文花座

歌舞伎、宝塚歌劇団、劇団四季・・・大好きな舞台の感想をつらつらと♪

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九月大歌舞伎『平家蟹』

【公演データ】
公演名:九月大歌舞伎『平家蟹(=へいけがに)』
会場:歌舞伎座
観劇日:2005年9月3日 夜の部

【主な配役】(敬称略)
官女玉蟲:中村芝翫
妹 玉琴:中村魁春
おしお:中村吉之丞
那須与五郎:中村橋之助
僧 雨月:市川左團次

《「人間」が飲み込まれた立ち姿》

舞台中央に立つ玉蟲@芝翫丈の、真っ白な着物に緋の長袴―――
官女の正装は、大仰に飾られた祝い事の贈物のように、気高く美しく、満ち足りた充実を感じさせます。
しかし、飾りが飾りである通り、それには実がないのです。

平家全盛の時代、玉蟲はその姿で高貴な方に仕えていたのです。
しかし、今や平家は滅亡してしまった。
しゃぼんだまがはじけたように、夢のような暮らしのすべてが空に掻き消えてしまった。
それなのに、玉蟲だけは時が止まったかのように官女の正装を纏っているのです。

小さな体にいっぱいに着付けたその衣装が、舞台の中で浮き立つように不自然に思えました。
衣装の中で、だらりと姿勢悪く立っている、その体。
立派な衣装に護られ、埋もれたような芝翫丈の立ち姿は、衣装を「着ている」人間が消えてしまって、虚構だけが立っているようにさえ思われました。
私の目には、絢爛の栄華に人間が呑み込まれてしまったかのような空しい姿に映ったのです。
―――衣装の中にぽっかり空いた暗闇に、魔物が住み着くのも容易なくらいに。

《リアルな「女」》

玉琴@魁春丈は、ものすごくリアルに「女」だなぁって!

恋をした、彼と共に生きたいと思う。
しかし相手は敵、たった一人の姉が許してはくれない。
許してもらいたい、そして敵方に下る私と一緒に来てほしい。
姉様も、共に幸せにならなくてはいけないのだから―――

行動は可憐な乙女の清純そのもの。そして、彼女のその心も真実その通りなのでしょう。
けれど、そこに生々しい女の打算、狡さ・・・いえ、決して悪い意味ではないのです。
生きていく為のしなやかさ。
男の強さとは質を異にする、女が持つ強さと言い換えることも出来るようなもの。

恋した相手が敵方だったからといって、それがなんだというのだろう。
あの方は私を好いてくださっている。
私達を護ってくださる、この暮らしから、救い出して下さるというのだ。
姉様は空虚な夢にしがみついているだけ、空しい夢に引き比べ、温かい生身のなんと頼りがいのあること。
なぜわかってはくださいませんの?
心を貫こうとすれば角がたつ、それと折り合いをつけて生きていくのが現実ではありませぬか。
私は祝福された結婚がしたい。
恨みなど、この身にうけたくはない―――

生身の女には、100%の清らかさなんてないのです。
そういった「生々しさ」が、べったりと絡み付いているような!

魁春丈の女形って、姿形が女であるから女に見えるのじゃなくて、その内面が濃密に女なのですよね。
存在そのものにものすごく説得力がある!

玉蟲の不気味なまでの「欲」に、玉琴の現実的な「欲」がぶつかり、綺麗に装った外見とはうらはらの内面の戦いがちらちらと垣間見えるように思えました。
そして、玉蟲の欲が化学変化を起こしたように猛毒に変わり、津波のような猛々しさでおそいかかって、ちっぽけな玉琴の欲を呑み込んでいくように感じられたのです。

