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角田光代「八日目の蝉」

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角田光代「八日目の蝉」



角田さん初めての長編サスペンスだそうだ。
緊迫感に満ちた逃亡劇には冒頭から一気に引き込まれる。
その展開の上手さはとても初めてとは思えない。
読んでいるうちに何時しか主人公たちに感情移入して、
ラストの章にはもう自然と涙がこみ上げてくる。


辛い過去、あの幸せだった日々、突然訪れた別れ、知らなかった現実。
自分が自分であること、家族が家族であること、恋人が恋人であること。
何が幸せなんだろう。ずっと知らない方が良かったのか。
でも知ったからこそ味わえるものもあるのだ。


上手いなあ、角田さん。
これはある女性の思いが織り成した、切なくて、温かい
凄まじい人間ドラマサスペンス、かなり好きです。

読み終わってから2週間以上経つのに興奮はなかなか冷めやらない。



以下、ネタバレ注意です。



不倫相手の留守宅に忍び込み、眠っていた赤ん坊を見て、思わず連れ去ってしまった
野々宮希和子。生まれるはずだった子供と、不倫相手の妻が産んだ女児を重ね合わせ、
希和子は自分の子につけるはずだった薫という名前をその子つけて、逃亡生活を始める――。

冒頭からまさかの誘拐劇。手に汗握る展開。
どうやって逃げていくんだろう。なぜ、そこまでして逃げるんだろう。

1章の緊迫感に満ちた逃亡劇には一気に引き込まれていく。
まずは友人の家に泊まり込み、取るものもとりあえず新幹線に乗り向かった名古屋では
見知らぬ奇妙なおばさんに助けられる。しばらく落ち着いたところで、さらに安全な
場所を求めて希和子は世間から隔離された怪しい集団エンジェルホームに入ることを決める。
この子と一緒に暮らして行けたら全財産も投げ打っても構わない。全財産投げ打って入った
エンジェルホームでしばらく暮らしたが、ひょんなことから世間の目が向けられることと
なってしまい、希和子は再び逃亡を続けることになる。
特に行くあてはなかったが、エンジェルホームで仲良くしていた友達の実家を目指して
小豆島へ向かう。海が光輝くこの島に留まって暮らしたい。
最初は住み込みでホテルの掃除の仕事をし、そのうちに友達の母親が仕事を世話して
くれるようになる。次第に幸せな日々が永遠に続くような気がしてくる。
しかし、希和子と薫の運命の糸は切り離されることとなる。



中盤の2章はもう一人の主人公の当時薫と呼ばれていた誘拐された赤ちゃん
だった女性の人生に焦点があたっていく。
幼い頃、母親だと思っていたあの人がある日捕まり、私は母親と引き離された。
あの幸せだった日々。自分の背負ってきた過去は何だったのか。
代わりに現れた本当の両親とはなかなかうまく馴染めなかった。
家族とはどうあるのが幸せなのだろうか。自分は今、幸せなのか。
子どもは親を選べない。普段は意識していなかったその事実が、読むうちに
激しく胸に迫ってくる。
しかも、今、自分は昔のあの人と同じように不倫をして、あの人と同じように
子供を身ごもったのだ。

昔、逃亡生活の中で一時期エンジェルホームで一緒に暮らしたという千草と
共に過去に逃亡して暮らしてきた軌跡を追う旅に出る。



ラストの章にはもう涙が自然とこみ上げてくる。




以下、好きな文章をいくつがあげてみたい。


ただ、いやなのは、岸田さんと会えば会うだけ、必要だと思えば思うだけ、
「あの人」のことを思ってしまうことだ。私の父を馬鹿みたいに愛した「あの人」。
私たち家族をめちゃくちゃにした「あの人」。そうしてだれかをうんと愛した
とき、きっと私も「あの人」のような行動に出るのではないか。その考えに
私は心の底から恐怖を覚える。

  ◆  ◆  ◆


七日間しか生きられない蝉が、八日目まで生きてしまったとき、普通の蝉には見ることが
できない世界が見れてしまう。見たくないって思うかもしれないけど、でも、ぎゅっと
目を閉じてなくちゃいけないほどにひどいものばかりでもないと、私は思うよ。

あの女、野々宮希和子も、今この瞬間どこかで、八日目の先を生きているんだと唐突に思う。

  ◆  ◆  ◆

その子は朝ごはんをまだ食べていないの。
そうだ、彼女は私を連れていく刑事たちに向かってたった一言、そう叫んだのだ。
その子は、朝ごはんを、まだ、食べていないの、と。
自分がつかまるというときに、もう終わりだというときに、あの女は、私の朝ごはんの
ことなんかを心配していたのだ。なんてーーなんて馬鹿な女なんだろう。
私に突進してきて思いきり抱きしめて、お漏らしをした私に驚いて突き放した
秋山恵津子も、野々宮希和子も、まったく等しく母親だったことを、私は知る。


