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【公演データ】
公演名:九月大歌舞伎『歌舞伎十八番の内(=かぶきじゅうはちばんのうち) 勧進帳(=かんじんちょう)』
会場:歌舞伎座
観劇日:2005年9月3日 夜の部
【主な配役】(敬称略)
武蔵坊弁慶:中村吉右衛門
源義経:中村福助
亀井六郎:中村玉太郎
太刀持音若:中村児太郎
片岡八郎:中村種太郎
常陸坊海尊:澤村由次郎
富樫左衛門:中村富十郎
《舞台にいない人の哀しみまでもが・・・》
舞台を観ていて、私は突然こう思いました。
「頼朝はなんて哀しい男なんだろう」と。
舞台にはいない人物の心が胸に迫ったのは、初めての体験でした。
弁慶@吉右衛門丈から感じられたのは、深刻な緊張感に押さえつけられていてもなお、消えることのない朗らかな明るさでした。
胆が太く、豪快で情熱的。
それなのに、ぞっこん惚れこんだ主君の前では子供のような一途な素直さを見せる純情ぶり(^^)
頼りがいと愛嬌が同居した、男が惚れる男ってこういう人物のことじゃないかな。
損得や立場を抜きにして、この「人間」を愛さずにいられる人などいたものでしょうか。
義経@福助丈から感じられたのは、穏やかな知性。
人の心に水がたたえてあるならば、誰しも自然に浮き上がる灰汁を持っているものでしょう。しかしその姿は、澄みきった清水を感じさせました。
もし頼朝公が義経を信じることができたなら―――
義経は穏やかに微笑みながら、血と策略と裏切りに塗れてこわばった頼朝の心を洗い流してやることもできたでしょう。
このうえなく頼りになる、真の片腕を得ることができたでしょう。
弁慶の、情に篤いこの人が「愛する人」に対するときの無上の敬愛を受けることもできたでしょうに。
共に酒を酌み交わしたなら、どれほど楽しい宴になったでしょうか。
しかし、頼朝公の心は、この愛すべき人たちを受け入れることすら出来ないのです。
弁慶があまりにイイ奴だったから、義経があまりに清らかだったから、この人たちの「真実」を受け入れられない頼朝公の心があまりにも哀しく思われたのです。
頼朝は愚かな暴君なのだろうか、という考えを、それは違うと教えてくれましたのは義経でした。
義経@福助丈は、兄頼朝を決して憎んでいなかった。兄の心を悲しんでいるように見えたからです。
総大将として戦に明け暮れる日々の中で、頼朝公はどれほど人の心の闇をみせつけられてきたのだろうと思わせられました。
自分を護る為に、彼は幼い頃から幾重もの鎧を纏っていったのでしょう。
――――真実さえも心に届かなくなるほどに。
おそらく、そうしなくては生きられなかったから。
義経公の憂いは、自分の身の不幸を嘆いたものだけではないように見えました。
それは、血を分けた弟として、兄の心を救えなかったことにもあるのではないかと思いました。
そこにいない人物を鮮やかに浮かび上がらせるまでの演技を見せてもらいました。
《声に命がこもる!》
弁慶と「頭で」やりとりしている間の富樫@富十郎丈の声には、あまり感情がこもっていないように聞こえました。
冷静で思慮深い、クレヴァーさを感じさせる声。一筋縄ではいかない役人ぶりが伝わってきます。
それが、「心」でやりとりしはじめた瞬間から声音が変わるのですね!
いや、音が変わるわけではないのかも。でも明らかに・・・なんだろう、熱が変わってくるのです。
「判官殿にはなき人を!」と叫んだあの声のこと、忘れられないです。
‘この人物は義経だ‘と確信した上で、助けようという決意が声に響いていた、でも関を守る部下たちにはその確信を気取らせないような、心を隠した大音声だったんです。
・・・言ってることが訳分かりませんね(笑)
でも、聞けば多分、分かります。
思慮に耽る弁慶の、少々能がかったような台詞回し。感情を爆発させた時の大音声。
太やかで腹の底から響くようで、こちらの声もお見事だった!!
