歯と向き合う、自分と向き合う

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⑧ 私が自由診療を選んだわけ

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歯と向き合う自分と向き合う ⑧

最終回の今回は、保険診療と自由診療のお話。
患者のための医療とは何なのか、考えるきっかけに。

「私が自由診療を選んだわけ」

私はある時期から保険診療を一切止めて自由診療医になった。ほかの歯科医から「日本で自由診療だけでやっていくなんてすごい(大変だ)ね」とか、「本当は私も君のように(いつか)やりたいよ」などと言われることもあるが、何のことはない、私には保険医はどうしても続けていけなかっただけなのである。
 毎日のように、歯科治療に不信感や恐怖心を抱いた人が来院してくる。共通していることは、歯にピッタリと合った(カラダに調和しているわけではない)かぶせ物が入っていたり、歯の寝の治療も何度かやり直してあって、レントゲンで診るとピッタリときれいに詰めてあるということだ。今まで本当にまじめな先生方に治療していただいてきたのである。しかし、症状のある部分にのみ注目した対症療法では、患者さんが元気で健康な状態に戻ることはなかなか難しいと思われた。

 歯科治療がトラウマになっているように見受けられる人々は、たとえば小さいムシバがあっただけなのに、しみると訴えたらたくさん削られただの、麻酔注射をしたかと思うと説明もなしにいきなり抜かれただの、本当に鬼のような歯医者もいるもんだといった話をする。でもよく聞くと、ギリギリまでがまんして末期状態になってから急患で来院して「痛いんです」と歯医者に詰め寄ったり、無関心を装っていつも歯医者のされるがままにおまかせ状態、なんていう関係の結末だったりする。歯医者も白衣を脱がせてひと皮むけば本当は普通の人たちなので、急に「痛いんです(助けて)」と涙ながらに訴えられれば救済者を演じてみたり、患者さんがココロを閉ざしたままで早くこの関係を終わりにしたいのなら、仕方なしに相手の部分を治す修理職人になってしまいがちである。

 患者自身が歯と向き合い自分と向き合い現状を認めた上で、自ら健康になるという当事者意識を持たない限り、歯科医とプラスの人間関係は長くは続かない。歯科における人間関係とは、お互いに同じ目線で感覚的なコミュニケーションがとれる関係だと思う。だからこそ非効率的ではあるが、歯科医院は気づきのプロセスを重視する必要がある。

 私は急患を除いては、一時間以上かかる初期検査の後日に、説明をこれまた約一時間かけて受け手もらってから、治療方針を本人に選んでもらうようにしている。説明は病名をつけてそれを伝えるためではなく、初期検査の情報を用いて相手に現状をわかるように伝える目的があるし、レントゲン写真も悪い部分を探すためというより、ほかの検査から得られた情報の確認のためだったり、視覚で現状のイメージを共有するために撮影することになる。

 日本の歯科の保険診療制度は、世界中で最も完成されているルールである。日常的な治療内容はほとんど網羅されているし、治療内容に対する点数(金額)が決まっている。各種保険を取り扱う歯科医院は、たとえると国の歯科フランチャイズ店だ。出来高制で仕事のパターンと単価が決まっているので、材料費や効率性が重視されている。保険診療の特徴は、歯科医は症状のある部分を治す役目で、患者はまな板の上のコイという関係が成立しているということだ。個々の臓器をその部分だけ診る専門医が効率よく治すという点が、まさに西洋医学的である。

 これからの歯科医療は、患者さんの内側全体が本来の状態の方向に戻っていくためのサポート役だという認識がどんどん強くなるだろう。歯科医と歯科衛生士が患者さんを囲んで、三人四脚のチームで同じ方向に歩いていくことから始まる。私がなぜ利益率の低くて経営リスクの高い、非効率的な自由診療を選んだかというと、お金では得ることのできない喜びと、生きている実感がそこにはあるように感じているからである。

今週のワンポイント
今の担当歯科医と長くつきあえるかは、お互いの信頼関係と人間関係がポイント。インプラント(人工歯根)療法はすぐに手術をお願いしないで、とりはずしの義歯でおいしく噛める関係ができてからが安心だ。

