鉄也の歌日記

西行さん、兼好さん、芭蕉さんを慕いて

鉄也の歌日記(22)

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ふたたびの秋(11)

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護摩壇山(和歌山県 標高1372米)

きちきちといはねばとべぬあはれなり  ばった・富安 風生

貝塚市南一一九五番地更地になりて我が生家なり

トラウマはわが身に着いて離れざる友に告げては苦しみ逃がる

藤堂医師赤ら顔にて現れし聴診器持て我が腹を診る

暗闇の冷たき夜気に散歩する犬はいやいや付いて来るなり

ムッソリニ銃殺されて逆さづり古来イタリア過激なるかな

月曜を火曜水曜週末へ木曜金曜滑り込むなり

ペンネーム直木三十五(みそご)に周五郎清水三十六(さとむ)は本名なりき
 (作家 山本周五郎)

ふるさとの岸和田だんじり秋祭り「カーネーション」のドラマの中で
(NHK-TV朝の連続ドラマ「カーネーション」)

天井の木目は水の流れなり杉の中身を流れて止まず

「十二月今年も残りあとわずか」DJバラカン言えば奇異なり

取りとめもなき日がつづく霜月は人の心を邪(よこし)まにする

足元の冷たくあれば人間は靴下重ねる知恵を持つべし

講談の語りに覚えし十勇士穴山小介影武者なりき
 (真田十勇士)

霧隠、猿飛、三好清海に穴山小介影武者なりき

落葉(らくよう)の欅大木身を震う朝の散歩の人おどろきぬ

インフルに肺炎ワクチン年毎に打ってそんなに長生きしたいか

朝からは市場周りの散歩して夕べ犬連れ散歩に出たり

ねちねちと電話の声は寂しさの固まりなるか用事もなきに

国道をよぎる陸橋渡るときガソリン臭の匂い立つなり

歩きながら犬の名呼べば我が顔を見上げる瞳散歩嫌いの

生者死者憂れいは夜気に漂いて霜月晦日暮れてゆくなり

青丹よし奈良は山国排ガスに龍田の錦荒れにけるとぞ

世の中がどんどん変わりゆくけれど犬もおのれも欠伸するなり

周五郎どこがどうして違うのか現代小説面白くなし

秋の薔薇花びら薄く咲きにけり凍れる夜気に匂い放たず

アネモネの土に埋めたが芽が出るか秋の日向に待つ犬と僕

順調も不調も共に老いの身の師走朔日スタート台に

晩秋に似合う音ありブラームス二十六歳六重奏曲

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ふたたびの秋(10)

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ふるさと、岸和田の秋祭り

漂へる蝶々黄なり秋祭り        前田 普羅

うっすらと板敷廊下に塵浮かぶ一週間目の電気掃除機

ふるさとの岸和田だんじり秋祭り「カーネーション」のドラマの中で
 (NHK-TV朝の連続ドラマ「カーネーション」)

蓄財は暮らしに安心もたらすか庭に咲きたるなでしこの花

スペインのビクトリアとはルネサンス宗教音楽作曲家なり

てんがいと言えば渋谷天外然れどもクロスワードは奇想天外

慢心がわが身にあるは確かだがどこにあるのか髪の毛先か

ぐにゃぐにゃの身もて松の葉むしってる脚立の上の直立人間

天井を眺めていると寝付かれず修学旅行の宿屋の木目

風評の被害先駆はサリン禍の河野義行夫妻なりけり

朝早く騒げる犬に一理あり腹をすかせてどうにもならず

今日こそは晩秋淋しき消息を書かねばならず余震つづけり

冬落ち葉バケツ一杯拾いたり両の手十指重宝したり

底浅き橋本川の堤より低きに住んで人は憂えり

老いの手を虫眼鏡越しじっと見て子はおどろきぬ「象の皺だよ」

父は子に兵式毛布の敷き方を教えて呉れし温かかりし

劇付随音楽「仮面舞踏会」氷上踊る浅田真央なり

一本の手紙を書いて肩の荷が下りたか自慢ばかりの内容

僕ならばああするこうする消息を書いてやりしを後悔ばかり

病院の帰りは金柑実生り年一粒二粒三粒いただく

秋の暮れ植木屋植木を切っているちょきちょき鋏の音透るなり

三波春夫逝きて何年歌手よりも浪曲語りを人懐かしむ

あちこちに歌詠む人の隠れ住む伊都の郡(こおり)の秋暮れんとす

川近く向島なる地名あり東都のごとく低き土地なり
 (紀州・高野口町向島)

昼近く飛び出してきて洗濯を干す主婦のあり寝ぼけ顔にて

職場とは徒党の群れかパーティの我が席のなし無党派なれば

忘年会席見当たらずどの派とも与(くみ)すことなし夢の中まで

晩秋をハワイに遊ぶ人もあり人の種類のいろいろあるか

うなじ打つ霰(あられ)ぱらぱら秋の暮れ時に適(かな)いて嬉れしかりけり

耳しふる人と出会えば何事か口ごもりして去りにけるかな

フェルナンド・ソルのギターはモーツァルト変奏曲を誰か弾いてた

紀伊清水駅の小さき告知板誰やら死して誰やら生まる
 (2011年11月25日和歌山朝日歌壇入選)

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ふたたびの秋(9)

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槍ヶ岳(長野、岐阜両県 北アルプス 標高3180米)

冬紅葉冬のひかりをあつめけり     久保田万太郎

目覚めればいつもの人が横に居ずどこに行ったか一瞬惑う

牛の口池の沼田を鋤いていた今公園に埋め立てられて

のほほんと立ってるだけの紫苑なりそこまで来ている秋の暮れとは

今日の日は忘れぬべきや一六つ並んで嬉し晴れがましけれ
 (2011年11月11日)

