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温暖の候となり、桜の便りが聞こえ始めた時候になってまいりましたが、いかがお過ごしでしょうか。今回、四季が出来たお話をご紹介致します。
ギリシャ神話の時代でございます。”エナの谷”と言う森林と草原で満ちていた谷が地球のどこかにありました。そこには、デメテルという女神が住んでおり、デメテルにはペルセフォネと言う名の、とても美しい娘がいました。
デメテルは収穫の女神で、常に地球を緑に保つことが仕事で、その娘であるペルセフォネは花を摘み、愛でる事が好きでした。
ある日、いつもの様に花畑に出かけたペルセフォネ。しかし彼女が自宅へ、帰ってくる事はありませんでした。ペルセフォネが戻ってくる事を信じ、デメテルは待ち続けました。
「コレー(ペルセフォネ)……どこへ消えてしまったのですか。あなたが摘んできた花を入れる花瓶は今、空です。まるで私の心をうつしているようで……」
デメテルは悲しみにくれました。そしてその日以降、彼女は覚束ない足取りで世界中を歩き、ペルセフォネを捜しまわりました。
「どこなのペルセフォネ」
娘を見つける一心で旅に出ましたが、見付かる目処もたたず、ペルセフォネの友達が住むオリンポス山へと向かい、友達を訪ねましたが、誰一人として消息を知っているものは居ませんでした。ある一人の友達に一度家へ帰る事を促されました。そしてデメテルは家へと続く道を歩いていました。その時です。デメテルはペルセフォネの摘んだ花の束を見つけたのです。辿り着いた地は、山地ニューサでした。
「ペルセフォネ……」
デメテルはペルセフォネの摘んだ花の前に座り込み、彼女は山の様に置かれた花に顔を埋め、泣き出しました。捜しても、捜しても見つからない娘への怒りと悲しみが一気に込み上げたのです。デメテルは再び見上げると、花が道の様に続いていたのです。その先には水仙が一輪咲いていました。
するとどうした事でしょう。そこには、ペルセフォネの身につけていた赤いベルトが無惨にも落ちているではありませんか。ベルトが落ちている所に、不自然な”ヒビ”が地面に這っているのです。
「コレー。あなたは、地面に飲み込まれてしまったのね。冥界の王、ハデスに」
状況を把握した、デメテルは激しい怒りが腹の底から込み上げました。その怒りは夫、ゼウスへと向けられたのです。
「ゼウス!」
デメテルは神の家であったオリンパス山へ向かい、ゼウスを問いつめました。
「あなた、ペルセフォネの居場所はどこですか! あなたなら知っていらっしゃるでしょう、あの娘がどこへ行ってしまったのか」
「……」
「黙りは結構です。仮にもあなたの血が通っている娘ですよ」
「わかったよ、言おう。すまん。コレーは冥界の王妃になってしまったよ。しかし、彼はコレーと釣り合う立場だぞ……」
遮る様に、デメテルは冷たくも、怒りに狂った声でゼウスに問いかけました。
「立場などどうでもいいのです。どうして連れ去られてしまったのですか?」
「その先は、そこに居るキューピットに聞きなさい」
「キューピット……どういう事ですか? 説明して頂けない?」
「冥界の王、ハデス様が以前地上へいらっしゃった時、ペルセフォネ様を一目見て恋に落ちてしまいました。そのご相談を受けたゼウス様は結婚を勧めたのですが、心優しいハデス様はペルセフォネ様を連れ去る事は出来ず……。そこで私、キューピットが少しお手伝いをさせて頂きました」
キューピットの金の矢は、激しい恋慕を抱く、と言う矢でした。案の定、ハデスにも金の矢の効果は覿面で淡い恋心が、激しい恋慕となり、ペルセフォネを冥界へ連れ去ったのです。
それを聞いたデメテルは激怒しました。激怒したデメテルは身を隠し神務を放り出してしまいました。忘れてはいけません。デメテルは、収穫の神なのです。なのに隠れてしまったので地上は荒野と化してしまい、地上からは緑は消え、地球の緑は全て茶色になってしまいました。
