岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます

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 日本銀行が14日に導入した「中長期の物価安定の目途」についてのコメントである。
「日銀とFRBの『インフレ目標』を比較する(その1)」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/36800762.html )で整理した事実関係を再掲すると,日米の違いは,

(1)【同】 法律で中央銀行に与えられた責務を,物価上昇率の具体的な数値で表現。
(2)【違】→【同】 米国は委員会での合意。日本は委員の意見の分布→日本銀行の判断。
(3)【違】 米国は2%。日本は0〜2%の範囲。
(4)【同】 「目標」が達成できるまで,ゼロ金利政策を続ける(時間軸政策の採用)。
(5)【同】 「目標」が達成できない場合の措置は無い。

となる。
(2)の矢印が14日に変更になった部分である。

 金融政策の効果の観点から重要なのは(4)で,(2)ではない。金融政策は政策委員の意見で決まるから,「理解」のように委員が物価安定を0〜2%だと考えていれば,この範囲にインフレ率が入らないうちに利上げする理屈はない。「目途」のように日本銀行として物価安定を0〜2%だと判断していれば,この範囲にインフレ率が入らないうちに利上げする理屈はない。「理解」に基づいて日銀の将来の金融政策を読むことと,「目途」に基づいて読むことに違いはない。そこまで読み込めない市場関係者がいるとすると,それは間の抜けた話になる。時間軸政策については「当面、消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで」と具体的に書き込まれたが,これは2010年10月の包括緩和実施時に「『包括的な金融緩和政策』について」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/34208019.html )で書いたことでもあり,市場ではすでに織り込み済みである。したがって,市場の反応に大した変化はないと考えられる。
 今回の政策変更で,長期国債をさらに10兆円買い取ることにした。長期国債を買うことについては,「『リフレ政策』に対する私見(とりあえずのまとめ)」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/32738553.html )執筆時点で必要なし,と書いたが,現時点でも私は同じ判断である。

 私は「『包括的な金融緩和政策』について」で,2010年10月の包括緩和での時間軸政策の明確化について,「これまで伝わる人にしか伝わっていないことを,もっと広い人に伝える趣旨のものだと理解できる。」とコメントした。今回の「目途」の導入も,わかりにくい「理解」をよりわかりやすくするものにして,これまで伝わっていな人に伝える努力だといえる。これに関連して,2つコメントする。
 第1に,金融政策の透明性を高めることは意義あることであり,「理解」から「目途」への変更は評価できる。しかし,振り返れば,非常にわかりにくい形である種の「インフレーション・ターゲティング」的なものを導入したのは,2001年3月の量的緩和開始時であった。今回の「目途」に到達するのだったら,11年前に同じことをしていれば,もっとわかりやすかったと言える。金融政策の透明性の向上の観点から「インフレーション・ターゲティング」の導入を訴えていた論者でそう思う人は多いのではないか。
 結局は,日銀は圧力に押されて「インフレーション・ターゲティング」の明確化を小出しにしてきて現在に至ったと周囲からは見られてしまう。これに対して米連邦準備制度理事会(FRB)は,自ら先んじて「goal」を明示することで,金融緩和の姿勢を示した。情報発信の巧みさではFRBに軍配が上がるだろう。
 第2に,はたしてこれまで伝わっていなかった人たちに伝わるであろうか。これが,より深刻な問題である。1月25日以降に(2)の違いを重視していた意見は,そのことが金融政策の効果として意味があると考えている向きがある(私はそれとは違う意見である)。それは,日銀が追加的に金融緩和すればインフレ率を目標に誘導できるのに日銀はそれをしない,インフレ目標を課せば日銀は金融緩和せざるを得なくなる,という考え方である。私はそれほど簡単ではなく(日銀が法律違反のことまでするなら話は別だが[注]),残念ながら「目途」の1%に到達するまでは時間がかかると見ている。日銀の見方も同じではないかと思われる。しかし,このことはいま日銀に圧力をかけている人たちに伝わっていないだろう。早期にインフレ率が「目途」となった1%に近づかないと,このすれ違いは問題化しそうだ。「インフレ目標を導入すればデフレ脱却できる」と考えている人たちは,容易に自説は曲げずに,日銀が目標を達成できないのは日銀が十分に金融緩和をしていないからだ,あるいは日銀が効かないと思っているから効く政策も効かなくなる,という形でさらに批判を強めることになるだろう。このすれ違いは簡単に解決できない難問である。

(注)
「『バーナンキの背理法』のなかで政府は何をしているのか」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/35743510.html )を参照。

(関係する過去記事)
「リフレ政策」に対する私見(とりあえずのまとめ)
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/32738553.html

「包括的な金融緩和政策」について
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/34208019.html

「バーナンキの背理法」のなかで政府は何をしているのか
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/35743510.html

日銀とFRBの「インフレ目標」を比較する(その1)
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/36800762.html

(参考 (その1)で引用した日本銀行とFRBの文書)
「金融市場調節方式の変更と一段の金融緩和措置について」(日本銀行,2001年3月19日)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2001/k010319a.htm/

「金融市場調節方針の変更について」(日本銀行,2006年3月9日)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2006/k060309.htm

「『中長期的な物価安定の理解』の明確化」(日本銀行,2009年12月18日)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2009/un0912c.pdf

「『包括的な金融緩和政策』の実施について」(日本銀行,2010年10月5日)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2010/k101005.pdf

「金融機能の強化について」(日本銀行,2012年2月14日)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2012/k120214a.pdf

FOMC Statement(FRB,2012年1月25日)
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/monetary/20120125a.htm

FOMC Statement of longer run goals and policy strategy(FRB,2012年1月25日)
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/monetary/20120125c.htm

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