日吉幸絵は帰らない6
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その日の終礼が終わった途端に僕は部室棟へと足を運んだ。上園に「職員室に来い」と言われたがそんなことは気にせずに真っ直ぐ部室へと向かう。怒られたら怒られたでリストカットのいい機会になるだろう。
彼女の言う文芸部部室は部室棟の最上階最奥部にある。ただ、立地条件があまりよくないのでサイズは他の部室の約二倍あるという、いいのか悪いのかはよく分からない部室である。
「文芸部」と書かれたプレートのかかった扉の前で足を止める。ドアの隣に「日吉」と書かれた表札と、その下にポストがあるのが限りなく不審だが、彼女の奇怪な行動を聞くからにはこんなものはほんの序章に過ぎないだろう。
ドアを二回ノックする。ほどなくして「入れ」と言う声がした。
扉を開けると、そこは別世界だった。
少なくとも、部室とは言えない。乱雑に物が大量に置かれ、部屋の全体像が浮かばない中、扉の対面の窓際にベッドがあり、その隣には本の積まれた机と椅子、部屋の右側には小さいながらもキッチンがあるのが辛うじて分かった。
「まあ、座りたまえ」
部屋の中央に備え付けられているソファの物をどけ、日吉幸絵がそこを指し示す。僕が座った席の対面のソファに、彼女も腰を下ろした。
「よく来てくれた」
「来いと言われましたから」
日吉幸絵が少しばかり微笑む。「面白いな、君は」
「面白いのはあなたです。何ですか、この部屋は?」
「私の『家』だが」
「それは何かのたとえですか?」
「いや、紛れも無く本当の家だ」
と言うことはだ、あの噂は恐らく本当なのだろう。「日吉幸絵は学校に住んでいる」
日吉幸絵はこの部屋で寝て、料理を作り、生活しているのだ。何よりの証拠が、この乱雑に置かれた物、つまり生活感なのだ。
視線を部屋から日吉幸絵に戻すと、彼女は僕を頭から足の先まで観察していた。その途中、左手首に視線が達したところで彼女は動きを止める。
「それは何だい?」
「何って、リストカットの傷ですが……」
ふむ。日吉幸絵は顎に手を当てる。彼女は僕がリストカット愛好者だと知らなかったのか。じゃあ何で……
「変な学生がいると聞いて誘ったんだが、そうか……」
どうやら日吉幸絵は噂だけを聞いて僕を知ったらしい。そういう点も僕と似ているのだろう。彼女はひとしきり思考を終えると小さく溜息を吐いた。
「……そうか、全然変ではないではないか」
「『死にたがり』が変でないと言うのなら僕はごく普通の人間ですが……」
「死への欲望は人間の普遍的な欲求だ。特に今日のストレス社会になりつつある日本ではな」
昨今の自殺者数を考えれば死ぬなんてことはごく普通の行為なのだろう。僕を含めて、人間の一番醜い欲求が普遍になりつつあるのは問題なのだが。
「……それにしてもこれは問題だ」
「何が問題なんです?」
説明してなかったな。日吉幸絵はそう呟くと一拍間を空け、それから説明を始める。
「我が文芸部の部室――まあ、私の家なんだが、ここは部員以外立ち入り禁止となっている」
「僕はまるっきり部員以外の一般生徒ですが?」
「だから私は君を仮部員としてこの部室へ呼んだんだ。しかしそこで一つ問題が生じた」
「何です、問題って……」
日吉幸絵はわざとらしく間を空ける。しかし残念なことに間を空けたことによる効果は何一つ得られなかった。
To be continued
どうもこんばんわ、Ifです。
今回も特にはありません。
では、本日はこれで。 |

