geezenstacの森

音楽と映画、読書三昧のブログです

全体表示

[ リスト ]

古手屋喜十為事覚え

古手屋喜十為事覚え(ふるてやきじゅうしごとおぼえ)


著者 宇江佐真理
発行 新潮社

イメージ 1


 浅草のはずれで古着屋を営む中年男の喜十。女房のおそめと二人、子がないことをのぞけば日々の暮らしにさして不満はない――はずが、たまったツケを取り立てるため、嫌々ながら北町奉行同心を助太刀する破目に。下町の変事を追ううちに、なぜだか人の温もりが沁みてくる。ほろりと泣かせる待望の新シリーズ、登場!---データベース---

 宇江佐真理さんの作品はほとんど読み終えているので、最近は雑誌に当って拾い読みしていました。この作品は女史がお得意の連作短編集です。新しいキャラクターの古手屋の喜十とその妻おそめ、そして北町奉行隠密同心の上遠野平蔵(かとのへいぞう)を軸に展開していきます。喜十は浅草広小路を脇に入った田原町二丁目に店を構えています。もともとは裏店住まいだったのですが、表の店が空いたので改築し、鰻の寝床の様な間口二間の見世にしたのです。古手(ふるて)屋とは古着や古道具を扱う店のことで、彼の店では主に庶民の普段着を商っています。浅草浅草寺の門前で賑わいがありますが、脇道には訳ありの人々が訪ねて来てます。そんな彼が、隠密廻りの同心の片棒を担ぐ事になるのです。小説新潮に2010年2月号から2011年5月号までに発表された6編が収録されています。この単行本装幀が洒落ています。瀬知エリカの作になる物ですが、表紙だけでなく裏表紙まで含めての装幀になっています。これは全部を掲載した方が言いでしょう。裏表紙に一人上遠野平蔵が描かれています。さすが、世間に紛れる隠密同心、心憎いイラストです。

イメージ 2


♦古手屋喜十
 浅草は田原町の喜十の店に、今日も北町奉行所隠密廻り同心の上遠野平蔵がやってきます。べっとりと血の痕がついた黄八丈を指し、事情を知らぬかと問うてくるのです。隠密廻り同心の上遠野平蔵は変装するために、この喜十の見世を利用します。そのためのツケが結構貯まっていますが、上遠野はいっこうに払うそぶりを見せません。少しでも、借金を回収しようと喜十は手下をつとめるはめになります。そして、この事件でも汗をかきかき聞き込みを重ねるのでした。仲間内から黄八丈の好きな娘を訪ね回るうちに、喜十の前に、水茶屋から身を落とした娘の影がちらついてきます。

 近所の大工の留めさんが蛇骨長屋の厠に赤ん坊が産み落とされていた事を聞き込んできます。喜十はそれが水茶屋に務めていたおきみだと見当をつけます。しかし、おきみは既に母親と蛇骨長屋から姿を消していました。上遠野はおきみが何故黄八丈を着ていたかを語ります。彼の父親は喧嘩で相手を死なせ遠島を申し渡されていました。それが八丈島だったのです。おきみが黄八丈を着ていたのにはそんな理由がありました。子供がいない喜十夫婦には子供を産み捨てるおきみに癇を立てますが、上遠野平蔵はこの件は不問に付す事にします。見世の軒先からは僅かに田原町の桜がほんのちょっぴり見えます。

♦蝦夷錦
 喜十は35歳、おそめは25歳、結婚して6年後という設定です。自殺しようとしたおそめを助けた事が縁でふたりは結ばれます。35歳にして髪は薄く、見るからに怪しいオーラを出し、往来を歩くだけで同心に呼び止められる始末です。けれど子が出来ないと悩む妻をいつも気遣い、面倒を押し付ける上遠野に文句を言いつつも頼みは決して断らず、曲がったことも許せない性分です。

 その日は変わった客ばかり来ました。一組は夫婦者と子供を背負った娘が見世を訪ねて来ます。しかし、娘の背負う赤ん坊は人形でした。もう一人は古着屋なのに端切れを売りに来たのです。しかし、喜十の見世では用をなしません。引き取ってもらいます。夜、上遠野が訪れます。彼の話しでは御禁制品の蝦夷錦が行方不明になっているというのです。事が発覚すれば松前藩は改易、上様も尋常では済まされません。そんなこともあり、ふたりは蝦夷錦を求めて探索に出ます。当たりを付けた喜十は、端切れ屋の菊良を訪ねます。はたして、思い当たる品をあつかっていました。しかし、既に物は大伝馬町の提灯問屋に売り払われていました。喜十は早速買い戻しに出かけます。

