無線で通信する方式)による積層チップ間無線通信技術「ThruChip Interface(TCI)」である。
具体的な数字をあげれば、ボタン電池1個分というわずかな電力でなんと2時間映画600万本のデータをチップ間で伝送できるようになった。1400年分の映像記録に相当するデータ量だ。これは、以前から低電力化とワイヤレス化の研究に取り組んできた黒田教授のチームだからこそ実現できた画期的な技術であり、次のステップを切り拓く大きな可能性を秘めた研究なのである。

1000分の1の電力低減を実現させたスルーチップインターフェイス

消費電力を1000分の1まで低減させたTCIとはどのようなものか。簡単にいうならば、大規模集積回路の中で、積み重ねられたチップとチップとのやりとりをワイヤレスで行う技術である。チップを平面に並べるのではなく積み上げていくことで高速化を図る、いわゆる「三次元実装」は世界中で研究が進んでいる。しかし、チップとチップを結ぶワイヤボンディングという技術は処理速度が遅く、また縦に穴を開けて信号の通り道を作っていく貫通シリコンビアは製造コストが高いなどの大きな欠点があった。(図参照)
そこで、チップを貫通する穴を開けるのではなく、回路技術を使ってチップ間を無線で結ぶというのがスルーチップインターフェイス=TCIなのだ。チップ上にある配線を使ってコイルを作る。片側のコイルに流れる電流を変化させるとコイル間を貫く磁界も変化し、もう一方のコイルで電圧の変化となってデータが伝わる。このように2つのコイルの間を非接触でデータ通信ができるという非常にシンプルな仕組み。シンプルではあるが「チップ間のデータの転送に磁界結合を使う」という発想が唯一無二のものだった。
スーパーハイビジョンから監視・暗視カメラまで
株式会社 ブルックマンテクノロジ (青山 聡 代表取締役社長/川人祥二 会長)
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イメージセンサーは、人間の眼の網膜にあたる。被写体をセンサーの受光面に結像させ、その光の明暗を電気信号に変換して画像を映し出す。
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月明かり程度(照度0.1ルクス)の場所で撮影した画像。肉眼ではほとんど色の識別ができない暗さの中でも文字まではっきり見えるため、監視カメラなどに利用されている。下はCCD撮影。

家庭でも超高速撮影ができる。ブルックマンテクノロジのホームページ(http://brookmantech.com/sample.html)の動画でミルククラウンの美しい現象を体感できる。
人間の網膜にあたるイメージセンサーの性能を左右する「電子シャッター」「A/D変換」技術

カメラを人間の視覚にたとえると、イメージセンサーは、取り入れた光を電気信号に変える網膜にあたる。CCDとCMOSの2種類の方式があり、CCDが電気信号をバケツリレーのように順々に運んでいくのに比べ、CMOSは電気信号を一括処理するため、高速かつ最適に信号を処理できる利点がある。
イメージセンサーの性能は、超高精細の映像を、いかに「超高感度」かつ「超高速」で撮影できるかで測られる。川人教授は、高性能化を実現させるため、フィルムカメラのシャッターの役割を果たす「電子シャッター」と、光の情報をアナログからデジタルに変換する「AD変換」技術の開発に取り組んだ。その実用化のために、大学発ベンチャーとして株式会社ブルックマンテクノロジを設立。2009年にはA–STEPにも採択されて研究開発を重ねた結果、革新的技術の開発と実用化に成功した。

月明かりでも被写体の色と動きを鮮明にとらえ明るいシーンまでしっかり表現

成果のひとつが、「CMOSグローバル電子シャッター」。従来の CMOS イメージセンサーの電子シャッターは、画素ごとに露光タイミングが異なる「ローリングシャッター」のため、動画を撮影した時のひずみが大きかった。CCDイメージセンサーで使われているグローバル電子シャッターなら、露光を同時に行うため、ひずみのない画像を実現できるが、CMOSイメージセンサ―ではリセットノイズと呼ばれるノイズが原理上除去できず、きれいな画像が得られなかった。しかし、独自技術を用いることでリセットノイズの除去に成功。CMOSでもグローバルシャッターの使用を可能にした。
また、従来のCMOSイメージセンサーが抱えていた、照度1ルクス(ろうそく1本の明るさ)程度では撮影が難しく、ダイナミックレンジ(扱える明暗差の幅)が狭いという2つの課題を、独自のAD変換技術などによって同時に解決した「超高感度・広ダイナミックレンジCMOSイメージセンサー」を開発。0.1ルクス(月明かり程度)でも被写体の色と動きを鮮明にとらえられ、明るいシーンまでしっかり表現することに成功した。この技術は、2012年には、中小企業優秀新技術・新製品賞の最高賞である中小企業庁長官賞を受賞している。

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社会技術・社会基盤
インフルエンザウイルスの画期的な合成法を開発
河岡 義裕(東京大学 医科学研究所 教授)

自然災害による犠牲者ゼロを目指して
片田 敏孝 (株式会社アイ・ディー・エー社会技術研究所 取締役研究所長/群馬大学 大学院工学研究科 教授)


被災者台帳を用いて
田村 圭子 (新潟大学 危機管理本部 危機管理室 教授)

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震災からの復興

科学技術イノベーションを活用
鈴木 賢二 (福島県ハイテクプラザ)
清水 友治 (岩手大学)
吉澤 誠 (東北大学)

津波塩害農地をエコで復興
菜の花プロジェクト………………………… 93
中井 裕 (東北大学大学院農学研究科 教授)

低炭素社会構築型の復興シナリオの提案
低炭素社会戦略センター(LCS)



国際的な活動/産学連携事業の成果/知識インフラの構築/次世代人材の育成/表彰・受賞・ライセンス

グローバルな問題の解決へ… …………… 95

研究機関と産業界をつなぐ… …………… 97

科学技術情報インフラの構築… ………… 99

次世代の科学技術を担う人材の育成…… 101

表彰/受賞など… ……………………… 103



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