時代を駆ける:片山善博 上
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(1)「情報発信」の先駆者、橋下知事に助言も <03年6月、日本中の視線が片山さんに集まった。鳥取県知事として、西室泰三・東芝会長(当時)が議長を務める「地方分権改革推進会議」がまと めた、地方への(1)補助金の即時削減(2)税源移譲の先送り−−を柱とする答申にかみついたのだ。世に言う「東芝製品不買騒動」だ> そもそも、地方財政が危機に陥ったのは、90年代に政府が景気対策として自治体の尻をたたいて公共事業のための借金を奨励した結果なのです。それ を無視した実にいいかげんなストーリーで地方税財政制度が改変され、地方財政が成り立たなくなりそうになった。答申をまとめる時も、11委員のうち4人が 反対し、1人が賛否を保留する案を、西室さんが強引な議事進行で決めたんです。 そこで、県議会で発言しました。「西室さんがやろうとしたのは姑息(こそく)で非民主的な陰謀。地方の財政基盤を根こそぎ奪うもので悪意に満ちている。その人を支える東芝にどう臨むか、真剣に考えていいと思う」と。 <「不買」という言葉を使ってはいないが、「不買発言」と報道され、「気持ちは共鳴」(谷本正憲石川県知事)、「ファナティック(狂信的)な感 じ」(石原慎太郎東京都知事)など物議を醸した。発言の4日後、片山さんは「答申は脇に追いやられ、重きがなくなった」と判断し、矛を収めた> それまでも記者会見で「税源移譲を伴わない改革はやらずぶったくり」と発言していました。でも、まっとうなことを当たり前に言っても世間は気付いてくれない。そこで「とにかく世間の注目をあの会議に集めなきゃ」と思ったんです。 後日談で面白かったのは、鳥取市内の家電量販店でズボンプレッサーを買おうとしたら、店員の方が恐る恐る「東芝製ですが、よろしいですか」と聞いてきたことです。もちろん、買いましたよ。 <あえて世間の耳目を集める発言をすることで主張をアピールする手法は、国から一方的に地方に対して求められる「直轄事業負担金」の廃止などを訴える橋下徹大阪府知事にも相通じる> 実は、橋下さんにアドバイスしたことがあります。昨年6月に発表された「大阪維新プログラム」の感想を新聞社に求められました。「府民向けサービ スを相当切ってるのに、国への負担金をなんら吟味しないのはバランスを欠く」とコメントしたら、しばらくして(教壇に立つ)慶応大学に橋下さんが来られま した。その半年後の予算で、橋下さんは負担金の問題を前面に出したんです。今の47都道府県知事の中で一番評価しています。他にあんまり評価できる人がい ない、ということもありますが。 <直轄事業負担金についても、実は片山さんが知事時代に異議を唱える“先駆者”だった> 02年ごろ「これまでは県もどんぶり勘定だったからお互いさまだけど、内容を確認して納得できた事業にしか払いません」と国に伝えたら、03年度 から、ある程度の明細が示されるようになりました。でも、全国一律かと思ったら、鳥取だけ特別扱いだったことが、今回の橋下さんの問題提起で分かった。こ ういう場当たり的なやり方をしているから、霞が関(中央官庁)はダメなんです。 (2) 情報公開徹底、改革の基本 <片山さんは99年4月14日、鳥取県知事として初登庁した際、職員にこう訓示した。「これからは仕事の経過はすべて公開されると念頭に置いてく ださい。勇気がいるし、役所にとって当面はやっかいですが、長い目で見ればウソや隠し事をしなくていい。私の経験では、公務員にとって一番楽で、精神衛生 にいいことです」> 情報公開がすべての改革に通ずる武器です。組織は常に腐敗する。多くの人が長い間一緒に仕事すれば、コンフリクト(紛争)を避けコンフォタブル (快適)になろうとするのが人間の本質。情報公開すれば、公開されて困ることはしなくなる。「ここまではいいだろう」という自分勝手な判断でなく、「世間 の人がいいと言うだろうか」という判断になります。内部の融和を多少犠牲にしてでも、県民生活を向上させるための機能集団に戻らないといけないと考えまし た。 <ただ、情報公開を実践する際には、一刀両断的なやり方は避けた。県営中部ダム事業を中止する時には、県の公共事業再評価委員会が00年3月に「ダムの3分の1の費用の護岸改修で、同じ治水効果が得られる」と中止を勧告するまで待った> 長い行政経験から、中部ダムの必要性を説く言葉には、どこかにまやかしがあると感覚的に分かっていました。しかし、数字のトリックは私だけでは分 からない。担当者に「本当のことを再評価委員会に言って結論を出そう」と説得し、その気になってもらったんです。費用の積算について県議会で追及された際 は、「役所は『正直に情報公開したら過去(の判断)を追及される』と怖がり、原案通り突っ走る。今は過渡期なので、間違った方向に役所が閉じこもらないよ う、ご配慮を」とお願いしました。 <公開の対象になるのは書類だけではない。00年10月の鳥取県西部地震で災害対策本部に1カ月近く詰めた際は、本部を記者団にも完全に開放。