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1962年に写された1枚のポートレート。。。時に取り残されたように肩を落としうつむいた一人の老人。あちこちに油染みの付いたよれたスーツに取って付けたように頭に乗せられた山高帽

額には深く刻まれた皺。力なく組まれた両腕に無造作に抱えた古ぼけたギター。そのネックにはめられたカポタストは”鉛筆”で代用されている

いつまでたっても名前が呼ばれる事がないまま順番待ちをしてる待合室の老人のように・・・所在なくそこにいつまでも座っている。忘れられた置物のように。。。






この老人の人生についてちょっと考えてみようか。お世辞にも裕福で幸せな暮らしをしてるとは考えにくい。年の頃なら60歳ぐらい?ギターを抱えてる所を見ればミュージシャンなのかもしれない。。。

彼は若い頃はちょっとは名の知れたミュージシャンだった。そうブルーズ・マン?ブルーズ・マンだ。彼の疲れ切った表情、何かを諦めたような佇まいからはブルーズの匂いがする

戦争を挟んで彼は行方知れずになり、この写真が撮られるまでの20年あまり人知れず電気も水道も通らない町外れの掘っ立て小屋の極貧の中で暮らしていた

生きるだけで精一杯の生活。。。かつてのミュージシャン仲間は彼が死んだものと思っていた。彼は損なわれていた。彼の手には何も無かった。彼には自分が生きているという実感さえなかったかもしれない

雨露をしのぐばかりのおんぼろ小屋で無為に時を過ごすだけの毎日。。。そう彼の目からは光が失われていた。その事で生きる術も失い家族や友人に疎まれ、台所をうろつくネズミにまでバカにされる始末だ




忘れ去られた時間の外で男は何もかも奪われていた。日々を過ごす金も、少しばかりの誇りも、愛も、視力も全て奪われていた。。。男の手からは手に馴染んだギターさえも失われていた

ある日閉ざされていた時間の重い扉は開かれた。彼の行方を捜していた一人の男がボロボロになったこの老人を探り当てた。

何もかも失ったかつてのブルーズ・マンにその男は車に積み込んであったギターをそっと手渡してみる。老人はその感触を確かめながら自分の中にかつてありまだ失われてないものの在り処を探していた

漆黒の暗闇の中で小さな灯りを頼りに落し物を探すように。。。

老人は男に1本の鉛筆となにか紐を貸してくれと頼む。ギターのペグを弄りながらか細い音で失くした音階を手繰り寄せる。。。

老人は軽く頷くと男の助けを借りながらギターの5番目のフレットにその鉛筆を結わえ付け静かにため息をついた。。。








『スリーピー・ジョン・エスティスの伝説』

ブルーズ。。。嘆きや苦しみをブルーノートの音階の中でメロディにして歌わせる。ある種の様式や決まりごとの中でむき出しにされた感情を搾り出す・・・レモンの汁を絞るように。。。

スリーピー・ジョン・エスティスこの忘れさられたブルーズ・マンがギターを再び手にして歌ったブルーズは嘆きを歌ったものというよりは”嘆き”そのものだ

それはかつて私が聴いたどんなブルーズよりもどんな悲しい歌よりも悲痛で痛々しい。

「ラッツ・イン・マイ・キッチン」は余りの貧しさにネズミにさえバカにされる有様を自嘲する歌声があまりにもリアルで聴くものの胸を締め付けずにはいられない

「アイド・ビーン・ウェル・ウォーンド」では目がみえなくなって親友も家族もみんな去ってしまった事を嘆き、忠告に従うことなく光を失った自分を自嘲する。。。




人間は悲劇が好きだ。ギリシャ悲劇の昔からそれは心情として伝わりやすくセンチメントを刺激するものだから

夕暮れの悲しさは朝焼けの清々しさと良く似てながら全く別な感情を喚起する。終末を連想させる悲しさはより心の琴線を刺激し複雑な陰影を投げかけるはずだ

人はこれから始まる1日よりも、通り過ぎてく1日の終わりにいろんな事を思うものなのだ。あぁ自分のようなオセンチな人間にとっては特にね。。。




ブルーズのアルバムを少ないとはいえ数百枚は聴いてるはずだがこれほど心にダイレクトに響いたものは他に無い。

私のブルーズに対する理解が乏しいものとはいえこんなに心を動かす歌声に出会う事はこの先もう無いような気がするのだ。それは先にも話したように”嘆き”そのものなのだ。

振り絞るように歌われるその声は何も語らない。ただ嘆いているだけなのだ。ただただ悲しい。そこには物語ももしかしたら感情さえも無い。余計な事を語らないことが却って聴くものの心を打つこともあるのだ

スリーピー・ジョンの戦前の演奏を聴かずして彼を語るなかれ!とブルーズに通じた人に怒られるかもしれない。だが私は彼のアルバムに関してはこれだけで良いと思っている

彼はこのカムバック後もRECを残し、素晴らしい演奏で多くの人の心を打ったのだと思う。それは素晴らしい事だしこのアルバムよりずっと良いコンディションでRECされたものも有るだろう