お二人の「声の競演」を堪能しました(^^)
《問答の迫力!》
問答にお互いの全身全霊をぶつけ合う迫力があって、エネルギーが一気に上昇していくのが分かりました。
声は怒鳴りあうような大声になっていく、けれど決して乱暴にはならないのですね。
けんか腰のような浅ましさはない。二人の間に誠意が見えるのです。
なんだかね、超実力者のスポーツ選手同士の、入魂の真剣勝負をみているような感じでした。
《叫びだしそう(笑)》
番卒に強力に化けた義経公を見破られ、すわこれまでと富樫に襲いかかろうとする四天王を押し止める弁慶、にじり寄る富樫たち―――
ここの迫力、正直言葉にできません!!
もうあまりに立派で、素晴らしくて、私は危うく叫びだしそうでした(笑)
あの一瞬ほど、舞台にのめりこんだことって今までなかったかも!!
《楽しい大酒宴♪》
無事、関を乗り越えた一行。
ほっとしたのもつかの間、なんと富樫が後を追ってきたのです。
もしやと身構える一行。しかし富樫は先ほどの無礼を詫び、心づくしの酒宴を催してくれるというのです。
酒宴に遊ぶ弁慶の、豪快なこと、朗らかなこと!
並の人物なら、富樫の心づくしに感謝するなど到底出来ず、酒宴ですらも緊張感に満ちているのじゃないかしら。疑われない為、楽しんでいることすら演技して。
でも弁慶@吉右衛門丈は嘘偽りなく楽しんでる。この度胸、この度量の広さといったら!
息詰まるような緊張感のあとの気の緩み、油断という訳じゃないのです。そういう緊張感さえも飲み込んだ上で、心底楽しんでいる!
そして、度胸ひとつじゃなくて、彼は相手を信じられる人物と確信したなら、いきなり心をさらけだすことのできる勇気をもった人物なんじゃないかと思えました。
そんな人物を裏切ることは、人として、絶対にしてはいけないことだって感じさせるほどに。
そのことは、弁慶の剛毅な人となりと心意気に感動し、命を賭けて関を通した富樫に、自分の行動が間違っていなかったことの確信をもたせたのではないでしょうか。
弁慶の人柄が義経を救い、そして富樫をも救ったのだと思いました。
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コメント&TB有難う御座います。 勧進帳に隠れた主役頼朝がいるとのご感想、面白いと思いました。 私は、判官ビイキですが、もっと平家ビイキですので、頼朝については、源氏3代の器に過ぎなかったと思っています。 一番、頼朝に理不尽さを感じていたのは富樫だったと思っています。 吉右衛門の弁慶、凄いですねえ、ご感想のとおりだと思います。
2005/9/11(日) 午後 3:55 [ har**akamur*2*02*002 ]
ウキウキ観にいく日が楽しみです!!
2005/9/11(日) 午後 8:38
『勧進帳』の舞台に頼朝の存在を感じたのは、初めてのことでして・・・舞台上の役者さんが役を「生き切って」いらしたからこそ、その人の人生に関わった誰かの存在さえもが見えてしまう。こんなことが起きるのだなぁと驚いています。
2005/9/13(火) 午後 10:44 [ 雪柳 ]
>理不尽さを感じていたのは〜 あぁ、なるほど!考えが到りませんでしたが、確かに・・・知力胆力に優れた男が、従うべき主君に心酔できなかった時、従わねばならぬ命令に疑問を抱いていたとき、その苦しみはいかばかりだろうか―――勧進帳、知れば知るほどドラマティック。名作なのだなぁと改めて実感しています。
2005/9/13(火) 午後 10:52 [ 雪柳 ]
本当にね、いい勧進帳を見せてもらいました。楽しみになさっていて!幸せな観劇になりますよ(^^)
2005/9/13(火) 午後 11:07 [ 雪柳 ]
コメントありがとうございました。私の100倍の情熱でご覧になっているのですね。やっぱ一幕見じゃだめなんすかね・・・orz ちょくちょく、こちらのサイトに寄らせて頂きます。
2005/9/16(金) 午後 4:58 [ RFHK ]
素敵な文章ありがとうございます。同じものを観ていてどうしてこんなにも見え方が、というか、表現力が違うのか、、(^^;)本当雪柳さんのおかげで、自分の心が豊かになった感じがします。ありがとうございます。
2005/9/17(土) 午前 6:11
fukuhara1113様、お越しいただきありがとうございます(^^)なーにをおっしゃいますやらっ。切れ味鋭い寸評、まさに「博覧強記」!!こちらこそ、これからもお邪魔させていただきます。
2005/9/17(土) 午後 4:00 [ 雪柳 ]
うわぁ、嬉しいお言葉を頂いちゃった!ありがとうございます(*^▽^*)私ね、最近思うのですよ。すっごい芸が存在してる、でも、今の私はそれに気付くことができない。自分の中に、それを理解するだけの力量がないから。これって、ものすごくもったいないことだって!受け取る力を身につけることが勉強なら、努力なら、それをしたい。そう思わせてくれるものをいっぱい見せてもらっておりますから(^^)頑張ろう、だなんて思わないけど、あの人たちが与えてくれるもの、トコトン楽しみたいもの!
