ヤバいのは、万年筆だけではなかった……

日本橋で3月、怒涛の如く開催された「世界の万年筆展」と「世界の万年筆祭」。
そこでワタクシを待ち受けていたものは、
夢のように美しい、
猫のペンでした。

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え? これの、一体どこが「猫」なんだって?
ふっふっふ。それは、後ほど明らかになることでしょう。




丸善日本橋店の「世界の万年筆展」には、今年も、ヤバすぎるコーナーが口を開けていました。
高級文具の廃盤品のアウトレットセールです。

エスカレーターを降りてすぐのところにしつらえられたガラスのショーケース。
その中には、国内外の万年筆やボールペンが「30%オフ」「40%オフ」の赤字に彩られて、燦然と輝いています。

廃盤品ゲッターのワタクシが、素通りできるわけがありません。
今年、ケースの中から激しくワタクシを呼び止めたのは、青く輝くアウロラの小さなペンでした。

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ショーケースを一目見るなり、もう、釘付け。

カバンサイトか雲母か大理石か。様々な深みにゆらめく青い結晶が、軸を彩っています。
ブルー・マーブル・レジンの輝きです。

上下を引き締める黒。輝きに彩を添える銀の金具。
それは、ペンと言うより、宝石のように見えました。




自然界の要素をテーマにしたシリーズの限定品「アクア」の、ローラーボールでした。

万年筆、ローラーボール、ボールペン、スケッチペンの4種類の筆記具が作られ、4つセットで25万円(!)の「スペシャルカルテット」はまだ残っているそうですが、単品はほぼ完売したそうです。
そのうちのローラーボールが、奇跡的に、ここに出ているというわけでした。




奇跡的な出会い。
逆らえるわけがないワードです。

出会ったものは仕方がない。これも、運命なのだよ。うむ。

ワタクシは、アウロラのアクア様を、お連れ申し上げることにいたしました。




海外ではメジャーだそうですが、日本では、ローラーボールはそんなに普及していません。
だから残っていたのでしょう。
限定品ですが、リフィルは生産を続けているとのことで、安心です。
黒しかないのが残念ですが。




ローラーボール。
実は、買うのは初めてでした。
万年筆と同じインクを使ったボールペン……ということは、要するに、水性ボールペンですね。

さらに、アウロラというブランドを購入するのも、初めてです。
夢のように美しいペンたちを、いつも丸善で眺めていたものの、実際に買うということは考え付きませんでした。
「わ〜綺麗〜いいもん見たわ〜」
……って、まあ、美術館の展示品のようなものですよ。

今回のアウトレットバーゲンのローラーボールが、初めて、ワタクシにとって購入を現実的に考えられるお値段のアウロラだったわけですね。
やはり、運命なのだよ。うむ。




それでは、いよいよ、アクア様を御輿からお出し申し上げましょう。

アクア様の御輿は、12.5センチ×12.5センチ×8センチの、黒い紙箱に包まれておりました。
ずっしりとした手ごたえです。
総重量は467グラム。500ミリリットルのペットボトルといい勝負です。
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紙箱の蓋をあけると、御輿が現れます。
合皮が貼られた、10.3×10.3×7センチの小箱です。
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重々しい蓋を開けると、
ようやく、アクア様のお姿を拝見することができました。
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白い合皮が貼られた御褥の下には、万年筆やスケッチペンも含むブランド共通の取扱説明書兼保証書が。
新品ならではですね。
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アウロラのブランドマークの刻印が、マスコットとして取り付けられています。
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改めて向き合ってみると、
………やはり、美しいです。
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吸い込まれるような、深く澄んだ青。
内側からキャップを覗くと、光を透すレジンは、ガレのガラス作品のよう。
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手の中で軸を転がすと、複雑な光を放ちます。

キャップには、アクア(水)を示すしずくがデザインされています。
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芯は、おしりの部分から交換します。
中身は、見た目、ボールペンと同じです。ま、水性ボールペンですからね。
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巨大な御褥に包まれていた本体は、長さ11.5センチの小柄な体でした。
この小ささが、人気だったそうです。たしかに、手帳やポケットに挿しても全く邪魔にならなさそう。
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キャップを後ろに挿すと、13.7センチ。ワタクシの手なら、書くのに不自由はない大きさです。
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体重は、29.5グラム。身長の割には重めですね。
高級感を感じる重さです。

……って、巨大な御褥、つまり箱の重さは、差し引き437.5グラムもあったわけですよ。
本体の、約15倍です。
ううむ。




それでは、いよいよ書いてみましょう。
店頭でもちろん試し書きはしましたが、落ち着いて書くのは初めての体験です。ローラーボール。
わくわく。わくわく。



…………………



ま、水性ボールペンですからね。




100円の水性ボールペンに比べると、かなり滑らかに感じます。
ペン先のボールが滑らかに回転し、インクが間をおかずに紙をとらえていく感触です。
……100円のペンと比べてはいけません。

ペンを後ろに挿すと、ちょうど手にかかる部分に重心が来て、ワタクシの手にぴったりサイズです。
黒の色合いも、赤みが強すぎず、目に心地よいです。

これで、色のバリエーションがあったら、かなり楽しいだろうなあ……

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とはいえ、やはり、ボールペンはボールペン……

無抵抗にペン先が紙の上を滑って、思考の流れにインクの色がついてくる快感は、万年筆にはかないません。
線の強弱や、インクの濃淡も、やはり万年筆のほうが思い通りになります。
絵は、あまり描きやすくありません。
そう思うのは、黒インクだからかもしれませんが……

ただ、万年筆と違って、膝の上など手の角度が安定しない場所でも書きやすいのは、ボールペンならではの長所です。
細目の線を安定して引くことができます。





万年筆ほど集めたくなる筆記感ではありませんが、ローラーボール、書き味も満足です。
うむ。よい買い物をした。




ワタクシのペンケースの中で、最も美しい一本であることは間違いありません。

しかも、なんたって、
猫のペンです。




え? だから、どうして猫なんだって?

ふっふっふ。それは、ですねぇ………




アクアのローラーボールは、世界で550本だけ生産された限定品。
そのすべてに、シリアルナンバーが入っているのです。

もちろん、我が家のアクア様にも、ほらね。ほらほら。
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その番号は、
222。

2月22日といえば、何の日ですか?

