防人(さきもり)

中共・北朝鮮の覇権拡張主義を粉砕!

『日本』の正念場 1

国際政治はいつの時代も首脳の資質に左右される。1981年に誕生した米
国のレーガン大統領は、79年に政権を奪取した英国保守党のサッチャー
首相、さらには82年に首相となった中曽根康弘氏らと社会主義体制のソ
連邦と対峙した。

自由と民主主義陣営が冷戦に勝利して、ユーラシア大陸のアジアには5
の一党支配の社会主義・共産主義国が残った。中国、北朝鮮、ベトナム、
ミャンマー、ラオスである。

冷戦終結から約20年、私たちは再び、国際政治の大変革の時期を迎えて
いる。現在は、5つの国々の内、今に至るまで他国に脅威をもたらし続け
る一党独裁の2つの国、中国と北朝鮮との闘いが激しさを増している。


れは歴史の前進か後退かを巡るせめぎ合いだとも言える。自由を尊重し、
法治と民主を基盤にした透明な国家運営を推進するのか、一党独裁と軍
事力で国民の声を圧し一握りの権力者を主軸に国家を運営するのかを決
する闘いでもある。

闘いの主役は諸国の首脳だが、アジア、太平洋、ヨーロッパの主要国首
脳は今年、軒並み交代する可能性がある。

北朝鮮にはすでに三代世襲の金正恩新指導部が誕生した。その影響は、
後述するように米中の対立を深め、最悪の場合、軍事衝突につながりか
ねない。日米韓対中国という対立の構図はすでに明確になりつつあり、
日本政府は最悪の場合も想定して、覚悟と準備を整える局面だ。

台湾では、今週末の114日、総統選挙が行われた。中国寄りの国民党・
馬英九氏の再選。

3
4日はロシアの大統領選挙だ。プーチン首相の強権政治に国民は強い
批判を表明しているが、プーチン氏の大統領への返り咲きは現時点では
堅いと見られている。

だが、プーチン氏のロシアにも、2010年末にチュニジアで始まり、エジ
プト、リビアなどの独裁政権に崩壊をもたらした中東のジャスミン革命
の波が達している。

ロシアや中国にとって、この民主化運動ほど恐怖の種はないはずだ。恐
れる余り、彼らは国内だけでなく、対外政策においても弾圧と強硬策に
走る。彼らの弱点こそ日本の強みであることを忘れてはならない。

4
11日は韓国の総選挙だ。昨年10月のソウル市長選挙では骨の髄からの
左翼といわれる朴元淳氏が勝利し、韓国における左派勢力の浸透振りを
見せつけた。4月の総選挙、12月の大統領選挙での与党ハンナラ党の敗北
と左翼の野党の勝利が予測されるゆえんである。

4
月以降、フランスの大統領選挙、EUの債務危機の震源地となったギリシ
ャの総選挙も予想される。

10
月には中国の指導者が胡錦濤氏から習近平氏に代わり、116日には米
国の、12月には前述のように韓国の、大統領選挙が続く。

その間にわが国の総選挙はいつ行われてもおかしくはなく、今年末の首
相が野田佳彦氏か否かさえ、予測出来ない。

こうしてみると、指導者交代で、結果を見通すことが出来るのは中国と
ロシアのみ、北朝鮮の世襲政権を加えると、一党独裁、もしくはそれに
近い体制の国々である。

日本、米国、韓国、欧州、台湾という民主主義と自由を旨とする国々に
おいては、国民が自由であるが故に、予測は難しい。また、後述する米
国の事例のように、安全保障上の危険が明らかでも、財政規律が優先さ
れるなど、政策も思い通りにいかない場合が多い。


経験不足の金正恩

予測も難しく、手続きに時間がかかるにしても、民主主義を選んだ国々
が直面する最大の脅威は、一党独裁で覇権主義の中国である。南シナ海、
東シナ海、インド洋ではすでに中国の異常な軍拡が深刻な摩擦を引き起
こしている。

昨年12月の金正日の死去と正恩体制の誕生は、この軋轢を、軍事衝突を
含む米中対立へと先鋭化させる危険性を含んでいる。最悪のシナリオは
先に指摘した日米韓対中国の衝突だ。経験不足の金正恩指導部の拙劣な
外交が、直接の引き金にもなり得る。

金正恩後継体制の下で朝鮮労働党機関紙の労働新聞などが11日に掲げ
た新年共同社説はこう明記した。

「偉大な金正日同志の遺訓と政策を寸分の狂い、一歩の譲歩もなく無条
件であくまで貫徹し、その道では絶対に変化はあり得ないというのがわ
が党の確たる意志である」

従来路線をこのうえなく頑迷に守り抜くという決意は、とりわけ中国に
向けられたと見るべきだ。中国が求める開放路線も核放棄も、絶対にな
い、北朝鮮を変えようとは考えるなと、警告しているのである。

金正日の中国嫌いには定評があったが、それをストレートに実践しよう
としたのが、1230日、金正恩が全国民向けに発令した外貨使用禁止令
であろう。

この場合の外貨は、ドルでも円でもなく人民元に他ならず、強い中国排
除の思考を反映させた指示である。だが、それでも北朝鮮は中国に頼ら
ざるを得ない。

2010
年の中朝貿易は09年比で約30%増えて346億ドル、対ロシアの1億
ドル強とは比較にならない。北朝鮮の食糧や日用雑貨は8割が中国製品だ。
人民元の使用禁止後の方策は全く見えない。

北朝鮮の外貨稼ぎの柱のひとつ、武器輸出も中国の黙認なしには不可能
だ。国連安全保障理事会の北朝鮮の武器密輸に関する10年から11年の年
次報告は、摘発された10件中4件が中国経由の密輸だったと明記した。

それ以前の099月、シリアに向けた化学兵器開発用の試薬と14,000着の
化学防護服を積んだ貨物船、同年11月、コンゴ共和国向けの戦車用部品
を満載したコンテナ、さらに同年中、イラン向けのロケット弾用の信管
12万点と弾頭約11,000点を積んだコンテナは、いずれも大連または上
海経由で出航したことが判明している。

中国は北朝鮮による武器装備及び化学兵器の拡散を黙認することで、金
政権の経済基盤を事実上支えてきた。中国の黙認なしには、北朝鮮は米
露に次ぐ世界第3の化学兵器大国にもなり得ず、外貨の多くも稼げなかっ
たといえる。そこまですでに北朝鮮は中国に搦めとられているのである。

政権の世襲に反対であるにも拘わらず、中国が正恩氏への世襲を認めた
理由はただひとつ、北朝鮮を着実に中国の影響下に置き、朝鮮半島全体
を自身の勢力圏とすることだ。

中国に搦めとられるのを避けるために、金正恩新指導部が昨1228日、
金正日総書記の告別式のころに、米国に食糧支援を要請していたことが
判明した。

金正日総書記の遺訓として、核の放棄はあり得ないと明言し、正日総書
記の死去に弔意を示さなかった日本を「わが人民と軍隊は決して許さな
い」と非難し、韓国政府は「永遠に相手にしない」と罵詈雑言を浴びせ、
脱北を試みる者は射殺せよと命じる新指導部の要請を米国が拒んだのは
当然であろう。経験不足で強硬路線の正恩体制の早期破綻が予測される
ゆえんだ。

朝鮮半島情勢が根本から揺らぎ、米中両国を巻き込む大戦略のせめぎ合
いが眼前で進み始めたいま、日本こそ、命運をかけて自国の未来を切り
拓くことに叡智を結集すべきときなのだ。

『週刊新潮』 2012119日号
櫻井よしこ

メルマガ「頂門の一針」から転載

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