でもこれは私にとって一つのドキュメントなのだ。それは有る意味で音楽を超えている。人の”嘆き”を形にしたらこれが出来上がった。。。そんな音楽だ。それはこのセッションでしか生まれ得ないものだったはずだ




今日は眠る前にこれを聴いて寝よう。私は1日の終わりにこの歌声を聴いて少し悲しい気持ちになり、彼の人生を少し思い、生きてく事に纏わる悲しみを抱いて眠りにつこう

それは痛々しくも”人間の心の叫び”である、何一つ飾りのないその歌声に不思議な安らぎを感じながら眠りにつこう

私はそこに恐怖も悪魔の存在も感じない。今夜はどこか人間離れした”クロスロードの伝説の住人”の歌よりも”一人の老人の伝説”に耳を傾けて眠りたい。。。




*試聴はこちら
    ↓
http://listen.jp/store/album_pcd23671.htm




*追記・・・今夜に限らず”クロスロードの伝説”のブルーズ・マンの歌は眠る前には聴けないんだけどね(笑)理由は過去記事参照。







THE LEGEND OF SLEEPY JOHN ESTES
/SLEEPY JOHN ESTES







01. Rats In My Kitchen

02. Someday Baby

03. Stop That Thing

04. Diving Duck Blues

05. Death Valley Blues

06. Married Man Blues

07. Down South Blues

08. Who’s Been Telling You, Buddy Brown

09. Drop Down Mama

10. You Got To Go

11. Milk Cow Blues

12. I’d Been Well Warned

           /1962年発表

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閉じる コメント(24)

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rainsongさんすごく原始的なブルーズです。ブルーズそのものというか。。。
濃縮ジュースを薄めないでのんじゃったみたいな(笑)カキ氷のシロップをそのまま飲んじゃったみたいな(笑)
そこに体温を感じる分、痛みが伝わるっていうんですかね?
ブルーズに興味がなかったり、あまり聴いて無い人にも伝わる歌声だと私は思います。

2007/5/28(月) 午前 1:16 [ ekimaejihen ] 返信する

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だっちさん温もりがあるでしょ?ハープの音やピアノの音も含めて。そこにあるのは嘆き以外の何物でもないんですけど表現としてストレートな分ガツンと来ますね。
音が古臭くてどうもなぁ。。。ってのはオールド・ブルーズを聴く時にどうしても感じてしまうんですけど、このアルバムは時代を越えた一つの表現として凄く感情に流れ込んできます。
機会があったら是非聴いてみて欲しいですね♪

2007/5/28(月) 午前 1:19 [ ekimaejihen ] 返信する

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この人はライ・クーダーのアルバムで初めて知りました。“ケネディ大統領”って曲でライとこの人が競演してますね。

2007/5/28(月) 午前 3:02 [ - ] 返信する

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雷鳴さんどうも『流れ者の物語』ですね、初期のライは好きでした(^^この人はブルーズを聴き始めて比較的に早い時期に聴きました。 日本ではかなり売れたアルバムらしいです。勿論発売時には知りませんでしたけどお奨めのブルーズ盤みたいな本かなんかの紹介で聴いたと思います”大当たり”でしたね。まさに”ブルーズ”そのものです。

2007/5/28(月) 午前 8:41 [ ekimaejihen ] 返信する

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名前さえも知りませんでしたが、非常に興味があります。
名前、覚えておきます。

2007/5/28(月) 午後 0:37 Groove 返信する

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GROOVEさんこの人の世界もまたウェイツの世界に通じるものがあります。ウェイツは自らブルーズを呼び込む人ですがスリーピー・ジョンに関しては否応なくブルーズにさらされてしまった人とでも言えるでしょうか?
痛々しい嘆きはウェイツのそれよりもよりリアルです。

2007/5/28(月) 午後 1:15 [ ekimaejihen ] 返信する

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わたしも知りませんでした。でも心を音楽で表現できる才能があったのはこの人にとって 救いだったのでしょうね。ジャケットのくすんだアオが しみてきます。

2007/5/28(月) 午後 1:49 [ SYD ] 返信する

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SYDさんどうも。そのまま人々の記憶からそっと消えていく人生もあったかもしれません。
彼の消息を探しあてたブルーズ研究家(だったと思います)が光を当てたことで、暗闇に満ちた彼の人生が再び音楽という光を得て救われたのだろうと思います。
その嘆きが多くの人の心を動かすことになったのですから。。。

2007/5/28(月) 午後 2:54 [ ekimaejihen ] 返信する

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トーキング・ヘッズの後にコレが来るとは、、(笑)
ブルーズの人たちは死んじゃってからアルバムが売れたりとか多いんですよね。そのあたりもブルーズらしいと言えばらしいんですけど。。