困り果てた人々と神々はゼウスにどうにかするよう訴えを起こしました。
「ヘルメス、こっちへ」
「何でしょうか、ゼウス様」
ゼウスは使者の一人であるヘルメスに歎願しました。
「お前に頼みがある。お前は自由に冥界と地上を行き来出来る。そこでだ。我が娘、ペルセフォネを冥界から連れ戻して欲しい。お前にしか出来ぬ事だ、頼むぞ」
「仰せの通りに」
ゼウスは、死神としての一面を持っているヘルメスを使者として冥界に送りました。デメテルは彼を頼みに祈り続けました。しかし彼女は知っていました。冥界のものを食べてしまうと、戻る事は出来ない事を。だから祈ったのです。何も口にしていない事を。
一方、ヘルメスは冥王・ハデスの宮殿へ向かいました。侍女が王座の前へと通し、「王妃のお成りであります」とよく通る声を発すると、重厚なドアが開きペルセフォネが入ってくると、ヘルメスは王座の前に跪き、深々と頭を垂れました。
「ヘルメス、顔を上げなさい」
「は」
ヘルメスは顔を上げたが、今すぐにでも逃げたい気分でした。なぜなら、ペルセフォネの容姿はまるで違う人物の様になってしまっていたから。彼が最後に彼女を見た姿は、若くて、弾ける様な水々しい白い肌が輝き、赤い唇はまるで白雪の中に咲く一輪の薔薇のようだったから。彼女は生気に溢れ明るい雰囲気を醸し出していました。
しかし、今の彼女は背が高くなり、以前よりも断然と細くなって、顔は青ざめ、肌は荒れ、彼女の象徴でもあった花は手にしていませんでした。何よりも、まるで生きてないかの様に冷たい声と目をして、背筋はピンと伸び、微動だにしなかったのです。
「ようこそ、ヘルメス」
「こんにちは、ペルセフォネ王女……いえ、王妃」
ペルセフォネは深い息をついた。
「王妃、随分痩せたようですね……何も口にしていらっしゃらないのですか?」
「……。私は、ザクロのジュースを飲んでしまったわ……」
「王妃……なぜですか。掟は知っていらっしゃいましたよね?」
「……ごめんなさい。でもね、どうしても、どうしても……喉が乾いてしまったの」
「王妃、デメテル様はあなたが居ないのをとても寂しく思っているのです。お帰りになって頂けませんか?」
ペルセフォネはとても困惑し、どうすればいいのかわからなくなっていました。彼女ももちろん、母を恋しく思い花と触れ合いたいと思っていました。でもそれと同じぐらい、この世界での生活にも慣れて来ていました。そして、ハデスを慕い始めていたのです。
「そんなことは、私だけでは決められないわ」
「どうすればよろしいのですか?」
「夫……ハデス様に聞かなければなりません」
ペルセフォネは玉座を離れ、バルコニーで物憂いな顔で佇んでいたハデスの元へと向かった所、気配に気付いたハデスは、ペルセフォネへと目線を向けた。
「ハデス様……」
「よい、皆まで言うな。わかっておる。私は……お前を強引に私の私利私欲でこの世界へ連れ込んでしまった。その上、ザクロのジュースまで……」
言葉が詰まる。泰然自若で普段、他人にはあまり感情を出した事の無いハデスが哀しそうにペルセフォネを見つめたのです。ペルセフォネは困惑しました。
長い事一緒に居た訳ではないけれど、彼とともに居た間、時には笑い、時には泣き、時には怒りもした。でも、こんなにも哀しそうな顔をした事は無かったでしょう。いえ、一度だけ見た事が有ったわ。それはこの世界へ来た時、私は悲しくて、悲しくて……泣いた。泣き過ぎて、ハデス様が手に負えない状態へとなってしまったことがありました。その時と同じ顔をしているわ。
ハデスが自分を本当に愛していてくれていると知っていたからペルセフォネは余計辛い思いになってしまいました。