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⑦ 老けない治療の留意点

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歯と向き合う自分と向き合う ⑦

詰め物やかぶせ物が、思わぬ不都合を生む場合も。
「こんなはずじゃなかった」と公開しないための一章です。


「老けない治療の留意点」
 
いったん壊れてしまうと再生しないのが歯の特徴である。ヒトは歯と骨と血管から年を取るとも言われる。人工的に歯の形を修復して若返ることも、できることはできるけど、本人の個性を十分にくみとって作らないと、修復物である詰め物やかぶせ物の下がムシバになったり、はずれたり、壊れたり、歯自体がグラグラになったりする。そうならないようにと強度のある材質でしっかりと接着すると、今度はカラダ全体で順応しようとして口の中以外の部分が変化することになる。もしかすると一本の不自然な歯の治療で、元気が失われていくこともあるのだ。

たとえば下アゴの奥歯の治療で、平らですり減った形の修復物を入れたとしよう。平らな人工の歯は、上下のペア同士では不自然なぶつかりあいはないので、長く持つかもしれない。でもそのペアはしっかり咬み合っていないので、本来のように十分には働いていないことになる。

口はカラダが会社だとしたらひとつの部署のようなもの。平らでちょっと低めの修復物を入れたことで、働かないおさぼりペアが増えてくると、ちゃんと仕事をしている社員の負担が増すので、ついにはフラフラになったり倒れたり、ムシバになったりする歯が出るかもしれない。それに下アゴが傾いて、咬み合わせが全体的に変化することも多い。反対に老人部署に若いのを入れると、ほかと親しく調和しないので、その歯だけ浮いて目立つ存在になる。そのため気を遣った不自然な下アゴの動きになり、アゴのズレや顔・姿勢の変化の原因となる。

患者さんにプラスの修復治療を行うには、おさぼり社員が働けるようなペアの咬み合わせの形態を考慮することも大事だし、部署全体の仕事(咀嚼)のじゃまにならない形を表現することも必要だ。

 削った歯のかぶせ物や詰め物を作るための形をとることを「歯型をとる」と言うが、そのときに大切なのは、歯肉の炎症がなく引き締まっていること。半月くらい前から砂糖や果物を控えたり、塩の入った歯磨き剤を使うのもひとつの方法だ。

上と下の歯の間に粘土のようなものを入れて固まるまで咬むのは咬み合わせの記録で、普通は食事をする姿勢で行う。このときの咬んでいる姿勢に合った咬み合わせの修復物ができてくるので、もしも寝たままの姿勢に合った修復物を入れると、食事をするときは寝ないと噛めないことになるかもしれない。修復物の調整をするときも、寝た姿勢のままでカチカチ色を付けて削っても、仰向けになると下アゴが後方に下がってしまうタイプの人は、起きて咬むと違和感が出るはずだ。

このような治療で平らな修復物が奥歯に何本も入っている状態になると、下アゴが後退してくる。特徴としては、太ってもないのに二重アゴになる、下アゴの角のエラの部分のほっぺがぽっちゃりしてくる、下の前歯が上の前歯にほとんど隠れて見えなくなってくる、鼻唇溝が深くなって腹話術の人形の口元に似てくるーーーなどなどがある。こうなると上の前歯が出っ歯っぽくなるので、セラミックの修復物で小さく内側に引っ込めて目立たなく作ってしまう傾向があるが、それはさらに下アゴを後退させることになって老け顔を作ってしまう。

 もしも詰め物やかぶせ物などの修復物を口の中に入れて、高いなどの違和感が多少あっても歯にフィットして浮いていないのなら、あくびをするように開閉口運動をやるようにして、一週間から十日くらい経ってから調整すると、低くて平らな歯にならずに済むかもしれない。

 歯の形を修復することは元気が回復して若返ることもあるが、反面、老化を加速する可能性もないとは言えない。歯科治療に通ううちに口が不自然にならないよう、ご注意を。

今週のワンポイント
小さなムシバなら、ピンポイントに削って詰める「コンポジットレジン」の治療がおすすめ。金属の詰め物(インレー)だと、最も大切な咬み込む溝をすべて削ってしまうことになる。再発の可能性も高い。

