鉄也の歌日記

西行さん、兼好さん、芭蕉さんを慕いて

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春眠(13)

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中仙道・醒ヶ井宿の道端の西洋苧環(おだまき)

苧環や木曽路は水の音の中     蟇目 良雨(ひきめりょうう)

十分に爺(じじい)になってヒコニャンと彦根の城で遊んできたよ

子の怪我は足首靭帯損傷の右か左か聞くのを忘る

真夜中をギター弾く子よ世の中の不眠の者に迷惑至極

夜のテレビ総理が出てきて国民に直(じか)にうったう消費増税

相撲とは不健康なるスポーツの伝統だからと太っていいか

わが履歴最終項目未記入の行き着くところいつの頃やら

鮒寿司を詠って蕪村つつがなし彦根の空を流れる雲に

今週はああしてこうして過ごさんと思えど命仕舞うか知れず

頭(ず)の中は歌文集に占められて入る余地なし恋のことなど

飛ぶように月日は過ぎて早末の二日となりぬ皆既食あり

仏教は人の営みそのものと告げしは誰か答えは道元

留守番を頼むと人語にて告げる犬は分かったような顔して

単純に生きようなんて思うなかれ彦根の城の雲を見に行く

家の奥にちろろと点る灯火に祈る人こそ日本人なれ

侍を一人も見かけぬ城に来て流れる雲は安政の雲

花三輪咲かせてテッセン江戸時代流行し頃のど真ん中に居る

掃除機をかけているとき金沢のどこかで誰かもかけているなり

幾たびか電話かけども誰も出ず大和に何か異変起きたか

三日過ぎ彦根の思い出引きずってあの時見た顔思い出してる

山下さん伊賀の上野の語り部の語る相手の居なく嘆けり

だんじりは城の天守に似ているがそんな気がする彦根の城は

円卓に恥をこらえて隠れなき身の置所なく強張らせおり

醒ヶ井の源近く畔(くろ)に咲く薄紫の苧環の花

三日前彦根の宿に降り立って城を流れる雲を見ていた

醒ヶ井の駅前食堂近江米旨かったのでお代わりをした

六月に運動会の小学校耐震工事が秋にあるので

人々は何を思って石段(いしきだ)を天守へ向かう登りがたきに

春遅く鋼(はがね)のごとき棒の声鶯叫ぶ今を限りと

ふらふらと五月連休街に出て流れる雲に流されており
 (2012年5月25日和歌山朝日歌壇入選)

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春眠(12)

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彦根城 (滋賀県彦根市)

鮒ずしや彦根の城に雲かかる        蕪村

悪代官粉屋の女房に魅せられし三角帽子のバレー音楽
 (ファリャ作曲 バレー音楽「三角帽子」)

列島の河にピラニア現れし喰いつくされしわが白骨の夢

街の溝にがばっとトカゲ現れる田舎の道を猪(しし)が横切る

大和より便りなき日は頼りなしマカロニ茹でてマカロニを喰う

老人は長生きするを恥とする思い当たりてそっと呟く

ともすれば日当たりの道歩いてる世間はいまや陰を尊ぶ

今日会いし二人目またも教師なり世間に教師あふれているか

申年と吾告げければ丑年と目をしばたいて教師申せり

スーパーの棚に品物見当たらずもしや閉店間近かなるかも

いつ来ても閉めたままなり錦湯のいつの頃から店仕舞いして

今朝からは細君ちょっとハイになり隣近所をさわがせており

テロリスト大道寺某極刑のいまだ果たせず二十年過ぐ

列島の死にたい人は米式の薬物六分死刑を望め

右利きは癖ではなくて左利き癖といわれて恥ずべくもなし

鼻の穴ほじくる癖は孫が継ぎみっともないと叱られており

癖のなき人間トンと面白くなし癖は個性と読み替えてみる

人の癖面白がって我が癖を告げられ思わず不機嫌となる

わが心彦根の城へ飛んでゆくバスは明後日発つのだけれど

まゆちゃんはまだ三歳の足し算も引き算もできず言訳したり

宵寝してだるき身体を揺り起こす今日の残念明日に持ち越す

よき夢を見させてもらって有難う明日という日が待ち受けている

画面から飛び出しそうに叫んでるアポロの末裔職を求めて
 (ギリシャ経済危機)

