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月島は竹森隆久の屋敷の前に着いた。
門は朽ち果て、漆喰の塀も崩れ落ち中の様子がうかがえた。
正門は蹴破ると湿ったバキッ、と音を立てて簡単に壊れ、中に入ることが出来た。
空気は生温くかつ異様なものだった。鼻には微かにだが血の臭いが感じられた。
肺に吸い込まれる空気は月島の薄い服の生地を通してからだった。
そうでもしなければ肺は腐って、自分が朽ち果ててしまう。
「出迎えは頼んでない」月島は塗り固められたような闇に一喝した。
少しだが肺の中に空気が入り込む。
胸が圧迫されるように心拍数を上げ、鼓動が内側から聞こえる。
「そんな怖い顔しないでよ。怖いじゃない」
妙齢の女の声が闇の向こう側からするが姿が見えない。
「女の死体は何処から手に入れた。墓場か」
月島は辺りを見渡す事無く…むしろ一点を見据えていた。
「先ごろの流行病で死んだ女の体を借りてるわ。こんなに若い体の中に入るのは久しぶりだわ」
声は廃墟の奥から蚊の鳴くような声で聞こえた。
「殻でも新鮮であればあるほど良いのよ?あなたのお父さんみたいに」
「貴様が復活したのはいつだ」
尋問をする様な口調で闇を睨む。
「あなたのお父様に接触した時よ。あなたもお父様に似ていたぶり甲斐があるわ」
「生憎、その趣味は無い。否、お前のような奴らをいたぶるのは大好きだがな」
顔は笑っていない。
「おお、怖いわ。でもあなたに一度でいいからいたぶられてみたいわ」
女は悩ましい声をあげる。
「これからいたぶろうじゃないか。さあ、出て来い。俺はせっかちなんだ、貴様のような女に時間をかけるほど封印屋も暇ではないんだ。と、言うよりかはこんな奴を倒すのに時間をかける俺がまだまだ尻の青い男だということなのかもな」
初めて月島は笑みを浮かべた。仮面のように作られた笑いだが。
「そうね。私もあなたに封印されるほど力を失ってしまったようね」
女は高笑いを止めない。
「いい加減にしろ。椿は何処だ。何処で咲いている!」
段々と声が大きくなる。
「裏の庭よ。あなた、いい体だわ。私の力が何倍にでも増幅しそうで楽しみだわ」
女の声は全身を嘗め尽くすような陰湿さがあった。
蒼一は裏庭へと向かう。
崩れた漆喰の壁から白く太い筒のようなものがむき出しになっている。人骨。
漆喰の泥にまみれた大腿骨。
恐らく過去の主達だろう。
かぎ状に折れ曲がる角を曲がると屋根から椿の木の一部が見受けられた。
白い木肌は真っ直ぐに伸び、枝分かれを繰り返し細部までに葉をつけ花を咲かせている。
特異なのは椿の色。赤いとかそういった表現よりも相応しい言葉がある。
血だ。血と同じ色をしている。
「やっと来てくれたのね。あの男性はお友達なの?何にも感じないけど良い男じゃない。でもあなたの方がもっと良い男よ」
しなやかな言葉遣いの中にも獣の荒々しさが垣間見える。
「黙れ。化物に言われるなんて俺も魅力がないな」
女の言葉を一蹴する。
女は唇を動かさずに笑い、その着物を一枚づつ脱いでいく。
月島は直視するが何も感じない。
内側に潜み、蠢いている正体だけを見据えている。
「私は人間よ?あなたが信じないから脱ぐのよ」
女は全て脱ぐと月島の下へ歩み寄る。
白い肌が露わになり、豊満な胸やくびれた腰、上半身が斜めに照らされる。
生きていたときはさぞかし浮名を流していたことだろう。
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