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⑥ 「歯周病と平和に生きる」

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歯と向き合う自分と向き合う ⑥

    虫歯以上にこわいのが歯周病。でもね、ブラッシングや食事を改善することで、防ぐことができるんです。

「歯周病と平和に生きる」

 歯周病は歯の周りの組織が侵される疾患だ。初期は歯ブラシに血が付く程度だが、知らないうちに進行していき、重症になると頻繁に腫れたり、歯がグラグラして咬めなくなったりする。五〇歳以降の抜歯の主原因になるので怖いのである。

 でもテレビで世界の長寿の老人をみると、ほとんど歯がない。食事のシーンでは、歯がなくても一生懸命咀嚼している。現代の日本人はカラダを使って働くことが少なくなってきたからか、骨格が丈夫にできていない。だから少しでも口腔が壊れてくると、顔が歪んで崩れたり、カラダの老化も早まるだろうと思われる。

貧血や冷え性の人は、末梢の歯肉まで十分な赤血球がこないので白っぽく見える。こういう状態だと歯を支えている歯槽骨に十分な栄養が供給されずに痩せ細ってくるため、強い咬合力に耐えられなくなってくる。また、ある食べ物は血液と歯肉の性状に大きな影響を与える。たとえば砂糖を摂ると、赤血球が毛細血管の中で鎖のように連なり合ってしまい、血行が低下する。砂糖や果糖は歯肉の炎症を増加させる働きがある。果実酒も飲みすぎに注意は必要だ。

 閉経して女性ホルモンが急に減少する時期や、高血圧・糖尿病に代表される生活習慣病のひとつの症状として歯周病がみられることも多い。ムシバ予防に唾液が重要だとしたら、歯周病は血液と全身の状態がカギを握っていると言えるのではないか。

 部分的に歯周病が進行する場合は、咬み合わせの変化や咬む力の局所的集中が考えられる。口臭や歯肉がプクッと大きく腫れるのは、寝ている間の歯ぎしり、食いしばりによる力が第一の原因にあげられると思う。歯肉の腫れた状態が長く続くと、大量の歯槽骨が溶けてしまう。三日からせめて一週間ぐらいで腫れが引くように、歯科医院も患者さんも協力して対応してください。

口の中の常在菌が関与する歯周病は、カラダの弱体化が招いた文明病だ。やわらかい料理がご馳走とされる現在の日本の食文化によって、噛まない・噛めない人が増えている。口の機能をしっかり発揮させないと、歯も歯周組織も弱くなる。しっかり咀嚼しないから唾液があまり出ず、唾液中に分泌されるホルモンであるパロチンも少ない。だから骨や歯肉を若く保つパロチンの作用も発現されない、という悪循環なのである。

よく噛めない人は、ブラッシングで補うしかない。歯周病の初期の頃はやや硬めの毛の歯ブラシで、歯と歯肉との境を狙って磨けば炎症はなくなっていく。歯周病菌である嫌気性菌は、酸素が嫌いで歯垢(プラーク)の底の方に繁殖しているので、歯ブラシでプラークの層を破壊する。そう、ぬか床を毎日混ぜるのと同じ。歯周病の予防や進行を止めるには、歯も歯肉も含め口の中全体をブラッシングすること。歯ブラシの毛の硬さは、その時の歯肉の状態によって替える必要があるので、担当の歯科衛生士に相談を。この方法でより引き締まった歯肉に変化すれば、最近が歯周組織内へ侵入するのを防げる。血行もよくなるので一石二鳥だ。

 ある日、四〇歳代の重度の歯周病に羅患している女性が来院された。二〇歳の頃、歯周病と診断されて以来、ずっと歯を残すための治療を歯周病専門医のところで受けてきたそうだ。彼女が言った言葉は「私はこれまで25年以上、歯を残すことのためだけに生きてきました」である。やみくもに「残すこと」だけを目標にするのは、歯科医院と患者さんの緊張関係を招くだけだ。歯周病治療は抜歯という選択も含めた対症療法と、生活習慣の改善に代表される原因除去療法の両
刀が大切。医師と患者さんの関係は、よく噛める健康な口の回復を共通の方向性として長期間、もしくは一生続いていくのが自然かもしれない。よきパートナーとの出会いをお祈りしています。

今週のワンポイント
唾液は最高のデンタルリンス。ほかには何もいりません。ブラッシングの最中に出てきた唾液は飲み込んでしまってOK>じっくり丹念に磨いてください。歯磨き粉(ペースト)は安心なものをお好みで。