「私はお前にこれ以上辛い思いをさせたくは無い。私は……。ペルセフォネ。お前が選びなさい」
そういってハデスは、バルコニーを後にし、踵を返した。ハデスは自室へと戻り、横になりました。
私は……ペルセフォネを愛している。心から。一目見て、恋をして、私欲にまみれた私は、彼女を幸せな日々から引き離してしまった。地上に行かせたくない。行かせたい訳がない。だが……彼女は光の道を歩むべき女性だ。彼女が幸せなら私も幸せだ。彼女は帰る道を選ぶだろう。それが当然であろう。そういえば、ここへ来た時、彼女は泣きに泣いて、涙が枯れてしまった。ゼウスが「女子は強引な男に惚れる」と言っていたから連れ去ったものの……困り果てたものだったな。
ハデスはペルセフォネと共に生きた、この短い時間を思い出していた。
彼女には、一時だけの夢を見せてもらう事が出来た。自分には叶わぬ事がないと思っていた夢を。彼女を地上へと戻すという事は、本当は私にとっての罪滅ぼしなのだ。これは私のわがままだ……。この世界の掟を破ってでも彼女を幸せにしたかった。覚悟はしていたが、その時になると辛いものなのだな……。
ハデスは、まぶたを閉じた。すると、自分には決して流れる事はないと思っていた”涙”が瞳から流れた。その時です。ペルセフォネが自室へと入ってきました。
「ハデス様……」
沈黙が重い。意を決して、彼女は言葉を重々しく発しました。
「私は6ヶ月、地上……母の元で暮らそうと思います。でも、後の6ヶ月間は、ハデス様……あなたの元で暮らそうと思っております」
ハデスは驚きを隠す事が出来ませんでした。
「なぜだ? お前は、もう解放された。この冥界と言う、籠から出る事が出来るのだぞ?」
「はい、それは重々承知でございます。私は、母を恋しく思っています。地上を恋しく思っています。しかし、私はあなた様と離れると思うと……胸が苦しゅうて……。この世界を、あなた様を、地上同様に恋しいのだと思います」
涙をこらえる様にペルセフォネは語った。自分はどうすればいいのか。自分の心が何をしたいのかわからなかった。悩んだ末、彼女は自分が飲んだザクロの粒の数分だけ冥界に居る事にしたのだ。その事を涙ながらにペルセフォネは話したのです。
その事を地上に居る母・デメテルに伝えるようヘルメスに託した。デメテルは異を唱えず、首を縦に振りました。
そして……収穫の神であるデメテルは娘・ペルセフォネが共に居る間、神務を全うし、花を咲かし、木々を実らせた。それが春と夏です。
その一方、ペルセフォネが冥界へと戻ってしまう秋と冬、デメテルは身を隠し神務をピタリと止めました。葉が落ち緑から茶色へ変わりました。しかし、葉が落ちる時、種も共に地面へと落ち、また娘が戻ってくる頃デメテルは花を咲かせた。
その後、ペルセフォネは地上に居る間、人間の男と恋いはしたものの、本命はただ一人。ハデスだけであったとか。その証拠に、ハデスが唯一浮気をしたと言われる相手・メンテーに嫉妬を表しミントに変えて、草むらに隠し踏み続けたそうで……。
一方のハデスはもちろん、ペルセフォネのことを常に思い、何年、何百年経っても愛し続けているとか……。ペルセフォネとともに居る事で、感情も徐々に持ち始め、ペルセフォネにだけだが様々な顔を見せた。
2人はお互いに、唯一無二の存在となり常に共に過ごしました。お互いに心から求め、寄り添い続けたのでした。
このペルセフォネ略奪事件は季節の変化を明白にするために作られたと言われます。私は全体の流れを大まかに書きました。文才のない私なので、あまりうまく伝わった気がしませんが、今回本当はペルセフォネとハデスの愛が伝わればいいなと思っていました。が、多分駄目だった気がする…。
花冷えに風邪など召されませぬよう、お気をつけ下さい
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