猫の日です!

ほら! 猫のペンですよ!!




発売から何年もたち、
ようやくワタクシが買えるお値段に下がったアウトレットセールで、
この上なく美しいペンが、
シリアルナンバーはゾロ目、しかも、猫番(ニャンニャンニャン)。

これを、奇跡の出会いと呼ばずして、何と呼ぶ?



これはもう、連れて帰るしかないではありませんか!

衝動買いではありません。不可抗力です!!




開き直り。




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3月は、繁忙期です。
決算期だし、人事異動期だし、卒業シーズンだし、引っ越しの数も一年で最も多い時期なのではないでしょうか。



……………いえ、そういうことではありません。

忙しいのです。ワタクシは。

上旬には日本橋の丸善で「世界の万年筆展」があって、
中旬には表参道ヒルズで「エルメスの手しごと展」があって、
おまけに、20日まで、日本橋三越で「世界の万年筆祭」も開催中なのですよ。

もう、毎週、あっちこっちイベントに出かけるのに忙しくて忙しくて。



…………って、アンタね。

丸善の万年筆展で、もうすっかり堪能したのではなかったのでしょうか。
ペンクリニックも受診できて、もういいのではなかったのでしょうか。




いえ、もういいかなと思ったんですけどね。
啓蟄を過ぎて、あったかい日が続いてくると、なんかこう、ソワソワしてね。
気が付いたら、地下鉄日本橋駅を出て、日本橋を渡っていたんですよね。三越方向に。

…………って、アンタね。


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三越本館の7階催事場。エレベーターの扉が開くと、目の前が、「世界の万年筆祭」の会場です。

その入り口に、あの有名人がいらっしゃいました。
セーラー万年筆のインクブレンダー、石丸さんです。

万年筆祭のメーンイベントの一つが、インク工房でした。
セーラー万年筆の混ぜられるインクを使って、石丸さんが、オーダーメードで世界に一つだけのインクを作ってくださる企画です。



実は、出遅れました。
ワタクシ、勘違いしていたのです。
予約制であることは把握していたのですが、予約受付は当日だと思いこんでおりました。
ところが、実は、3日前から予約受付が始まっていたのですね……
それを知ったのは、万年筆祭に向かった当日。
当然、もうダメだろうと、あきらめておりました。



ところが!
石丸さんの席の横に「わずかに残席ございます」の張り紙が!!
こ、こ、これはっ!
もう、申し込むしかないではありませんか!!

残り2枠のうち1枠をゲットしました! わーいわーい!!




順番までは、まだ時間がたっぷりあります。
よしよし。ゆっくり回ろうではないか。

まずは、パイロットのペンクリニックへ。
幸い、ほとんど待たずに受診できました。

字も絵も描きやすいので毎日活躍しているナミキファルコンさんが、最近、ちょっと微妙だったのです。
もう何年も、色彩雫の月夜を入れて使っているのですが、なんとなくひっかかるというか、ペン先の感触が微妙というか。
そこで、丸善では日程が合わなかったパイロットのペンクリニックに、かかりたいな〜と思っていたところだったのですよ。

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ほら。ほらほら。「世界の万年筆祭」に行く用事は、ちゃんとあったわけですよ。
何も、なんとなくふらふらと向かったわけではないのです。ええ。

……いえ、ま、ナミキファルコンは、使いすぎてペン先が汚れている程度かなと思っておりましたが……



…………やはり、そうでした。
ペン先を水と超音波でガッツリ洗浄していただきます。



ついでに、色彩雫の躑躅を入れて、常に一軍入りしているデラックス漆も、みてもらおうっと。
ま、これも、汚れてるだけだと思いますが。

……そうしたら、こちらは、ちょっと問題ありでした。
いつの間にかペン先が詰まって、インクの出が悪くなっていたようなのです。
そんなことって、あるんですねえ。

ドクターは、刃のないカッターナイフのような金具で、ペン先を広げてくださいました。
ペン先を研ぐにはラップフィルムを使います。10000番くらいの細かいペーパーだそうです。
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ナミキファルコンとデラックス漆、パイロットの黒金二人組は、無事にピッカピカになりました。
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ペンクリニックの隣では、筆圧測定をやっています。
万年筆を書くときの筆圧やペン先の角度を測定していただける企画です。
こちらも、幸い、大して待たずに受けられました。順番が来たら携帯電話に電話をいただける仕組みで、安心して会場をウロウロしていられます。



筆圧は、センサーの上に敷いた紙に文字を書いて測ります。
ほんの数文字、自分の名前を書くだけで、測定できるとのこと。

緊張して、普段より丁寧な筆跡になりましたが………

結果、ワタクシの筆圧は、標準よりもかなり弱いことが判明しました。
筆圧計のグラフに、山がほとんどできないくらいです。
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昔、万年筆を使い始める前は、ワタクシは筆圧が人一倍強かったのですよ。
ガリガリと書くもので、書き終えたころには手がしびれてしまうほどでした。

それが、万年筆を使い始めて幾星霜。
インクの滑りと軸の重さだけで、筆圧ゼロで書ける気持ちよさを知ってから、すっかりペンに頼り切って筆圧が弱くなったようです。
人って、変わるものですね。



弱い筆圧、ほとんどペンを傾けずに書く癖は、万年筆向きだと太鼓判を押していただきました。

筆圧測定では、自分の書き方の癖にあったペン先の種類を、チャートで割り出していただけます。
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右側の一覧表を見ると、ごく一部のパターン以外はどれも「F」が入っていますね。てことは、迷ったらとりあえずFを買っておけば間違いはないってことですね。
……という、ミもフタもない観察は、さておいて。



筆圧弱めのワタクシは、軟字タイプがあうそうです。
中でも、勧められたのは、フォルカン。特別に柔らかく作られた特殊ペン先です。
試し書きさせていただくと、たしかに、とても気持ちいい。空をふわふわ飛んで遊んでいるかのような書き心地です。
つい、絵も描いてしまいました。

ええと、この感触。どこかで………
………あ! 思い出した!