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⑤ ムシバ予防はよだれが命

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歯と向き合う自分と向き合う ⑤

きちんと歯磨きしているのに、どうしてもムシバができる−−−とお嘆きのみなさん、視点を変えて考えてみましょ。

「ムシバ予防はよだれが命」

 なんでムシバになっちゃうの?それはあなたが悪いのよ、と言ってしまえば話はそれでおしまいになってしまうのだが、日本人は縄文時代の頃から二〜三本のムシバがあったそうだ。アイヌや朝鮮人は近世までほとんどムシバはなかったらしい。現代の日本人がムシバになりやすいことと、何か共通の理由があるのかもしれない。

 赤ちゃんは生後六ヶ月頃に下の前歯が生え始めて、二歳六ヶ月頃二〇本の乳歯が生えそろう。ムシバができる子どもと、できない子どものいちばんの違いは、唾液の分泌する量ではないかと自分は思っている。よだれかけをしている子どもが最近少なくなってきた気がする。要はおっぱいを止める時期には、母子ともに唾液がたくさん出るほどリラックスした生活をして、よだれが垂れるくらいおいしい食事ができるよう、お父さんはがんばればいいのである。
小学校に上がると、乳歯が抜け始めて永久歯と交換する時期になる。小・中学生の時代はムシバになりやすいので、歯ブラシと砂糖の入ったおやつ・飲み物には注意した方がいい。生えたばかりの永久歯の表面は、唾液によって強くなるのに数年はかかるからである。この時期を乗り切るとひと安心なので、ムシバのリスクが高い子どもは予防処置を受けてもいいんじゃないかな、と思う。

 二〇歳前後になると、人によってはアゴの骨の中に親知らずがあって生えようと動き始める。そして手前の奥歯が押されて動いたり、親知らずが不自然に生えてきて咬み合わせが変化すると、たとえそれが少量であっても下アゴの動きが不自然になったり、アゴの位置がずれたりして、アゴの関節に負担がかかる。それは無意識の歯ぎしり、食いしばりにつながり、歯に強い負担がかかる(前号までと重複して恐縮ですが、親知らずはこれほど重要なのです)。

 たとえば下アゴを横にずらして奥歯で食いしばるタイプでは、下の奥歯が内側に倒れてくる。下の前歯を上の前歯より前に出して引っかけて食いしばるタイプなら、上の前歯が内側(後方)に倒れてくる。このとき歯並びがすでに多少デコボコな人はデコボコがます症状が出るが、きれいな歯並びの人は歯と歯の接点のエナメル質に小さなヒビが入って、そこに細菌が入り込み、歯と歯の間にムシバができる。歯並びが大人になってから乱れたり、歯と歯の間にムシバが増えるのは、このようなプロセスが考えられる。親知らずがない人でも、奥歯のムシバの治療で本人に調和しない形や、低くて平らな形の金属を入れられたことや全身レベルでの緊張が続いたり、外傷や加齢による姿勢の変化からも、同じ流れが起こることがあると思われる。

 ムシバには、歯の表面のエナメル質が溶けていくタイプと、エナメル質にできた小さなヒビの下の象牙質に大きな穴が開いているタイプがある。前者は不潔性(プラーク性)のムシバで、現在はブラッシングの普及により少なくなった。後者は咬合力の支持のアンバランスにより、一本の歯に不自然な力が集中してエナメル質に裂け目が入ることから始まったムシバで、咬合性のムシバとも言えると思う。このタイプのムシバは、歯周組織と言われる歯のまわりの歯根膜や歯槽骨にも影響がおよんでいるので、麻酔が効きにくい。治療をしてもその歯や歯肉に何らかの形で再発する可能性が高いという特徴がある。何度も同じ歯が再治療になるときは、その歯の問題よりも全体のバランスをよく診察した方がいい。部分を診る局所的な対症療法と、全体から部分を認める対応では、方向性がまったく違ってくるのである。

 ムシバは、原因が口の中の領域に限った問題として治療・予防することに専念すると、口の中の疾患はなくなるが、全体の健康には結びつかない恐れがあるように感じている。


今週のワンポイント
 親知らずが手前の歯を押していたり、ほかの奥歯より不自然に延びていたら、永久歯のなかで唯一、カラダにプラスとなる抜歯の対象です。生理や季節の変わり目のカラダに負担が大きい時期を避けて、抜きましょう。

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④ 矯正する? それともしない?

