シェソア

お菓子教室と洋菓子店を開いている菓子工房シェソア。主宰冨田幸敬のブログです。

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前回の〈お菓子作りは科学?〉の続きです。
お菓子作りと科学的知識との関係を実際のお菓子作りで考えてみましょう。

どなたもご存知で、基本中の基本のお菓子ともいえるパウンドケーキを例にとってみます。主原料である、バター、砂糖、卵、粉をほぼ同分量ずつ順番に混ぜるだけのシンプルなお菓子です。
何も知らず何も考えず、ただ混ぜていくだけだと、うまく混ざらなかったり、途中で分離したりします。なぜだかよく分らないけど、焼き上がりが固くなったり、口どけが悪くなったり、脂っこくなったり、フルーツを混ぜたら全部下に沈んでしまったりと、様々な失敗をしてしまいます。
このパウンドケーキの場合、最も大事なのはバターの性質です。
バターというのはおおざっぱにいうと、乳脂肪と全体の20%前後の水分とが乳化した状態で、つまり、分離していない状態で混ざり合っています。水と油は本来混ざらないのですが、つなぎ合った脂肪分の中に水分が点在しているような形で「乳化」という特殊な状態で混ざり合っているわけです。
この乳化の状態をこわさずに、つまり、分離させないで生地を混ぜ終えることがパウンドケーキ作りのすべてだといってもいいくらいなのです。
分離させてしまうと、ふくらみが悪くなって固くなったり、脂っこくなったり、フルーツを混ぜたら全部下に沈んだり、分離をつなぐために粉を混ぜ過ぎて、歯切れや口どけが悪くなったりと、様々なことが起きてくるわけです。

パウンドケーキの作り方は何種類かあります。代表的なのは、バターを柔らかくして、まず砂糖を混ぜ、次に卵を少しずつ混ぜ、最後に粉(+ベーキングパウダー)を混ぜるだけの作り方です。
この場合、バターと卵の分量がほぼ同量で、卵には多くの水分が含まれるのですから、バターに卵を混ぜていく段階で、よほど気をつけないと分離させてしまいます。おまけに、日本のバターは乳化力が弱く、卵は水分が多いので、分離させずに混ぜ終えることは実はとてもむずかしいことなのです。
バターの脂肪のつながりが切れてしまって水分をかかえきれず、分離してしまうわけです。

では何に気をつければいいのでしょう。なぜ、分離したり、分離しなかったりするのでしょう。
ポイントは温度です。バターとそれに混ぜる卵の温度、そして作っている場所の室温に最大限の注意が必要となります。
ご存知のように、バターというのは温度によって状態が変わります。冷蔵庫に入っているような状態だと、かちかちに固まっています。そして室温に置いておくと柔らかくなって、混ぜてやるとクリーム状になります。また、熱いトーストにのせたり、フライパンに入れて火にかければ、液状になって脂と水に分離していきますね。
かちかちに固いバターに卵はもちろん混ざりません。また、溶け過ぎて脂と水に分離したものは、乳化の状態がこわれてしまっているわけで、さらに水分が加わって混ざるわけがありません。柔らかいクリーム状で、かつ、溶けてしまわないで乳化の状態をしっかり保ったバターでなくては、卵はうまく混ざっていかないわけです。
バターにもよりますが、私の経験では大体23℃から25℃くらいの温度です。加える卵の温度も同じ温度を保たなければなりません。そして、卵を一度に入れてしまうと、脂肪分のつながりが切れてしまって分離してしまうので、少しずつ少しずつ混ぜていかなければなりません。

ところが、そうして温度を保ち注意深くやっても、分離させてしまうことがあります。
それは、混ぜているうちに室温の影響を受けるからです。室温が低過ぎれば、混ぜているうちにバターは過度に固くなります。全体としてはいいあんばいのクリーム状に見えていても、目に見えない部分での中の一部が過度に固まっている場合があるのです。室温が高過ぎる場合も中の一部が溶けてしまっていることがあるわけです。
このようなバターの状態の時に、卵が加わると混ざりきらずに分離してしまいます。あっ、柔らか過ぎるな、固過ぎるなと思って、あわてて冷やしたり温めたりしても、それは一部分を過度に固めたり溶かしたりすることになって、効果はないわけです。
見た目ではほとんど分らないのです。分離してしまって初めて気がつくことになります。分離したらもう元には戻りません。ここがむずかしいところです。

では、どうしたらいいか、結論を言いますと、バターの温度、卵の温度、そして室温にも気をつけ、状態をよく見ながら、固くなっていかないか、柔らかくなっていかないかなど、どんな変化も見逃さないようにします。
そうして、変化に応じて、卵の温度をわずかに、あくまでもわずかに上げ下げしながら少しずつ少しずつ混ぜていきます。目に見えない部分も頭の中で自分がバターになったつもりに、卵になったつもりになってイメージ(想像)しながら、注意深く注意深く混ぜていくしかありません。

材料の性質、乳化とは何か、混ざるとはどういうことかなどをよく理解して、それらの知識を利用して、確たるイメージを頭の中につくっていくことが、物つくりには大事なことだということが分っていただけるでしょうか。

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