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「仮に・・・」そういって漫画家の岡部冬彦氏は、ブランデーのグラスから立ち上がる芳香を楽しんでいた。新橋駅 東口ビルの地下一階にあるバジャー(穴熊}というバァーである、小さな店でカウンターだけで、固定の足の長い椅子がLの字に8基付いている。つまり8人入れば満席でそれ以上入ればお客は立ったまま飲むことになる。だから自然に常連だけのメンバーだけの店になる。お客は岡部氏の他当時やはり漫画家だった水野良太郎氏 小説の挿絵を描いていた山下喜一郎氏 月刊誌(旅}の編集長(名前が出て来ない}と其の部下 それに小説家の土岐雄三氏 私と私の連れで午後の七時過ぎでもう店は満席である。
社会的には名前の通った方ばかりで若造は私一人である。何故なのかは話が長くなるのでここでは書けない。「・・・仮に月面にサンマを持っていって電気コンロ。。例のニクロム線の発火するあれだが・・・その上に生のサンマを置いて焼いたら、どう焼けると思う。。?」と言い出した。岡部氏は あっちゃんとか おやかまし とかの漫画のほかに科学評論家としても有名で、飲みだすと,こういった質問をよく出しては人を煙に巻くところがあった。ママチャンはL字のカウンターの中で「そらきた・・」と笑って皆の反応を見ている。このママが途轍もない美人で一寸日本人離れしていた。
「そりゃーまあー月の重力は地球の六分の一だから熱の対流伝導はあまり考えないとして、ウーム」とか
[六分の一の重力でニクロム線の熱量になんらかの変化が・・・うーむ」とか私達は月の重力に拘る発言をするのだが、実は岡部氏はのん兵衛の風論談発を装い乍もちゃんと科学技術省で実験をしてきた上での発言をしているのだ。喧々諤々2・3時間飲むのであるが、おしゃべりが途絶えることはなく、ママの誘導が上手で{バジャー}では大きく酔いつぶれることもなく過ごすのであるが、この程度で家に帰るものは一人も居ない。10時過ぎになるとそれぞれ銀座の馴染みの店に繰り出すがそれは又の話である。
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