《単純な明るさ》

玉琴と恋仲になった、源氏方の那須与五郎@橋之助丈。
すっきりした美男ぶり、声に、表情に朗らかな明るさが宿ります。
人間の奥底に潜む「真の闇」を見たことがない、そんなものに気付きさえもしないような―――
とことん優れた男性って、なにか、究極のところに「楽観」がありますよね?
「自分が裏切られる」ってことが実感としてない。
その単純さが、おどろおどろしい女の戦いのそばで、オアシスみたいにぽっかりと際立っていました(^^)

でも、どんな綺麗な色の絵の具も、黒が混ざったならその明るさが一気に奪われてしまうように、玉蟲の「黒さ」の前にはひとたまりもなし!
大の男が、目の前のか弱い女から妻を守ることすらできないのです。
そして、猛々しい戦いの剣弓さえもくぐり抜けた自分の命も奪われてしまう―――
男の強さと脆さを感じさせる、那須与五郎でした。

《客席の空気》

今回の舞台。下手側の床がどうやら滑りやすくなっているようで、何人もの役者さんが足を取られてヒヤヒヤする場面がありました。
そして極めつけに、とある役付きの俳優さんが見事に転んでしまったんです!
舞台丈の役者さんは誰一人素に戻ることもなく、むしろその転倒さえも芝居に組み込まれているのかと思わせるほどに自然に流れていきましたけれど・・・
その激しい転倒っぷりは一目瞭然。
でも、そこは決して笑う場面じゃなかったんです。そうした時に、今回の客席からは、まったく声があがりませんでした。

八月あたりだったら、間違いなく大爆笑だったと思うんです。
もちろん、それが悪いだなんて思いません。
舞台にのめり込んで心底から「楽しもう」という気合で見ているからこその、ピュアな「箸が転がっても可笑しい」娘心大爆発みたいな感じ。
劇場中の人たちが、心を剥き出しにしているような自由さ、悪く言えば勝手さがありますでしょ?

でも、今回の客席は「舞台そのもの」「演技そのもの」を楽しむ、一種制約された緊張感がありました。
そして、観客が舞台のミスを救った感がありました。
もちろん、上記の見方も楽しいです。
けれど、舞台上の人たちが作り出している空気を読んで、それに応えられる観客でありたいと思えました。

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初めまして!トラックバックありがとうございます。 これからもよろしくおねがいいたします。 削除

2005/9/10(土) 午後 10:54 [ ハンナ ]

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TBありがとうございました。 とても興味深い観点から舞台をご覧になっていて楽しく読ませて頂きました。

2005/9/11(日) 午前 0:18 [ katsuraaizen ]

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コメント有難う御座いました。 魁春丈の上手さは天性なのか、歌右衛門の薫陶なのか。 世話女房やガラッパチのおかみさん等の役も実に味があるように思います。 玉琴の解説、ご感想、いいですねえ。

2005/9/11(日) 午前 1:15 [ har**akamur*2*02*002 ]

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TB&コメントありがとうございました。とても細やかに感想を書かれていて、楽しませていただきました! 削除

2005/9/11(日) 午前 1:47 [ siotama ]

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そうそう、今月は先月と違って本来の歌舞伎好きな方がいらっしゃっているので、歌舞伎座が従来の歌舞伎座に戻っていましたね。 先月はコスプレまで居て、ホントーにビックリしましたし、拍手するところじゃないところで拍手は起こるし、笑うところじゃないところで笑いは起きるしで、何だか落ち着いて観劇できませんでしたー。 削除

2005/9/11(日) 午後 1:58 [ 愛染かつら ]

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yurarinです。先ほどはTBありがとうございました。 今日は土砂降りの中チケットをとってきました!!! この間の舞台は私は3階の3列目の花道の上くらいでしたので、肝心なところが見えない勧進帳でした。。 お気に入りに入れさせていただきますね〜。。

2005/9/11(日) 午後 7:35 [ amano ]

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初めまして!TBありがとうございます。歌舞伎はほぼ初めてのド初心者でしたが、その私にもとても面白く、魅力的な舞台でした。 感想拝見いたしましたが、本当にお好きなかたの感想は読んでいて引き込まれるものがあります。 またお勉強させてくださいませ<(__)> 削除

