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シネマのかけら座★

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映画『ハイヒール』でマザーコンプレックスと向き合う。

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[おススメ度:★★★★]
1991年・スペイン映画(原題:TACONES LEJANOS)
監督・脚本/ベドロ・アルモドヴァル
音楽/坂本龍一
出演/マリサ・パレデス/ビクトリア・アブリル/ミゼル・ボセ/ミリアム・ディアス・アロカ

スペイン映画『ハイヒール』を久々に観ました。彼の映画で一番好きなのが、コレ!!
有名な歌手である母親を恋しく思う一方、母に捨てられたと思い込んでいる娘の物語。映画のあっちこっちにマザーコンプレックスが散りばめられています。母と娘の心の葛藤を軸に展開するメロドラマな筋書きに絡む色と毒とスリリングなストーリー展開、殺人あり、ダンスシーンあり、トリックありの楽しませ方。ファッションだって母はアルマーニ、娘はシャネル。インテリアもキッチュでモダン。そしてメロメロのラテン音楽で、この映画を観ずしてアルモドバルは語れない?! ただ、字幕を追っている身には少々忙しい映画かもしれません。

■こんな映画■

流行歌手ベッキーは、恋多き女。結婚は2回、愛人も沢山いる。娘レベッカは、継父との折り合いが悪く、母の愛を独占しようとして、継父を死に至らしめてしう。悲しみに暮れた母・べッキーは、娘レベッカを置いて、メキシコへと旅立つ。
15年後。大きな成功を収めた母・ベッキーは、スペインに凱旋帰国、娘レベッカと再会する。レベッカは、テレビのニュース・キャスターとして活躍する一方、なんと! 母の昔の恋人マヌエルと、結婚していたのだ!! しかしこの結婚は、破綻状態にあった…。
ある日、マヌエルは殺される。容疑者として挙がったのは、べッキー、レベッカ、そしてマヌエルの愛人イザベル…。彼を殺したのは、誰? 生放送で、マヌエルの死を報じるニュースを伝えるレベッカは、原稿を読んでいくうちに、感情を抑えながらも次第に興奮し、震えながら「私が殺しました」と告白する事から物語は始まります。

母と娘の心の葛藤は、胸をナイフで付き刺されたくらいドスンと痛い!

独占欲、母に対する愛、その愛が満たされない事による憎しみ、愛が渦を巻き、娘レベッカは母に追いつきたい、見つめられたい、抱きしめられたい・・・・と、どこまでも母親抜きでは人生を考えられないでいます。テレビの人気キャスターとしてキャリアを積んだ彼女は、母が得られなかった 「愛」 を自分のものにする為、母のかつての恋人と結婚までしてしまうのですから、同性として限りない哀しみを感じます。一方、母べッキーは、母親である事よりも、女である事を選び、いったん娘を捨てる。愛がすれ違う2人の心の葛藤を際立たせ、対比させるのは、華やかな色の洪水で、娘はシャネルに身を包みながらも、どこか危なげでナーバス。一方、母はアルマーニも恐れ入るような存在感で、堂々と着こなしている。

娘が殺人罪で逮捕されてもステージに立つ母が歌うのは”PIENSA EN MI”(私を思って)。

「 ♪ 落ち込んだときには、私を思って〜   泣きたい時も、そう、私を思って〜 」

娘レベッカは、留置場に持ち込んだラジオで、母のライブを聞き、涙にくれる。さて、この愛憎の果ての結末はいかに!? ですが、ここから、またスゴイ展開が待っていますが、でも哀し過ぎる結末です。

『 ド ウ シ テ 、 ソ コ マ デ 母 親 ナ ノ カ ? 』

親は子供に取って初めて出会う社会の壁。どうしてもそれを乗り越えないと、次なるステップを踏み出す事が出来ない存在。だからといって具体的にどうすれば親を乗り越えられるかというハウツーがあるわけではなく、人の心は人それぞれでA子に取っては何でもない事でも、B子に取ってはかなり厄介なものだったりするものなのです。思春期を迎えた子供達は親を煩わしく思い、反発し、親の言う事にいちいち逆らいつつ、自分で自分の道を暗中検索していくのです。親が子を思えば思うほど、その愛情は重く感じられ、口を聞くのさえイヤになる、そんな時期、貴方にもありませんでしたか? 

し か し 、 そ れ も 親 に 対 す る 甘 え の 一 種 な の で す 。

必 ず 抱 き し め て く れ る 人 へ の 抵 抗 。

自 分 を 絶 対 的 に 愛 し て く れ る と い う 確 信 の も と で の 反 発 心 。

こ れ ら は 、 や は り 大 人 に 成 る た め の 通 過 儀 礼 な の か も し れ ま せ ん。

映画『ハイヒール』の中に、ハイヒールの踵の音と共に、母が帰って来るシーンがあります。遠くから聞こえてくる踵の音に喜びながらも、また直ぐに遠ざかってしまうのでないか、娘レベッカはいつも、不安から解放されないまま、母に捨てられて大人に成ってしまった。ハイヒールの踵の音は、娘レベッカに取って、きっと母親という存在そのものだったのでしょう。哀しい事ですが、娘レベッカは、肉体的にどんなに大人に成ったとしても母親から絶対的に愛されているという確信が持てなかったために、いつまでも母親に固執してしまったのかもしれません…。

それにしても、母べッキー役のマリサ・パレデスの存在感は圧巻! 背中が大きく開いたドレスを着て、ステージでひれ伏せるシーンがあるんだけど、その背中に刻まれた無数のシミたちは、男の顔は履歴書だというけれど、女の背中は歴史を物語るんだと、圧倒されます。
レベッカ役のヴィクトリア・アブリルは、国際的にも活躍するスペインの大女優。母の愛に飢え、複雑な葛藤を内包する。エキセントリックな娘を見事に演じてます。特に、ニュースを読むときの地を這うように低い彼女の声が忘れられない…。

★最近は友達風の親子、取り分け母と娘が多く成ってきたようです。そうなるとお互い、やけに物分かりがよく、抵抗や反発等いらずに、一見、長々と仲良く過ごせそうなのですが、もたれ合い、依存し合い過ぎて、やがて負担になり息苦しく成ってくるみたいです。どういう育て方が一番いいかなんて答えはないけれど、自分の親子関係を見つめてみると、色々な事が解ってきそうです。映画って、日常の何気ない事を何気なく気付かせてくれるから、やっぱりいいものです。

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