文花座

歌舞伎、宝塚歌劇団、劇団四季・・・大好きな舞台の感想をつらつらと♪

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2005年9月18日

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九月大歌舞伎『忠臣蔵外伝 忠臣連理の鉢植 植木屋』 ――その2――

――初めての方は、その1からお読みください――

《女の価値》

二人が幸せな逢瀬を楽しんでから、時は飛ぶように過ぎました。
あれ以来お高は弥七を訪ねては来ません。

そして、今日は高師直の愛妾・お蘭の方が、弥七の働く植木屋へやってくるのです。
もし、扱う植木がお蘭の方のお気に入り、ご購入の運びになれば・・・弥七は師直邸へ潜入するきっかけを得ることができます。
大きなチャンスに勢い込む弥七。
そして、豪華なお駕籠で乗り付けてきたお蘭の方を一目見た弥七は驚愕します。
なんと、それは心を通わせ将来を誓ったお高その人ではありませんか!

女の心変わりを知った弥七は、大切な場を忘れて怒る・・・というか、拗ねるんですね。もう拗ねて拗ねて拗ねまくります。
傷ついた少年のごとくぷんぷん拗ねる!・・・怒ってるんだけど・・・なんか可愛い、可愛いよ梅玉丈・・・(*^m^*)

お蘭の方(=お高)は家来の手前、弥七と私的な会話はできません。
無礼を極める弥七を鷹揚に許し、どうにかこうにか場を繕います。
そして、家来衆を上手く言いくるめ、弥七と二人になるチャンスを得たのです。

二人になったお蘭の方(=お高)は、家来の手前装っていた高慢な態度をかなぐり捨て、久しぶりに会えた愛しい夫に取りすがります。
けれど、弥七はそんなお蘭の方をすげなくあしらい、ぷりぷり怒りながら心変わりを詰るのです。
弥七の怒りに、お蘭の方は取り付くしまもありません。
(待って弥七さん、怒りを静めて。聞いて下さい、伝えたいことがあるのです・・・)
そんなことをしているうち家来衆が立ち戻り、言いたい事も言い合えぬうちに、せっかくのチャンスは終わってしまいました。

お蘭の方と弥七は、またも師直の家来衆に囲まれてしまいました。
(けれど、私は弥七さんに伝えたいことがある。伝えねばならぬことがある)
お蘭の方は知恵を巡らせ、奥庭で菊を見たい、弥七も供せよと命じます。
憮然とした表情のまま、しぶしぶ付き従う弥七。
今が盛りと咲き誇る美しい菊畑の中で、お蘭の方はある物語をはじめます。
胸に願いを秘めた夫の為、身を捨ててその願いを遂げさせようとする妻の物語―――
お蘭の方は弥七に語りかけます。けれど、周りには師直の家来の目。
(気付いて、弥七さん)
お蘭の方の口調に熱がこもります。けれど、家来の不審が彼女を押し止めます。
(この物語は私とあなた、どうか、気付いて)

突然はじまった物語にも、反発心から耳を傾けることすらしなかった弥七。けれど、お蘭の方の場違いな必死さに気付きはじめます。
(もしや、これは・・・)
はっと気付き、お蘭の方の目を見返した弥七。その目に、お蘭の方は微笑みかけるのです。

そして―――
お蘭の方が植木屋を立ち去る刻限が迫りました。従う弥七に、本日の礼と称して手渡されたのは書面を包んだ袱紗包み。
はっと気付き、中を改めた弥七は驚愕します。
それはなんと、高師直邸の絵図面であったのです!
我を忘れ、お蘭の方に声をかけようとする弥七を押し止め、駕籠に乗り込んだその手には抜き身の懐剣が・・・
一瞬、二人の視線は交錯したでしょうか。
思いを断ち切るように、お蘭の方は駕籠の扉を立てました。

持ち上げられた駕籠の隙間から、真っ赤な鮮血が溢れ出していきます。
尽きることなく溢れ出す血潮が、動くこともままならない弥七の目の前で、ぼたぼたと地面を濡らしてくのでした。

弥七は初めて知ったのでしょう。命掛けという言葉の、本当の意味を。
弥七その人こそ、死をも恐れず忠義を貫こうとする義士です。覚悟を決めた彼は、自分の命を担保にすることならいくらでもできたのだろうと思うのです。
忠義や正義や、怒りに塗り固められた弥七の「命」は、彼の中では血潮の温かさを持っていなかったのではないでしょうか。
主君に捧げる供物のようなものだったのではないでしょうか。
けれど、お高の命は「人の命」でした。抱き合った弥七にはそれがよくわかったはずです。
それを、弥七はお高から捧げられたのです。
それがどれほど大きなことか!