2005/9/12(月) 午前 0:11 [ にょろ ]

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ハンナ様、お越しいただきありがとうございます(^▽^)「いい」も「悪い」も冷静&知的な視線で捉えていらして。でも無味乾燥な批評じゃなくて、歌舞伎大好きでいらっしゃるんだな♪ってことが伝わってくる(^^)カブキ愛&同類の匂いを感じましたっ。とっても読み応えの有るレポを見つけて嬉しくなっちゃいました。こちらこそ、よろしくお願いいたします♪

2005/9/12(月) 午後 0:23 [ 雪柳 ]

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愛染かつら様、いらっしゃいませ♪感想を読んでいたら、観劇後にカブキズキ仲間とお喋りしてるみたいな気分になっちゃいました(^^)>じょっ女王様!?あはは、そうだよねぇぇ!!みたいな(笑)感動もそうだし、マニアックなツボポイントとか、そこはどうよ!?ネタとか、ひと時を共有した人とのお喋りって最高に楽しいですものねぇ!こちらこそ楽しませていただいちゃいました♪

2005/9/12(月) 午後 0:36 [ 雪柳 ]

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富樫の拵えって、役者さんを本当にカッコよく見せますよねぇ!(あと、お祭りの鳶頭も♪)染五郎丈の富樫、どれほど素敵なものかしら。姿形だけじゃなく、覚悟の裏に死が透けて見えるような薄幸な透明感がありそうだわ。是非観てみたいですねぇ!

2005/9/12(月) 午後 0:45 [ 雪柳 ]

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harunakamura20022002様、お越しいただきありがとうございます!歌右衛門丈、観劇歴の浅い私は生の舞台を拝見することはできず(T^T)でも、先輩ファンの方の歌右衛門丈を語る言葉を聞くだけでもゾクゾクさせられます。本当に観たかったなぁ、と憧れている役者さんなんです。魁春丈の中に、歌右衛門丈が生きていらっしゃるのでしょうか。薫陶という言葉の綺麗な響きどおり、薫るようなあの「雰囲気」はそれゆえなのかなぁ?

2005/9/12(月) 午後 0:55 [ 雪柳 ]

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あぁっ凄くよく分かります、お似合いですよねぇ!あと、私が好きなのは哀しい諦めを感じさせる花魁役。いいようのない説得力のあるお姿だなぁって思います。

2005/9/12(月) 午後 1:28 [ 雪柳 ]

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siotama様、いらっしゃいませ♪平家蟹の舞台演出、それぞれが場面にぴたりと嵌っていてお見事でしたよねぇ!白石加代子さんの語りも良かったな、幕開きから源平合戦の世界に引き込まれました(^^)でも、入水の場面のあの「水掛け」は・・・どうだろう!!アリなのか!?

2005/9/13(火) 午後 0:14 [ 雪柳 ]

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八月の普段と違う盛り上がりっぷり、スナオに楽しくって刺激的♪な部分もありーの、突然起こる拍手&笑いに「ええ〜っ(T^T)」な気分もありーの(笑)「客席の反応も舞台の雰囲気をつくるんだなぁ」と思ったことでした。もちろん客席の盛り上がりが舞台を活気付かせる事だっておおいもの。お行儀よく!だなんてけっして思わないけど、日常生活でも、劇場でも「空気を読ま」なきゃね。自分も気をつけなきゃ、です(^^)

2005/9/13(火) 午後 0:25 [ 雪柳 ]

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yurarin様、お越しいただきありがとうございます(^^)嵐のチケット引き取り(笑)ご苦労さまでしたぁm(__)m『勧進帳』って、やっぱり「引っ込み」を堪能しないと完全じゃないのですよねぇ(T^T)「花道見えない席」の常連としては、涙ながらの空想力で補足・・・って、切ないぃぃ!!現実に観たいよぉ!!