2005/9/17(土) 午後 6:44 [ 雪柳 ]
う〜ん、すごいすごい!頼朝のことまで考えたなんて。 毎回、雪柳さんの感想を読んでその感性の豊かさに感動してます。 私とは全く違う部分を沢山観てらっしゃる。何かちょっと悔しいくらい(笑)勿論いい意味でですよ!こうやってひとつの芝居でも人それぞれ違う角度から観ていることに触れることで自分の視野も広がる気がするし、 何よりお話していて楽しい!今後も楽しみにしていますね♪
2005/9/18(日) 午後 9:26 [ aya ]
なんか雪柳さんは観劇する人としても素敵ですけど、モノ作りの人でもある気がします。「自分の気持ちを誰かに伝えたい!」が強いし、その表現力も優れていて個性があるので、なんか素敵な人だなぁ〜って改めて思いました。これからも、雪柳の言葉で心を潤したいと思いま〜す☆
2005/9/19(月) 午前 2:30
ありがとうございます!誉めていただいたこと、遠慮せずに受け取ろう。嬉しいです(^^)でも、私も同じこと思ってました。特に孝太郎丈に関すること、ツッコミどころが私なんかとは一段違うって。しかも、それに愛情や信頼(孝太郎丈の今に、未来に対する)がすごく感じられるのですよね。HPにお邪魔しながら「贔屓」っていうのはこういうことかと思いました。私が孝太郎丈にゾッコン惹かれてしまったのは、もちろん芸の為。でも「此花亭」を知ったことも大きかった気がするのです。
2005/9/20(火) 午後 2:39 [ 雪柳 ]
こんなに嬉しいこと言ってもらったの、久しぶりだよ!ありがとうあっこ様(T^T)私がちっちゃい頃からずううっと憧れていた「一番欲しいもの」=「心の中を全部言葉に変える力」。先生に言ったら笑われたけど、何より本当に欲しかったんですね。こういうと傲慢だけど、言葉に関してだけは人より巧く扱える自信があったのです。だけど、いくら言葉を尽くしても心に添わない。言葉ってものすごく難しくてね、やればやるほど言葉の不自由さを痛感するわけです。
2005/9/20(火) 午後 3:19 [ 雪柳 ]
もっと頑張ればよかったなぁと思うのです。言葉が大好きだし、得意だったのだから。でも言葉って、本当にとてつもないほど難しくてね(><)私はなんとなく、諦めたのです。諦めたくせに「私は出来るのよ、やらないだけで」ってずるいことだけは思いながら。
2005/9/20(火) 午後 3:28 [ 雪柳 ]
社会人になってからずううっと何にもしておりませんでしたけれど、宝塚に興味を持って、劇団四季が好きになって歌舞伎の魅力に出会って・・・書きたくなったのですね、また(^^)ビックリするくらい言葉を操るのが下手になってましたけれど、やっぱり書くのはものすごく面白くって!