晩秋の雨降る昼はベートーベン・ピアノソナタを聞くべしや君

子は勤め妻はふるさとわれ家に留守番の身を冷たき雨が

再放送ドラマ「相棒」見るうちに筋書き読めて頭は確か

雨降って庭の下草植えられずふるさと人に消息をせん

秋深くさぶき時雨に立ち尽くす紫苑の花のすでに枯れたり

振り返るごとに落ち葉の落ちるなり拾い尽くして人生暮れる

なんとなくただなんとなく一日をもったいなくも過ごしけるかな

一時間ドラマは過去の世に戻しまた引き返す元和(げんな)二年を
 (1616年(元和2年)徳川家康死去)

松が伸び槙がカナメが枝伸ばし剪定せねば年末までに

天晴れの南にしんにょう国字なり周五郎作小説に見る

夕暮れを互いに見えず夫婦犬一匹だけの散歩になりぬ

大学の授業風景TVの画面に映し教授得意に

公園で防災訓練千年の後か次来る地震のほどは

佐渡裕佐渡というのに京生まれベルリンドイツ響を指揮せり

生垣を剪定すればひょっこりと体育教師の話しかけたり

隣家よりいつもの年の富有柿朱(あけ)に染まりて届きたるなり

声出さずにっと笑って隣家の主は黙って歩いていった

石川氏畑帰りのリュックからぬっと大根差し出して去る

明日からは冷え込むだろうアナウンサの真一文字の唇寒し

共通の話題探りて散歩道男と女の話進まず

熊手より竹箒より五指の手の庭掃除には重宝なりき

気まぐれの妻の吟じて孟浩然春眠暁われも和したり

申年の木登り好きな我なれば松に登りて枝整える

落ち葉掃き妻が手伝う仲が良し内実喧嘩ばかりの日々を

わが町を歩いていると思うのは随所に歴史が浅い印象

こころよき歌の調べの我が胸に流れて秋の末の寂しさ

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ふたたびの秋(8)

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北海道 十勝幌尻岳 1846米

国安く冬ぬくかれと願うのみ      高濱 虚子

短歌会二人集えば成り立ちぬ最後の二人誰とならんや

秋の夜の闇に我が家の灯が点る妻の帰りの遅きことかな

石川氏我が細君においと呼び抜きたて芋を土ごと呉れる

ロシアよりドイツへ帰化のスタニスラフ・ブーニン国を捨ててはいかに
 (ピアニスト・ブーニン)

流行語廃れるものと残るもの日本語今にかくてありなん

若者は津波迫るも携帯を離さず波に呑まれたるかも

芭蕉翁死して残せるもの多し夢は枯野を駆けめぐれども

夕暮れは母の羽釜の麦飯がごとごと噴いて炊き上がりたり
 (思い出)

春は青夏は朱にして秋白く冬玄色の四季を表す

人生の醍醐味せばき我が庭のあちこち草を植えることなり

暖かき秋の暮れなり虚子の句に暖冬願う明日は立冬

赤飯の匂い漂う夕間暮れ母のみ知るや今日何の日か

来年も開くと告げて終わるなり選者はとぼとぼ会場あとに
 (短歌大会)

家に居て体がなまると独り言放ちて一人歩き始めり

お迎えという日がきっと来るだろう仲良かろうが喧嘩してても

立冬を朝顔一輪おどろきぬ西洋かぶれを我慎まん

六時前朝まだ暗き立冬を鴉かあかあ腹を空かせて

暴動に巻き込まれたるサラリーマン路上に命奪われる夢

かあかあと鴉鳴き鳴き去りにけり耳にいつまでかあかあ残る

腕時計外せし我はこの世から糸の切れたる奴凧なり

オリンパス前身の名を高千穂と神々しき名汚れたるかな
 (オリンパス=高千穂製作所)

今朝の夢見なかったような見たようなうつろなりけり認知の世界

ホームレス群れたるごとく赤穂義士雪の朝をざくざくざくと

級友の僕より先に逝ったのは純情一途を貫いたから

音楽を聴きつつ伸ばすストレッチ老残我の骨皮なれば

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ふたたびの秋(7)

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八甲田山 (青森県 1584米)

学校の鶏鳴いてゐる秋の暮        辻田 克巳

吾子の家の庭に生りたる青柿の大和の味のうす甘くして

短歌には四句、結句のありてこそ醍醐味といわんなかなか生(な)さず

怒鳴りあう夫婦喧嘩の秋の空どんなに澄みてどこまで透る

トニー谷伝記を読んで病人は生きて出たのかこの病院を

こんこんと湧く山水を紀ノ川へ落として止まず紀伊清水村

捨て水に南瓜の種の混ざりしか秋の草の間芽を伸ばしたり

細君の機嫌よければ世の中が明るくなって家族万歳

わが妻のきれい好きなり明日のため風呂を浴びおり秋の夜長を

換気扇掃除済ませて霜月へ諸事万端の神を拝せり

またしても電話鳴るなり野暮用か考えるうちベル鳴り止みぬ

今日生まる赤子はすべて七十億人目と数う人口爆発

毎日を取るに足らない歌積みて徒(あだ)に過ごして老いゆくべしや

悔いる日がきっとくるべし逝く時かハワイへ遊んでおけばよかった

耳掘れば耳垢ほろほろこぼるなり心の垢をいかに探らん

人の背の紫苑の何故に憎まれる小さきものを愛しく思う

流行語幾日隔てて列島の言葉となるか誰が知ろうか

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Hara Tetsuya
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