岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます

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 不胎化介入では,中央銀行のバランスシートは拡大せずに,資産側で外貨が増え,他の資産が減少している。これが,民間の保有する資産構成が変化する効果(ポートフォリオ・リバランス効果)をもたらす。非不胎化介入は,不胎化介入に資金供給オペ(マネーストックの拡大)が加わったものと考えられる。
 ゼロ金利の場合,貨幣が増えても金利はゼロ以下に下がらない。非不胎化は短期債を購入して貨幣を増加させるので,「狭義の量的緩和」と同じことになる。
 「非不胎化介入(その1)」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/34344390.html )で以上のことを説明したが,引き続き,現状のようなゼロ金利時に非不胎化の効果を出すにはどうすればいいか,を考えたい。

 非不胎化の為替レートへの効果,つまり狭義の量的緩和の効果,は将来の貨幣増加へのコミットメントがあるかどうかで違ってくる。これは,「『インフレ目標』をめぐるネット議論の陥穽」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/32325439.html )で指摘したことである。将来へのコミットメントがないと,狭義の量的緩和は効果がない。このとき,不胎化介入と非不胎化介入の効果は同じである。将来のコミットメントがある場合は,不胎化介入の効果に,非不胎化による金融緩和としての効果(時間軸効果)が加わる。
 しかし,当局が為替市場に将来どのように介入してくるかは,事前にはまったくわからない。介入時にその資金分だけ貨幣を増やしただけでは,将来の動向はわからないので,コミットメントがされたとは考えにくい。中央銀行は毎日変動する資金需要に合わせて資金を調節しているので,介入時点の非不胎化がその後に維持されているかどうかを問うことすら意味をもたなくなる,ともいわれている。
 金融政策として同じこと(将来の金融緩和へのコミットメントでゼロ金利からの追加的効果を引き出すこと)をしている時間軸政策では,中央銀行の発言と行動によってコミットメントが市場に信認を得られるように腐心してきた。そうした努力のない非不胎化には時間軸効果は期待できず,コミットメントのない狭義の量的緩和となる。そして,政策効果は無効となってしまう。
 金融政策の視点から見れば,そもそも非伝統的金融政策の手段をいろいろと検討しているのだから,コミットメントの難しい為替介入に関係づけて時間軸効果を出そうとするよりは,もっと効果的な時間軸政策を考える方が得策だろう。つまり,非不胎化に傾注するよりは,他の有効な金融緩和手段に頼るのが望ましい。

 というのが私の考え方だが,渡辺・藪(2010)による実証分析は,日本の量的緩和政策をとっていた2003年からの介入では,不胎化介入よりも非不胎化介入の方が為替レートへの影響は強かったという結果を得ている。非不胎化の効果に対する理論的基盤は私の考え方と同じであるので,非不胎化によって将来にも貨幣の拡大が持続すると当時の市場関係者は受け止め,時間軸効果が出た,というのが渡辺・藪論文の解釈である。
 この解釈は,わが国でとられた量的緩和政策の時間軸効果に関する通説とは一見,対立するものである。当時,日銀は繰り返し,長く金融緩和を継続するというコミットメントを表明していたが,デフレが終わればそれを反故にする(早々に金利を上げてしまう)行動を明確に封じられない。このため,コミットメントの信認を得るのは非常に難しい作業であることが広く認識されている。その一方で,為替介入の非不胎化は,具体的なコミットメントの表明がなくても,量的緩和が継続するという信認を得ることができたということになるのだろうか。これでは,市場心理の摩訶不思議,とでもいわなければなかなか説明がつかない。
 渡辺・藪論文の発見と時間軸効果の経験に関する通説をどう調和させるかは,残された研究課題である。現時点では私は研究の方向性の指摘ぐらいしかできないが,ひとつ注意しておきたいのは,両者の時間的視野の違いである。渡辺・藪論文は日次データを使った分析であり,短期的(数日間の為替レートに与える)影響が関心の対象になる(注2)。また,当時の介入の非不胎化によって持続する日銀当座預金増加は,20日間でほぼ消滅することが報告されている。つまり,数週間の貨幣の増加の持続が,数日間の為替レートに影響を与えることを見ている。
 これに対し,金融政策の効果の分析では通例,四半期データを用いて数四半期の効果が関心の対象になる。日銀当座預金増加の持続が数週間ならば,その効果が数四半期には及ばないと考えるのは自然であり,金融政策でのコミットメントが難しいという議論とは整合的だという解釈もできる。
 その他にも論点はあるが,もはや学会で議論すべきような専門的なものになるので,ここでとどめたい。

(注) 被説明変数が為替レートの変化なので,恒久的影響を検出しているように受け取られるかもしれないが,被説明変数は介入がなかったとした場合からの為替レートの変化の代理変数である。前期の為替レートは,介入がなかったとした場合の為替レートの代理変数である。

(参考文献)
渡辺努・藪友良(2010),「量的緩和期の外為介入」,『フィナンシャル・レビュー』,第99号。

(関係する過去記事)
「インフレ目標」をめぐるネット議論の陥穽
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/32325439.html

非不胎化介入(その1)
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/34344390.html

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