弥七にとって女とは、現実を忘れ、ひと時の安らぎを与えてくれる存在に過ぎなかったのではないでしょうか。
それも、女の持っている、女にしか与えられていない大きな意味です。
弥七の心にはどこか女を軽く見る心があったように思います。
愛する心に偽りはなかったでしょう、けれど、それはどこか玩具に対する、ペットに対するような優越感が見え隠れしていたような気がするのです。
けれど、お高が弥七にくれたものはそれだけではなかった。
お高は人間として、弥七と同じ高さで手を握ってくれた。命を同じ危険に晒しながら、ともに生きてくれたのだと。
お高の死は、師直へ二つ分の命で立ち向かう覚悟を与えたのではないでしょうか。

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九月大歌舞伎『忠臣蔵外伝 忠臣連理の鉢植 植木屋』 ――その1――

【公演データ】
公演名:九月大歌舞伎『忠臣蔵外伝(=ちゅうしんぐらがいでん) 忠臣連理の鉢植(=ちゅうしんれんりのはちうえ) 植木屋(=うえきや)』
会場:歌舞伎座
観劇日:2005年9月3日 夜の部

【主な配役】(敬称略)
弥七 実は 千崎弥五郎:中村梅玉
お高 後に お蘭の方:中村時蔵
お市:尾上松也
お新:中村梅枝
植木屋杢右衛門:中村歌六

《心の襞をくすぐるような・・・》

時分はちょうどお昼時。
外で働くお兄ちゃんに、振袖姿の妹たちがお弁当を届けにきました。
男たちは‘おう‘と無造作に受け取りますが、そこはそれ。かわいい妹がわざわざ弁当の使いをしてくれるんですから、兄ちゃんとしちゃ満更じゃぁありません(^^)

あのガキが、いつの間にやら娘っぽくなりやがってよぅ。
でも、こんな使いにいそいそ出向いてくるなんざぁ、まだまだおぼこな甘ちゃんだな。
へへっ、気ィ強え口叩いたって、まだまだ可愛いもんじゃねぇか(*^へ^*)
なーんて思っているかはいざ知らず、兄ちゃん達は満足げに弁当をつかいます。

でも、お年頃の娘が兄の小さな満足なんかのためにわざわざ来る訳ァないのです。
お目当ては・・・
「あっ、弥七さん!!」
奥から現れた、色白美男の優男・弥七に会いたさ、話したさ♪

なよなよとした振る舞いで現われた弥七@梅玉丈。
世の男が子供のいたずら書きならば、弥七さんのは天神さまの手慰み!
でも、ただ綺麗なだけならば、役者絵見てたって同じ事。
何でこんなに娘心が騒ぐのかといえば、そばに添っていると、胸の内側から喜びが湧き上がってくるみたいな、何かが育っていくような思いのする男なんです、弥七さんは!

弥七@梅玉丈。なんですか、体からぷわーっと「モテるな、これは」オーラが漂ってます(笑)
母性本能をくすぐる甘さが動作の端々に薫って、困らせるのも拗ねさせるのも、その人の心を突っつくことが楽しくてならないような。
その人にただ一人愛されたら、どれだけ嬉しいかと思わせられるような!

若い娘二人に両脇を固められ、困った弥七の「後の世で、お前が本妻、お前が妾」なんちゅう軽口に、一瞬「こらぁさすがに怒るか!?」と見えた娘たち。
それがなんと、そろって「嬉しいわいなぁ♪」ですから!!
なんかね、もう何も言う気が起きません(笑)
そのもてっぷりがむしろ爽快、いやさ痛快(^^)

弥七に夢中の娘たちは、兄のことなど完全にアウト・オブ・眼中(笑)
兄ちゃんたちはあっけにとられ、呆れた顔の裏でちょっぴり傷ついてみたりして・・・
悔し紛れにかっ込んだ弁当は、カッコ悪いことに喉に詰まる始末!
「・・・水、水!」
必死の懇願も気付いてもらえず、一人苦しむ悲しさよ(T^T)
―――一方、妹。
浮き立つ心でふと横目を使えば、そこには目を白黒させる兄さまが!
「わぁ、大変!!」とビックリして、慌ててお茶を取りに奥へ駆け込みます。
このドタバタっぷり、おきゃんで可憐でめちゃめちゃCute!!
はたから見るとしょーもないんですけど、恋にふわふわした女の子って、なんちゅうか、とっても無邪気にカワイイものよね(^^)

と、そこへ・・・
植木屋である弥七のお客・お高@時蔵丈が現れました。
娘二人が逆立ちしても敵わない、大人の色気を持った艶やかな美女姿。
弥七と並んだ一対の、絵のように美しいこと―――
そのあまりに豪華な迫力に娘たちは怖気づき、先ほどまでの素直な思いはどこへやら、心はぎゅうっと固く縛られてしまいます。

(弥七さんには、こういう人がお似合いだ)
自分の中の誰かが、いわずもがなの事を言う―――
(でも、弥七さんは、あたしを好いてくれているもの!)
でもその「好き」は、女に対するものかしら?
可愛いひよこちゃん、あなたに色恋はまだ早いのじゃありませんか―――
(でも、でも、私は弥七さんが好き!この思いは、絶対誰にも負けてなんかない!)
色恋は勝ち負けじゃないのです、目を見交わした端から、落ちていくものなのですよ―――