2007/5/28(月) 午後 3:01 花柄 返信する

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花柄さんどうも。最近は記事の書きかけが多いんです、途中でなげちゃうんですね(^^;一気に書く時もあるんですけど、ハンパになった記事を仕上げるパターンが多いのでもう傾向はバラバラです(笑)
昔のブルーズ・マンは悲惨な人生を送る人も少なくありませんよね、だからブルーズを歌うのか?ブルーズがそうさせるのか?判りませんけど。。。リアルな歌声やギターの音は心に響きます。

2007/5/28(月) 午後 3:19 [ ekimaejihen ] 返信する

憂歌団とのジョイントで来日した時のビデオは僕の宝物なんですよ^^本当にブルースそのものと言っていいほどのひとですよね。TBさせていただきます。

2007/5/28(月) 午後 11:08 ウッチー 返信する

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rocks130rさんTB有難うございます。憂歌団と競演したのは知ってますが音源、映像などは見た事がありません。
確かにブルーズそのものの人生だったのでしょうね。。。

2007/5/28(月) 午後 11:56 [ ekimaejihen ] 返信する

試聴してみました♪「枯れた感じ」「さわやかさ」「やわらかさ」があるブルーズという感じがしました♪いいですね。重量感には興味が薄くなってきてるので、こういうの、好きです。名前もカッコイイ。眠そうなジョン・エステスなんて。

2007/5/29(火) 午前 1:37 [ カール(カヲル32) ] 返信する

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kaoruさんなるほど。重量感が感じられない。。。試聴で少しずつしか聴けないという事もありますがその感じは判ります。
さわやかだったりやわらかく感じるのはここに収められているレパートリーの殆どは、スリーピー・ジョンが戦前白人相手に歌ったカントリーブルーズのレパートリーなので曲調そのものは重く沈んだものではないんですよね。。。
1曲目と12曲目については彼の”嘆き”が歌われていて悲痛なものです。
その他の曲についても枯れ井戸を絞るような声、か細く頼りないギターの音、足でとられるリズムの音さえ私には全て切なく感じてしまいます。
彼のちっぽけさや乾ききった哀しみに浸されてしまいます。彼の存在の弱さに自分の弱さがシンクロしてしまうのかもしれませんね。
スリーピー・ジョン・エスティス確かに格好良い名前です。スヌーピー・ジョンじゃなくて良かったです(笑)

2007/5/29(火) 午前 2:20 [ ekimaejihen ] 返信する

まいったなこりゃ。このアルバムを聴いたことはないけど,駅前さんの文章できっちり情景が伝わっちゃうところがすごいと思います。こんなテイストの記事もあるんだなあと感服しました。「パクってよかですか?」(笑)

2007/5/29(火) 午前 9:09 ヘタレ自分 返信する

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ヘタレさんどうも。基本的に書いてることは粗方事実に即して書きました。状況的にはフィクションの体裁で想像しましたけど。。。
お褒めに預かり有難うございます。なんとなくでも雰囲気が伝われば嬉しいです♪

2007/5/29(火) 午後 0:11 [ ekimaejihen ] 返信する

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名前だけしか知りませんでした。そんなストーリーがあったんですね。本来のブルースのあるべき姿なのかも知れませんねぇ。要チェックです。

2007/6/1(金) 午前 0:59 BBコシ 返信する

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コシさんこれはお奨めです。どこまでも悲しいブルーズです。。。
でもkaoruさんの試聴コメント読んで思ったんですけど有る意味聴きやすさを確かに含んでるなぁと、ちょっと目からウロコでした。
負の部分も含めてひじょうに入って来やすいブルーズです。
どこまでも人間臭くて切ない嘆きですが悪魔の存在は感じられません(笑)

2007/6/1(金) 午前 1:26 [ ekimaejihen ] 返信する

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相変わらずの遅ればせではありますが、今聴いております。この声、ギター、ハーモニカ、若い時に聴いた覚えがあります!絶対聴いています!大学の先輩から大量の酒と共に大量のBLUESを仕込まれまして、その中にあったはずです。
思い出しました。←こればっかだな(^^;
18歳のガキには早すぎたのでしょうが、何故か忘れていなかったようです。というか忘れられなかったのかもしれません。今夜はエスティスに抱かれて眠ろうと思います。

2007/6/5(火) 午前 0:29 rainsong 返信する

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rainsongさんこんばんは。かつて聴いたことがあったのですね(^^再会おめでとうございます。
ブルーズは18歳だとね、早いでしょう!勿論15歳で理解する人もいるわけですが(^^;私はストーンズ、ディランでさえ高校生の頃は良く判らんと思ってましたから。。。(笑)
これはその時わからなくても耳に残りますよね、やっぱ。。。
抱かれて眠ってください。人間の温もりがあります(^^

2007/6/5(火) 午前 2:26 [ ekimaejihen ] 返信する

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