  □  □  □ 


湯気をあげて運ばれてきたラーメンを一口食べ、それから希和子は丼に顔を
くっつけるようにして夢中で麺をすすった。塩辛さも脂っぽさもなつかしかった。
食べやめることができず、汁まで飲み干した。丼の底にこびりついた細い麺を
箸でつかみ、そうしている自分に気がついて希和子は愕然とした。
おいしいと、自然に湧き上がってきた感想に愕然とした。

  ◆  ◆  ◆

それでもよかったのだ、薫がいさえすれば。その薫ももういない。永遠にいない。
外の世界に出されたかといって、何を目指してどこに向かえばいいのか、
希和子はまったくわからなかった。

それなのに、そんな状況にいるというのに、みすぼらしい食堂で出されたラーメン
一杯をおいしいと、まだ自分は思うのだ。麺の切れ端までのみこもうとしているのだ。
そのことに希和子は打ちのめされた。
まだ生きていけるかもしれない。いや、まだ生きるしかないんだろう。

  ◆  ◆  ◆

海は陽射しを受けて、海面をちかちかと瞬かせている。
茶化すみたいに、認めるみたいに、なぐさめるみたいに、許すみたいに、
海面で光は踊っている。



[要旨]
逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるのだろうか。
理性をゆるがす愛があり、罪にもそそぐ光があった。
角田光代が全力で挑む長篇サスペンス。 

 「人は何を求め、何とつながろうとするのか。血のつながり、愛という名のあいまいなつながり、家族や結婚といった人間が作った制度より前に、ヒトには仲間と群れあう本能があったと思っています。その本能みたいなものに触れられるような小説が書けたら、うれしい」と、表情を引き締めた。
(2005年11月16日  読売新聞) 

アフィリエイト   私のおすすめ:
八日目の蝉

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衝撃的でしたね〜いろんな意味で。
最初から結構ショッキングだったけど、ラストまで変わりませんでしたね・・・薫が、同じように身ごもったときには、もう何とも言えない感じでした。
トラバ、させてくださいね。

2008/4/8(火) 午後 9:15 mrt

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角田光代さんの作品は「空中庭園」しか読んだ事がありません。
これはφ(..)メモメモです。

今、私の地方のローカル紙の朝刊の連続小説を
角田光代さんが書いています。
毎日読んでいますが、なかなかまどろっこしいです(^^;

2008/4/8(火) 午後 9:31 ときどき、晴子

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自分があたりまえに家族を持ち 子供を持ち そんな普通と思っていた生活が とても大切なことなんだと気付かされました。
逃亡がうまくいくようにと思わず祈りながら それでも本当の両親もきっと心を痛めているだろう という辛い思いと 2章からは子供の目線もからまり たくさんの人達の気持ちになりながら読みましたね〜〜。重く それでいて温かい作品でした。
トラバさせて頂きます^^

2008/4/10(木) 午後 3:52 tammy

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mrtさん、そうですね。タイトルや装丁からはこんなサスペンスとは思わなかったですね。でも読み始めるとどんどん引き込まれましたね〜。そして、いろいろと考えさせられました。トラバありがとうございます。

2008/4/11(金) 午後 10:28 ヒデジぃ

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晴子さん、「空中庭園」は私はあまり合わなかったなあ。壊れかけた家族というところでは共通点はあるけれど、読んでいる途中のワクワク感や読後感は全然違いますよ。是非読んでみて下さいね。

2008/4/11(金) 午後 10:30 ヒデジぃ

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tammyさん、七日までの普通の人生に浸かっていると普通の良さがわからないことがあるわけですよね。感情移入しますよねえ。悪いとわかっていても。そう、重く それでいて温かい作品でしたね。トラバありがとうございます。

2008/4/11(金) 午後 10:40 ヒデジぃ

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この作品は、いまのところ角田さんマイベストです。こりゃーすごいと思いましたよ〜。
図書館で借りましたが、買って手元においておきたい本ですね。再読したら、また面白さが広がりそうです。

2008/4/15(火) 午後 8:45 zo_no_mimi

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ふたたびお邪魔します。トラバしようとして、記事にしていなかったことを思い出しました^^;
これを読んでいたころ、ブログ停滞期だったんです。う〜、こんな素晴らしい作品の感想を残していないなんて!と、ちょっと後悔…。
やはり購入して、再読して、記事にしますかねぇ。

2008/4/15(火) 午後 8:48 zo_no_mimi

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これは読み応えがありました。
誘拐犯の希和子の母性愛に引き込まれ、母娘のしあわせが続くようにと祈っていました。さまざまな感情を味わえますよね。トラバさせてください!

