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翻訳「宝島」(22)byロバート・ルイス・スティーブンソン
シルバーは乗組員みんなから一目置かれていて、彼の言葉にはだれもが従うほどだった。相手を立てて口をきくすべを心得ており、ひとりひとりに手を替え品を替えて世話を焼いた。ぼくに対しては終始一貫して親切な態度をとっていて、厨房へ会いにいくたびにひどく喜んでくれたものだ、そこは新品のピンよろしく常にぴかぴかで、皿なども磨かれ立てかけられていて、彼の飼っているオウムが部屋の隅の鳥かごに入っていた。
「よくきたな、ホーキンズ」シルバーはよくいったものだ。「こっちへ来て、ジョンの相手をしてくれないか。きみが来てくれるのがいちばん嬉しいよ。さあ、そこにかけて、わしの話を聞いておくれ。こいつはフリント船長だ――わしはこのオウムをフリント船長と呼んでるんだよ、あの名高い海賊にちなんでな――このフリント船長が予言してるんだ、今度の航海は大成功だってな、そうだろ、船長?」
するとオウムはものすごい早口でこういうのだった。「八銀貨! 八銀貨! 八銀貨!」息が切れるのではないかと心配になるまで、あるいはシルバーがハンカチをかごに投げつけるまで、そういいつづけるのだ。
「いいかね、この鳥はな」シルバーはいった。「多分、二百歳くらいにはなるぞ、ホーキンズ――オウムってのは気が遠くなるくらい長生きなんだ。いろいろとひでえものをその目で見てきたにちがいない、悪魔くらいしか知らねえようなことをな。こいつはイングランドと一緒の船にいたこともある、あの大海賊のイングランド船長だぞ。マダガスカルに行ったこともあるし、マラバーにも、スリナムにも、プロビデンスにも、それからポートベローにも行ったことがあるんだ。難破船がお宝ごと引きあげられた現場にも立ちあったんだよ。そのときに「八銀貨」って言葉を覚えたんだ、無理もねえやな。なにしろ、三十五万枚の八銀貨だぞ、ホーキンズ! こいつときたら、ゴアの沖合いでインド太守の船が襲撃されたときにもその場にいたってんだからな。こうして見ているぶんには、まるで赤ん坊みたいに思えてくるだろ。だけど、おまえは火薬のにおいを知ってるんだ――そうだよな、船長?」
「針路変更用意」オウムは大声をあげる。
「まったく、かわいいやつだよ、こいつは」料理番はそういって、ポケットから角砂糖を取りだして与える、するとその鳥は横木をこつこつとつつきながら、信じられないくらい汚い言葉を吐きだしつづけるのだ。「どうだい」とジョンは言葉をつぐ。「朱にまじわれば赤くなるってやつだ。かわいそうに、純真無垢を絵に描いたようなこいつが、こんなひどい言葉を使うんだからな、もちろん悪気があってのことじゃない。だれに対しても同じ喋り方をするんだよ、牧師さんの前であってもな」そういって、いつものいかめしい仕草で額に手を当てて敬礼するのを見ると、ぼくにはシルバーのことが、このうえもないほどの好漢に思えてくるのだった。
そんなふうにしているあいだも、大地主さんとスモレット船長はぎすぎすした間柄のままだった。大地主さんはそのことを少しも気にかけてはいなかった。ただ船長を軽侮していた。かたや船長の方はといえば、話しかけられないかぎりけっして口を開くことはなく、喋ったとしても無愛想でぶっきらぼうでそっけなく、いっさいの無駄口をきかなかった。あるときには問いつめられて、船長は認めることになった、わたしは乗組員に関して思いちがいをしていたようだ、希望したとおりにきびきび働く者も何人かはいるし、全員がかなりよく務めてくれている。船についていうならば、これは完全に船長の心にかなっていた。「こいつは風上に間切って進めます、女房だってここまでいうことをきくもんじゃありませんよ。しかし」と付けくわえるのだった。「ただ残念なのは、もとの港に帰りついていないことです、わたしはこの航海が気に入りません」
そういわれた大地主さんは、背中を向けると、あごを突きだしながら甲板をあちらこちらと歩きまわった。「これ以上くだらんことをいわれたら」大地主さんはよくいったものだ。「堪忍袋の緒が切れちまいそうだ」
ぼくらは何度かひどい天候に見舞われたが、それはヒスパニオーラ号の性能のよさを証明してみせたにすぎなかった。この船に乗っている者はだれもがかなり満足しているようであり、そうでなかったとしたらみんな相当の不平屋であったにちがいない、なぜなら、ぼくの見たところ、ノアの方舟以来このかた、これほどまでに甘やかされた船員たちというのはけっして存在しなかったからだ。ちょっとした口実をもうけては、強いラム酒がふるまわれた。なんでもない日にもプディングが出たりする、例えばだれかの誕生日だなどということを大地主さんが耳にしたときだ、それから林檎の樽がひとつ、蓋をあけたまま中部甲板にいつでも置かれていて、だれでも自由に食べていいことになっていた。
「こんなことがためになる、なんて話は聞いたことがありません」船長はリブジー先生にいった。「水夫を甘やかすのは、彼らを悪魔にすることだ。わたしはそう信じますね」
ところが、これから語るように、林檎の樽がためになったのである、なにしろ、こいつがなかったらぼくらは警告を受けることもないまま、反乱の手にかかって皆殺しにされたかもしれないのだ。
それはこういうなりゆきだった。
ぼくたちはずっと貿易風に乗って進みながら、目ざす島――これ以上はっきり記すことは許されていない――の風上に出ようとしていたのだが、今度は貿易風から離れるように島へ向かっており、昼も夜も怠ることなく見張りをつづけていた。最大に見積もってみても、往路の航海は終わりに近づいているはずであった。その夜のうちか、または遅くとも翌日の昼前には、宝島が見えてくるはずだった。南南西に進みながら、真横に一定した風を受けていて、波は静かだった。ヒスパニオーラ号は絶え間なく横揺れし、時おり第一斜檣を海面に突っこんでは水しぶきを跳ねあげた。高低を問わずあらゆる帆が風を受けていた。だれもかれもが士気をみなぎらせていた、なぜならわれらが冒険の第一段階が、いまや結末に近づこうとしているのだ。
さて、それは日が暮れてまもなくのことだったが、仕事をすべてやり終えて寝棚へと向かう途中、ぼくは急に林檎が食べたくなった。甲板に駆けあがった。当直の者は全員、前部に移動して目ざす島に目を凝らしていた。舵を握っている者は帆の前縁に目をやりながら、ひとり気楽に口笛を吹いていて、そのほかに聞こえてくるのは、船の船首や舷側に当たる波のぱしゃぱしゃという音ばかりだった。
身体ごと樽の中に入ってみると、林檎はほとんど残ってないことがわかった。けれどもその暗がりの中に座って、波の音やら船の振動やらを感じていると、つい眠りこんでしまったか、またはうとうとしかけたのだが、まさにそのとき、目方のある男がどさっとすぐ近くに腰を下ろしたのである。その男が背中をもたせかけたので樽はぐらりと揺れ、ぼくが思わず飛びあがりそうになったとき、男が話しはじめた。それはシルバーの声であり、その言葉を一ダースも聞かないうちに、とても出ていくどころではなくなって、その場にちぢこまったまま、すさまじい恐怖と好奇心を感じながら、がたがた震えつつ耳をそばだてることとなった、というのも、この船に乗っている実直な者たちの生命はぼくひとりの双肩にかかっているということが、その一ダースの言葉を聞いただけでわかったからだ。
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