歯と向き合う自分と向き合う ③
歯の疾患の原因は歯のみにあらず。あなどるなかれ。歯は全身に影響を及ぼすのだ。
「歯・口・アゴはカラダと一つ」
みなさんは、原型を保っている歯を何本お持ちだろうか。
成人で二十八本から三十二本生えているヒトの歯は、一本一本、形も大きさも特徴があって、原始的なサメなどのそれとは違う。私たちの歯は食べ物をよく噛んで、ゆっくり味わうのに適している。歯はカラダの中で最も硬く、その人の遺伝情報をそのまま形として表現している。いわばあなたのシンボル的な存在なのである。歯が欠けたり、すり減ったり、ムシバになったり、動いたりして変化するときは、カラダや環境の変化を反映していたりする。それに歯を食いしばって生きている状態など、ココロも影響していると思われる。
前歯は本人の顔の形や幅と調和している。大きく分けると三角タイプ、四角タイプ、丸タイプとなり、義歯を作るときに顔の形を参考にするのはそういう理由である。ただし後天的に顔が太ったり、長年、食いしばりをしてきて下アゴのカドの部分が角張ってきたりしている場合は一致しない。
上の前歯を小さめに引っ込めて作るように希望する患者さんがいるが、上唇が薄くなって下のアゴが引っ込んだ顔になり、本人らしくない老け顔になるので気をつけた方がいい。前歯が少し前方に傾いて出ているのは日本人らしいのである。上の前歯を後方に引っ込めたことがきっかけとなって、首の後ろや背中の筋肉の緊張を招く可能性もあるので、前歯を触るのには十分な慎重さが必要だ。
奥歯の問題が前歯に影響することもある。本人に調和しない奥歯のかぶせ物を入れると、前歯ばかり強く当たるようになることがある。上の二本の前歯を指で軽く押さえてカチカチ咬んでみて、指に強く振動が伝わるようなら要注意。同じ時期から眼の奥の痛みや、眼の周りの圧痛が出たり、情緒が不安定になって神経質になり、眉間にしわがはっきりと出るようになったりすることがある。
葉にかかる不自然な力は、アゴの骨を介して他の領域に伝わっていく。そして歯が欠けるか、すり減るか、傾いたりグラグラしない限り、その力の刺激は全身に影響し続けることになる。歯科の問題が眼科の症状や感情面の変化に関係している可能性があるとは、誰も想像つくまい。みなさんも歯の症状が出た時期、治療を受けた時期、心身の状態や周囲の変化などを年表にしてみると、きっと何かに気づくはずだ。
口は食べ物を咀嚼して味わう、消化器官の入り口だ。よく噛めることと味わえることは、生きている楽しみであり、ストレス解消にも絶大な効果があると言われている(ただし噛みごたえがあって味わいのある料理を選ばないと、食べすぎて体型が変わるのでご注意ください)。歯は口の中に食べ物を長く留めておくために重要で、歯をあまり使わなくてすむ食事や、歯並びが連続していない、歯が何本か抜けたままの口では、どうしても早食いになってしまう。それに口の中で歯が上下に咬み合うことは、脳の活性の維持や姿勢の保持においても大切な存在であり、まだまだ長生きするかもしれないあなたは、歯を大切にした方がいい。
上下のアゴの骨は眉間から下アゴの先端までであり、顔のほぼ八割を占める。だから上下のアゴの骨がずれてくると、顔がゆがんでくる。たとえばアゴの中心が右にずれてくると、口唇の右端が上がる、右の頬がぽっちゃりして見える、右にえくぼができやすい、左眼のウィンクが難しい、などの特徴が出やすい。右眼の不快症状や、右耳のかゆみ、炎症などとも関係しているかもしれない。さらにアゴの感覚は大脳の体性感覚野(触覚などに関係する部位)の半分以上を占めているそうで、全身でも特に繊細かつ敏感なのである。
今後、歯や口やアゴは境界を越えて、ひとりの患者さんを診ていくためのカギとなるかもしれない。
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