中学生のころにハマった、つけペンの、Gペンです!
ちょっと力をかけると、すぐペン先がふわりと開いて、太い線を描ける、あのGペンそっくり。
はるかな記憶がよみがえりました。
これでイラストを描かれる方もいらっしゃるとのこと。納得の書き心地です。



チャートで割り出された書き癖のタイプは、性格診断までついていました。
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………………………昔、流行った、動物占い的なノリでしょうか???




自分にぴったりのペン先を診断したら、もちろん、そこから「そのペン先が付いている商品はこちらとこちらです」というお話になりますね。
フォルカンが付いている種類は、残念ながら限られているようです。
軸の色の選択肢が、黒とディープレッドしかなくて、つまんな〜い。
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が、ペンクリニック開催期間中なら、胴軸に直接吸い上げるカスタム823に、フォルカンのペン先をつけていただくことができるそうです。
これだと、茶縞っぽい色があります。
う〜ん。わりと好みかも。

落とすのが簡単なワタクシ、はやくも、来年の万年筆祭に向けて、ショッピング計画を立て始めたのでした。



…………って、アンタね。




そうこうしている間に、インク工房の順番が到来です!

わくわく。わくわく。

石丸さんの目の前の椅子に、「よろしくお願いします」と腰を下ろし、
かねがねほしいと思っていたインクの色を伝えます。

「ええと、普段に気兼ねなく使える色で、青と紫の間で、深みがあって、たとえて言うなら日が暮れたエーゲ海みたいな色のインクが欲しいです!」

「………日が暮れた、エーゲ海………う〜〜〜〜〜〜ん」
石丸さん、考え込みました。

ですよね〜………




しかし、やはりインクブレンダーは凄腕だった!

「欲しいのは、ベースとしては、青ですね? じゃ、まず、試しに色を作ってみましょう。それをもとに、欲しい色に近づけていきましょう」
と、さっそく、青にピンクを混ぜて試し書きさせてくださいました。
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とてもクリアな青紫です。
綺麗なんだけど、でもぉ………

「もう少し、青が強いほうが……」
「ええと、なんというか深みがもう少しあったほうが……」

頭の中の色を言葉で伝えるのは難しいものですね。



インクは、混ぜる色数を増やすほど濁っていくそうです。
ワタクシは、大胆にも「少しだけ、黄色を混ぜていただいていいですか?」と、お願いしました。

青とピンクに黄色を混ぜたら、どうなるか。
もちろん、色は、黒に近づいていきますね。
ええ。ま、一言で言って「ブルーブラック」。

う〜ん。ちょっと、しまったかも………

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何回も作り直していただき、
ようやく、
求める色が、できました!!
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さすが、石丸さん。



名付けて「たそがれの海」。

不思議です。書いた直後はブルーブラックなのに、乾いていくにつれ濁りが消えてゆき、
しばらく時間が経つと、何とも言えない深みのある紫がかった青になるのです。
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………って、写真だとよくわかりませんが………




石丸さんが作成したインクは、もう2万本に近づいているそうです。
「1万9000本を超えたことは間違いないので、どこかで『これが2万本目』と決めようと思っているんですよ」とのこと。

「それなら、2万本目は、ぜひ、ご自分のために色を作ってください。その色、見たいです!」と言うと、
「そうか。2万本記念のインクを企画するってのも、いいかもしれないね」と、笑顔になってくださいました。

もちろん雑談レベルのお話ですが、
もし万一、石丸さんのインク工房2万本記念! なんていうインクができた暁には、
どんな色か、ぜひ見てみたいと思います。




作業をしながら、インクの保管のコツなども教えていただきました。
インクは、直射日光が当たらず、あまり暑くならない風通しの良い場所で保管するといいそうです。
保管の大敵は、カビ。
万年筆のカビは、液体をドロッとさせる性質で、これができてしまったら、そのインクは捨てるしかないそうです。
カビが生えたインクを吸った万年筆をほかのインク瓶に浸すことで、カビが第二のインク瓶に移り、そのインク瓶に別の万年筆を浸けると、万年筆にもカビが移ってしまうとのこと。
ビンテージの万年筆を使い始めるときは、もしかしてカビがついていないとも限らないので、万一の予防のため、できればまずペンクリニックなどで洗浄してもらうと安心だそうです。




ワタクシは、まだ「インク沼にはまった」と言えるほどにはインクを集めておりません。
どうしても、普段使いしやすい青系を中心に、決まった色を買ってしまいます。

が。



エーデルシュタインのジェード、いいよなあ………
とか、
神戸インク物語が、銀座伊東屋でも買えるようになったんだ………
とか、

危険な気配は、忍び寄っております。



さらに、もともと、廃盤品ゲッターの中古品ユーザーでもあります。




大切な万年筆たちに快適な日々を過ごしてもらうためにも、インクの管理には気を付けなければ……
改めて、気を引き締めて、インクを買い集めることにいたしましょう。



…………って、アンタね。




ペンクリニックに筆圧測定にインク工房。
フルコースを堪能し、
今度こそ、心の底から満足しました!

やっぱり、「世界の万年筆祭」、行ってよかったわけですね。うむ。

まあ、そういうことに、しておきましょう。






「たそがれの海」、メーカー推奨の保管期限2年以内に、使いきりますよ!
頑張ろー!!






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世界に冠たるバッグのハイブランドといえば、どこでしょう?

 

グッチ? ルイ・ヴィトン? プラダ?

 

それらを押しのけて、ワタクシの中で、断トツのハイブランドなイメージがあるのは、

なんといっても、

エルメスです。

 

グッチもヴィトンもプラダも、街を歩けば、それなりによく見かけます。

でも、エルメスのバッグを普段使いしている人は、ほとんど見たことがありません。

 

いわく、中古でもン十万円する。

いわく、半年待たないと手に入らない。→これは国内の工房系ブランドでもありますが……

いわく、エルメスのユーザーは「信者」となる。

 

たぶん、ワタクシは一生、手にすることはないであろうバッグ。

実際にはほとんど見たことがなくても、それが恐るべきハイクオリティのバッグであることは、ワタクシのような庶民にまで、あまねく知れ渡っている。

それが、エルメスです。

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直接触れることなど想像もできない、雲の上の存在。

 

ところが!

今なら、なんと、その雲の上の存在の、しかも工房の仕事を、東京で、覗くことができるのです!!!




