希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考える、和歌山大学江利川研究室のブログです。

英語教育

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次期学習指導要領案に批判のパブコメを(締切3月15日)

2017年2月に公表された次期学習指導要領案は、小中学校の外国語教育に関しても、きわめて危険な内容が含まれています。

これに対して、ぜひパブリック・コメントで批判し、修正を求めましょう。

送ったパブコメは公的に記録され、開示請求も可能です。

「どうせ無駄」などと言わず、意見を送りましょう。沈黙は加担です。

締切が3月15日(水)に迫っています。

すぐ行動を起こしましょう。

ネットからは、以下にアクセスして下さい。(鳥飼玖美子さん情報によれば、文科省はわざとアクセスしにくくしているようです。)

「学校教育法施行規則の一部を改正する省令案並びに幼稚園教育要領,小学校学習指導要
領案及び中学校学習指導要領案に対する意見公募手続(パブリック・コメント)の実施
について」


ネットでは2000字以内です。

参考までに、私の意見を述べます。

次期学習指導要領案(外国語)に対する意見

小学校・中学校の外国語教育方針に対して、3つの疑問があります。

1. 小学校外国語活動の中学年実施と高学年での教科化は撤回すべきです

(1)入門期の外国語指導には高度な力量が要求されますが、小学校教員の英語免許所持率は5%、英検準1級以上の所持率は0.8%にすぎません。実施には本格的な研修が必要ですが、その体制が整っていません。小3以上の担任は約14万4千人ですが、国が研修を課す英語教育推進リーダーは平成30年度までに約1千人だけで、推進リーダーから指導を受ける中核教員は31年度までに約2万人(各校に1人程度)にすぎません。残り12万人以上はまともな研修も受けられずに外国語を担当させられるのです。これでは教員に重い負担を課すものの、教育の質は保障されません。英語嫌いや苦手意識を増やし、その後の学習への悪影響が強く懸念されます。

(2)教科としての外国語は週2コマに減らされ、しかも1コマ分は10〜15分の短時間学習等で埋め合わせようとしています。これでは学習効果が低い上に、教員の負担が著しく、小学校教育全体を疲弊させるでしょう。

(3)見切り発車で実施すれば、塾等で英語を習う子どもが一段と増え、学力格差が早期化するでしょう。中学入試への英語導入も過熱し、受験英語化も懸念されます。

(4)外国語の学習で大切なことは、早期に始めることではなく、指導内容の質と学習時間の量です。つまり、児童英語教育に熟達した教師が指導し、1500〜2000時間以上をかけない限り、有意な効果は期待できないのです(バトラー後藤裕子『英語学習は早いほど良いのか』2015)。
 英語教育の充実のためには、限られた予算と人員は中学・高校に向けるべきです。とりわけ、外国語教育には20人以下の少人数学級やIT機器などの整備が不可欠です。


2. 中学校の語彙の大幅増は無謀すぎます

 現在、中学生が各教科に対して「好き」と回答した割合は、英語が最低です(ベネッセ「第5回学習基本調査2015」)。にもかかわらず、改定案は中学校外国語の語彙(新語数)を現行1200語から1600〜1800語に引き上げ、小学校段階の600〜700語(これも無謀)を加えると合計2200〜2500語、つまり現行の1.8〜2.1倍に激増させようとしています。
 しかも、現在完了進行形や仮定法を中学校に下ろし、英語で授業を行うことを求めています(後述)。これでは、英語がわからない、嫌いという子どもを急増させかねません。中学生の現状を踏まえるならば、語彙や文法項目を現行以上に増やすべきではありません。


3. 中学校英語の「授業は英語で行うことを基本とする」は削除すべきです

 (1)この方針には学問的・実践的な根拠がありません。「英語で授業」は2013年度から高校で実施されましたが、この方針は中央教育審議会外国語専門部会の審議を経ていません。次期学習指導要領改訂に関する2016年12月の中教審答申では「高校生の多様性を踏まえ、外国語で授業を行うことを基本とすることが可能な科目を見直す必要がある」と指摘し、事実上、方針の誤りを認めました。にもかかわらず、中学校に下ろすのは支離滅裂です。
 現在の世界の外国語教育界では、母語の適度な活用は外国語学習に効果的であるとの知見が主流です(江利川・久保田「学習指導要領の『授業は英語で』は何が問題か」『英語教育』2014年9月号)。
 子どもの概念形成や思考力と感性を豊かにする上で、母語の鍛錬と再認識は欠かせません。そのために、日英比較や、和訳を含めた日本語の適切な活用を推奨すべきです。

 (2)教師の裁量権に対する不当な介入です。英語と日本語をどう使い分けるかは指導内容や生徒の特性などによって慎重に見極める必要があります。国が学習指導要領で「英語で授業」と定めてしまうことは、教師の裁量範囲を狭め、実態に応じた柔軟な授業運営を阻害しかねません。学習指導要領で使用言語まで拘束することは1976年の最高裁「旭川学テ判決」に反しています。国が行うべきは、教師に最大限の裁量権を与え、予算的・人的な条件整備を行うことです。

 (3)戦前の失敗から学んでいません。1922年に来日したハロルド・パーマーは、英語で教えるオーラル・メソッドの普及に奮闘しましたが、軌道に乗りませんでした。こうしてパーマーは1927年に自説を修正し、日本語の使用を認めるようになったのです。

 見切り発車の小学校英語の早期化・教科化、中学での「英語で授業」と語彙の大幅増は、英語嫌いと苦手意識を加速させるでしょう。こうした無謀な方針を盛り込むべきではありません。
 よろしくご検討をお願いいたします。
(1955文字)

【3月10日追記】

「こうしてパーマーは1927年に自説を修正し、日本語の使用を認めるようになったのです。」という表現は誤解を招きそうなので、補足説明します。

2000字以内という制約のため、文章を極端に圧縮したのですが、より正確には次のようになります。

「こうしてパーマーは1927年に自説を修正し、日本では読書力の養成に主眼を置くべきであることを理解しました。その後のパーマー理論は、英文和訳などの日本語の使用を認める「福島プラン」(1933)などの現実的な実践を通じて、ようやく日本の英語教育界に受け入れられるようなったのです。」

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