天使の叛乱

見に来てくれてありがとう。「トウ子」と「はるかなる邂逅」を現在アップしています。時間が取れるなら2つ、notなら1つupします。

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たんぽぽ#343(トウ子)

 診察開始の五分前には兄の後ろにも数人が並んでいました。老人も二人混じり、開門されるまで、さらに数人が詰めかけました。母親は自動車のフロントボードに備え付けの時計をにらみ、トウ子を引き出して兄と替わりました。
 診察所のドアが開かれると、母親は自動車に戻りかけていた兄を招き寄せ、母親たちと一緒に中で待つように勧めます。
「別にいいよ。風邪をひいているんだろう。風邪がうつるよ」
「そう……じゃあ、どうしているの?」
「どうって、ここで待っているよ。何かあったら、携帯に連絡をして欲しい」
 母親は兄を見送り、トウ子の問診が始まるのを待ちました。

 トウ子は風邪と診断されました。最近流行っているので、医師も彼女に合わせた処方を出しますが、総合感冒薬と解熱剤を処方しただけでした。母親は大掛かりな診断を考えていましたが、拍子抜けでトウ子を伴って出てきます。
 医師に診察を受けたので、気を楽にしたトウ子は真っ赤な頬をさらに照らしあげながらも、症状が軽減したと軽口を叩くほどでした。
「トウ子は医者に行くまでが大変なんだから、特に、歯医者はね」
 母親はトウ子につぶやきを向けましたが、兄が車の前で携帯電話を触っているのを見て、途中で話を区切りました。
「ママさ、何があったの?」
 トウ子は尋ねますが、母親は首を振って、「何でもない」と言い、兄を助手席に入れて帰途につきました。

 母親は信号で停まるたびに、トウ子に現状を確かめていました。「問題ない」と返答するトウ子に再度問いかけていました。
「別に、問題がないんだから、いいじゃないか?」
 兄は母親の執拗さに釘をさしますが、母親は欠伸を加えて反論していました。兄から見た母親は少々熱っぽく、また、トウ子と同じように頬を赤らめていました。兄は風邪が感染している母親に従っていました。
 しかし、このまま乗車すると感染しそうなので、兄は助手席のドアを開けて換気を始めました。
「お兄ちゃん、ちょっと寒いよ」
「そうそう、窓を閉めておきなさい。寒いでしょう」
 二人からの反論にめげず、マンションに着くまで指先ほどを開け続けた兄は真っ先に車から降りました。
「お兄ちゃん、先に帰るの?」
「トウ子が歩けるならば」
 実際、兄の危惧は当たらず、真っ赤の頬のトウ子は母親に手を引かれていました。母親の顔も先程よりも赤く、少々離れても暗がりに浮かび上がるほどでした。兄は母親にトウ子同様に休むことを勧め、同時に感染を嫌って、一足先に戻っていきました。

 トウ子は母親の手が冷たいので、病気かと聞きます。
「さあ……でも、頭が重いのは確かだから、トウ子から病気をもらったかもしれないわね」
「そうすると、ママも明日は休みだ」
「そうは言っていられないのよ」
 母親は携帯電話を開いて、イサミの母やユミに電話をかけようとしましたが、どれも応答がなく、再び閉じてロビーへと向かいました。
 玄関で靴を脱ぎ、トウ子は体を壁にぶつけて部屋へと戻っていきます。母親は真っ先に洗面所に行き、うがいを始めました。それが終わる前に、携帯電話に着信が入り、ボタンを押しながら水を吐き捨てて応答します。
「ユミちゃん、どうしたの?」
「明日のことなんですけど、買い物に付き合ってくれますか?」
「別にかまわないけど。でも、明日元気だったらね。どうも、トウ子が風邪でうつされたようなの」
 ユミはトウ子の病状や通院などを聞いてから、手伝いを提案してきましたが、母親は咳を一度してから、申し出を断りました。
「ユミちゃんにうつすと大変だから。そうそう、お兄ちゃんは、車の中で窓を開けていたんだけど、ようやく分かったわ」
 母親の愚痴を聞き続けたユミは、今晩の食事を心配しましたが、結局、母親は何事もなかったように終わらせ、体温計を探しにキッチンへ戻りました。
 母親はまだ微熱でしたが、徐々に熱が上がっていそうでした。三十七度前半であり、体の自由が徐々に奪われようとしています。このまま、寝室へ向かう方が得策であるので、携帯電話を握りながらキッチンの照明をつけっぱなしにして、休息を求めました。しかし、夕食は作っておらず、メールで事情を父親に説明してから横になりました。
 兄は適当に冷蔵庫から食事を見つけてくれるだろうと考え、一時間と休息を決めてベッドで横になりました。
 兄は事情を把握していたので、コンビニエンスストアで弁当を購入して終わらせようとしました。しかし、出かけようとすると、その足音を聞きつけたトウ子が体をふらりとさせながら、薬を求めます。
「お兄ちゃんさ、しんどいから、薬を飲みたい」
 息も絶え絶えで、その指先が壁をひっかくかのように滑っていきます。さすがに放置することもできず、兄はトウ子を部屋に引きさがらせて、牛乳と水のコップと母親がキッチンのテーブルに放置した感冒薬と解熱剤を持っていきました。
 トウ子の部屋ではぬいぐるみたちがベッドの下で散乱しており、トウ子も暑苦しいので近寄りたくないとはねのけていました。兄は足元に気を配りながら、最初に牛乳を飲ませ、その後、薬を処方通りに飲ませました。
「とにかく、効くまで時間がかかるから」
「分かっている。寝ているから」
 トウ子は首まで蒲団を上げて、荒い呼吸を始めて、唸っていました。
 兄は錠剤や粉薬の空袋、コップ二つを持ち、キッチンに戻りました。母親の横になる寝室では兄の足音さえ吸い取るように静かでした。閉まったドアを一瞥して、容器をキッチンに運び、夕食を購入しに外出していきました。

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