お高は何にも言いません、何にもしません。むしろ無関心なのでしょう、ただそこに立っているだけ。
けれどその立ち姿には、傍らの娘の心を波立たせ、恋ゆえに悶えさせるものが確かにありました。
時蔵姐さん。貴女はなんと美しく、なんと残酷なことか。

人間の体温で温められてふわりと漂うような心地いい笑いだとか、ほのかな哀しみだとか、やるせなさ切なさ―――
大仰には言いません、でも場の空気にそれらが薫る。
この繊細で絶妙な空気が、すっごく面白かったんです!

お江戸の人たちも、きっと・・・くすくす笑いながら娘心に思いをはせたり、妹を見つめる兄ちゃんの悲哀に力いっぱい同情したり(笑)いい男っぷりに擬似恋愛の甘酸っぱさを感じたり、いい女っぷりに色事めいた思いを致したり。
そんなヨロコビを胸いっぱいに吸い込みながら、観劇したんじゃないかしら(^^)
そう思えるような一幕目でした。

《こんな梅玉丈初めて!!》

『どこか生真面目な雰囲気の漂う、知的で男らしい二枚目役者』
それが私の中にあった揺らぐことのない「中村梅玉丈イメージ」でした。
カメレオンのように魅力を変化させる芸達者さんに比べて、この人の魅力はとっても一途な気がしていたのですね。
「不器用ですから・・・」なんて声が聞こえてきそうなくらい、鉄壁の「二枚目ガード」に護られている(笑)
端正なはまり役があまりにはまっているから、逆にそれ以外はあまり似合わない人だっていう勝手なイメージがあったのです。

それが・・・
「あれ?」
「・・・えっ?」
「これはΣ(゜□゜*)!!」
梅玉丈が異常に・・・カワイイ!えっ、これが、これも梅玉丈なんだ!!!

梅玉丈の一番の魅力って、品の良さだと思います。
気品というニュアンスは、どこか女性的な甘やかさを秘めているもの。その甘さの質がものすごくイイのです、梅玉丈は!
上質な和三盆を舌に乗せたときのような、わずかな嫌味もなく、幸せな甘さだけが豊かに広がる感じでしょうか(^^)
きっと、気品が本物だからなのでしょう。
思わず心がとろけるような、内側からくすぐられるような、傍にいることが嬉しくてたまらないほどの可愛らしさ。
梅玉丈の一挙手一投足が、こそばゆいくらいに嬉しくてたまらない(^^)顔が自然に緩んじゃう。
これはタマランナァ♪

《満ち足りた笑顔》

お高は、高師直に仕える奥女中。そして、聡明な彼女は自分に近づこうとする植木屋・弥七の真意を見抜いていたのです。
「あなたは塩谷の家臣。師直に仕える私の立場を利用して、討ち入りに備え館の内部を探ろうというのでしょう」
しかし、それに気付いてしまったお高を四十七士が見逃すわけはありません。
弥七はお高の命を奪おうとします。
しかし、お高は逃げも隠れもしません。刃を受け入れるように心穏やかなお高の姿に、弥七は戸惑います。
「私は貴方に惚れました。いっそ死ぬなら、愛する人の手にかかりたい」
それこそが愛に殉じようとするお高の望みであったのです。

お高の心根を知った弥七は彼女を信用し、妻として夫の義挙を手伝って欲しいと願います。
もとよりお高に異存はありません。
思いの通じ合った二人は、いそいそと茶屋の奥へ・・・
そこで、舞台からはフィールドアウト。奥では、一体何が行われておりますやら―――それを言葉にするのは、いささか野暮というものでしょう(*^m^*)

暫くして・・・
お高が一人、茶屋の奥から姿をあらわします。
懐紙の一枚を口でくわえて抜き取り、柄杓を取って手を洗う・・・

そのお高@時蔵丈のお顔がね!
大人の女が満ち足りた情事を終えた後の、豊かな満足感を胸いっぱいにをつめこんでいる様がすっごく伝わってくるのです。
大人の色気を含みながら、どこか少女のような清らかな喜びに慎ましく恥らう様も微笑ましい。
ピュアさ、可愛らしさ、心根の正直な雰囲気が垣間見えます。
迫力の美女でありながら、女が反発を覚えないタイプの女性なんだなぁ。

お高という女がどういう人なのか、どういう心で弥七を思っているのか。ほんのわずかな間に、時蔵丈はそれを教えてくれました。

弥七さんが欲しがっているのは、師直邸の絵図面。しかし、絵図面は師直の寝所の奥深くに隠され、一介の女中の身ではそこに足を踏み入れることなど不可能なのです。
師直の寝所に入ることのできる唯一の方法は・・・
お高は、答えを見つけました。

――その2へ続く――

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