 

東京・表参道で、319日まで開催中の「エルメスの手しごと展」。

(13日はお休み)


フランスの工房から、様々なジャンルのベテラン職人さんがやってきて、ワタクシたちの目の前で、お仕事をしてくださる!

こんなチャンスを、逃してなるものでしょうか。

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ワタクシは、ほとんど小走りで、JR原宿駅から表参道ヒルズまでの一直線の道のりをぐいぐい進みました。

 



地下三階の会場で、まず正面にいらっしゃるのは、鞍職人さん。

エルメスは、もともと馬具メーカーだったんでしたっけ?

会場入り口の正面の広いスペースで堂々とワタクシを迎えてくださる様子に、ブランドの歴史を背負ってきた誇りを感じます。

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今、馬具のニーズって、どれくらいなんでしょうね……そしてエルメスは、その世界でどれほどのシェアを持っているのか……

実は、意外に、単価とか利益率が高くて、業界トップシェアで、今でも経営の柱なのかもしれませんが。

現在、エルメスというブランドで、まずイメージされるのは、バッグやスカーフやネクタイです。

けれども、やはり、スタート地点は大切にされているのですね。



 

ちなみに、万年筆から始まったパイロットの売り上げを牽引するのは、今ではフリクションやアクロボールですし、

高級陶器のノリタケは、現在の主力は工業機材やセラミック製品で食器の売り上げは1割に満たないほどですし、

麻製品からスタートした帝国繊維は売り上げの7割が防災機器によるものですし、


創業時とは違う事業が現在の屋台骨を支える事例は、日本でも枚挙にいとまがありません。

それでも、パイロットは万年筆を、ノリタケは食器を大切にしているし、帝国繊維はネットショップで自社のリネン製品を販売し続けています。

エルメスの馬具も、きっと同じなのでしょう。

 




さて。

鞍職人さんの技術にエルメスの歴史を感じたら、

いよいよ、

ワタクシのメーンの目的である、

バッグの皮革職人さんのところへ移動します!

 

エルメスの革職人の技術といえば、

https://www.youtube.com/watch?v=zctpRVKkJh4

こんなのとか、

https://www.youtube.com/watch?v=sSDKLHnkzOA

こんなのとか、

レザークラフター憧れの動画がいくつもありますが、

 

それを、ナマで見られるのですよ!!




 

向かって右側のブースに……いらっしゃいました!!

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赤い小さなバッグを縫っておられます。

右手には、針と菱錐。左手には、針のみ。

左膝に立てかけて、右膝で押さえたポニー(パンスと呼んでおられるようです)に革を挟み、

菱目打ちでつけた穴に菱錐を刺して、それをガイドに左手の針を穴に通し、

右手で針を引き抜いたら右手に持った針を同じ穴に通して、

両側から同じ強さで糸を引き……

鮮やかな速さで、着実に縫い上げておられます!!

 

今回、動画の撮影は禁止されていましたので、静止画で手元を狙いました。

邪魔にならないよう選んだ小さなしょぼいデジカメのシャッターのタイミングが遅くて、なかなか刺すシーンを撮れません……

 

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職人さんの傍らには通訳の方が控えておられ、

なんと!

質問にお答えいただけるとのこと!!

 

この職人さんは、エルメスでのキャリアは27年。

エルメス入社前に2年、革の専門学校で学び、2番の成績で卒業したそうです。

ところが、入社して、愕然としました。

「先輩に比べると、自分の技術が未熟であることを思い知らされた」のだそうです。

 



エルメスに入社してからは、1年から1年半ほど、ひたすら訓練。

 

まずは、サドルステッチという、2本の針で直線縫いする一般的な縫い方を徹底的に練習します。

端革をナイフで切って、接着し……このときの糊の塗り方も、厳しい水準が要求されます。薄く均一に、しっかり塗るのも技術なのです。

そして、チリを落として、菱目打ちで縫い穴をマーキング。

 

ええ。マーキングです。ここ重要。

エルメスでは、菱目打ちは「縫い穴の印をつける道具」であって、「縫い穴をあける道具」ではないのです。

だから、菱目打ちの刃は、厚革には貫通しないであろう長さしかありません。

貫通させるのは、右手に持った菱錐の役目なのです。

四角い菱錐を、一定の角度に傾け、革に対して垂直に、スッと刺す。そして、左側の針が見えない状態で、菱錐をガイドに針穴に通す。

う〜ん。難しそうです。

 



サドルステッチを習得したら、続いて、コバを蜜蝋で仕上げるロウ仕上げを徹底的に訓練。

そののち、カードケースなどの小物から製作をスタートし、先輩についてバッグを作成。しかし、この時点では、まだ作品は商品のクオリティに達しないため、すべて壊されてしまったそうです。

独り立ちして商品を作れるようになったのは、入社してから1年半ほど経ってから。

それから四半世紀たった今も「いまだ修行中です」と、より高みを目指しておられます。

 

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バッグづくりで最も難しいのは、作品を組み立てて形にするところ。ほんの少しでもゆがんでしまえば、バッグ全体の雰囲気が壊れてしまうためです。


そして、やはり、肝になるのはステッチの美しさ。縫うだけなら10分もあればできるけれど、同じ強さで縫い続け、美しい縫い目を作り上げるのが難しいそうです。

左右対称の部分は、縫い目も一目たがわず左右対称に。「若い職人は一目ずれた程度ならごまかそうとして縫い上げるが、ベテランの目から見たら一目瞭然。全部やり直しです」と、厳しい世界です。

 


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裁断担当は別にいますが、裁断されたパーツを縫い上げ金具を付けて仕上げるのは、一人の職人が最初から最後までやるそうです。

バッグ一つを縫い上げるのにかかる時間は、20〜25時間ほど。ほぼ3日がかりですね。

 



バッグの芯地も、すべて革を使います。

この日、縫っていたのは、「コンスタンス」という小さなハンドバッグ。

素材は「ボー・エブリン」という型押しされた子牛の革です。

表革の裏には、コットンの接着芯(熱接着だそうです)が貼られ、その上に黒い革の芯が貼り付けられました。

このときは、木工用ボンドに似た見かけの接着剤を使います。

 