五十年不真面目に生き缶詰の並ぶ食卓たどり着きしは

短歌会一人二人と消え失せてやがて誰もが囲まぬテーブル

気落ちした声が届けり電話口足首靭帯損傷の子は

てきぱきと自ら事を処理できぬ時こそ我の行き着くところ

もみじ葉の陰に揺れてる我が影の危うし我の行き着くところ

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春眠(11)

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暮れゆく三石山 我が住むところ橋本市城山台

甘き香は何の花ぞも夏木立   炭 太祇(たんたいぎ)

なんとなく明けて暮れゆく子供の日何事もなく子の居なければ

血圧の下がらぬ夕べ食卓の塩鯖一尾恨めしきかな

パンジーの咲き疲れたり初夏(はつなつ)の種をつけては弱りゆくなり

産卵に川遡る鱒の群れ狂うがごとく川波立てて

連休も果てて鶯声落とし鳴きつかれたかリズムを乱す

漱石の消息好きを思い出し夕べ遠くへメールを飛ばす

愚かとも哀れとも見し夏登山群れて遭難爺婆ばかり

連休の明けて新聞休刊日心疲れを癒さなくちゃ

牛の口とらえて散歩する犬の評判を呼ぶ何思うてか

新聞は皇族記事でにぎわしむ伊勢斎宮に黒田清子氏

人あれば人を生みたる母ありぬ気づかぬ人の愚かなりけり

極寒に挑んで住みし日本猿人は服着て靴履きながら

世の中を這うようにして生きて来しこのまま往生できるだろうか

眠らせて心停止薬点滴のアメリカらしき死刑執行

暖かき日のつづくうち一日の肌寒くあれば心の細る

小松菜の日ごとに伸びてふくらんでもう食べごろとほくそ笑むなり

薔薇咲いて薔薇のメロディ歌おうか子はハモニカを吹いているなり

何者か遠くで叩く音がする板を叩くか壁を叩くか

隣町大和五條の短歌会細々とつづく消息のあり

総理にはカムサンジュンを混迷の政局憂うる田中真紀子は

プーチンが二期勤めたら二十四年それって独裁そのものなのに

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春眠(10)

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穂高連峰 (岐阜県・長野県)

槍や穂高は かくれて見えぬ 見えぬあたりが 槍穂高       (メロディ・アメリカ古民謡、歌詞(京大山岳部西堀栄三郎作詞?)・アルプス一万尺 第19番)

今しがた覚えし言葉「法円」を届きし手紙に見つけて嬉し
 (法円は僧の異称)

暮れゆけば何事もなき一日のありがたきかな命永らう

悔恨は六十年の後までも海辺歩きし時告げられず

春長けてバラの芽のぶる水不足たちまち萎れ水は命か

誰がどう悪いのでない不景気の真っ只中の電力不足

脅しとも哀れとも小細工の犬は策略めぐらし鳴けり

おらが嫁気の強けれど涙もろし矛盾をはらむ女なるなり

あと少し金環食の見れるとぞ尾九土(おきゅうど)博士口を尖らす

北陸の暗き印象富山より松田わこちゃん歌発信す

何やかやいつものように雑事ばかり四月晦日は振り替え休日

いつ訪うか知らず命の危うきをあやふやにして今日も生きたり

ファックスで不思議な質問届いたり「今日の日直どなたでしょうか」

連休を無能のうちに生きたれば身の内側を崩れゆくなり

真夜中のピーボーピーポーサイレンは哀れ地獄へ案内(あない)の音か

最澄と空海支那へ留学の法然親鸞日蓮渡らず

街中を携帯電話でお辞儀してロボットみたいに人は歩めり

ふらふらと五月連休街に出て流れる雲に流されており

主人公虫になるとふ非現実ふざけているとカフカを嫌う
 (カフカ作 小説「変身」)

「悩める世自ら悩むことなかれ」カム・サンジュンの言葉の重し
 (カム・サンジュンは東大教授)

