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僕はゴルフをやりません.練習場には行ったことがありますし,打ってみたら空振りしないでボールはそこそこ飛びましたので,ちゃんと練習すれば,何とかプレーすることはできそうな気がしますが,コースに出たことはありません.同じ医局の中でゴルフをやる医師は多かったし,僕の小児外科の師匠であるN先生は,80歳をすぎてもゴルフをやっていて,先日は1打差でエージ・シュートをやり損ねたというゴルフの名手です.ですからゴルフを始めるチャンスもあったのですが,やらないのは,たまたま始め損ねたのではなく,ゴルフはやらないと心に決めているからです.
その理由は僕の少年時代の体験に根ざしています.僕は子どものころから虫が好きだったのですが,中学校入学と同時に生物部に入り,はじめて本格的な昆虫(蝶)採集に目覚めました.中学,高校時代には,ずいぶんあちこちに昆虫採集に出掛けましたが,何といっても一番しげく通い詰めたのが,小田急線の西生田駅,現在の読売ランド駅周辺の丘陵地帯でした.このあたりにはなだらかな丘が連続しており,その丘は雑木林に覆われていました.そのために植生が豊かで,おどろくほど昆虫の種類も豊富だったのです.
とくに5月から6月にかけての初夏には,ゼフィルスと呼ばれる美しいシジミチョウの仲間が発生しますので,毎週のようにこのあたりに採集に出掛けていました.大げさに言えば,小田急線の向ヶ丘遊園駅から柿生駅にかけての一帯で,歩いたことがない場所はないという程だったのです.この丘陵地帯には蝶だけではなくカミキリムシなど他の昆虫の種類も多く,またそれだけではなく雑木林にはカタクリや春蘭などの植物もたくさん生えていて,目を楽しませてくれました.
ところがここによみうりゴルフ倶楽部,東京よみうりカントリークラブが相次いで建設されることになったのです.みなさん出来上がったゴルフ場には行くチャンスは多いと思いますが,建設中のゴルフ場をご覧になる機会はあまりないと思います.これは一度ご覧になるとよいと思います.それはともかく恐ろしい程の自然破壊です.出来上がったゴルフ場には美しく木が植えられており,コースには芝が敷き詰められて,自然豊かにも見えるのですが,それを作るためには,そこに元から生えている草木を根こそぎブルドーザーでこそぎ取らなければならないのです.
自分たちの昆虫採集のフィールドであった雑木林がなぎ倒され,丘がブルドーザーに崩されていくのを見るのは,少年であった僕にとっては本当に恐ろしい体験でした.その時にその光景を眺めながら,一生ゴルフはやるまいと僕は心に誓い,それをずっと守ってきたわけです.べつに言い合わせたわけではありませんが,じつはこれは僕だけではなく,当時の昆虫採集の仲間であった同級生たちも全員,同じ理由からゴルフをやりません.
ある時,ゴルフをやる友人にその話をしたところ,じゃあお前は何でスキーをやるんだ,スキー場建設だってゴルフ場と同じくらいの自然破壊だぞ,といわれました.確かにその通りかもしれません.しかし僕はスキー場の建設現場を見たことがありません.その経験の違いが僕の行動を決定しているのであり,そこに矛盾があるとは思っていませんし,そこに後ろめたさを感じる必要もないと考えています.経験が人間の心に,そしてそれに従った判断に与える影響は,それだけ大きいのだと思います.
じつは僕の父親はゴルフ好きで,毎週のようにゴルフ場に行っていました.あるいは僕とゴルフをやるのを楽しみにしていたかもしれないと思いますが,頑固な僕の性格を知っている父は,しつこく誘うことはせずに,姉の連れ合いといつもゴルフをやるようになっていました.今から考えると,そこまで頑なでなくても良かった気もするのですが.
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