岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます

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 池田信夫氏が私のブログ記事(「【感想】『日本経済復活 一番かんたんな方法』」http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/32335301.html )を引用して飯田泰之氏に質問(「飯田泰之氏への質問」http://agora-web.jp/archives/937467.html )したため,飯田氏と私の間に論争があるようにも思われるかもしれないが,それは大きなものではない。
 私は,勝間氏のまとめの発言に違和感を覚えたので,勝間氏の勧め(この本を読んだ感想をブログに書こう,Twitterでつぶやこう)にしたがい,その感想を書いたのだが,勝間氏と飯田氏の考え方はおそらく違うだろうと思っていて,そのことは私の記事にも書いている。学界を説得するのは「勝間氏のブレーン」の仕事と書いたのも,おそらくそこに飯田氏は含まれないだろうという予測だった。飯田氏のリプライ(「『日本経済復活―一番簡単な方法』反響へのリプライ」http://d.hatena.ne.jp/Yasuyuki-Iida/20100228 )や,それに先立つブログ記事(「『日本経済復活――一番簡単な方法』本日発売!」http://d.hatena.ne.jp/Yasuyuki-Iida/20100217 )には,勝間氏との距離感が暗黙に示されていると思う。

 飯田氏が,私との考え方の違いを整理した個所は次の通り。
「これは想像なのでどんどん批判頂きたいのですが,岩本先生は経済学の枠組みの中で『守られ,信頼されるルール』が示されていないことをもって,金融政策への提案は未完成な主張であると指摘されます.これはこれで全くその通り.一方,僕は『守られ,信頼されるルール』を作るためには狭義の経済学だけではなく,あらゆる方法を動員して行くべきだと考えます.」
 そのような考え方の違いだということは了解しました。コミットメントの問題は経済分析ではあやふやなところもあるので,他の分野の助けを借りて,実のある議論が出てくるなら,それに越したことはない。すると,深刻に意見を闘わせるところはないようなので,私の方からは,経済学の範囲内では,飯田氏が支持するリフレ政策がどう機能しているのかを,私なりに整理しておきたい。

「リフレ政策」という言葉は,標準的な経済学の範囲ではあまり使われないが,飯田氏が説明するリフレ政策は,「非伝統的な金融政策」として,標準的なマクロ経済学のなかで議論されているものである。金融危機後の世界経済の状況下で,その議論の重要性は一層,増している。飯田氏がリフレ政策の整理に悩まれているが,各国の経験も踏まえて,これからの数年間で学界での議論の深化と整理が進むのではないだろうか(現状では,例えばIMFのマイヤー氏の論文のような,英国を念頭に非伝統的金融政策の整理を試みた文献がある)。
 現下の日本の状況を,
(1)日銀は現在,ある種の緩やかなインフレ・ターゲット(CPI成長率0〜2%)を導入している。
(2)事実上ゼロ金利である。
(3)デフレである(CPIが下落している)。
と,とらえよう。かつての「コアCPI上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで量的緩和政策を継続する」ような,将来の政策スタンスについての明確な発言(時間軸政策)は,今はされていない。しかし,「ゼロ%以下のマイナスは許容していない」(昨年12月18日の「『中長期的な物価安定の理解』の明確化」)と表明しているので,まともな中央銀行家なら,デフレの状態で利上げをすることは考えないだろうし,そうした行動を正当化する理由はもちだせないだろう,という読みができる。実際に市場関係者がどう読んでいるかは,将来の短期金利の予想が反映される長期金利を見ればよく,長期金利は非常に低い(イールド・カーブがフラットである)。つまり,かつての時間軸政策のときと同様に金融緩和が継続するものと読んでいる。
「日銀がインフレ・ターゲットを導入している」と書くと一部の読者の反発を招くかもしれない。確かに,公式のインフレ・ターゲッティング・ルールではない。ただし,インフレ・ターゲッティングでは,ルール適用の厳格さには幅があるので,導入する,しないの二者択一で議論するのは生産的ではない。私は呼び方にはこだわらないので,「緩やかなインタゲ」というのが日銀サイドの言い方だとして嫌う人がいれば,「インタゲもどき」とか「なんちゃってインタゲ」とか呼んでもいい。
 さて,現状がデフレで,日銀もデフレが継続すると予測しているので,つぎに打つ手がないのかと考えるのは,当然である。
 そして,飯田氏の目指す方向を評価するには,「日銀のなんちゃってインタゲが,かつての時間軸政策と同じような効果を出している」という現状認識から出発して,そこからどう追加的に「インタゲもどき」を強めれば,どう追加的な効果が出てくるか,を考えていくのがいいだろう(注1)。
 その際の一般論としては,つぎのようなことがいえる。現下の状況で金利の期間構造への影響はほぼ出尽くしており,これ以上,イールド・カーブを寝かせて,そこから大きな金融緩和効果を得るのは難しいだろう。すると,別の道を探すことになる。経済分析から出てくるのか,それとも他の分野から出てくるのか,どのように考えていくのかは,飯田氏の今後の研究に期待したい。

(注1)
「なんちゃってインタゲ」という言葉を使うことで起こりそうな弊害は,効果も費用も考えず,「なんちゃってはけしからん,きちんとせい」という非生産的な議論を呼んでしまうことであろう。

(注2)
 細かな論点。
 ゼロ金利解除の条件をより明確化することで追加的な効果を出す案は,効果の大きさはどれだけかという議論はあるが,私も賛成である。前回の経験から,日銀はコアCPI成長率がゼロ%以上になったら,すぐにゼロ金利を解除してしまう,という読みが成立してしまう。これが金融緩和として不十分であれば,インフレ率が1%なり2%に達するまではゼロ金利を継続することを日銀が表明するのは,選択肢として十分に考えられる。前回の時間軸政策での数字を変えるだけの表明にすれば,前回と同じことを数字が変わっただけの形で実行するだろう,と皆に読んでもらうことが期待できる。
 解除条件や目標の中心が1%か2%か,という論点については,CPIの上方バイアスのとらえ方が大事である。推計方法から生じる問題として世界的な関心を呼んでいたもので,日本では白塚重典氏の研究で0.9%の上方バイアスがあると報告された。しかし,統計作成部局は改善に取り組んできており,現状ではバイアスはもっと小さくなっているという議論もあるので,最近の状況に即した議論をしておく必要があるだろう。
 最後に,コアCPIではなく,コアコアCPIを使え,というのは,あまりにも当然のことで,賛成である。

(参考文献)
Andre Meier (2009), "Panacea, Curse, or Nonevent? Unconventional Monetary Policy in the United Kingdom," IMF Working Papers 09/163, International Monetary Fund.
http://www.imf.org/external/pubs/ft/wp/2009/wp09163.pdf

白塚重典(1998),『物価の経済分析』,東京大学出版会

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