岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます

全体表示

[ リスト ]

 日銀の国債引き受けが議論になっている。これについて,「財政法第5条で国会の議決があれば可能である」といわれているが,実際の条文は,

第5条 すべて,公債の発行については,日本銀行については,日本銀行にこれを引き受けさせ,また,借入金の借入については,日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し,特別の事由がある場合において,国会の議決を経た金額の範囲内では,この限りではない

となっている。
 第1文で,国債引き受けを原則として禁じている。理由は,政府が日銀の国債引き受けに頼り,過度のインフレが起こることを抑止するためである。同時に,放漫財政の歯止めでもある。では,第2文のただし書きは何のためにつけられているのか。小村武著『三訂版 予算と財政法』(新日本法規)は,以下のように説明している[2011年5月24日追記:同書四訂版でも同じ記述である]。

「この特別の事由については,現在,日銀が保有する公債の借換え(いわゆる乗換え)のために発行する公債の金額についてはこの要件に該当するものとして,特別会計の予算総則に限度額の規定が設けられている。これは,借換債の性質上,日銀が現に保有しているものの引き受けであり,通貨膨張の要因となるものではないからである。」

 第1文の趣旨に沿ったもので,日銀が直接引き受ける方がむしろ都合が良い事例について,ただし書きを適用する,ということである。この乗り換え額は,特別会計予算総則に書かれている。

 以下は,デフレ脱却策のひとつとして,財政法第5条ただし書きによる日銀引き受けをおこなう,という議論に対する私の意見である。
「特別の事由」が,現在の適用事例以上に広がるものかどうか。それは,第1文の趣旨に反しないかどうかで判断されることになるだろう。第1文は,政府が財政赤字を作り出す原因が賢明な結果ではないという認識に基づいた安全装置である。「なぜ財政赤字が発生するのか」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/30491529.html )でのべたように,財政赤字は賢明でない政策の結果として生じているのが,通説である。「自民党が作った財政赤字は悪い財政赤字。民主党が作る財政赤字は良い財政赤字」と現政権が主張すれば,経験的な反証材料はないのは事実だ(これも長期一党優位体制が続いたことの弊害か)。しかし,第1文の趣旨は,政権によって変わるものではなく,どのような政権にも課される普遍的ルールであるべきだと,私は思う。
 いま議論になっている事例は,日本銀行の意志に反して貨幣供給の拡大を目指すものである。さらに,「量的緩和から非伝統的金融政策へ」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/33205318.html )で議論したように,その貨幣供給の拡大に金融政策としての意味がない。これは,財政赤字が膨張し,インフレにつながる事態と形式上同じ姿をしている。つまり,第1文の趣旨に反すると考えられる。
 したがって,現在議論される事例に「特別の事由」を適用することに反対する。どうしてもやりたいなら,法律の趣旨からして第1文の改正が必要であるが,それにも反対である。

(参考)
「日銀は国債引き受けをすべきか」
http://www.iwamoto.e.u-tokyo.ac.jp/Docs/2000/NihonGinkohaKokusaiHikiukewoSubekika.PDF
データや政策への言及が古くなっているが,議論の本質は現在でもかわらない。[リンク先の移動にともない,修正しました。2011年4月1日]

(関係する過去記事)
「なぜ財政赤字が発生するのか」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/30491529.html

「量的緩和から非伝統的金融政策へ」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/33205318.html

この記事に


.


みんなの更新記事