岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます

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 10月11日は,専修大学で開催された日本経済学会2009年度秋季大会で,宮崎毅先生(明海大学)の報告の討論者を努めました。
 宮崎先生の報告は,「課税所得の弾力性」(elasticity of taxable income)を推計したものです。課税所得の弾力性とは,税率を上げたときに,どれだけ課税対象の所得が減少するかを示す尺度です。
 このような研究の重要な政策への応用に,望ましい最高所得税率の決定があります。最適所得税理論におけるDiamond (1998),Saez (2001)の研究では,いくつかの条件のもとで,望ましい最高税率は,

1/(1+パレート指数×課税所得の弾力性)

と表されます。
 濱秋・岩本(2008)は,『国民生活基礎調査』の個票データを使って,パレート指数を2.5と推定しました。わが国の個票データによる課税所得の弾力性の推定は,宮崎先生の報告がはじめてとなり,0.18が妥当な推計値だとしています。すると,望ましい最高税率は69%となります。課税所得の弾力性については,もう少し研究を蓄積して確からしい範囲を固める作業が必要ですので,この数値をそのまま強く主張することには慎重であるべきです。ただし,Saez, Slemrod and Giertz (2009)が多数の国の実証研究を展望して,妥当な弾力性の範囲を0.12から0.4としていますので,0.18はその範囲内にあります。このことから,望ましい最高税率は現行の50%を超える可能性はかなり高いといえそうです。

(参考)
「研究進む「最適」所得税制」(岩本康志)
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~iwamoto/Docs/2007/KenkyuSusumuSaitekiShotokuZeisei.html

(参考文献)
Diamond, Peter A. (1998), “Optimal Income Taxation: An Example with a U-Shaped Pattern of Optimal Marginal Tax Rates,” American Economic Review, Vol. 88, No. 1, March, pp. 83-95.

岩本康志・濱秋純哉 (2008),「租税・社会保障制度による再分配の構造の評価」,『季刊社会保障研究』,第44巻第3号,12月,266-277頁。

Saez, Emmanuel (2001), “Using Elasticities to Derive Optimal Income Tax Rates,” Review of Economic Studies, Vol. 68, No. 1, January, pp. 205-229.

Saez, Emmanuel, Joel B. Slemrod and Seth H. Giertz (2009), “The Elasticity of Taxable Income with Respect to Marginal Tax Rates: A Critical Review,” NBER Working Paper No. 15012.[2009日10月12日:誤記を修正しました]
http://www.nber.org/papers/w15012

(関係する過去記事)
「租税・社会保障制度による再分配の構造の評価」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/19540190.html

[2009年10月12日追記]
「財政政策のマーフィー式採点法(その3,公的資金の限界費用)」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/24460518.html

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