そして、縫い代を、漉き用のナイフで、薄く漉いていきます。

その手つきの鮮やかさ。

この漉き用のナイフは、金属の板から作ってもらったそうです。

菱錐も、捻引きも、道具は自分が使いやすいようカスタマイズしているとのこと。

中には、大阪で買った糸切狭もありました。

職人さんのお道具を拝見するのも、醍醐味ですね。

 

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漉いたら、ゴムノリ系と思われる接着剤を筆で塗り、革同士を張り合わせます。

そうして、見事なサドルステッチで縫い上げたら、コバ仕上げ。

 

紙やすりで成型し、熱した電気ごてで均します。

続いて、染料を丸錐で塗って……ここは、職人さんによっては筆やスポンジのようなもので塗る人もいるそうです……また、電気ごてで均します。

そして、糸に入れたのと同じ蜜蝋100%の塊でコバにロウを塗り、コットンの布で磨いて仕上げます。

 

コバの形が納得いくまでこの作業を繰り返し、3〜4回は繰り返すそうです。

見た感じ、革の鞣しはクロムも入っているかな? という印象でしたが(実際はどうかわかりません)、コバは美しく仕上がるのですね。

水分でタンニンをあげて固めるという工程ではありませんが、きっちりコバ仕上げができる革のようです。

 



持ち手などは、染料を入れたら、電気で熱した捻引きで捻を入れます。つまり、表と裏の両面から熱と圧力をかけてコバを押しつぶして固めるわけです。捻を入れたら、電気ごてで均し、ロウを入れて仕上げます。

 

なぜ、コバが美しいとわかるかというと、

作業中、パーツを職人さんが観客に回して、見せてくださったからです!!!

生まれて初めて、たぶん一生に一度、エルメスのバッグを、触りました!!!

 

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ついでに縫い目も見ちゃおうっと。

美しい。

長いものは途中で糸を継ぐそうですが、継いだ跡が、まったくわかりません。




 

ポケットの縫い目は、芯材を貼った裏側で玉結びして、ボンド系の接着剤を塗って糸止め。

表面で縫い終わりが見える場合は、縫い戻って糸を切り、縫い終わりの目にボンドを丸錐で入れていらっしゃいました。

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じ〜〜〜っと見ていたら、

なんと、

「サドルステッチをやって見たい人はいるかい?」と、職人さんが!!!

 

通訳さんが「サドルステッチをやってみたい人はいまs」まで言ったところで、食い気味に「はいっ!」と、手を挙げました。


左ひざにパンスを乗せて、右ひざでおさえ、革を挟んで、

両手に針を持ったら、右手の菱錐で、スッと革に穴を…………

 

……………あ、開かない。

あれっっ?

職人さんは、すっすっと、なんの抵抗も感じさせずに、革に菱錐を通していたのに?!

とってもよく研いであって、切れそうな形の菱錐だから、楽に通るだろうと思ったのに?!

 

悪戦苦闘して菱錐を通したら、左手の針を穴に…………

 

……………み、見えなくて、通らない。

ぐぬぬぬぬ。

体を曲げて、左手の針を確認しながら、不格好に針を通します。

右手で引き抜き、右手の針を通して、糸を引っ張る。

 

おし。もう一回じゃ!

 

……あ、開かない。

……み、見えない。

ぐぬぬぬぬ。



 

10目ほど悪戦苦闘し「そろそろいいですか〜」と言われてしまったので、終えました。

 

左手の針を通した裏側の縫い目は、ガタガタ。菱錐をまっすぐ刺せなかったんですね……



 

「動作が、よくないね。右腕は、肘から先をまっすぐにして、菱錐を通さないとだめだ。間違った動作で作業していると、手首や肘を痛めることになって、職人として長続きしない。まずは正しい動作を身につけなければいけないよ」

 

いただいた盛大なダメ出しが、これほどうれしかったことはありません。

エルメスの職人さんに、縫い方、教えていただいたのです!!!

 

レザークラフト歴、1年ちょっと。実際は、時間があるときに、ちょっとずつしか作業していない、超ド初心者のワタクシが!!!

エルメスの、キャリア27年の、職人さんの、ご指導を!!!

 

涙が出そうにうれしかったです………

 




よし。これから、縫い方、練習しよう。

勝手に尊敬している革作家さんが、A4の革を端からず〜っと縫い続ける「縫い目ドリル」を今でもなさるそうですが、

あれは本当に正しいことなんです。優れた職人さんの証なんです。技術の礎は、基本が一番大切なんです。

 

職人さま、エルメス様、本当にありがとうございました。




 

さて。

会場には、ほかにもたくさんの職人さんがいらっしゃいます。

 

エルメスといえば、スカーフ。バブル華やかなりしころは、OLさんは一枚はエルメスのスカーフを持つのがステータスだったそうですね。もはや歴史の一幕ですが。

エルメスがスカーフを作り始めて、今年で80周年だそうです。

 

そのスカーフは、多色刷りのシルクスクリーンプリント職人さんが一色ずつ染め上げます。

………ここ、人が多すぎて、作業を見ることができませんでした。

が、ほんの少しでも印刷がずれたものは、すべて集められ、断裁されて、クッション材などとして再利用されるそうです。

「だから、エルメスには、アウトレットはないのです」

さすが、お値段が高いだけの理由は、ちゃんとあるのですね。




 

そうして染められた布は、縁かがり職人さんが、一枚一枚、手縫いで縁をよりぐけで縫い上げます。

角は、額縁仕立て。

生地をよる幅は、すべて手の感覚で決めますが、寸分たがわず基準の幅によりあげるとのこと。

一枚縫うのに通常1時間ほどですが、この職人さんは40分で四方をかがり終えるそうです。

 

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ほかにも、日本人女性の陶器の絵付け職人さんや、

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とてもノリがよい手袋職人さん、

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親切な時計職人さん、

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ネクタイ職人さんなどのお仕事を拝見することができます。

休憩中のこともあります。ワタクシの時は、ネクタイ職人さんが休憩中でした。


 

クリスタル職人さんは、VRで拝見できる仕組みでしたが、列ができていたのであきらめました。



 

彫金の石留職人さんは、顕微鏡をのぞきながらの作業。

その顕微鏡をのぞかせていただくと、無数のダイヤのきらめきが、さらに金属で輝きを増すように、正確に一粒ずつ留められていました。

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石留めに使う工具の使い方も、一つ一つ図に描いて説明してくださる親切さ。

 

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エルメスというブランドの、仕事にかける誇りを、それぞれの職人さんから、しっかりと感じ取ることができました。

 

単に作品を見るだけでは、絶対に得られない、ブランドの技術の高さに対する感動。

これが、入場無料で得られるのです!

