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読書感想文12−08:ニコライ遭難

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急に歴史小説を読んでみた。著者は吉村昭(よしむらあきら:1927-2006)さん。ちょっと調べてみたらたくさんの作品を遺している。文章は訥々としていて、描写は過激でなく淡々としているが、だからこその臨場感がある。その場に居合わせたように錯覚する。

題名にあるニコライとは、ニコライ2世(1868-1918)のこと。ウィキペディアによると『ロマノフ朝第14代にして最後のロシア皇帝(中略)日露戦争・第一次世界大戦において指導的な役割を果たすが、革命勢力を厳しく弾圧したためロシア革命を招き、一家ともども殺された。』とのこと。

ロシア関係はピョートル大帝とその時代―サンクト・ペテルブルグ誕生以来。ニコライはピョートル大帝の7代下くらい。血の繋がりはあるっぽい。ずいぶん薄くなってそうだけれど。

そしてそんなニコライという外国からの偉いさんは、日本でトンデモナイ事件に出くわしてしまう。

これが有名な大津事件で、ウィキペディアから拝借すると『1891年5月11日に日本を訪問中のロシア帝国皇太子・ニコライが、滋賀県滋賀郡大津町で警備にあたっていた警察官・津田三蔵に突然斬りつけられ負傷した、暗殺未遂事件』とのこと。この事件はマンガ日露戦争物語でも描かれていて、まさに『行政の干渉を受けながらも司法の独立を維持し、三権分立の意識を広めた近代法学史上重要な事件』に位置付けられている。

マンガでは軽く数ページでしかなかったけれど、本書ではこの事件が活き活きと描かれており、ものすごく面白かった。印象的な箇所を挙げていこう。

『来日するニコライに隆盛が同行して帰国するという説』

ロシアの皇太子が西南戦争で戦死したはずの西郷隆盛と一緒に日本に戻ってくるというデマが流れていた。新聞にも掲載され、結構市民はリアリティをもってたようだ。

『京都でのお買い物(中略)その対価は1万円以上にも達した。巡査の初任給(月俸)が八円であることから、皇太子の派手な買い上げぶりに一同驚嘆した。』

現在の初任給が仮に24万円とすると3万倍。ということは3億円を京都で散財。いただきストリートのマハラジャみたいだ。

『皇太子殿下の侍従たちは、ホテルの周囲を警護している警察官、将兵たちが、実は皇太子殿下のお命を狙っているのではないか、と危険視し、はげしい恐怖をいだいているのです。』

というのは、ロシア駐日大使シェーヴィチの言葉。確かに警官が襲ってきたとなると一体何を信じればいいのやら状態になる。そして焦点が犯人である津田の罪状だ。

『閣僚と元老は、津田を皇室罪、司法官たちは謀殺未遂罪と意見が二つにわかれた』

行政はロシアとの外交関係上、皇室罪により死刑を望み、一方で司法や法学者は謀殺未遂罪で意見が完全に別れた。そして閣僚や元老から執拗に折れるようにと圧力があった。しかし司法は断固法を曲げることはしなかった。

そこに尽力したのが児島惟謙(こじまこれかた:1837-1908)。ウィキペディアによると『1886年には関西法律学校(関西大学の前身)創立を賛助し、名誉校員となった。』ということで、関大には胸像がある。

児島は穂積陳重(ほづみのぶしげ:1856-1926)と親交があり、

『同じ法律畑の人間として親交をむすび、その年の四月に穂積が渋沢栄一の長女歌子と結婚する折の媒酌人をつとめた。』

となっている。渋沢栄一がこんなところに登場するとは。ううむ。

そして印象的だったのが、本書の主人公になるニコライ2世(被害者)と津田三蔵(犯人)の晩年。ニコライ2世はウィキペディアの抜粋どおりに残念な最期を迎える。そして津田も1891年5月に事件を起こして、何とか皇室罪を免れたけれど、9月には病死してしまう。あれだけ苦労したのに…。もうちょっと生きて欲しかった。

吉村さんの作品はたいそう面白かったので他のも読んでみたい。

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