2005/9/20(火) 午後 3:56 [ 雪柳 ]
今も全然思った通りの言葉は書けません。でも「出来るのよ、やらないだけで」と思っていた頃よりは上手くなってる、間違いなく!文章って、書きつづけているとリズムがでるでしょ、文章が生きはじめてくるのが分かります。書いていると、今でも昔と同じで、私が一番好きな娯楽は書くことだーって気付きました。だからね、あっこ様の言葉は最高に嬉しかったの(*^▽^*)ありがとうね〜、元気がでたよ!!
2005/9/20(火) 午後 3:58 [ 雪柳 ]
(^^)雪柳さんの言葉、文章に雪柳さんの色んな『好き』が沢山詰まっているので、読む人もとても引き込まれるんだと思うんです。確かに文章というのは難しいですね、それはブログを初めて文章考えるようになってから感じました。普段なかなかペンで字を書くと言う行為をしないので、ホントブログはいいきっかけになった気がします。そして本屋に行かなくても人の文章に触れ合える(しかも大好きな歌舞伎について)ので、私にとって素敵な環境です。
2005/9/21(水) 午前 1:39
しかも私、文学(国語)ってすごい苦手でいい思い出がなくて、本も読めない子でした。。はい、ほんと最近まで(^^;)でも大学に入って演劇に出会った事から文章の面白さ、ドラマチックな運び。映像や、絵にしなくてもイメージを無限大の可能性を持たせてくれる文章、言葉がすごく、面白いと感じたのです。高校とかは面白くもない教科書を順番に読んでただけ、(正確には眺めていただけ)だったけど、違う角度から観てみたら同じ文章でも読めるんですよね。
2005/9/21(水) 午前 1:43
この感覚はすごいですね。私は安部公房が好きなんですが「砂の女」を最初に読んだときは感動しまくりでしたよ。書く人の気持ちが『文章』に込められて、それを読む人が、またさらにその人の感性でその文章を共有していく、、?その繋がりが魅力ですね。雪柳さんのおかげで、「文章」に興味がわくこの頃です。ホント、ブログ学ぶ事が多いです。雪柳さんの「好き」をこれからも楽しみにしてます。
2005/9/21(水) 午前 1:49
小説等の作品とかはお書きにならないのですか?ちょっと気になるあっこでした。(^^)いつもあっこのつたない文章に目を通して下さってありがとうございます。
2005/9/21(水) 午前 1:50
わぁ、そうなの?じゃぁ、これからイイ本との出会いめじろ押しだ(^^)楽しいぞぅ〜♪「すっごい幸せだなぁ(^^)&悔しいなぁ(><)」って思うのは、私がこれからいくら読んでも絶対に読みきれないほどの本が存在してるっていうこと!本を味方につけると、いいことだらけだよ。ほら、歌舞伎座で待っているときも、面白い本さえあれば3時間→3分ぐらい(の感覚)だから待ち時間が気にならない(笑)
2005/9/21(水) 午後 0:28 [ 雪柳 ]
へぇ!安部公房さんは読んだことがなかったです、本屋さんに行かなくちゃ(^^)私の「衝撃の一冊」は夏目漱石さんの『こころ』。これね、自分で読んだときには何にも思わなかったのです。でもその後に授業でじっくりと読み込んでいった時・・・すごいの、行間の余白から生身の人間の体温が立ち昇ってきたの!ページを開くごとに、水を含んだような質感のある感情が浮き上がってくる。驚いた、あれは、本当に驚きました。50音の羅列が持っている力っていうのは、心底凄いものだって!
2005/9/21(水) 午後 0:46 [ 雪柳 ]
文章ってその人が溶けておりますでしょ?(・・・あれっヘンな言い方か!?)上手い下手はプロじゃないんだから別にいいとして、そういう「生きた」文章ってすごくいいなぁと思うのです。あっこ様の文章はそれがあるから好きなのですよねぇ(^^)だからついつい遊びに行っちゃう。これからもお邪魔させていただきますね♪
2005/9/21(水) 午後 0:55 [ 雪柳 ]