さすがエルメス。太っ腹。




 

こうして、素晴らしい技術を目の当たりにし、

やっぱりエルメスって世界に冠たる一流ブランドなのねぇ、と実感し、

 

それなら、さぞかしエルメスのバッグが欲しくなっただろうって?




 

いやいやいやいや。そこはですねぇ。




 

ピラミッドの建築技術ってすごいなあ、と、感動しても、じゃあ我が家の寝室にも一つ欲しいわ! と、思えないように、

運慶の仏像彫刻ってすごいなあ、と、感動しても、じゃあ我が家のリビングにも一つ欲しいわ! と、思えないように、

 

エルメスの技術ってすごいなあ! と、感動しても、

バッグ欲しいわ! とは、

ワタクシ、どうも、つながりません。

 

ワタクシにとって、エルメスとは、

ピラミッドや運慶の仏像と同じように、

自分とは、そもそも世界がまったく違うものだと、

深く刻まれているようです。




 

ご、ご、ご、ごめんなさい。





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家族が多いと、楽しみも多い半面、心配ごとも増えますね。

たくさんの万年筆と暮らしていると、毎年、必ず、誰かは体調を崩してしまうものです。

生活環境……つまり、扱いが悪いんじゃないかとか、
中古品ばかり買うからだとか、
しごくごもっともな理由には、目をつぶることにします。

体調を崩した万年筆は、ドクターに診ていただきたいものですね。




東京でも、関西ほど頻繁ではありませんが、ときどき、万年筆を診療するペンクリニックの機会があります。
代表的なのが、3月に丸善日本橋店で開かれる「世界の万年筆展」。今年も、いま開催中です。
こちらでは、セーラー万年筆とパイロットのペンドクター、そして名医・サンライズ貿易の宍倉潔子さんが、日替わりで万年筆を診てくださいます。

丸善のペンクリニックの素晴らしいところは、診てくれる万年筆のメーカーに条件がないことです。
中旬から日本橋三越でも「世界の万年筆祭」があり、そちらでもペンクリニックがありますが、パイロットは「パイロット社製に限る」、セーラーは「セーラー万年筆社製に限る」、ダイヤモンドの仲谷佳登さんは「デルタ、スティピュラ、ディプロマット、コンクリン社製に限る」と注意書きがあります。

今年、体調を崩してしまったのは、最近、家族に加わったラミーのスカラくん。
三越では残念ながら対象外のようなので、丸善のペンクリニックを狙いました。
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診てくださったのは、宍倉先生です。
なんか最近、毎年のようにお世話になっております。廃盤になったものばかりお持ちして、いつも誠に恐縮です。
どんなものでも優しい笑顔で診てくださる宍倉さん、「万年筆の女神」と、ワタクシ勝手に呼ばせていただいております。




実は、ラミーを買うのは、スカラくんが初めてでした。
サファリを筆頭に、モダンで無駄がないラミーのデザインは、古いもの好きのワタクシには、なんとなく近代的すぎるような気がして、いまひとつ近寄りがたかったのです。

でも、このスカラくんは、どことなくクラシカルな香りがただよっています。
チタンのほのかな金色の輝きと、ステンレスのクリップの曲線。
そして、上下をすっぱりと切り落とした直線のラインは、タルガ一族に通じる雰囲気です。
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ブランドのサイトによると「ドイツの兄弟デザイナー、sieger design(ジーガーデザイン)によるデザインで、Chicago Athenaeum: Museum of Architecture and Design(シカゴ学術振興協会:建築デザインミュージアム)によるグッドデザインアワードを受賞」だそうです。
現代的でもあり、50年前のペンだと言われてもおかしくないたたずまいでもあり、ワタクシのツボを的確に突いたのでした。




んで、ネットで中古を買いました。
……って、現行品なのに、また中古……

だって、中古のほうが安くて気軽に使えるもん。

……そういう買い方をするから、体調不良になる確率が上がるのだよ……




ま、ともかく。
スカラくんには、入れるインクは決まっていました。
群馬県のジョイフル2新田のオリジナルインク、浅間セピアです。
チタンの金色を煮詰めて煮詰めて抽出したら、きっとクラシックなセピア色になるはず。
だから、スカラくんには、セピアです。
さっそく、コンバーターに満タンに詰めました。
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ペン先は、すっきりシンプルで無駄がないライン。
スチールペン先です。
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………鉄ペンなのに、新品だと2万円………
国産なら余裕で金ペンのいいやつを買えるお値段ですよ。
舶来の万年筆って、お高い……
だからついつい、中古に手が伸びます。




鋭利なナイフで削り落としたかのようなペン芯のラインが印象的。
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そのペン芯は、なんの装飾もなく、すっきりとペン先におさまっています。
……………か??
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この「??」が、今回、重要なポイントです。




「F」ながら、舶来品らしく、スカラくんのラインは太めでした。
国産ならMくらいだと思われます。
鉄ペンだし、この太さだし、これは、だ〜〜〜っとメモを取るのに使いやすそう。
そう思って、だ〜〜〜っとメモを取ってみたところ………

ん?
なんだ、この引っ掛かりは??
カリカリというか、ガリガリするのは、鉄ペンだから???

万年筆を使い始めてから、ほとんど鉄ペンで書いたことないもんな〜。
金ペンに慣れちゃうと、鉄ペンって、こんなにガリガリするものかな???
えセレブなワタクシは、高貴な違和感を感じました。

そして、しばらく書き続けると、右手が痛くなってしまい、諦めて、いつものペリカンM101Nちゃんに持ち替えたのでした………
おかしいなあ。
やっぱり、これは、ガリガリのせい???




