夏草や強者どもが夢のあと:「人口老齢化・調査研究」顛末記(その2)
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夏草や強者どもが夢のあと:「人口老齢化・調査研究」顛末記(その2)
5) 「高齢者の脳血管疾患の治療と予防の臨床調査」研究班は、頻繁に班会議を開いた。
高齢者の脳血管疾患、がん、心疾患の三大成人病が全死因の6割以上を占め、医療費6.5兆円
のうち、65歳以上の高齢者の医療費は3割以上を占めるという現実は、すべての研究班員の医師に
重くのしかかっていた。
どこからどのように脳血管疾患の調査研究に着手し、発展させ、可能性を見出せばよいのか。
基礎・臨床の専門医、脳卒中患者のリハビリ治療・予防の専門医、医療統計の専門医もまったく
手探りだった。
政府発表1975年度の医療費6.5兆円は、前年度の20%増を示し、国民総生産は9.7%増、
国民所得は13%増であり、医療費の伸びは異様であり、医療費に占める薬剤費の割合は40%近く
になっていて、マスコミは、検査漬け、薬漬け医療と警告していた。
班会議では自由、活発な討議が行われた。
脳卒中患者リハビリ治療・予防の専門医は、高齢者の脳卒中、がん、心疾患の三大成人病が全死
因の6割以上を占め、高齢者の医療費が3割以上を占める現実は、すべて他人任せの日本人の将来
を暗示していると思うと言い、終末医療費は、死期が近づくほど多くなる傾向があり、ある調査によれば、
死の直前1ケ月の一人当たり医療費は平均医療費の10倍になる報告があると言った。
検査漬け、薬漬け医療を一刻も早く転換し、高齢者の三大成人病のリハビリ専門施設、終末ケア施設
を増やし、各種の医療ケア専門家の育成を強力に推進すべきだが、政府も国民も無関心だと嘆いた。
内科臨床医は、医者は、毎日多くの患者を診療しなければならず、3分診療では、薬剤の多剤投与
は避けられない。患者の意識にも問題があり、薬を出さない医者を悪く言い、逃げてしまうと言った。
医療統計に詳しい医師は、診療報酬制度に問題がある。検査、薬、手術、多いほど医者は儲かる。
腕の悪い医者ほど儲かる仕組みになっていて、良心的な腕の良い医者ほど貧しくなる。
現行の「出来高払い制度」から、一定の「患者請負方式」を工夫した診療報酬制度に改革しないと
医療保険制度は崩壊すると言い、だが、医師会が猛反対するから、政府はやらないね、と笑った。
6) ある日、班会議では次のようなことが話題になった。
「公害」が社会問題化していた。自動車排気ガス、企業工場ばい煙、光化学スモッグなどの大気
汚染、企業工場排出水などによる河川、湖沼、沿岸内海の富栄養化による赤潮、水質汚濁、道路、
工場、建築騒音・振動・悪臭などの「公害」が、高度経済成長のかげで深刻な環境破壊、人間とく
に高齢者、乳幼児、病弱者の健康被害者を多数生み出していた。
深刻な「公害」が高齢者に及ぼす心身への影響と環境改善、医学的対策について活発な論議が
続いたが、医師の一人が、突然、「今は公害対策が問題になっているがね、近い将来、老害対策
がもっと深刻になるよ」と言い、笑った。
私は、「老害」という言葉をそのときはじめて耳にしたので、「老害」とはなんですか?と聞いた。
研究班の医師らはいつも話し合っているらしく、こちらの質問に子どもを見るような目つきをして、
笑いながら、だから「老害」だよ、と繰り返して言い、また、可笑しそうに、笑った。
7) 研究班の医師らが、「公害」をもじって「老害」といった意味を、私は、そのときはじめて知ったが、
笑っている医師らを怖ろしい人間だと思った。不快なものがこみあげてきたが、医師らの言った
次の言葉はもっと意外でもっと怖ろしいものだった。
「1975年、65歳以上の高齢者が占める人口の割合は8%だが、1994年には14%を超えて、
高齢社会になる。2005年には20%を超える。 政府の将来推計では2042年までに37%に
増え、2055年には40%になる。少子高齢化で、総人口は減り続ける。15−64歳の生産年齢
人口は51%まで減り、高齢者を支える若中年者が減り続けることになる」
「20年後、老害が現実になる。そのときになって慌てても遅い。20−40年後を見据えて、政府
は、高齢化社会政策を今から研究し、十分練っておく必要があると思いますよ」
私は、それまで人口問題にはまったく関心がなかった。「老害」という言葉を聞いて、「高齢社会」が
現実のものとして、突然、巨大な怖ろしい姿を見せ始めた。 (続く)
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