片山さんの席の斜め後ろに席を確保する記者も現れた> 災害時にマスコミ用の部屋を作ると、待たされてイライラした記者に説明することになり、質問にすぐ答えられないとトラブルになる。同じ部屋で途中経過も含めて全部聞いてもらえば結果を伝えるだけで済み、忙しいときに手間を省ける利点があるんです。 <予算編成も財政課長査定の段階からインターネットで公開し、知事査定の密着取材も認めるまでに進んだ。一方、各地の自治体で導入された「行政評価」は実施しなかった> 予算こそが一番の行政評価なんです。去年までやってきたことを点検し、必要なものを残し、そうでないものは切る。(多くの自治体のように)議会に 根回しして予算にチェックを入れさせず、監査は骨抜きにしておいて、形だけ行政評価を導入するのは、本来のことをやってない、ということです。 私は県議会で、「過去の査定は福祉や教育の数百万円の事業は微細に査定したが、数十億円単位の予算はほとんど吟味していなかった」と指摘しまし た。「前年比○%増」といった量的管理は必ず質的劣化を招く。だから、道路や河川などの公共事業も、新規、継続を問わずに一件ずつ査定するように変えまし た。 国や他の自治体もそうすべきです。例えば国の予算では、鳥取県で優先度の高い高速道路は道路公団の事業だからと予算が付かず、景気対策の補正予算 で農水省の枠で農道に予算が付くようなことがありました。広い視野で優先劣後を考えることが霞が関(中央官庁)に欠落しているんです。 そのことを週刊誌のコラムで指摘したら、農水省から「農道の予算はいらないんですか」と県の職員に電話があったそうです。 (3)混乱避け、改革波及させる 以前の県議会は質問も答弁も事前に決まっていました。だから、学芸会発言は「私は学芸会の主演男優になりたくない」という趣旨なんです。息子には「セリフを暗記してるだけ学芸会の方がましだ」と言われましたけど。
根回しをすると「どの会派の誰を先にして」と考えることにすごくエネルギーを使う。有能な職員が宴会の席順のようなことばかり考えるのは国民的損失です。しかも、マスコミに出る前に話をつけるため、秘密にするのに神経を使い、情報公開と相反する行動をしてしまう。 議会は議論するところで結論が決まってるなら意味がない。日常的に修正や否決があっていいんです。学芸会も八百長もなくなり、当時の鳥取県議会はシナリオのない、ビビッドで躍動的な議会になりました。 <02年8月には県議から「口利き」があった場合、それを文書にして記録を残す制度も導入した。公共事業で出た残土をめぐり、県議が県職員に働きかけた不祥事の発覚(同年3月)がきっかけだった。だが、県議たちは文書化に猛反発した> 「県議と執行部はオープンな場で議論すべきだ」という方針だったんですが、それでもオープンでないところでいろんな働きかけがありました。不祥事をきっかけに、「この際」と言って導入しました。 制度化には予想外に県議会の抵抗がありましたけど、「どこがいけないんでしょうか」と尋ねました。「上司に報告してはいけないのか」「文書化して はいけないのか」「情報公開の対象にしたらいけないのか」と。結局、文書化の際に県議側の確認を得るように変更して実施しました。 <「根回し廃止」「口利き文書化」という語句はマスコミ報道が先行し、片山さん自身が声高にアピールしたものではなかった。地方分権推進を巡る 「東芝不買問題」(03年6月)のように、自らの権限が及ばないことには世間にアピールする形で問題提起したが、県内の県政関係者を公の場で名指しで批判 することなどを避けるのが片山流だ> 改革は黙って小さく始めて、そこから波及させた方がいい。大風呂敷を広げれば衝撃的効果はあるが無用な混乱を生む。派手にやって変革の成果が小さ いより、「気が付いたらこんなことができてたのか」と思われるやり方がいい。あまり大げさに「勝った負けた」と勝負みたいにしない方が実質的に変革できる し、しこりも少なくなると思っていました。 <中央省庁とも対立した。鳥取県西部地震(00年10月)で、全国で初めて県独自の住宅再建支援制度(全壊家屋の再建に300万円を支給)を導入 した時には、自治省幹部に「個人資産の形成に公金は投入できない」と批判された。だが断行し、その後の被災者生活再建支援法改正への流れを作った。 BSE(牛海綿状脳症)対策では、感染源とみられた肉骨粉の処理費用について、地方が負担することを「法的根拠がない」と拒絶し、結局、全額が国庫負担と なった> 地震の被災地を視察して「このままではますます過疎化が進む」と危機感を抱きました。いずれ壊す仮設住宅に1軒300万円以上つぎ込めるのに、住宅再建支援はダメ、というのは割り切れなかった。仮設住宅を造るのを控え、住宅再建を助成する考え方はあり得ると思いました。 飼料に関する権限はすべて国が持っていました。失敗の責任は国がすべて負うべきなのに、地方に金を出させるのは言語道断です。当時の農水事務次官から威圧的な電話がありましたが、「次官からこんな話があったと記者会見で紹介しますよ」と言ったら、先方は引っ込みました。 |
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