3月のペンクリニックを待ちわびて、スカラくんはペンケースで待機することになりました。
インクを入れっぱなしたままで。
……って、アンタね。しばらく使わないなら、インクを抜いておきなさいよ。




さて。
宍倉先生は、スカラ君のペン先をちょっと確かめると「ああ、ペン先がずれてますね」。
手で、くいくいとペン先をたわませ、素早く調整してくださいました。

「手が痛くなるほどの引っ掛かりって、やはり何かあるもんなんですねぇ」と、ワタクシ。
宍倉先生は、「ええ。これ、ペン先全体が、ペン芯からずれてしまっていた状態なんですね」



………そんなに、根本的な問題でしたか………
あらためてペンの裏側の写真を見ると、言われてみれば、左右で影の出方が不自然に違うような気もします。

「てことは、メーカー修理でしょうか?」と、恐る恐る尋ねると、宍倉先生はにっこり笑って「もう直しましたから、大丈夫ですよ」と、スカラくんを返してくださいました。



試し書きしてみると………
あの手を痛めるほどのガリガリが嘘のように消え、ふわふわとインクが紙の上に滑り出てきたのでした!!

鉄ペンでも、こんなに気持ちよく書けるんだなあ……
たしかに、金ペンより紙への当たりが硬い感触ではありますが。
「インクフローがたっぷりしているペン先ですね」と、宍倉先生がおっしゃるとおり、とても滑らかな書き心地です。




ステンレスとチタンに覆われ、スカラくんの体重は、キャップをはめた状態では、なんと41グラム。
万年筆・ザ・スタンダード、パイロットのカスタム74とほぼ同じ大きさなのに、体重は倍もあります。
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これだけ重いと、書くときはキャップを外した方がバランスがいいですね。
キャップを外すと、体重は24.5グラムに減ります。カスタム74(21.5グラム)より少し重めです。
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「重さがしっかりある軸で、インクフローがたっぷりしているので、本来は疲れを感じずに書けるペンだと思います」と、宍倉先生。
あのガリガリは、スカラくんからのSOSのメッセージだったのでしょう。

宍倉先生の手によって、ペン芯とペン先は、こんなにきれいに収まりました。
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ペンクリニックがなかったら、スカラくんは、このまま「やっぱり鉄ペンは書きにくいのぉ」で終わって死蔵されてしまったことでしょう。
初・ラミーがこれでは、私の中で、ラミーは「デザインばっかで書きにくいブランド」とインプットされてしまったかもしれません。
………いやいやいやいや。中古を買っておいて、その評価はないだろう。

万年筆が、本来の持てる力を存分に発揮して活躍してくれるために、
ペンドクターは、なくてはならない存在です。
宍倉先生、本当に、ありがとうございました!!!




こうして、我が家の万年筆一家に、晴れて、ラミーのスカラくんが、主力メンバーとして加わったのでした。
頑張れスカラくん!
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ラミーというのは、すっきりしたデザインで、書きやすいペンを作るブランドなんですね。
宍倉先生のおかげで、ワタクシの中に、ラミーはそのように刻まれました。




こうなると、みんな持ってるサファリとか、金ペンとかも、試してみたくなってくるのぉ………

ペンクリニックは、新たな万年筆の世界への扉でもあるようです。
…………って、まだ増やすの???

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中学生のころ、自宅の近くで一番大きな文房具屋の棚の上に、ひときわキラキラ輝くものを見つけました。

「世界の鉛筆50本セット」。

透明なプラスチックケースに、色とりどりの軸の海外の鉛筆がバラで50本入ったセットです。
赤や緑、虹色と、日本の鉛筆では見かけない美しい軸に彩られた鉛筆たち。
見つけた時のワクワク感ときたら……
鉛筆って、どうして、こんなに、ソソる存在なのでしょうか。

世界には、こんなに綺麗な鉛筆があるんだなあ……と、一つだけしかないそのセットを、毎日眺めて約半年。
ねだってねだって、クリスマスプレゼントにもらいました。
だって1万円もしたのです。お小遣いでは、ちょっと辛いでしょう。
たぶん、親からもらった中で、一番うれしいクリスマスプレゼントです。
「こんなの、絶対使いきれないじゃない!」という、母親のあきれ顔も、よく覚えています。




……母親というのは、なんと正しいことを言うのでしょうか。
そのセットの鉛筆は、それからン十年たった現在でも、ワタクシの手元にあります。
なくなってしまったものも多いですが、それは使いきったのではなく、単に、どこかへ行ってしまったのです。
ああ。




子供のころ、佐藤さとるさんの「えんぴつ太郎のぼうけん」という絵本が大好きでした。
使い込まれて短くなった鉛筆が、部屋の隅でトランプのジョーカーに魔法をかけられて手足をもらい、ほったらかしにされていたぬいぐるみの望みをかなえるために冒険する物語です。
主人公のえんぴつ太郎は、削って削って小指くらいの大きさになった鉛筆。
最後に、お母さんがえんぴつ太郎を包丁で削って台所の引き出しにしまうシーンが、なぜだか、うっとりしてたまりませんでした。

手元に残った「世界の鉛筆50本セット」の残りを眺めると、
これがえんぴつ太郎になるまでに、あと何十年かかるかねえ……。




使われずにとっておかれるのは、ワタクシの鉛筆だけではないようで……




30分ほど時間があるから、ちょっと骨董市に寄っていくか〜。
ある日、ふと、思い立ちました。

……骨董市って、そういう行き方するもんじゃないと思いますが……



急ぎ足で会場を一周するワタクシの目の端に、それが、稲妻のように飛び込んできました。

「SWAN」と書かれた紙の帯に包まれた、赤と黄色の鉛筆。それぞれ1ダースです。

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足を止めて、素早く手を伸ばし、持ち上げた時には、もう購入を決めていました。
決断に要した時間は、約5秒。
ほら、骨董市なんて、30分あれば十分なんですよ。

……骨董市って、そういう買い方するもんじゃないと思いますが……



ごほん。
「SWAN」の鉛筆といえば、あれですよ!
現在まで続くドイツの鉛筆メーカーであるスワン・スタビロの、前身ではないでしょうか???
このスワンのマークは、見覚えがありますよ。
……ほんとかなあ。
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赤くて丸い軸の一ダースは、最初から削ってあります。海外の鉛筆のデフォルトのスタイルですね。
軸には「Schwan−Bleistift Fabrik」という文字が。
「Bleistift」は、ネットで検索すると「鉛筆」、「fabrik」は「工場」という意味のドイツ語なので、これはまさしく「シュバン鉛筆工場」。
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一方、黄色く六角形の軸の一ダースは、削ってありません。ちょっと日本の鉛筆な雰囲気ですが、軸には「SCHWAN GERMANY」と書いてあります。