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歯と向き合う自分と向き合う ④

  きれいな歯並びを求めて矯正する人は多い。でもその前に、歯並びが悪くなる原因を勉強してみよう。

「矯正する? それともしない?」

 小学校に上がる頃になると永久歯の前歯が生えてくる。まだアゴの骨は成長の途中なので、前歯は大きく不自然に見える。いわゆるみにくいアヒルの子の時代だ。アゴの小さい幼児期は小さな乳歯が並んでいて、アゴの骨が成長するにつれて抜け替わり、永久歯は中学生の頃に生えそろう。

 一般に歯並びが悪いと言われるのは、歯がねじれたり傾いたり、外側と内側にでこぼこに並んでいることだろう。

 歯並びが悪くなる因子としては、まずアゴの退化と親知らずの存在があげられる。よく噛まなくても食べられるやわらかい食事や、大脳の容量が増え直立二足歩行の妨げになることに対応して、アゴの骨が小さくなってきた。アゴが小さくなっても歯の大きさや数が変わっていないので、現代人は親知らずの生えるスペースが足りなくなり、二〇歳前後の親知らずが生える時期に、手前の奥歯が親知らずに押されて歯並びが変化してしまう。歯並びや咬み合わせで悩む前に親知らずを抜歯することをすすめるが、何か症状が出ないと抜歯なんかしたくないのが人情だから、なかなか難しいものがある。

 アゴの成長不全やアゴのずれも、歯がきれいに並ばない因子だ。胎児期や出産時の母胎の状態によって受けた影響や、小さい頃の頭部の打撲、尻もちや適度なストレスは頭や首の緊張となって、アゴの成長不全やずれに関係しているのではないかと思われる。アゴがずれて顎関節に負担がかかると、寝ているときなど無意識に下アゴを前後左右に大きくずらして食いしばることが、歯に残ったすり減りの跡から予想される。この不自然な力によって、歯を支えている歯槽骨が内側へ倒れるように変形して歯並びが大きく変化していく。その結果、アゴの骨は充分成長していても、永久歯が美しく並んでいない状態となる。

 そのほかに、ココロから生じる食いしばりの力も無視できない。日本人は元来お人好しで、他人と比較されたり競争したりすることが負担になっているのではないか。納得のいかない理由で自我を抑圧したり、義務感や犠牲心によって自分を捨てて、歯を食いしばってがんばっているのかもしれない。

 日本の生活習慣、環境が急速に変化したことで、本来の素直なカラダの動きが出なくなった。畳の部屋が少なくなっていすの生活が主流になったし、床の掃除はぞうきんからモップへ、トイレも洋式が普通になった。腰が老人のように落ち、着物や浴衣が似合わない若者や、地面に座り込んでいてしゃがめない若者は、姿勢もアゴの咬み合わせも不自然だ。字を書くのにも毛筆は使わないので左手を添えることがなくなり、右手だけを使う仕事が多くなって、一日中カラダを捻って生きている。

 問題は、結果として歯がきれいに並ばないことが何を反映しているかということや、歯並びの治療をすることが本人の健康につながるのか、おいしく味わって咀嚼できるようになるのかという点に注目せずに、主にコンプレックスに対応した表面的な歯科治療が依然として旺盛なことである。もちろん一人ひとりの患者さんに細やかな対応をされていて、治療が終了した後も予後を見守っていく姿勢の矯正歯科医もいらっしゃる。日本の矯正歯科の治療費用は世界一高いといわれたことがあるが、日本人は一般にアゴの関節が華奢にできていて、一人ひとりの本来の健全な歯並びと咬み合わせを治療の方針とすると、欧米人より大変な手間がかかるからだと思われる。

 今年のオリンピックは日本人の健闘が目立った。インタビューを見て感じたのは、日本の選手は歯並びがきれいに並んでいない人が多いということ。すなわち、歯の矯正をしていない選手が活躍したことだった。

今週のワンポイント
アゴの動きが不自然だと表情がこわばったり、口が回らなくなったり、舌や頬を咬むこともある。あくびはリフレッシュ作品のある生理現象。あくびの出ないあなたは、意識してあくびの動作をやってみては?

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