2008/4/16(水) 午後 9:02 れおぽん

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ぞうの耳さん、私もこの作品を読んだ後は何だかゾクゾクして凄いと思いましたね〜。余韻もかなり後を引きました。私も角田さんのベストですね。

2008/4/16(水) 午後 9:17 ヒデジぃ

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ふたたび、ぞうの耳さん、そうですよね。ぞうの耳さんの本屋大賞の記事を見て、この作品を読んでいるようなので、私も記事を探したんですがなかったんですよね(笑)。そうですか、そのうち記事にしてくださいね^^。

2008/4/16(水) 午後 9:21 ヒデジぃ

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れおぽんさん、角田さんのパンチにやられましたね〜。かなり効きましたよ。私も悪いとは思いつつも母娘のしあわせが続くようにと祈っていました。本当にいろいろな感情を味わえましたし考えさせられました。最後がまたニクイですよね。トラバありがとうございます。

2008/4/16(水) 午後 9:41 ヒデジぃ

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図書館で借りて読みました。
いろいろな事を考えさせられる作品でした。

「八日目の蝉」について千草が語るシーンが
一番心に残ってます。

2008/5/8(木) 午後 10:35 ときどき、晴子

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晴子さん、こんばんは。いろいろ考えさせられますね〜。かなり感情移入してしまい、最後は思わず泣いてしまいました。

2008/5/9(金) 午後 9:27 ヒデジぃ

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はじめまして(´∀`*)とても読み応えのあったお話でした♪
エンジェルホームの2年半の生活と島での1年の生活が、反対の時間だったら良かったのにな〜とか思ってしまいました(uдu*)
TBさせて下さいね。

たくさん本を読まれているんですね!私も本大好きです。徐々に本の感想を増やしていこうと思ってます。これからもお邪魔させてもらいま〜す(*・∀-)☆

2008/8/22(金) 午後 4:04 [ はな猫 ]

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はな猫さん、はじめまして。この作品は読み応えありましたね〜。一気に引き込まれて最後にはぐっとこみ上げるものがありました。心に残る一冊です。こちらこそどうぞよろしくお願いします^^。

2008/8/23(土) 午前 10:12 ヒデジぃ

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ゆっくり読書なので、ヒデジぃさんからしてみればもう去年の作品ですね。衝撃というか、余韻が本当に長く長く続きました。「朝ごはん」のところ、泣きました。

2009/2/13(金) 午後 5:52 ゆうき

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ゆうきさん、この作品は本当に余韻が長く続きますね。私も読んでから1年近く経つけど何だろう胸が揺さぶられる感覚がまだありますよ。「朝ごはん」のところ、泣きますよね^^。

2009/2/14(土) 午前 10:44 ヒデジぃ

顔アイコン

ヒデジぃさん、ご無沙汰しておりました。TB、ありがとうございます♪
3章は、確かに泣いてしまいました。誘拐犯なのに、切なすぎます。大きくなった恵理菜が、「家族」っていう関係性を客観的に見ることで(希和子と本当の母親を等しく母だと思うところなど)、絞り出すように気持ちのかたをつけていくところは、胸に迫るものがありました。
やっぱり、「朝ごはん」は切な過ぎます(涙)。遅ればせながら、私もTBさせていただきますね♪

2010/7/30(金) 午後 7:47 mepo

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メポさん、お久しぶりです。メポさんの記事を見てまた少し思い出しました。本当に胸に迫るものがありましたね。TBありがとうございました。

2010/8/6(金) 午後 0:54 ヒデジぃ

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映画は永作さんの好演で、希和子に対する同情的感想を持った方が多かったように思いました。彼女に対して共感も同情もできなかった私ですが、永作さんについ感情移入し涙しました。
しかし、一番の被害者は恵理菜。犯罪被害者の心のケアーが最近注目されるようになってはきましたが、この家族には必要だったのではないかなんて考えながら読みました。報道で、誘拐や監禁事件の被害者が無事救出され安堵しますが、事件のその後を第二章で書くという構成も考えられていて感心しました。

トラバ返しさせてくださいね♪

2011/5/20(金) 午前 11:37 金平糖

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ご無沙汰してます(^o^;
普段は、不倫物とか犯罪者を良き人として扱ってる物は、あんまり好きじゃないんですけど…
コレに関しては、よく考えたら、そうなんだけど、読んでるときには忘れてしまってたという…
角田さんに脱帽!ってぐらい引き込まれてしまいましたね。
こちらからもTBさせてくださいね^^

2011/5/26(木) 午前 0:15 チュウ

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金平糖さん、映画もドラマも観ましたがやはり原作が一番ですね。角田さんの畳み掛ける筆力、構成力に圧倒されました。

2011/6/4(土) 午後 2:23 ヒデジぃ

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チュウさん、ご無沙汰しています。悪いこととわかっていても、この作品は引き込まれてしまいますね。TBありがとうございました。

2011/6/4(土) 午後 2:27 ヒデジぃ

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