連休のよどむ日常鳴く犬に目覚めて不平こぼす妻なり

連休のたるんだ空気震わせて妻のいびきのいつまでつづく

夜の闇何も見えぬが幸いのきれいになって身をも心も

みちのくは記録破りの五月雨に仮設住宅また被災して

熊取町字小谷村興蔵寺砦の跡のちさき寺なり
 (我がふるさと)

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春眠(9)

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京のもみじ (知友の京の旅より)

惜春やすこしいやしき紫荊(はなずおう)   松本たかし

我が歌の夕べ浮かんで消えゆきし名残惜しきは遠き日の夢

一茶の句人それぞれに覚るなりかすかに違うニュアンス持ちて

明け方をぽんと咲いたるアネモネの小馬鹿にしては天に開けり

人々は右往左往の烏合の衆桜名所に迷う世の中

人問わば桜の頃は篭り居て梅雨ともなれば傘挿して出る

電子辞書携え桜見物の頭の中は空っぽにして

コジュヒンはロシア生まれのピアニスト超絶技巧弾いて稀有なり
 (デニス・コジュヒン)

ハイドンを弾いて良い音出しているコジュヒン若きピアニストなり

腹痛は妻の居ぬ間に起こるなり大和を離れ早く戻れや

雨の日もアネモネふぉっこり咲いていた誰を待つのか待ちかね顔で

アネモネの咲き終わりたる猪口才の坊主頭をもぎる淋しさ

京の旅抑えきれずに今日明日に発とうとすれど連れが要るのに

番組欄見れど見るべき番組のなき週末を独り淋しく

ナンクロを解きし頭を確かめて文章作るまだまだ若し

奈良はよしされど京よし都には二条の城のありとし聴けば

青臭いいつまでたっても青臭い死ぬる間際に生まれ変わるか

名人もしどろもどろの落語なり笑福亭仁鶴年老いたれば

塩辛い声もて音楽評論の皆川達夫年老いにけり

レシートは物の値段を示したりドッグフードはどかと置かれて

市役所は超高齢化を伝えたり住民我らは感づかざれど

コンサートチケット嬉々と手に入れて都会に遠く住みたる妻は

暖かくなれば蚊の飛ぶ季節なり犬はフィラリア予防薬飲む

敢えて告ぐこと多き世になりしかな遊戯施設は軍艦マーチ

ちんどん屋三人並んで堤行く瀬戸口作曲軍艦マーチ
 (瀬戸口藤吉作曲 行進曲「軍艦」)

仏にも神にも獣さえなれぬ人間われは人でなしなり

人間である前我は獣なり神を恐れて仏敬う

悔恨はやがて夕闇招きたり悔やんでみても人は人なり

向かいより筍届いて春来たる米糠交え茹でるも嬉し

糟糠の妻の小さき手に余る太き筍藪より届く

竹薮を掘って筍見つけたるおらが母刀自病の癒えて

もみじ苗持ち帰っては太秦の大寺の庭懐かしみおり

猪口才な一年生のランドセルぷいと背負いて振り返らずに

奈良の奥佐紀縦列(さきたてなみ)の古墳群その真ん中に子は住まうなり

この朝もいつものような朝でした尿意催し飛び起きました

天窓を閉め忘れては夜の冷えまといつきたり目覚めてみれば

あぁあぁと嘆くが如く鴉らは朝の天空腹を空かせて

歯医者出て見上げる空は黄砂なり大陸の奥漂い来たり

ビートルズモノラル良きかステレオかディスクジョッキー口尖らすが

もはや子は親を離れて連休を寄り付かず旅に出でにけるかも

まじまじと見つめしおれば美女さえも年相応の顔崩れおり

卒業の出来るか否かあやふやの不安のつのる夢の中なり

藤の咲く地蔵寺までのみちのりを歩いてゆかん妻と二人で

身の内に二人を演じているからは役者はいつも難しい顔

魚にも痛みがあるか研究の眼を射抜かれし目刺の場合

淋しさは大和へ戻りし子供らの空耳に聞く笑い声なり
 (2012年4月27日 和歌山朝日歌壇入選)

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