2005/9/13(火) 午後 0:34 [ 雪柳 ]

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にょろ様、いらっしゃいませ(^^)わぁ(ほぼ(笑))歌舞伎デビューおめでとうございまする♪魅惑の世界にいらっしゃーい♪(←ここ、三枝師匠っぽく読んでください)いわゆる「歌舞伎らしい歌舞伎」(台詞回しが難解だったり、ストーリーが複雑すぎたり・・・)イメージしかなかった初心者の頃。こんな演目もあるんだ!ってビックリしました。これなら気負うことなく楽しめますよね♪もちろん役者さんの良さもありましょう!!人間国宝に手を取ってもらってのデビュー、カブキズキへの王道でございますっ。

2005/9/13(火) 午後 0:45 [ 雪柳 ]

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こんばんは。コメントとTB、有難うございます。 憎しみ合う事は決していいことではないのですよね。玉蟲が憎しみも恨みも過去の栄華も捨てることが出来たら、それは素晴らしい。だけど玉琴の行動に共感出来るかというと、出来るとは言い切れない。自分の心にも理想と醜さと弱さがあり、その怖さを教えられた気がしました。平家蟹は以前にも観ましたがその時はただただ玉蟲の迫力が怖ろしかった…彼女の心の奥底にあるものなど考えなかったなぁ…と。 削除

2005/9/18(日) 午後 9:17 [ aya ]

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>自分の心にも〜 本当に!この事態に、絵空事の「物語」じゃない「二度とない自分の人生」として立ち向かった時・・・人間は一体どういう選択が出来るものでしょう。なにが「正解」だったいうのでしょう。懸命に幸せになりたがった玉琴を、一体誰が責められるだろう・・・と思いつつ、玉琴に対するこの不快感はなんなのか。残酷な玉蟲に対する、恐怖とない交ぜになったこの憧憬は、快哉は、なんなのか。人の心は恐ろしく身勝手で、怖いものですねぇ。玉蟲も、玉琴も、結局は「人」に食い殺されたんだなぁと。

2005/9/20(火) 午後 1:46 [ 雪柳 ]

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TBありがとうございました〜。相変わらず筆が冴えていますね☆ 平家蟹はあんまり好みの話ではないのですが、ワタシまでもが色々想像が広がりました。あの密度の濃さ!今月は昼の部は雀右衛門丈、夜の部は芝翫丈の、たった一人で作り出す空間の密度にノックダウンされました。 削除

2005/9/23(金) 午前 0:59 [ asari ]

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asari様の「平家蟹連想2」、正直本当にビックリしました!!同じ物語を別の切り口で観ることの面白さ、楽しさといったらまた格別ですねぇ(^^)同じ舞台を観た後のお喋り冥利に尽き過ぎです!!あー、もうさっすがasari様ぁ!!()゜□゜)」ブラボー♪

2005/9/24(土) 午前 8:35 [ 雪柳 ]

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やぁ、調子に乗っちゃうじゃないですか(^^;。 「世の中に不思議なことなど何もないのだよ」by京極堂バージョン連想であります(笑)。 今日はこれから2回目の夜の部です。明日はお休みだし、ドップリと芝翫ワールドに浸かり、勧進帳を堪能し、梅玉&時蔵コンビを楽しんで参りまーす。 削除

2005/9/24(土) 午後 0:33 [ asari ]

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調子に乗って・・・踊れや踊れ♪勘三郎&三津五郎ばりのうかれっぷりで(笑)>今日は二度目〜 あー、本当に見事なぐらい羨ましすぎて憎たらしい発言です(笑)夜の部、羊羹(=虎屋おもかげクラス)みたいなずっしり度ですよね。密度ぎっちりな感じで。

2005/9/26(月) 午後 0:45 [ 雪柳 ]

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