 そこは以前見世を訪ねた子供を背負った娘の見世でした。喜十はこの店でつらの悪さから手代の平助から悪態をつかれます。しかし、事情を知った内儀は喜十を娘と会わせます。そして、喜十は人形の赤ん坊をいとおしむ娘が演技をしている事を見抜きます。娘は子が出来ず離縁された出戻りでした。

 この話、冒頭の部分ですが下記で試し読みが出来ます。
http://www.shinchosha.co.jp/shoushin/tachiyomi/201005_01.html

♦仮宅
 火事の多い江戸では吉原もその例外ではありません。そんな事で田原町にも巴山屋が蕎麦屋を借りて仮宅を張ります。ご近所という事で、日の出屋は「吉原細見」を扱う事になります。この吉原細見は写楽絵で有名な耕書堂蔦屋が発行しているのですが、日の出屋が扱ったのは潜りの近江屋のものでした。巴山屋は中見世のの半籬(はんまがき)の格式で、田毎と七里という花魁を抱えています。近くに中見世が出来た事で、上遠野の仕事が増えます。吉原の火事には心中や逃亡がつきものですから。今回も放火の疑いが強いという事です。

 或る日、日の出屋に湯屋帰りの女が町家の内儀が着る様な袷を求めてやって来ます。お梅というその客が選んだ袷は襟元が少し黄ばんでいました。おそめはこれでは気が引けると襟の上に被せる黒八を新しい物と取り替えます。品物が売れてうれしい喜十ですが、女の話し言葉が郭言葉が混じっていたのです。そんなおり、仮宅で心中事件が発生します。それはお梅ではありませんでしたが、やがてお梅も姿を消します。お梅は本名で源氏名は花魁の田毎でした。在所の妹を見舞うために見世を抜け出したのです。しかし、ほどなく見つけ出され、連れ帰らされます。その3日後妹は死んでしまいます。吉原の掟を破ったお梅は切り見世に落とされるしきたりです。いつしか、田毎の名前は吉原細見から消えていました。粗筋だけ書くと、たわいもない話しですが、ここでは喜十の人間味が出ていて味のある作品になっています。

♦寒夜
 今年の冬は日本列島は大雪に見舞われ、且つ寒さも尋常じゃありません。この話しは、幕府の検分隊の竿取りとして蝦夷に赴く神遠野の妻の弟という荒井福太郎が登場します。極寒の地にいくというので、日の出屋に皮の羽織やたっつけ袴を求めてやって来ます。しかし、日の出屋は庶民相手の古手屋です。そんな物は置いてありません。しかし。女房のおそめは、喜十の父親の形見としてそれらが行李の中に仕舞ってあるといいます。それは喜十も知らない事でした。

 大工の留めさんがすきま風かせひどい喜十の家を手直しします。話しのついでに大内屋の隠居が寒空の中徘徊したまま行方不明になっているといいます。捜索の結果、寺の境内で半裸状態で死んでいたというのです。そして、体のあちこちが喰いちぎられ、着物は下駄と一緒に少し離れたところに脱ぎ捨てられていました。何とも解せない死に方です。ところが皮の羽織を取りに来た福太郎は、それが「矛盾脱衣」だろうといいます。あまりの寒さに気がふれ、寒さを寒さと感じなくなってしまうのだそうです。

♦小春の一件
 何時の世にも早とちりというものがありますが、この話も典型的な早とちりです。しかし、その事が巻き起こす事件は良い方に転んでめでたしめでたしとなります。大工の留めさんは伊勢屋の職人をしていますが、その伊勢屋の主人が富くじに当ります。薮入り前で、大盤振る舞いで奉公している女中にもお裾分けがあり、日の出屋もその女中たちの買い物で潤います。しかし、中には着るものも無く、着古した男物の羽織しか羽織れない女子もいました。

 その伊勢屋の次男の虎吉が仕事の現場に材木を運ぶ途中、大八車が溝に嵌まり、足を挫いて歩けなくなります。辺りは薄暗く、人の気配もありません。そこへ通りかかった者に助けられます。それは女の声でした。虎吉は恩人に礼がしたいと家人に捜索を依頼しますが、店に来たのは男だったといいます。その話しを留めさんから聞くと、喜十の妻のおそめは男の様な女の人ではなかったかといいます。それで喜十は、男物の羽織を着た女の事を思い出します。