うむ。これは、おそらく、ほぼ間違いなく、スワン・スタビロの前身であるシュバン鉛筆工場社の鉛筆です!
……まあ、そういうことにしておこう。




SCHWANの社名が消えたのは、スワン・スタビロのカンパニーヒストリーによれば、1976年だそうです。
つまり、赤いのも黄色いのも、少なくともそれより前に作られたものですね。

どちらも、おそらく輸出されたものではないかと思います。




一ダース、きれいにまとまっていると、使うのに勇気がいりますよね。
この鉛筆も、ワタクシのような持ち主の手元で、何十年も机の引き出しの片隅に眠っていたのでしょう。
わかるわかる。




古い鉛筆に出会ったことで、なんとなく、また鉛筆を使いたい気分になりました。
ペン立てや机の隅っこに転がっていた鉛筆たちを集めてみます。
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上から3本が、「世界の鉛筆50本セット」のメンバーだったヒトたちです。
イギリスのベロール社は、最近、日本で見かけませんが、ステッドラーとスワン・スタビロは定番ですね。
セットの中で珍しい鉛筆はみんなどこかへ行ってしまい、定番だけが手元に残っているわけです。
……なんだか、しみじみと悲しさを覚えます……

三菱鉛筆は、まあ、三菱鉛筆で、
LYRAは、最近買ったもの。最近、カワイイ系の鉛筆といえば、LYRAが多いように思います。あとはチェコのコヒノールでしょうか。




どれも、ワタクシの子供時代の定番であるHBです。
昔は、学校に持っていくペンケースの中身はHB、ちょっとオトナな雰囲気を醸し出したいときはFかHだったものですが、
今のペンケースの中身の定番はBとか2Bなんだそうですね。
今の子供は筆圧が弱いので、HBやHだと薄すぎるという話を聞きました。

……筆圧が弱い。ふむ。
今の子は、もしかすると万年筆向きなのかもしれません。




同じHBでも、実は、メーカーによって書き心地が違います。
まずは、ド定番の3本で比べてみましょう。
同じコーヒーカップを、一個5分くらいで殴り書きしてみました。
……あ、コーヒーカップのつもりです。芸術的過ぎて、なんだかよくわからないかもしれませんが……
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鉛筆は、芯の粒子を紙の繊維に絡ませて書いていく筆記具なわけですが、

STABILOのOperaは、粒子が一番、紙に乗りにくい印象です。粘りがあるといいますか……
その代わり、書いたらしっかり定着する感じで、むかいのページへの色移りはそれほどありません。
消しゴムで消しやすいのも特徴のように感じます。

三菱のuniは、どんどん芯が削れて紙に粒子がうつっていく感じ。乾いた感触の書き心地です。
真っ黒に塗りやすいのですが、粒子が定着しない感覚で、むかいのページへの色移りが激しいです。
ちょっと手で擦ったら、すぐ真っ黒になってしまいそうですね。

ステッドラーは、その中間。バランスがよい感じがします。粘りがある書き心地ですが、濃い色を乗せやすい。
デッサンの画材の定番に選ばれるのも、わかります。




続いて、カワイイ系と、今は見かけない系で、描いてみましょう。
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LYRAもBerolも、粉がなかなか紙につかない書き心地です。
書いた線の光の反射が大きく、薄い色に見えます。
HBだけど、もうちょっとH寄りというか、薄くて硬い芯のように感じます。
ぐりぐり塗っても、真っ黒になりにくいようです。
絵よりも、文字を書くのに向いた鉛筆かもしれません。




さてさて。それでは。
いよいよ、骨董市で買ってきた、シュバン鉛筆工場の鉛筆を、試してみようじゃありませんか!

……おそるおそる、きっちりくるまれた赤い1ダースから一本引き抜きます。
これは「No.2」というのが、おそらく硬度の表記なんでしょうね。
ネットで調べると、主に米国での表記方法で、HBに相当するようです。

書いてみますと……
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(あっ、Fabrikのスペル間違ってる……)
やっぱり、STABILOに似た書き味です。薄くて粘りがある感覚です。
ただ、今のスタビロよりは、粉が乾いた感触を感じます。紙へののりがよく、塗りつぶしもしやすいです。
………古いから、時間とともに、芯の水分が抜けて乾いたんでしょうかねぇ………




黄色いほうは…………………
………………日本有数の貧乏性、座右の銘は「もったいない」のワタクシに、削ってない1ダースセットの、しかも現行品でない鉛筆を、削って使うなんてできるわけがないじゃありませんか!!!
開き直り。




鉛筆は、削らないと書けません。

でも、芯を木に包むという単純な構造だから、何年放置しても、書こうと思ったらすぐ書けるんですね。
万年筆のように、保存の仕方が悪いと故障して書けなくなってしまう……なんてことは、ありません。
いつでもどこでも、思い立ったらパッと書ける。
偉いヤツです。

……ま、落っことして、軸の中で芯がバキバキに割れてしまう、なんてことが、子供のころにはありましたが……




おや。昔の鉛筆は、今の鉛筆と、軸の文字の印刷の方向が逆なんですね。
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削った先を保護するために、鉛筆キャップが必要です。
ただ、海外の鉛筆は、日本のものより少しだけ軸が細いようで、日本の鉛筆キャップが緩すぎてはまりません。
そこで、エルバマットの端切れで作ってあげましょう。

色とりどりの鉛筆キャップです。
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……って、分厚い……
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エルバマットの原厚、約2ミリ。
鉛筆よりも、キャップのほうが、もしかしたら重いかもしれません。
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「えんぴつ太郎のぼうけん」の作者、佐藤さとるさんは、2月に亡くなったそうです。
ワタクシの子供時代は、佐藤さとるさんワールドで彩られておりました。
素敵な物語を、ありがとうございます。
ご冥福をお祈りします。


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