臨時職員
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「臨時職員」 低く垂れこめた灰色の冬の雲の下を、一台のそりが急ぎ足で飛んでいる。 時間はもう日付けを跨いで、翌日になろうとしていた。 「だいたいよ、なんで鹿なんだよ・・・」男は諦め切れないという様につぶやく。 「だって旦那さん、仕方がないでしょ、ここは日本なんだから」 と二匹の鹿の一方が、振り向きもせずに答えた。 「そそそ、ここは日本なんだし、仕方ないっすよ。」 と、もう一方の鹿もシタリ顔で答えた。 「馬鹿、日本ならこんな寒い日はおコタに入って、熱燗できゅっと一杯って相場があんだよ。」 と、背中を丸めて赤いドテラの襟を両手で深めに合わせながら言葉を吐き捨てる。 「馬鹿じゃなくて、鹿なんですけどねぇ。」「そそそ、鹿なんすけどねぇ。」 二匹の鹿はお互いの顔を見合わせてため息をついた。 「ま、ぶつぶつ言っても始まんねぇから、ちゃっちゃっと片しちまおうぜ。」 そう言うと、男は手綱をその赤い軍手で握り締めて、鹿達を急がせた。 「だいたいよ、なんで煙突が無ぇんだよ・・・」男は凍える手に息を掛けながらつぶやく。 「だって旦那さん、仕方がないでしょ、ここは日本なんだから」 と二匹の鹿の一方が、空を仰ぎながら答えた。 「そそそ、ここは日本なんだし、仕方ないっすよ。」と、もう一方の鹿も空を仰ぎながら答えた。 「馬鹿、銭湯にだって煙突くれぇあんだから、一般ピーポーん家にあったって罰は当たんめえ」 と、赤い毛糸の帽子に積もった雪を払いながら毒付く。 「馬鹿じゃなくて、鹿なんですけどねぇ。」「そそそ、鹿なんすけどねぇ。」 二匹の鹿はお互いの顔を見合わせてため息をついた。 その時だった。 「あ、サンタだっ!!」と小さな女子が、窓越しに叫ぶ声が聞こえた。 先ほどまで毒付いていた男は、ゆっくりと声のする方を振り返り声高に言った。 「ほ〜っほっほっほぉ〜メリークリスマス!!」と満面の笑みを添えて。 「あ・・・営業スマイル全開ですね。」「全開っすねぇ。」 二匹の鹿はお互いの顔を見合わせてため息をついた。 「なんだよ、悪ぃかよ・・・お愛想しちゃいけねぇかよ・・・ だいたいよ、なんだよこの格好・・・ドテラだし、軍手だし、鹿だし・・・ こんな日にわざわざ好きでこんな格好してんじゃねぇんだよ。稼ぎ時なんだってさ、 上の人から「お、君今日開いてる?」なんて言われちゃ断れねぇじゃねえか、 臨時なんだよ、だってだいたい俺ぁ経理部なんだよ・・・ それに、お前ぇらだって臨時なんだろ? 俺だってよ、ガキが居んだよ・・・ 六つになる女の子でな、俺に似てなくて可愛いんだよ・・・んでな、出掛けにな 『今日はイブだから早く帰ってきてね、パパ』って言われたんだよ・・・ なのに残業で、臨時のサンタなんて・・・」 男は不貞腐れた様子で、顔を横に向けたまま、言い訳じみた言葉を並べた。 鹿は答えなかった・・・そして、しばらくして・・・ 二匹の鹿はお互いの顔を見合わせて、こう答えた。 「じゃ、ちゃっちゃっと片付けちゃいましょう。」「片付けちゃうっす。」 そうして男と二匹は、大急ぎでプレゼントを配り終えると、
雪のちらつく冬の雲の下を、西の空に向って慌てて帰っていった。 |