 はたして、当の女は蛇骨長屋に住む「小春」という娘で、新鳥越町で溝に嵌まった大八車を見たといいます。そんなことで、小春は伊勢屋に連れて行かれます。仔細を聞くまでもなく、伊勢屋は探し人が見つかった事で大騒ぎになり、そのまま小春は寝込んでいる虎吉を看病するようになります。伊勢屋の内儀はそんな小春に日の出屋で古着をあつらえます。しかし、知らせにいった者はほおかむりをしていました。しかし、小春はそんな物は使いません。喜十は助けたのは本当に小春だったのか疑問をもちます。・・・コメントに続く

♦糸桜
 喜十とおそめは連れ添って七年になりますが子種に恵まれません。そんな春先、朝早くから店の前似出してある床几の上に赤ん坊が置き去りにされています。喜十は慌てておそめを起こします。赤ん坊は泣きじゃくりますが、子供を育てた事の無いおそめは乳も出ません。大工の留めさんの女房のおたかに知恵を借りにいきます。喜十は丁度見世を訪れた岡っ引きの銀助に子供の事を話します。しかし、お家捜しがすぐに出来る訳でもなし、当分は喜十のところで面倒を見る事になります。

 赤ん坊と一緒においてあった風呂敷包みの中におしめや下着に混じって書き付けがあります。どうやら子供の名前は「すてきち」と書いてあります。それも、厠の落とし紙に書いてあります。喜十は捨吉を捨てていくってか、と悪態をつきます。しかし、赤ん坊は生まれて半年は立っているようで二六時中乳は飲ませなくてもいいようです。それで、おそめは少し安心したようです。
   
 さて、この話にはあんまの「麗市」が登場します。突然四十肩に見舞われ按摩の世話になります。彼も親に捨てられ、母親を捜しながら按摩を続けているといいます。神遠野が日の出屋を訪れ、お家捜しに新店が無いと告げます。そのついでに、旗本屋敷の身辺警護を頼まれたとぼやきます。なんでも、日下部兵庫の屋敷に不審者が忍び込んだ形跡があるというのです。この日下部兵庫は以前は甲府勤番を務めていたといいます。麗市も甲府の出です。彼の母親はお使えしていた旗本と出来てしまって家を出て行ったといいます。どうも、この日下部がそうではないかと喜十は思います。その甲府では糸桜(しだれ桜)がみごとにさきます。その糸桜が日下部の屋敷にもあったのです。麗市は日下部の屋敷に侵入してその糸桜を切ってしまいます。母親に対する復讐でした。

 一年の時の移ろいの中で季節情緒を折り込んだ、新しいシリーズの幕開きでした。小説新潮ではいまは休載されていますが、早く続編が読みたい物です。

閉じる コメント(1) ※投稿されたコメントはブログ開設者の承認後に公開されます。

Yahoo!アバター

5000文字でカットされました。「小春の一件」の続きです。
半月ほど立ち、やはりその事が露見してしまいます。実際、事の次第を伊勢屋につたえたのは「とも」という檀家の息子でした。小春がともと使いから帰る途中の出来事でした。小春は事の顛末を詫びようと喜十に頼みます。上手い言葉が見つからない喜十でしたが、伊勢屋に赴き真実を話します。もともと、早とちりから生じた出来事です。腹を割って話せは何の事もありません。小春は伊勢屋で過ごした日々を感謝します。しかし、その話を聞いていた虎吉は、小春があのとき現場を通りかからなかったら今の俺は無いと啖呵を切り
、それでいいじゃないかと話しをまとめます。小春に下心が合った訳でもないので、この話は丸く収まります。

2012/2/11(土) 午後 1:02 geezenstac

コメント投稿
名前パスワードブログ
投稿

閉じる トラックバック(0) ※トラックバックはブログ開設者の承認後に公開されます。

トラックバックされた記事

トラックバックされている記事がありません。

トラックバック先の記事

  • トラックバック先の記事がありません。


.

人気度

ヘルプ

Yahoo Image

  今日 全体
訪問者 51 269411
ブログリンク 0 40
コメント 0 1124
トラックバック 0 110
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

開設日: 2006/2/27(月)


プライバシーポリシー -  利用規約 -  ガイドライン -  順守事項 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2012 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.